雑念の部屋・改

雑念の部屋・改

一章(スニーカーからの続編)


そう書かれたいくつものポスターを眺めながら、本来なら気持ちいい筈の朝日の光の下でアシュターはため息をついた。許可なく民家の壁に貼られたポスターは雨水や油しみで無残な姿を晒しながらも、内容だけは読み取れた。彼はそれを一つずつメモをとっていく。
「なんで俺がこんなことを・・・」
ぼそぼそと小言をつきながらも要点だけを抑えて手元のメモ帳に流れ作業の如く書き込んでいく。ポスターは多くの民家を連ねており少しずつ裏路地に足を進めていく。
すると、しだいに影が光のとの地域抗争に打ち勝ち少しずつ日陰に侵入して、民家のガラスに彼の姿が映された。
短く切りそろえられた黒髪、おだやかな雰囲気の漂う顔の青年の姿がそこには映し出されていた。全身には黒いロングコートを纏い、腰には小太刀が差してあった。

国家兵士・・・その中でも兵士の立場的には二位の地位にあたる「特殊部隊」に彼は所属していた。一般兵は国家に仕える立場だが、特殊部隊はいわば国王の私有兵としての扱いを受ける。任務も一般兵が行う警備やそれらとは違って重要な任務が国王の指令により下される。
しかし、それ故に収入が安定しない。
有名な武闘一家や王家と交流のある一家の関係者であれば「家名」が「信頼」となって多くの安全かつ効率的な仕事が依頼されるのだが、いかんせん一般の出となると仕事の依頼はほとんどない。あるとしても街中で突発的に起こった事件の処理などで、それもあまり金にはならない。
つまり、生活苦である。
そんな中でも地道に少しずつ移動しながらメモをとる彼はあまりのポスターの多さに驚いた。
「今日はいつもより多いな」
しかし、落胆の声ではなく彼は少し嬉しそうに言った。

魔族と分類されるものの長・魔王を封印してから約200年。
その後、文明は驚異的な勢いで進歩を見せた。
それまでは魔族との命を争う戦いであったが、命の奪い合いの少ない人と人の争いの中で魔法学、力学、特には技術革新はすさまじく機械工業が確立されるのにそう月日はかからなかった。それに伴い人材の求人は減少した。しかし魔法あっての機械と考えた人間は「魔法」を捨てなった。故に「求人」には用心棒やギルド員募集の字が躍っていた。
ポスターを模写し終えたアシュターはメモ帳とペンを懐にしまうと
「転職・・・考えるかな・・・」
そう呟きながらアシュターは帰路についた。

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