灰色猫のはいねの生活

灰色猫のはいねの生活

第九話


いつものように庭で遊んでいるあたしたちを発見した羽衣音ぱぱは、そこいらの、正確に言うと庭木を折って、あたしの前にちょろちょろぱしぱし。
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猫族としてはこんなちょろちょろぱしぱしは見逃せないわ。
そうしてしばらく羽衣音パパはちょろちょろぱしぱしをして遊んでくれたの。
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そんなあたしを見掛けた羽衣音はすぐに近寄ってきて
「こにゃん」
ってあたしを呼んだのよ。
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いつも美猫のあたしだけど、今回は茶色のしましま猫なあたし。
雑種って呼ばれるのはちょっと気に入らないけど、くっきりはっきりしたキジ虎柄で茶色のお鼻がチャームポイント♪
もちろん他にも大きな耳とか小さな額とかつぶらな瞳とか白いお口とかふかふかの猫毛とかしましまのお手々とか長い尻尾とかチャームポイントは一杯あるわよ。
チョームポイントって言うより、あたしって全部可愛いし。
でも『こにゃんこ』だから『こにゃん』だなんて安易だけど、あたしに似合う可愛い名前じゃない?
この頃のあたしは羽衣音農場を縄張りとして冒険済みで、羽衣音が子供の頃に植えたという防風林になりかけの松の木や、裏庭にどうどうと構えるクルミの木が好きになった。
D型ハウスの中のトラクターの席を羽衣音ぱぱのために温めておいたり、納屋に忍び込んで羽衣音の子供の頃の歩行器を発見したり、密かに車庫に潜り込んで羽衣音の車にサイン(猫判)してみたりもした。
まだ寒い春の夜に、こっそりハウスに忍び込んでも怒られもせずにのんびりと過ごしていたあたしだけど、きちんと羽衣音のリサーチはしていたの。
朝、あたしたちにご飯をくれてから会社に行って、帰って来てからまたご飯をくれる。
土日はお休みで、日中は美味しいおやつを用意してくれた。
時々、会社の日のはずなのに家にいる時があって、その時は
「あなた、本当に羽衣音?」
って思わず聞きたくなるくらいヘンな格好をしていた。
髪を束ねて帽子入れ、にバンダナで顔のほとんどを覆い、オレンジ色のつなぎを着て足には長靴、手にはゴム手と腕貫。
まさしく「ヒトデ怪人」。
最初に目撃した時は、あまりの異様さにこのあたしもちょっぴりびびったりしたけれど、今日は会社じゃなくってハウスに出勤なのね。
そろそろと着いて行ったハウスの入口で見ていると、羽衣音は非力ながらも一生懸命働いていた。
猫でも人でも一生懸命働くのは良いことだわ。
ハウスから出て来た羽衣音は、ひっそりと待ちかまえるあたしを見つけてくれた。
あたしはゴム手をはずした短くなって泥だらけの爪をした羽衣音の手に撫でられた。
その手はいつもより暖かだった。



だから謝ったじゃん!.jpg

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