灰色猫のはいねの生活

灰色猫のはいねの生活

海の草原


寄せては返し、返しては寄せ、そんな静かな波音を私は聴いていた。
後ろに広がる草原には、赤い彼岸花が風に揺られて咲いていた。
「波の音は、この地球の鼓動かもしれないね。」
その人は言った。
「生きているという生命の鼓動を、この地球も持っている様だ。…永遠に絶える事のない波音、舞い上がる水飛沫、海より生まれ消えていく泡。人間の一生も、また儚い泡の様なものかも知れない。」
「それでも泡はまた生まれます。」
私は答えた。
「輪廻転生、という言葉を知っているかい?」
「輪廻転生?」
私は、その人の話を聴いていた。
「人の身体は朽ち果てても、魂は死なない。幾度も生まれかわり、同じ運命の下に命を落とす。まるでこの海の泡の様に。」
それが輪廻転生。
子供の頃、波の音…地球の鼓動を感じ、幾千もの泡の中に自分自身を見つけた日が私にもあったかもしれない。
輪廻転生。
輝き、美しく、くるくると廻り、それはまるで彼岸花の様に。
例えこの身体朽ち果てても、魂は死なない。
海より生まれ、舞い上がる水しぶきの中に消えていく泡の様に。
この想い、この心、次の時代へと。
輪廻転生。
その人は草原の彼岸花から出、海の泡へと消えて行った。
私だけが、地球の鼓動を聴いている。
「あれは私の輪廻、転生した姿なのかもしれない。」
彼岸花が、風にふわりと揺れた。
十勝晴れ.jpg

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