よろず屋の猫

雨

重たいねずみ色の空がついに耐えられなくなって、大粒の雨を落としてきた。
叩きつけるようにアスファルトの路面にぶつかり、しぶきをあげて足元にはねる。
傘もほとんど役に立たなくて、あわてて車に乗り込んだ時には、二人とも結構濡れていた。
バッグの中からハンカチを出して差し出すと、あなたは「先ず、自分でしょう。」と車のエンジンをかける。
それからGパンのポケットからハンカチを引っ張り出すけれど、「しめってる。」と笑う。
エアコンの冷気が濡れた身体に冷たい。私は温度を少し上げる。
「何か暖かいものが飲みたい。」と私。
「着替えたほうが良くないか。送っていくから。」とあなた。
「この位なら平気、私はお茶が飲みたいの。」
ほんの一瞬、私の目を見つめて、「そうですか。」と唇の片端を上げる。
あなたは濡れた髪をかきあげると、ウィンカーを下げる。
なめらかに車は、流れに入る。
はらりと落ちたあなたの前髪の束、そこから水滴が落ちる。
「えっと、でも、あなたが着替えたいのなら、それはやっぱり帰ったほうが良いのかな。」
「かまわないよ、Tシャツだし、すぐに乾く。」
それは私の欲しい言葉とは違う。
フロントウィンドゥではワイパーと雨滴のリズミカルないたちごっこ。
雨の中で前の車のテールランプが滲んでいる。
ちょっと哀しい色だと思ってしまう。

私とあなたの関係はとても微妙で、そこにどんな単語をあてはめて良いのか、私は途方にくれる時がある。
私の気持ちは簡単で単純、誰もが同じ言葉を使うだろう。
ではあなたのそれにはどうだろう。
「私のこと、好き?。」と聞いてみたらなんて応えるだろう。
「さぁ。」、かな。
「そばにいて欲しい。」と願っても、あなたはただ笑うだけ。
きっとそうだ。

「私、あなたが好きなんですけど。」
「そう。」
ほーら、やっぱりその答え。
「だから少しでも一緒にいたいと思ってるのよ、分かってる?」
「だから今、お茶を飲めるところをさがしてるんでしょう。」
それ、面白がってわざとはぐらかしているでしょう。
ちょっとわがままを言ってやりたくなって、「ついでにおいしいケーキも食べたい。」と言ったら、あなたは声を上げて笑って、「はいはい。」、本当に愉快そうだ。
いつもそんな風にはっきりと感情が分かる顔をしてくれていれば良いのに。
私は目をつぶってシートに身体を深々と預ける。
あなたを好きになってから、切なさはいつも私のそばにある。
色を変え、彩度を変えて私の前に表われ、時に喜ばせ、時に悲しませ、私の心を支える糸は揺れ続けている。

「・・・ごらん。」
語尾しか聞き取れなかった。でもかまうもんか、こんな時に話しかけないで欲しい。
「ためしに聞いてごらん。」
私はまんまと引っかかって、心意を探ろうとあなたの方を見てしまう。
けれども分からない。
ほんの少しこちらに傾けたあなたの笑顔はいつも通りのものだったから。
小さな苛立ちを抱えながらも、私は目をそらすことが出来ない。
そして思い知る。
仕方がない。私はあなたのその表情に恋をしたのだから。


雨.png

私の大切なネットのお友達、絵師・みはるさんの描いたイケメンに触発されて書いたお話。
夏だったっけ、真逆じゃないか・・・。

リアルでこんな男がいたら、「なーに勘違いしてるんだ、コイツ。」ってなものですが(笑。

こんな文ですが、素敵な絵を描き続けるみはる様に贈ります。


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