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プーさん大好きな忘れん坊の母日記
小説NO.4 「詩音①」
1.出会い
優貴が詩音と出会ったのは、ちょうど桜が満開の頃だった。
「優貴、ちょっと降りてきなさい。」
母の声に優貴はパソコンを打つ手を止めて、二階から降りて来た。
「今日、お隣に越してきた春咲さん。」
そこには、小さな女の子と上品で綺麗な女性が立っていた。
「春咲です。今日は主人が仕事で、失礼ながらご挨拶にお伺いできません。
これから、いろいろ教えてください。よろしくお願いします。」
その女性は、深々と頭を下げた。
「さあ、詩音。ご挨拶は?」
促されて、母に手を繋がれていた子が恥ずかしそうに挨拶をした。
「こんにちは。春咲詩音(はるさきしおん)です。」
白いリボンが似合う可愛い女の子。
優貴にとって詩音はそんな印象しかなかった。
小川優貴(おがわゆうき)、中学3年生。
成績優秀、今年受験するのは某有名高校であった。
スポーツはそれほど得意なほうではなかったが、
かといって優等生タイプというわけでもなかった。
どちらかといえば優しく、女の子に対してはちょっと苦手意識があったりした。
しかし、今年、小学校へ入学する詩音のことを優貴が意識するはずもなかった。
二人が帰った後、優貴は母のおしゃべりに付き合わされる羽目になった。
母は、近所でも有名なほどおしゃべりで世話好きな人だった。
母の話で、隣に越してきた家族のことは全てわかったといっても過言ではないだろう。
春咲家の事情はこうであった。
詩音の父は、会社をいくつも経営していて仕事がとても忙しい人だそうだ。
母は、あまり丈夫なほうではなく、詩音を産むのが精一杯であったため、
跡取りに男の子が欲しかったがあきらめたこと。
だから、詩音は大切に育てられてきたお嬢様であること。
そして、4月から良家のお嬢様が行く有名私立小学校に入学すること。
詩音は、ピアノが上手で、おとなしい、少し人見知りをするが、
親しくなればひとなつっこく明るい優しい子であるなどである。
その話を聞いて、優貴は自分には関係ない世界だなと思った。
時代錯誤かもしれないが、それこそ「身分違い」みたいなものを感じた。
そして、そんなお嬢様は、どこかの会社の息子と見合い結婚でもして一生苦労もなく人生を送るんだろうななどと勝手に想像した。
4月8日。
今日は優貴にとっては新学期の始まりであり、
詩音にとっては入学式であった。
「お兄ちゃん、おはようございます。」
赤いランドセルを背中に背負っているのか、ランドセルに背負われているのかわからないような詩音がそこにいた。
「お、おはよう。」
寝ぼけていて、ぼーっとしているときに突然挨拶された優貴はとっさに挨拶を返した。
「おはようございます。」
隣には、とても母親には見えないくらい綺麗な詩音の母が立っていた。
「これから入学式に行くんですよ。詩音はこれでもはしゃいじゃって、
昨日から大変なの。」
詩音の母は、とても気さくな人だった。
優貴は、最初とっつきにくいのかなと思っていただけに、
少しほっとした。
詩音は、白のワンピースに長い黒髪。
お嬢様らしく、会った時とは違う綺麗なレースの白いリボンをつけていた。
「それじゃあ、行って来ますね。」
『同じ親子でも、家柄というか育ちが違うとこうも違うもんかな。』
優貴は自分たち親子のことを考え、ふとそんなことを思った。
2.僕の妹
学校から帰ってからの優貴の日常は、受験勉強一色だった。
もともと頭のいい優貴ではあったが、受験する高校のレベルはかなり高かった。
夜も遅くまで勉強していた。
深夜になることもたびたびで、詩音の家の夜の様子もわりとわかった。
詩音の父は、かなり遅く帰宅していた。
だから、詩音と会うこともあまりないようだった。
朝も、詩音が学校に行くのと同じくらいの時間に出ているようで、
詩音は、朝ごはんのときくらいしか父親と一緒にいる時間はないようだった。
そのせいか、詩音は優貴のことをとても慕ってきた。
「お兄ちゃん。私と遊んでくれる?」
とても遠慮がちに小さな声で頼む詩音に、優しい優貴は嫌だとは言えなかった。
兄弟も、まだ友達もいない詩音には母親しかいない。
でも、母親ではどうしても埋められないものが詩音の中にはあったようだ。
「いいよ。何をしたいの?」
「何でもいい。お兄ちゃんが好きなことでいいよ。」
こんな小さな子が、遠慮ということを知っていることに、優貴は驚いた。
そして、可愛いと思う反面少し不憫な気もした。
きっと、忙しい父や丈夫でない母を気遣うことが、この子の当たり前になってしまっているんだろうと思った。
「よし、じゃあお兄ちゃんの部屋でトランプしようか。」
勉強が忙しいのはやまやまだったが、優貴はなぜか詩音のことを放っておけなかった。
トランプといっても、詩音にはまだ難しいゲームはできない。
七並べや、ババ抜きなど簡単なゲームを教えた。
それでも詩音は、とても楽しそうに笑っていた。
一時間もしたころ、詩音の母が迎えに来た。
優貴の勉強のことを心配してのことだった。
「詩音、お兄ちゃんのお勉強の邪魔をしてはいけませんよ。」
詩音は、しょんぼりして泣きべそをかいていた。
しかし、優貴はすぐさま詩音の母に言った。
「そんなことないですよ。一時間ぐらいならいい息抜きになります。これからも、いつでも遊びに来てください。」
本当の気持ちだった。
一人っ子の優貴にとって、詩音は妹のように可愛かった。
勉強なんて、少し睡眠時間を減らせばいいことだと思った。
「お兄ちゃん、ありがとう。私、毎日来てもいいのね。」
とても嬉しそうな詩音の顔だった。
それから毎日、詩音は優貴の部屋に遊びに来た。
トランプだけでは飽きてしまうので、優貴は他の遊びもつきあった。
それは、お絵かきからままごとまで、優貴には笑ってしまえるようなものもあった。
でも、不思議と詩音となら煩わしくなかった。
ままごとのときは、いつも優貴がだんな様で詩音がお嫁さんだった。
「あなた、ご飯ができましたよ。今日のおかずは、ハンバーグです。」
そんな言葉が、妙に大人びていて優貴を楽しませた。
そして、優貴が受験間近になったころ、詩音がプレゼントをくれた。
「お兄ちゃん、これ私が作ったの。」
それは、小さな布の袋のようだった。
よく見ると、「おまもり」と書いてある。
「お兄ちゃんが、高校に入学できるように、私いっぱいお願いしたからね。」
可愛い神様だった。
どんな風に針を使ったんだろうと思うと、その一生懸命さに感動すら覚えた。
「ありがとう、詩音。お兄ちゃん、絶対合格するからな。」
詩音の頭を撫で、詩音の手からお守りを受け取り力強い握手をした。
そして、合格発表の日。
優貴は見事合格した。
何よりも喜んだのは詩音だった。
「お兄ちゃん、おめでとう。私ね、絶対お兄ちゃんは合格すると思ってたの。」
満面の笑みで、詩音は優貴を迎えた。
「ありがとう、詩音のお守りのおかげだよ。詩音はお兄ちゃんにとって幸運の女神だ。さあ、お姫様。これからパーティーを開催します。こちらへどうぞ。」
優貴は詩音を抱き上げ、我が家のリビングまで運んだ。
食卓には、優貴の合格祝いのご馳走が並んでいた。
「わぁ、すごーい。」
いつも母と二人の食事なので、詩音はこんなにたくさんの料理が並ぶのを見たことがなかった。
詩音の母も呼んで、その日は夜遅くまで盛り上がった。
3.初体験
4月に入り、優貴は高校生になった。
幸い学校は家からそう遠くないところに在った。
そして高校生活の三年間も、優貴は詩音との遊びにつきあった。
最も詩音も少しずつ成長し、だんだん遊びというよりも勉強を教わったり、
いろいろなことを相談したりと、本当の兄弟のようなつきあいになっていった。
優貴が高校3年生のときのことである。
クラスに明るく活発な女の子がいた。
それほど美人ではなかったが、詩音とは全く反対といってもいい女の子だった。
彼女の名前は、「小林美咲」。
そして、優貴はその女の子が好きになった。
ある日の放課後。
優貴は、進路相談で先生に呼ばれ少し遅くなってしまった。
教室に帰ると、彼女もそうだったらしく丁度下校するところだった。
「小川君、よかったら一緒に帰らない?」
彼女は、気軽に声をかけてくれた。
帰り道、優貴はこんなチャンスは二度とないと思っていた。
告白のチャンスだ。
そう思うと、心臓がバクバク音を立てた。
「小川君は、どこの大学に行くの?」
彼女からの問いかけに、間を外された形になった優貴は、
「うん、僕は○○大学にしようと思ってる。」
と、とっさに答えた。
「そうなの?嬉しい。私もそうなの。」
彼女は、少し赤くなった。
そして、急に黙ったかと思うと、優貴を見つめた。
「小川君、私ね・・・」
言いかけて、うつむいた。
優貴は、もしかして・・・と思った。
「小林さん、僕・・・前から君のことが好きだったんだ。僕とつきあってくれないか。」
思い切って一気に言った。
彼女は驚いたように優貴の顔を見た。
「本当?私・・・私も今日、小川君に告白しようかと思って・・・それで一緒に帰ろうって誘ったの。」
思いがけない言葉だった。
あまりにもあっけなく、優貴の初恋は成就してしまった。
彼女との交際は、同じ大学を受験するということもあり、
勉強を一緒にしたり、日曜日にはデートをしたりと順調だった。
ただ、一点を除いては。
そう、優貴が美咲とつきあうようになって詩音といる時間が少なくなっていた。
詩音は、もともとおとなしい子であったから、
最初のうちは寂しくても我慢していた。
しかし、一ヶ月も経つとさすがに我慢できなくなった。
「お兄ちゃん、この頃ちっとも私と遊んでくれない。私のこと嫌いになったの?」
詩音は、自分がなぜこんなに切ない気持ちになるのか、
そのときにはわからなかった。
とにかく、寂しくて悲しくて優貴がそばにいてくれないことがたまらなかったのだ。
優貴にしてみれば、小学生の妹のわがままとしか受け取れなかった。
自分には、好きな女の子がいて、その子といることが今の優貴にはとてもハッピーなのだ。
「詩音、ごめんな。僕は今好きな子がいて、彼女との時間を大切にしたいんだ。
もちろん、詩音のことが嫌いになったんじゃないよ。詩音にも好きな男の子ができたらわかるから。でも、少し遊ぶ時間が少なくなっていたね。ごめん。明日からは、今までどおり一緒に遊ぼうな。」
なだめるように、優貴は詩音の頭をいい子いい子してやった。
優貴と美咲の交際は、大学受験まで続いた。
一年未満の間に、二人はごく自然に大人になっていった。
美咲の欲求は、日を追うごとに大人の女性のものになり、優貴はある意味引きずられるように関係を持った。
若い優貴には、それは拒むことの難しい快楽の世界だった。
女性の身体を知ることも、自分の欲求を満たすことも全てかなった恋愛だった。
しかし、別れは意外なところにあったのだ。
美咲は、優貴と同じ大学を受験して、失敗した。
そして、別の大学に入学し新しい世界へ飛び出してしまった。
そこには、刺激的な生活とたくさんの男性がいた。
美咲にとって、優貴はもう「過去」になってしまったのである。
そしてまた優貴も、肉体関係があまりに濃すぎた愛に少し疑問を感じ自然にふたりの関係は消滅した。
4.海
優貴が大学一年、詩音が小学五年生になった夏休みのある日。
詩音が海に行きたいと言い出した。
優貴が免許を取り、車を買ったからだった。
「お兄ちゃん、お願い。私、海に行きたい。」
母は、詩音を海に連れて行ける身体ではないことを詩音は知っていた。
だから、今まで学校のプールしか泳ぐ場所はなかったのだ。
「よし、じゃあお兄ちゃんが連れて行ってやるよ。」
優貴は、美咲との恋愛で「女」の部分を強く感じすぎてしまった。
それに比べ、詩音は「女」ではなく、本当に可愛い「女の子」だった。
詩音を見ていると、決して抱くことを前提として接してはいけない気がした。
そして、そんな可愛い詩音のために何でもしてやりたかった。
「わぁー!ひろーい。」
詩音は海についた途端、走り出した。
「お兄ちゃーん。早く早くぅ。」
ひとりはしゃぐ詩音が、とても可愛かった。
「詩音、水着に着替えなさい。」
洋服のまま走り回る詩音に、優貴は声をかけた。
「はぁはぁ。お兄ちゃん、海って広くて大きくてとっても気持ちいいね。」
息を切らせて帰ってくる。
二人はそれぞれ更衣室に行き、着替えをした。
「今日は、新しい水着を買ってもらったの。」
淡いピンクの水着にフリルがついていた。
それを見て、優貴はドキッとした。
詩音の胸は、少し膨らみ、腰は丸みを帯びていた。
優貴は、少し動揺している自分にとまどった。
詩音のことを女性としてみたことは、今まで一度もなかった。
「ねぇ、似合う?」
詩音の顔が、すぐ近くまで来た。
「そうだね。とても似合ってる。可愛いよ。」
「そう。嬉しい。じゃあ、泳ごう。」
優貴の手をひっぱり、詩音は海めがけて走っていった。
海の中でも、詩音の身体に触れることは多々あった。
優貴は、このとき初めて、詩音に対して反応している自分自身にとまどい、
それを隠すのに苦労した。
それに比べ、詩音は無邪気なもので海に来られた嬉しさではしゃぎ回っていた。
その夜。
海から帰った優貴は、悩んでいた。
『相手は、小学生だぞ?僕は、ロリコンなのか?』
真剣に悩んだ。
今まで、詩音のことを妹のようにしか見ていなかった。
しかし、今日の自分の反応は確かに女性に対するものだった。
そして悩んだ末、優貴は、この気持ちを封印することにした。
今までどおり、詩音のいいお兄ちゃんでいることが二人にとって一番いいことだと、
優貴は決意した。
楽しかった海の日から数日後、
詩音は、ピアノのことで悩んでいた。
夏休みということもあり、練習時間は一日に6時間を超えることもあった。
ピアノを習い始めたのは、ほんの気まぐれ。
幼稚園のころ、お友達が行ってて一緒に習い始めた、それだけだった。
それでも、だんだん上手になってくると自分でも欲が出た。
ピアノの先生も「あなたなら、ピアニストになるのも夢ではないわ。」といってくれた。
小学生ながら、自分が他の子達よりもうまく弾けることは、大人しい詩音にとって、
ちょっぴり自慢であり、自信にもなっていた。
そして、ピアノを弾くことが楽しく、練習も苦になったことはなかったのである。
それが、このごろあまり楽しくない。
練習していても、今ひとつ身が入らない。
気持ちが入っていない演奏は、先生にもわかり、詩音は先生にも注意されることが多くなっていた。
それでも、毎日の練習を欠かすことはできなかったので、
詩音は、ただただピアノを弾いていた。
「詩音、この頃どうしたんだ?」
窓越しに優貴が話しかけた。
優貴と詩音の部屋は、一階の隣同士で、たまたま二人の部屋の窓が向かい合わせになっていた。
それほど、隣接しているわけではなかったので、お互いのプライバシーがわかるほどではなかったが、大きい声で呼べば聞こえるくらいだった。
詩音は恥ずかしくて、そんなことはしなかったが、
優貴は時々、大声で詩音を呼ぶことがあった。
まあ、優貴にしてみれば、玄関からわざわざ訪ねていくのが面倒なだけだったが。
「どうしてそう思うの?」
詩音は、問い返した。
「いや、最近ピアノの音を聞いてて、なんとなく今までと違うなって思って。
ピアノの部屋には防音装置がついていて、めったに聞こえることは無いのだが、
昼間には、時々窓を開けて弾くことがあった。
幼いころからずっと詩音のピアノを聴いてきた優貴には、
詩音の様子がピアノの音色でわかるようになっていた。
「うん・・・実は・・・最近、なんとなくピアノが面白くなくなっちゃって。」
詩音は、今まで母により優貴のほうにいろんなことを相談してきた。
「どうして?なにかあったの?」
優貴は窓を乗り越え、庭に飛び降り走って詩音の部屋に来ていた。
「別に、何かあったわけじゃないの。ただ、ピアノを弾いていても音符をなぞっているだけのような気がして・・・例えば、恋をしてその情熱を曲にしたものを弾いても、
私には、その気持ちはわからないし・・・」
詩音には、才能があった。
それゆえ、技術のみが上達してしまい、詩音の内面の成長がそれについていってなかったようだ。
「そうか、それはね。詩音がもう少し大人になったら自然にわかってくることだと思うよ。
詩音ももうすぐ誰かに恋をする。そうしたら、その男の子に対して優しい気持ちになったり、時には憎い気持ちを持ったりするかもしれない。それを素直に表現すればいいんじゃないかと思うよ。だから、今はあまり悩まないで、詩音の心が成長するまで、
のんびり練習すればいいんじゃないのか?」
詩音は、優貴の言葉をじっと聴いていた。
そして、「うん。」と頷いた。
「わかったよ、お兄ちゃん。私、まだ好きな人とかいないから、
お兄ちゃんのこと考えて弾くね。そうしたら、少しは元気が出る気がするから。」
詩音の表情に少しゆとりが生まれた。
その後、優貴は少し落ち込んでいた。
ああやって詩音を慰めたものの、「詩音に好きな男の子ができたら・・・」という自分が出した言葉が、将来的に本当のことになるのかと思うとまだ見ぬその男に勝手に嫉妬してしまう自分がいた。
ただ、詩音の「お兄ちゃんのこと考えて弾くね。」という言葉が、
今の優貴には少し嬉しくもあった。
それは、裏返すと詩音にとって優貴は「お兄ちゃん」以上ではないということでもあったのだけれど。
5.初恋
年月が流れ、詩音は高校生になった。
もともと私立のお嬢様学校なので、受験など無くそのままストレートで進学した。
それは、高校一年のときの出来事だった。
詩音は、いつものように優貴の部屋にいた。
「お兄ちゃん、実は相談したいことがあるの。」
「今日は何だ?また、ダイエットのことか?」
いつもの調子で、からかう優貴だった。
「うんん、今日は違うの。」
いつもと違う詩音の様子に、優貴も少しまじめな顔になった。
「実はね、私・・・好きな人ができたの。」
優貴は、座っていた机の椅子から落ちそうになった。
詩音から、「好きな人・・・」なんて言葉を聞くとは、夢にも思わなかったからである。
しかし、『ついにこの時が来たか。』という思いもあった。
詩音は続けた。
「それがね。その人は今度学校に来たピアノの先生なの。
私、先生に教えてもらうとドキドキして、ピアノを教えてもらうとき手が触れたりすると、うまくピアノが弾けなくなるの。どうしたらいい?」
詩音をこんな気持ちにさせる男がいる。
優貴は嫉妬を覚えた。
しかし、その気持ちは抑えなければならない。
詩音は、自分の妹・・・可愛い妹・・・幸せになって欲しい。
そして、優貴はアドバイスした。
「そうだね。詩音、僕は以前に君に言ったことがあったね。男の子を好きになったら、その気持ちを込めてピアノを弾いてごらんって。今がその時だと思うんだ。先生を好きだと思う気持ちを込めて、ピアノを弾くことに集中してごらん。そうすれば、とてもいい演奏ができると思うし、先生だってきっと詩音のこと好きになってくれるよ。」
優貴は、本当はこんなアドバイスしたくなかった。
『そんなやつ、嫌いになってしまえ。』と言いたかった。
でも、詩音の悩んでいる顔を見るとそれはできなかった。
「ありがとう、お兄ちゃん。私、頑張ってみる。そうよね。私が上手くなったら、先生好きになってくれるかもしれないよね。」
元気になった詩音の笑顔があった。
『この笑顔があればいい。』寂しさの中でも、優貴は思った。
一ヶ月後、詩音が泣きながら優貴の部屋に走って来た。
「お兄ちゃん!!」
優貴の胸に思い切り飛び込んできた詩音は、わんわん泣いていた。
優貴は、わけがわからず立ち尽くした。
そしてしばらくすると、詩音は泣きながら話しはじめた。
「お兄ちゃん、先生が・・・先生が・・・結婚するって。
今日、婚約者っていうひとが学校に来たの。校長先生に仲人を頼むって放課後来てたの。
とっても綺麗な人だった。大人っぽくて、私なんか全然かなわないような人だった。」
詩音は泣きじゃくった。
優貴は、詩音を軽く抱きしめ落ち着くまでずっと髪を撫でてやった。
詩音の淡い初恋が儚くも消えてしまった日だった。
6.告白
高校3年の夏のことだった。
詩音は、本格的にピアノを習い始めていた。
それは、ピアニストになるために音楽大学へ行くためでもあった。
優貴は、大学を優秀な成績で卒業し、司法試験を受け弁護士になっていた。
そして、詩音の父が経営するいくつかの会社の中に弁護士事務所があり、
そこに就職していた。
優秀な弁護士になれる素質を認められての雇用だった。
二人は、あの夏から毎年海へ行くようになっていた。
忙しくなった二人には、なかなか遊べる時間が取れなくなっていたが、
一年に一度のあの海だけは、夏休みを利用して必ず行くようにしていた。
「詩音、遅くなってごめん。」
昨日の夜、遅くまで仕事をしていた優貴は、少し寝坊した。
「もう、お兄ちゃんったら、遅刻の罰として、今日は私の言うことを全部聞くこと。」
いたずらっぽく笑う詩音が、夏の太陽に照らされ眩しかった。
「はいはい。わかりました、詩音お嬢様。」
あれ以来、優貴は詩音のことを女性として意識しないように努めていた。
しかし、詩音の身体は年々成長し、もう優貴がその気持ちを抑えるのも
難しくなってきていた。
「さあ、出発しようか。」
二人は、いつもどおり、海へ出かけた。
そして、いつもどおりビーチではしゃいだ。
詩音の水着姿は、素晴らしく美しかった。
決して、抜群のプロポーションとは言えなかったが、
スレンダーなボディーに、抜けるような白い肌だった。
まだ、誰にも汚されていない真っ白な女の子。
優貴は、自分でも抱くことがためらわれるほど詩音を愛し、
守りたいと思っていた。
そして、そのこともあって告白はためらわれていたのだった。
「そろそろ帰ろうか。」
夕暮れが近づき、浜辺には人影がなくなった。
「そうね。お兄ちゃん私、お腹すいちゃった。どこか連れてって。」
一日思いっきり遊んだのである。
それも当たり前だと思った。
「よし、じゃあ、僕の行きつけの居酒屋に行こうか。」
お嬢様の詩音は、今まで「居酒屋」なんていうところに入ったことが無かった。
「うん、行く行く。」
興味津々で、詩音は優貴の腕にぶら下がるような格好をした。
「よし、じゃあ着替えて。」
二人は、急いで帰り支度をすると、一度自宅に車を置き、目的の居酒屋へタクシーで向かった。
「カラオケ行こうか。」
優貴は言った。
「うん、行く!」
詩音は嬉しそうに答えた。
タクシーを拾い二人は後部座席に座った。
「今日はごちそうさまでした。とっても美味しかったよ。」
詩音がにこにこしながら優貴のほうを向いた。
「そう、よかった。あのお店、居酒屋にしては料理が美味しいって評判なんだ。
一度詩音を連れて行こうと思っていた。」
「うんうん。ほんと美味しかったよ。また連れて行ってね。」
そういうと、詩音は前を向き二人はそのままカラオケボックスへ向かった。
沈黙の時間が流れた。
ふと、優貴の手が詩音の手に触れた。
『あっ。』詩音の心の中の声だった。
優貴が私の手を握っている。
今まで、ずっと当たり前のように傍には優貴がいた。
でも、一度もこんな風に触れ合ったことはなかった。
心臓がドキドキしはじめた。
何か言おうと思うのだけれど、頭がボーっとして何も考えられなかった。
時間にすれば、ほんの10分くらいの間だったろうか。
詩音の胸の高鳴りはどんどん大きくなり、運転手さんに聞こえてしまうのではないかと思って耳まで真っ赤になってしまった。
タクシーを降りるときも、何も言えず無言で降りた。
優貴はというと、「どうも。」なんてお礼を言いながら料金を支払って下りてきた。
「じゃあ、行こうか。」
詩音の手を取り、カラオケボックスの中へスタスタ入っていく。
詩音は、そのまま優貴のあとをついて行くしかなかった。
「いらっしゃいませ。」
お店の人の前ではさすがに優貴は手を離していた。
「お時間は何時間でおとりしますか?」
店員さんの言葉に、二人は顔を見合わせた。
「じゃあ、一時間で。」
先に口を開いたのは優貴だった。
「では、お部屋へご案内いたします。」
お店の人の後をついていく。
「こちらです。ごゆっくりどうぞ。」
パタンとドアの閉まる音がした。
詩音の後ろには優貴がいた。
詩音はドキッとした。
ドアが閉まれば、ここは密室。
もちろん、窓はあるから外から見えないわけではない。
でも、誰かを呼ばない限りよほどのことがないと誰も来ない密室。
いつも友達と来ているときは、そんなこと考えもしなかった。
「詩音・・・」
突然優貴が耳元で話し掛けた。
この緊張感に耐えられなくなった詩音は、さっと身を引きソファーに腰掛けた。
「ねえ、何歌う?」
精一杯の元気な声で本を開ける。
仕方なく優貴も隣に腰掛けて本を開ける。
「じゃあ、この曲。」
リモコンを操作し、曲を入れる。
「そうだ、飲み物を注文しよう。」
優貴はこれもまたリモコンでさっさと注文を入力してしまった。
「じゃあ、私歌うね。」
高校生にしては少し幼さの残る声で詩音は最近よく耳にする歌を歌った。
詩音が歌い終わったところで、飲み物が届いた。
「喉渇いちゃった。」
一気に届いたばかりの飲み物を飲み干してしまった。
「これ何?甘いよ。でも初めての味。」
「さあ、何だろうね。」
優貴はいたずらっぽく笑った。
そして、優貴が二曲ほど歌ったところで、詩音が歌うために立ち上がろうとした。
「あれ?」
詩音はよろけて優貴の腕の中に倒れこんだ。
「どうしちゃったの?なんか足に力が入らない。」
優貴の腕の中で、なんだかとてもいい気持ちなんだけど、
どうしても身体に力が入らない。
「詩音、僕と踊ろうか。」
優貴は、詩音の身体を支えて立ち上がった。
そう、ちょっと詩音には悪いなと思ったが、優貴は詩音にカクテルを飲ませていた。
高校生でまだアルコールは飲んだことがなかった詩音には、一杯のカクテルで十分だった。
「うん、いいよ。でも、私立っていられな・・・い。」
足元がおぼつかない詩音を優貴は抱きかかえるようにした。
「僕の首に腕を回してごらん。」
そうすると、詩音は優貴にぶら下がるように抱きついた格好になった。
「これなら踊れるだろう?」
優貴は、詩音の腰に手を回し彼女を抱きしめるような格好で踊った。
詩音の頬が優貴の頬に触れる。
「お兄ちゃん・・・好き。」
一曲踊ったころ、詩音が言った。
そして、優貴の頬にキスをした。
「詩音・・・」
ずっとずっと好きだった。
小さいころから詩音だけを見ていた。
詩音は大切な大切な優貴の宝物だった。
壊してしまうのが怖くて、今までずっと兄弟のように接してきた。
詩音の気持ちも確かめるのが怖くて、ずっとずっと・・・
「詩音・・・」
抱きしめた。
詩音が壊れてしまうのではないかと思うくらい、ギュッと抱きしめた。
そして、キスをしようと詩音に顔を近づけた。
「ダメ!」
思わない拒絶だった。
「どうして・・・」
優貴は少し動揺した。
でも、それはすぐにわかった。
うつむいた詩音の目に涙が光っていた。
「ごめんね、お兄ちゃん・・・ごめんなさい。」
頬へのキスは詩音の精一杯の気持ちだったんだ。
優貴は詩音を後ろから抱きしめた。
「わかったよ、詩音。でも、しばらくこのままでいてくれないか。」
優貴は気持ちのブレーキをかけていた。
「ごめん、詩音。いやじゃないか?」
まだ冷静ではない声で聞いてみる。
「うんん、そんなことない、私も胸がどきどきして・・・ほら。」
詩音が優貴の手を胸に当てた。
手にすっぽり収まるくらいの柔らかいふくらみがそこにはあった。
触ってはいけないような気がして、優貴はそのままでいた。
髪の毛にキスをした。
それ以上の衝動を優貴は必死にこらえた。
曲が終わるころ、詩音が身体を離した。
その顔はどこか恥ずかしそうで可愛くて、
優貴はまた湧き上がってくる衝動を抑えるのに苦労した。
「詩音、ここへおいで。」
ソファーに腰掛け、詩音を呼ぶ。
「僕のひざの上に座ってごらん。」
ポンッとひざを叩くと、詩音はためらっていた。
「えー?でも、私重いよ。」
「いいから、早く座って。」
そんな駆け引きのあと、詩音は優貴の膝の上に座った。
確かに重いが、それは優貴にとって心地よい重さだった。
詩音は遠慮しながらも、どこか安心感のあるその膝が好きになっていた。
(残り時間五分です。)
二人には無常にも思えるメッセージが、画面に映し出された。
「時間だね。そろそろ帰ろうか。」
優貴の言葉にこくりとうなづいた詩音だった。
時間は夜十一時。
少し雨が降っていた。
折り畳み傘をバックから出し、詩音がさしかける。
優貴がそれを持ち、小さな傘に二人入って夜道を歩いた。
二人の心に小さな宝物ができた夜だった。
そして、二人が兄弟から恋人になった夜だった。
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