これほど短期間に、これほど多数の人が騙される光景は実に恐ろしいものだった。
斎藤知事が失職という道を選んで行われたのが今回の選挙であったが、百条委員会で数々のパワハラが明らかになり、斎藤氏はそれをおおむね認めていた。
その中で頑なに拒否していた点が二つあった。
一、 斎藤氏のパワハラを告発した西播磨県民局長の死に対する「道義的責任」。
二、 公益通報者を保護するどころか、犯人探しをし、パソコンを取り上げ、クビにした件についての責任を認め、それは間違っていたという謝罪。
斎藤氏は、知事選に立候補し、一人で駅頭に立ち、自らの潔白を訴えた。たった一人という日が続いたが、彼を囲む人々の輪が広がり始めた。
淡路島出身の立花氏が、知事選に立候補、自らの当選は目指さず ( 「立花に投票しないでください」とポスターには書いてあった ) 。彼は、選挙期間中に二枚のポスターを貼っている。一枚目は、「暴言事件」で辞職した明石市長の泉氏が勝手連に担ぎ出されて当選した例を引き合いにだして、斎藤氏への支持を訴えるポスターだった。
二枚目は、実に悪質で、公益通報者の自死の原因は、十人もの女性と不倫を重ねてそれが公になりそうになったから自死を選んだという文面であった。
私たちは「情報」をどこから取るか ? テレビ、ラジオ、新聞、そして SNS 。さらに「うわさ話」というものがある。
「斎藤氏は、旧態依然たる井戸県政の生き残りを図る抵抗勢力によってやってもいないパワハラをでっち上げられた」。「付箋を投げつけることがパワハラですか ? 」といった文面が SNS で、或いは「うわさ話」として拡散された。
斎藤氏に投票したという人が、「何が本当か分からん。斎藤さんはパワハラなんかしてないと聞いたよ」と言っていたのが大変に印象的であった。
斎藤氏が当選し、県庁に登庁した日、斎藤氏を支持した人たち ( 女性の姿が目立った ) が、声を張り上げ、花束を持って氏を迎えた。「まるでアイドル」と評した向きもあった。
私も、「ああ、彼はアイドルになったんだ」と思った。
そして、百条委員会の委員長の自宅の前に街宣車で立花氏は乗り付け、散々に暴言と誹謗中傷をがなり立て、最後に、「自殺したらアカンからこれぐらいにしといたるわ」と捨て台詞をはいている。
これは、一兵庫県だけの問題ではない。
一、 公益通報者は保護しなければならないという非常に大切な原則が知事選という場で踏みにじられたという点。
二、 立候補の目的を自らの当選を目的とせずに他候補の当選を目的とする候補者が今後も現れたらどうすればいいのか ? これは公職選挙法違反ではないのか ?
三、 SNS による誹謗中傷を野放しにし、脅迫まがいの言動によって真実を明らかにしようという公的な組織に属する人々が、耐えられなくなった家族の懇願によってその職を辞する選択をしたこと。
傑作なのは、斎藤氏が、「 SNS による誹謗中傷は取り締まらねばならない」と発言している点だ。条例を作るそうである。彼は、一貫して立花氏との連携を認めていない。この言い訳がいつまで続くか見ものである。
公益通報者に対する保護が行われなかったという点について、所管している消費者庁が動くというニュースに接した。
斎藤氏が認めていない「公益通報者に対する迫害」については、あの橋下氏も批判しているようだ。
「急速に作り上げられた多数派」には注意した方が良いという声が SNS に上がっていた。
「民意」を振りかざす人が居る。「当選したら禊は済んだ」という愚にもつかぬ声を何度私は聞かされたか。衆院選での萩生田の当選がいい例である。
なぜ「短期間でこれほど多数の人が騙されたか」という一件は、 80 年以上前のナチスを支持したドイツ国民の例、犯罪者トランプを大統領に選んだアメリカ国民の例とともに私が考えねばならない一件となった。
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