灰色猫のはいねの生活

灰色猫のはいねの生活

その11


『探し犬 柴犬、オス、青い首輪、赤い引きづな、一月二十八日午後2時頃、市内郊外より不明』
いなくなってから1週間。
新聞に載せたところで、もう見つからないかもしれない。
そう思っていたところに、1本の電話が入ったのです。
お父さんが出たその電話に家族中がわき立ちました。
みつが、見つかったのです。
逃げた次の日の朝、家から5キロ程離れた路上でうずくまっているみつを、わざわざ車に乗せ自分の家に連れ帰ってくれたのです。
その朝はひどい冷え込みでお腹や足など毛の薄い所が霜焼けになっていたと言います。
「飼い主が見つからなかったら、うちで飼わなきゃと思ってたんですよ。」
良い人に拾われたね。
いや、良い人だから拾ってくれたのか。
由記ちゃんは思いました。
その日はもう遅いので、次の日引き取に行く約束をして電話を切りました。
その人は親切に家の場所の地図までFAXで送ってくれたのです。
次の日、2月4日は由記ちゃんの誕生日。
学校から帰ればみつがいます。
何よりのバースディプレゼントでした。
バスを下り帰り道を走って家につくと、みつは当たり前のように犬小屋に収まっています。
「もう、バカなんだから。」
半泣きになりながら、みつの冬毛をくしゃくしゃとなでると、みつはきょとんとしたまま、いつもと変わらずすりよってきました。
家に入ってお母さんの作るちらし寿司をうちわであおぎながら、ふと新聞を見ていた時でした。
昨日探し犬の載った同じ場所に、今度は相手方のたずね犬の広告が載っていたのです。
柴犬のオス、青い首輪、赤い引きづな。
条件は同じ。
相手の名前も、昨日の電話の人でした。
「そういえば、相手の人も広告を出したと言っていたっけ。」
お父さんが言いました。
それが今日載ったのです。
迎えに行くとみつはその家の裏玄関に入れてもらっていたそうです。
まだ入っているのでと持たせてくれたドッグフードは、それこそペットショップが持って来る物より良い物でした。
「でも、同じ日に並んで広告載ってたらおかしかったよね。」
幸せな気分で誕生日の夕食を向かえようとしていた時、いきなり電話が鳴りました。
病院からかもしれない。
おじいちゃんの危篤状態は相変わらず続いていたのです。
恐る恐る受話器を取ります。
「もしもし。」
家族の間に緊張が走りました。
「新聞、見ましたか?」
何と、今日の探し犬の広告を見てわざわざ見ず知らずの人が電話をかけて来てくれたのです。
最初は何と言っていいのか言葉に詰まりましたが、
「おかげさまで見つかりましたので。」
そう言うと、良かったですねと言ってくれます。
うれしい電話でした。
新聞広告を出した時には多少なりともいたずら電話を覚悟していたけど、そんな電話は1本も来ません。
みんな良い人ばかりだ。
由記ちゃんは思いました。
ただ、同じ様な電話がその後1時間にわたって何本もかかって来たのです。
バースデーケーキを食べながらお母さんと代わる代わる電話に出て、良い人過ぎるのも困りものだと、ほんのちょっぴり由記ちゃんは思いました。
おじいちゃんが亡くなったと電話が来たのは、次の日の同じ時刻でした。

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