ゆきあけのボヤキ

逃亡

平成17年9月 作成

~逃亡~


今日はお昼休み長く取れるから、とぢゃぢゃと近所のガストへ行った。

私は相変わらず化粧する気にもなれずスッピンだった。

いつ連絡あるんやろうなぁ~と話をしていた時、メールがきた。

メール音ですぐにゆうちゃんからだと分かった。

「ゆうちゃんからメールきたっ!!」大きく深呼吸して私は恐る恐るメールを開封した。


【俺たち結婚できないよ】


血の気が引いてクラクラした。

ぢゃぢゃが「何て?」と聞いてくる間に私は 【分かった】 ともう返信をしていた。

声に出してぢゃぢゃに伝える事が出来なかった私は画面を見せた。

「はぁ~~???」とぢゃぢゃは驚いていた。

そしてゆうちゃんからは【ごめん】とだけ返信がきた。

「何で“分かった”とかって返信するんよ!!」とぢゃぢゃは言った。

私はしばらく固まった。何も言えなかった。


昨日私が泣きながら電話した時にはもう決断してたんや・・・

じゃあ何で昨日言うてくれへんかったんやろ・・・

こんな大事なことを何でメール???

しかも何でお昼休みの合間にメール???

ご飯食べてお腹いっぱいなって打っとこか~みたいなノリ???

え???そんな簡単な事やったん???

これで終わり???

どんな思いで私がゆうちゃんからの連絡待ってたか分かってる???


もう私は色んな事で頭がいっぱいになって何一つまともに考えれなかった。

そんな私の形相を見ていたぢゃぢゃは「仕事早く帰ってくるからそれまで家にいとき!」と言った。

けれど私は「松山に帰る・・・」と言って高速に乗った。

別に急いで松山に帰る必要も無かったのに何故か高速に乗った。

頭がボーッとしていてスピードも全然出せなかった。

ハッと自分で危険を感じ、途中のパーキングでとりあえずお茶を買った。

Jから電話がかかってきた。

「何でメールやねん!!」って怒っていた。

音楽もかけず松山まで帰った。

何だかその辺りの記憶はあまり無い。


ただ家で一人、何もせずボーッとしていた。

夜、またゆうちゃんのメール音が鳴った。

もう私はこのゆうちゃん専用のメール音にかなりビクビクしていた。

【(略)俺は今でもし~☆の事が大好きです。本当に結婚したいと思います。

でもそれにはどちらかの家族かお互いの家族が不幸になると思います。

それが俺の行き着いた答えです。すごい勝手かもしれないけど本当にごめん】

私はもう返信する事が出来なかった。

何をどう返信していいのかが分からなかった。

あまりのショックに涙さえ出なかった。

そしてまたメールでの報告に腹が立つというよりがっかりした。


数時間後、ゆうちゃんから電話がかかってきた。

ほんの二日前までは仲良しカップルだったはずなのに、何だか他人と話をしているようだった。

一言話せば沈黙・・・返事をすれば沈黙・・・という中

「メールじゃなく電話で言うたら良かったんやけど・・・」と言うゆうちゃんに

「メールとか電話って!!面と向かって言うてよ!!」と言った。

「分かった。もう少ししたら家に行く。」と言って電話を切った。

父や友達にゆうちゃんが来る事を電話した。

「納得いくまで話し~や!」と言う友達。

父やミー姉は私が泣いているのでただただ心配するだけだった。

「やっぱりもうゆうちゃんの口からメールの内容を聞きたくない・・・

これ以上辛い思いしたくない・・・やっぱり怖い・・・」とJに弱音を吐いた。

「ほんじゃ会うんやめとくか?ゆうちゃんに電話したろか?」とJは言った。

けれどやっぱり会わなければ・・・・


二日ぶりに家に来たゆうちゃんはもう別人のようだった。

もう私の手の届かない人かのようになっていた、そう感じた。

言いたい事なんてたくさんあるのに、ありすぎて何も言い出せなかった。

面と向かって話しをしてと言ったのは私なのに、ゆうちゃんの口から聞くのが怖かった。

会話という会話は出来なかった。

沈黙続きの中「荷物取って来る」とゆうちゃんが立ち上がろうとした。

「し~☆が取って来る」と言い、ついて来ようとするゆうちゃんに「来んといて!!」と言った。

一人で二階の自分の部屋へ行きゆうちゃんの荷物を紙袋に詰めた。

Tシャツ・パンツ・洋服・デジカメ、そして3ヶ月貯めた二人のLOVE貯金の通帳・・・・

松山へ戻ってきた日にゆうちゃんが持ってきた未開封のコンドーム1箱も入れてやった。

とても惨めで辛かった。悲しかった。

居間に戻り紙袋を差し出した。

「これで全部かな?」と言う私に「見てないから分からん。」と冷たい返答をした。

「何か俺の物出てきたら捨てといてくれ。あ、漫画は売り飛ばしたらいい。」

と言うゆうちゃんに「何でそんな言い方するんよ・・・」と泣いてしまった。


「ゆうちゃんはいつまでし~☆の事好きやった?」と聞いた。

「し~☆はもう俺の事嫌いか?」と聞き返すゆうちゃんに「嫌いなわけないやんっ!!」と答えた。

「俺だって好きやのに別れたくない!!」と言ってゆうちゃんは号泣した。

「し~☆だって好きやのに別れたくない!!!」と二人で抱き合って泣いた。

「ずっとし~☆とおるって言うたやんか!!嘘つき!!」

「嘘つき!!」と何度も叫びながらゆうちゃんの肩が涙と鼻水でびちょびちょになる程私は泣いた。

「このままずるずる付き合う事も出来る・・・」

「付き合う・・・」

「でも結婚は出来へん・・・」

「嫌や・・・」

「家族が不幸になる・・・」

「何でなん???」

「・・・結婚はな・・・二人の問題じゃないねん・・・」

「分かった!!結局ゆうちゃんもそんな考えなんや!!」

と私はゆうちゃんを押しのけて自分の部屋へ行って泣いた。

しばらくして下りてみると荷物を持ってゆうちゃんが廊下にいた。

そして“鍵”を差し出された。

ゆうちゃんのキーホルダーに3ヶ月と少し付いていた私の家の鍵を返された。

この瞬間が何よりも辛かった。

返されるのなら知らないところで捨てられた方がマシだった。

鍵を受け取り立ち竦む私の横を通り過ぎてゆうちゃんは玄関へ行った。

私はもうゆうちゃんを追いかけることは出来なかった。

ただ「帰らんといて・・・」とだけ言うのが精一杯だった。

「あかん。」と言うゆうちゃんに「じゃあし~☆が出て行く!」と反抗した。

「一緒に寝る事も出来る。でも明日なったらもっと辛くなる。」

「それでもいいから帰らんといて!!!」

こんな言い合いを何度しただろう。

「Jと約束してん。」

「何て?」

「し~☆に優しくせんといたってって言われたから。」

「Jとの約束破っていいから帰らんといて・・・」

泣きじゃくって叫ぶ私を置き去りにしてゆうちゃんは帰って行った。


行き場のない私の気持ちをまた物にぶつけた。

携帯・コップ・マンガ・・・手に届く物全てを放り投げた。

何も考えられなかった。

しばらくしてJから電話がかかってきた。

うだうだボソボソ言う私の話をずっと聞いてくれた。

そして紹介者だったAちゃんからも電話がかかってきた。

「し~☆ちゃん・・・大丈夫?」と。

ゆうちゃんがAちゃんに電話をしていたらしい。

「し~☆泣いてるから行ったってくれって言われたんやけど今高知なんよ・・」

「そんなん言うてたん?自分が来てくれたらいいのに・・・」

ただじーっと座り込んでいた。


【ゆうちゃん来て】とメールをした。

返信は無い。

「今から来て!」と電話する私に「行ってどうなんの?」と冷たい返答。

「じゃあもういい。し~☆が行く!」と言って電話を一方的に切った。

「外に出るな。俺が行くから。」と言うゆうちゃんに「もういい!」と言ってまた電話を切った。

家にいるのが嫌だった。何故か外に行きたくなった。

【ごめん。やっぱり今からゆうちゃんとこ行ってくる】とJにメールした。

慌ててJから電話があり「頼むから一人で歩いてとかやめてくれ!」と。

私は薬を飲んでいた。

ゆうちゃんとさっき話していた時も途中で台所へ行き飲んでいた。

“イララック”

今思うと笑えるけれど私はその時は真剣だった。

イライラ・ストレスを抑えたかった。

一日の使用量なんてはるかに超える量をすでに服用していた。

お昼ぢゃぢゃに奢ってもらったご飯も松山に着いてから吐いてしまった。

夜ももちろん食べていない。

案の定気分が悪くなった。薬のせいだけではなかったけれど・・・

トイレで吐いている最中にゆうちゃんがまた家に来た。

トイレから出た私に「吐いてたんやろ。」と言った。

そしてたくさん空いた薬を見て「これ全部飲んだんか!飲みすぎや!」と言った。

誰のせいよ・・・・

半泣きの私の手を引き「寝るぞ。」と行って二階に連れて上がった。

いつものようにゆうちゃんが布団を敷いた。

仲良かった頃はゆうちゃんがいつも布団を敷く役目だった。

そして今もゆうちゃんが敷いている、それも2枚・・・

「怒ってんの?」と聞く私に「皆に心配かけた事に怒ってる。」と言った。

「ごめんなさい・・・」と部屋の隅に座る私に「早く寝ろ!」と言う。

この日も私の部屋のエアコンの調子がおかしかった。

暑くてたまらないので下の座敷に下りた。

私は布団に横になったけれど、ゆうちゃんは黙って下を向いて座っていた。

「ゆうちゃんも寝て。」と言うのに「寝~へん。」とだけ返事をする。

手をつないでもらい私は目を閉じていたけれど寝れるわけがない。

目を開けている私に「何で寝んのや?」と言う。

「分かった。もうちゃんと今日寝るからまた明日来て!」と私は言った。

「けぇ~へん」「来て」「けぇ~へん」「来て」

何度も言い合いした後「じゃあし~☆が行く」と言う私に

「明日来てもおらん!」と言い「鍵閉めとけよ!」と言って帰っていった。

また私は置き去りにされた・・・

冷たい対応、返事。

今までこんなゆうちゃんを見た事のなかった私はショックだった。

【帰ってきて】と何度もメールするのに返信は無かった。


私は朝まで一睡も出来なかった。

フラフラジャスコに出かけた。

ちっ、“イララック”売り切れやん・・・

市販の睡眠剤と不眠症のドリンクを買った。

寝てない、食べてない、薬の服用。

そううつ病みたいな感じになっていたと思う。

心配して電話をかけてくるJ。

ゆうちゃんに電話をしても出てくれない。

Jが電話しても出ないと言う。

しばらくして「今から行くから。新幹線やからちょっと時間かかるけど。」とJから電話があった。

「いいよ・・・」と言いながらもかなり心細かった私。

「ええから、そんなに薬も飲まれたらかなんし!」と言うJの言葉に泣いてしまった。

ハイテンションであきらに電話した。

「J何て?私も15日になるけどそっち行くから!薬飲むな!」と言われた。

ソファーで少し横になってウトウトした。

「駅まで迎えに行く。」と言う私に「タクで行くからいい。」とJは言った。

夕方Jが来てくれた。

そしてテーブルの上にたくさんばら撒かれていた薬はJによって封印された。

私が電話してもメールしても、Jが電話してもメールしても、もうゆうちゃんとは連絡が取れなくなっていた。

・・・・逃げた・・・・逃げられた・・・・

翌日、Jより先に起きた私は何をするわけでもなく、テレビもつけず、ただ居間でボーッとしていた。

疲れていたJは「ごめんっ!」と夕方起きてきた。

寝返りをうって目が開く度、私が横にいるか確認していたらしい。

この日は新居浜のぢゃぢゃの家へ行った。

新居浜への行きしな、子供達の着替えが私の家にそのままだったのでミー姉の家に寄った。

「気をつけて行っておいで。友達と話して少しでも発散しておいで。」とミー姉は言った。

もちろんこの日も化粧なんてする気力も無くスッピンだった。

ぢゃぢゃと3人、近所の居酒屋に行った。

もうこのままゆうちゃんと連絡取れないまま終わりか・・・と思っていた。

私はこのまま連絡が取れなければ最後にメールを送ろうと思っていた。

長いメール2通。必死でメールに自分の想いを告げた。

ゆうちゃんへ送信するまでしばらく保存メールとして私の携帯にあった。

そしてJとぢゃぢゃに「これ送ろうと思うんやけどいいかな?」と見せた。

そのメールを見てJもぢゃぢゃも泣いた。泣いてくれた。

「うん、これでいいと思う。全てあんたの想い伝わる思う。」って・・・


翌日、あきらが新居浜に到着した。

そしてAちゃんからメールが入った。

「今日どうしよっか?」と。

あっ、Aちゃんに連絡するの忘れてた。

ゆうちゃんとこうなる前からAちゃんと15日に飲みに行く約束をしていた。

そして私達4人とAちゃんとで飲みに行く事にした。

夕方、松山へ戻った。

Aちゃんはとても私に申し訳なさそうにしていた。

帰ってからも【し~ちゃん☆をこんな形で傷つけてごめんね】とメールがきた。

【Aちゃんのせいじゃないから、これは私ら二人の問題やから自分のせいやと思わんといて】 と返信した。

そう、私もゆうちゃんもお互い出逢えた事をAちゃんにとても感謝していた。

すぐに付き合い結婚話をAちゃんにした時、とても喜んでくれていた。

Aちゃん自身、とても責任を感じてしまったんだろう。

私こそAちゃんを引き込んでしまって申し訳ない事をしてしまった。


次の日の夕方、Jとあきらは大阪に帰る。

そして私はまた一人になる。

そんな私を心配して「しばらくうちにおいで。」とぢゃぢゃが言ってくれた。

とても有難かった。

次の日のお昼、J達がゆうちゃんに電話をした。

“プープープー”着信拒否をされていた。

今までの怒り以上に全員の怒りが大爆発した。

「どういうことや!!!!」

Jの運転でゆうちゃんの家まで行った。

車はある。

少し離れたところからJとぢゃぢゃがメールした。

・・・・無反応・・・・

「家おらんのんちゃう?」「いやぁおるやろ。」と言ってる間に

「ちょっとウチが行って様子見てくるわ」とぢゃぢゃが助手席から降りた。

「ウチやったらもし親が見てもし~ちゃん☆(彼女)と思われへんやろ。」

????????

「うちのゆうちゃんはこんなデ○と付き合ったりせんって思うやろ?(笑)」

とぢゃぢゃは自分で自分をネタにして笑っていた。

そしてズシズシと一人で歩いて行った。

遠くから私達3人はぢゃぢゃを見守っていた。

ん?何だか様子がおかしい。足を道に擦り付けている。

しばらくして戻ってくる最中にも擦りつけながら歩いてくる。

あげくにサンダルを脱いで途中のポストに擦り付けている。

「ガム踏んだんちゃうか?」と私達は大爆笑してしまった。

汗だくになっているだろうと、Jは冷房をガンガンにきかせ風向きをぢゃぢゃが座る助手席に向けた。

大汗をかいてさらに怒りモードでぢゃぢゃは戻ってきた。

私はゆうちゃんに無視されている事に腹が立つよりがっかりしていた。

たぶん皆もそうだったと思う。

もう行かないと電車の時間に間に合わない。

帰り間際ゆうちゃんの家の下を通る時Jはクラクションを鳴らした。

それは普通の鳴らし方ではなく、いたずらまがいの鳴らし方だった。

一回目を終え通り過ぎた後、JはまたUターンした。

そしてもう一度同じ事をした。


Jとあきらが大阪に帰った。

私はしばらく泊めてもらうつもりの用意をしてぢゃぢゃの車に乗った。

ぢゃぢゃの家に着き、私はこっそりゆうちゃんにメールしていた。

【納得出来ません。会って話をして下さい。皆の事悪く思わないで下さい】といった内容の。

返信は無かった。はぁ・・・やっぱりもうこのままか・・・

私がメールをして2時間後、ゆうちゃんからメールがきた。

メールを読んで“メールせんかったらよかった・・・”と私は後悔した。

【・・(略)・・これを最後にします。もう俺に戻る気持ちはありません・・(略)・・】

またメール・・・私はすぐにゆうちゃんに電話した。

でも出てはくれなかった。

けれど私からの電話を着信拒否に設定していなかった事にだけ正直ホッとしていた。

何回かけても出ない。メールしても返信は無い。

どうしようもない、やりきれない気持ちのまま寝床に入った。


次の日、ぢゃぢゃは仕事だった。

【お昼ご飯ホカ弁やけど何がいい?1.唐揚げ 2.唐揚げ 3.唐揚げ】とメールがきた。

唐揚げが食べたいんじゃん、あんた・・・

【お腹痛いから私はいらんわ】と返信した私に薬とやはり唐揚げ弁当を持って帰ってきた。

私は本当に食欲が無かったのもあるけれど、唐揚げが駄目だった。

嫌いじゃない、いつもは大好き。けれど食べられない状態だった。

理由・・ゆうちゃんが唐揚げ大好きだから・・

馬鹿ップルだった頃、お昼ご飯何食べたかのメール報告をお互いしていた。

唐揚げ弁当だったら“ゆうちゃん弁当” チキン南蛮弁当だったら“し~ちゃん☆弁当”

と勝手に二人で名づけていた。

それを思い出していた。

夕方、私は松山に帰ることにした。

早めに仕事を切り上げたぢゃぢゃが松山までまた送ってくれた。


その夜、ゆうちゃんからメールがきた。

【今日の夜、家に行きます】

私はもう今日で何もかも終わりにしようと思っていた。

ゆうちゃんの気持ちはもう変わる事は無い。

もう二度と私のところへは戻ってはきてくれない。

もう二度とゆうちゃんと将来を夢見る事は出来ない。


もう二度と「し~ちゃん☆大好き」とは言ってもらえない・・・


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