●○● Cohaku`s room ●○●

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 届かぬ思いを抱いたまま






     【届かぬ思いを抱いたまま】





とある相談事務所の門をひとりの男が通っていった。
大きくて立派な門はひとりの男を通すと静かに閉まった。

その相談事務所は一軒家程の大きさの洋館。
人気は全く無くどこか不気味な雰囲気が漂う。

「今いいか、フレイ。」
門が閉まってからしばらくして建物の中のひとつの扉が開いた。
そこはこの事務所の主である少年の書斎。
一般の相談客は絶対に来ない部屋だった。
早い話が主の知人しか入れない特別な部屋。
「クレイルか。久しいね、元気そうで何より。」
フレイと呼ばれた金髪の小柄な少年。
彼こそがこの事務所の主である。
フレイは書斎の机で何か書類を書いていたが、珍しい客人が来たので手を止めソファに移る。
そしてクレイルと呼んだ紺色の長髪長身の男に向かいのソファに腰掛けるように勧めた。
クレイルは黙ってソファに腰掛ける。
「それで、何か用。君がオレにわざわざ会いに来てくれるわけがないし。」
フレイは相手に問いながら指をパチンっと鳴らした。
すると前にあるテーブルの上に紅茶のはいったティーカップが2つ現れた。
フレイは小さくどうぞっと言いながら自分の前にあるカップをとり一口紅茶を飲んだ。
「・・・なあ、叶わない恋ってどうなんだ。」
クレイルもカップを手にとりながら言った。
この言動にフレイは唖然としていた。
「恋愛相談かい。珍しいなあ、君が人に胸のうちを明かすなんて。オレはそのてのことで気の利いたこと言えないけど・・・
 よかったら話してよ。」
「ああ、お前は叶わない恋なんてありえないからな。」
「んーどういう意味かなクレイル。嫌味に聞こえてならないんだけど。」
「とても手の届かない人なんだ・・・。」
(そこしっかり流すんだね君。)
テンポのよい会話に突っ込みを声にだすことができなかったフレイ。
苦笑いしながらも相手の話を聞く。
「それに本当に好きなのか、よく分からないんだ。俺はその人を命懸けで守らないとならない立場にある。
 だから大切な人なんだ。それに彼女は芯の強い人で尊敬もしていて憧れている。
 こういう気持ちを好きっていうのと勘違いしているんだろうか。」
「・・・・。」
「なあフレイ、俺はどうしたらいい。このままでは職に支障をきたしてしまう。」
クレイルは本当に参っているようだった。
その様子を見ながらただ黙って話を聞いていたフレイが口を開いた。
「ほらやっぱり、オレはこういうので気の利いたこと言えないんだ。あー面白くない。実に退屈だよ。」
場違いなほどフレイは明るく言い放った。
そして自分の机に戻り初めのように書類を書き始めた。
その態度に怒らない人はいないだろう。
クレイルは立ち上がりフレイの机の前に回り怒鳴った。
「面白いとかそんな問題ではないっ!第一お前は何も言ってないじゃないかっ!」
「あ、大声だすから書き間違えちゃったじゃないか。どうしてくれるの。」
フレイは手を止め椅子に深く腰掛け背もたれに寄りかかり話し始めた。
「言っていないんじゃなくて・・・言う必要がないんだよね。」
「・・・何。」
この発言にクレイルは眉を潜めた。
フレイはまた指をパチンと鳴らし一本の赤いガーベラを出した。
それを眺めながら言い続ける。
「手が届かないからどうとか、勘違いがどうとか。そういうのは関係ないんじゃないかな。
 それにこういうのは他人に決められるものじゃない。君が決めることなんだよクレイル。」
「・・・・。」

「どうしたらいいんじゃない。君がどうしたいか、だよ。」

クレイルは溜息をついた。おそらく自分では決められないんじゃないかと思ったのだろう。
この様子をフレイは見逃さなかった。
「ま、仕事人間の君が職に支障をきたしそうなほど考えているのなら、案じずとも答えはすぐ出るだろうね。」
この発言を受け、クレイルはふっと笑った。
「さすがだなフレイ、ありがとう。」
そう言うとクレイルは書斎の扉に向かって歩き始めた。
扉のノブに手をかけ開けようとした瞬間、後ろからフレイが言った。
「あ、最後に何か気の利いたことを言おうかな・・・うーん・・・・。」
フレイは近くを見回した。
そして手にあった赤いガーベラを差し出しながら、

「華占いでもして行くかい。」


























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