雪月花

毒を舐めて去れ



 背中に毒を塗るようになったのは、今に始まったことでは無い。わたしは、背を這う舌が辛抱できなかっただけだ。名残惜しさのような、めめしさのような、様子伺いの縄張りなど反吐が出るから。舌の凹凸が嫌いだ。ざらつきは、舌と舌との隙間を粘液で埋め、ぬめりぬめりともぐりあっていればそれでいい。わたしはあなたが嫌いなんじゃ無くて、あなたの爪や、唾液や、湿度や、細胞や、そういったもののひとつひとつが嫌いなのだ。神に誓って、あなたを嫌いはしない。ただ、どうしてもできないのだ。胸を焼くような欲求を、かけらも呼び覚まさない生物に、どうやって近寄ればいい。わたしがあなたを拒んでいるのでは無い。わたしの乳房や、舌や、瞳孔や横隔膜や毛のひとつひとつが、あなたをいやがっている。こればかりはどうしようもない。どうなでつけても、なだめても、時には力ずくで引っ張ってみても、やはりわたしはわたしの体の飼い主であると同時に、奴隷であるから。わたしはこの体の拒否するところに、わたしそのものを持って行くことができない。したがってこれは、あなたのせいでも私のせいでもない。責めるべきものはどこにもない。

 ただ、私はあなたをけがらわしいと思う。

 そして、先ほどからずっと、酸っぱいものを頭痛とともに飲み下すのに一苦労だ。

 さようなら。

 もしもわたしの時間と視界から消えてくれるなら、わたしは初めてあなたに感謝という、愛情に似た何かを持てるかもしれない。だから、失せて下さい。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: