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プーさん大好きな忘れん坊の母日記
小説NO.6 「愛すると言うこと」
1981年・冬
森田あゆみ、16才。
彼女は県立高校に通う1年生だった。
あゆみの通う高校は県立高校の中ではそれほどレベルは高くなかったが、
トップクラスにいれば国公立大学には入れると言うくらいのところだった。
そのせいか、一部の成績優秀な生徒を除いて男女交際が盛んな高校でもあった。
あゆみはどちらかと言うと見た目が優等生タイプで、あまり声を掛けてくる男の子は
いなかった。
でも、実際はすぐに男の子に恋をする普通よりちょっとほれっぽい?女の子だった。
松村隆一、15才、高校1年生。
あゆみが彼と出会ったのは入学式の日だった。
成績優秀な彼はクラスの委員長になった。
そしてあゆみの親友、井上かすみは同じく副委員長になった。
そんな彼とあゆみに接点ができたのは部活動だった。
あゆみは入学してすぐに放送部に入部した。
中学の時、委員会で少し経験がありアナウンサーに興味があったからだ。
この学校の放送部は歴代女子部員ばかりでほとんど男子部員の入部はなかった。
ところが、あゆみたちの学年から初めて男子部員が入部する事になったのだ。
といっても最初は二人しかいなかった。
それでも女子部員だけよりは機械の扱いも上手く、
ミキサーと言われる仕事は彼等が担当することになった。
しかし、幸運なことに彼等は友だちが多く、いろいろな男の子を勧誘してくれた。
他の部とも掛け持ちでいいからと放送部に入れられてしまった男の子もいた。
でも、その強引に引き込まれた男の子達もまんざらでもなさそうで
皆でわいわい楽しく放課後を過ごしていた。
しかし、その中でひとりなかなか勧誘に乗って来ない男の子がいた。
それが松村隆一であった。
そこで彼の勧誘にあゆみも一役買う事になった。
放課後彼と話をし、何かにつけて彼を誘った。
それが効いたのか、いろいろな条件付きではあったが、結局彼は入部を承知してくれた。
ということであゆみは放課後を彼と一緒に過ごす事になったわけだ。
彼が入部してしばらく経ったある日あゆみは彼から相談を受けた。
親友のかすみが恋愛問題で悩んでいるらしい。
彼とかすみは委員長と副委員長の関係でかなり親しくなり
そんな相談も受けるようになったのだそうだ。
かすみは吹奏楽部で同級生の同じ吹奏楽部の男の子と交際していた。
でも、彼はどの女の子にも優しくてそれが耐えられないと言う。
「どうして私に相談してくれなかったのかしら・・・」
あゆみはそう思った。
そして、かすみのことについて
今度はあゆみと隆一が話す機会が多くなった。
あゆみは、真剣に彼の話を聞き、かすみのことを心配した。
彼にかすみへのアドバイスを伝言したりもした。
でも、直接かすみに話すことはしなかった。
それは、彼があゆみに相談していることをかすみには言わないでほしいと彼が言った
からだった。
そんなある日。
あゆみは、かすみが吹奏楽部の彼と別れて、
今度は隆一とつきあうようになった事を友だちから聞いた。
ショックだった。
今まで隆一の事を恋愛対象として見た事はなかった。
でも、あゆみはいつのまにか隆一の事が好きになっていたのだ。
その日の放課後。
あゆみは隆一にそのことを追求した。
隆一の答えはこうだった。
「別に彼女の事を愛してるとかそういうんじゃないんだ。彼女が可哀相で慰めている
うちに・・・
でも、今は彼女の事を守ってあげないと彼女は歩いていけないと思うんだ。」
同情が愛に変わった?そういうことだろうか・・・
あゆみにはかすみも大切だった。
でも・・・彼を好きだと言う気持ちももう止められないことはわかっていた。
そして、この日からあゆみには辛い日々が始まった。
あゆみは、隆一とは今迄通り普通に接した。
彼に自分の気持ちを悟られないように、彼女との仲が上手く行くようにアドバイスもした。
かすみに対しても同じだった。
隆一の事でいろいろな相談を受けた。
その度にあゆみは隆一に彼女の気持ちを伝え、彼女が今度こそ幸せになれるように願った。
彼女は隆一とのデートの様子やあゆみが知らない彼の素顔を話した。
それを笑顔で聞きながら、でも心のどこかで彼女への嫉妬が顔をのぞかせていた。
この頃からのあゆみの日記には彼女の気持ちが詩になって綴られていた。
寂しいって言ったら胸をかしてくれますか?
好きですって言ったら受けとめくれますか?
無理だとわかっていても
わがままだとわかっていても私はあなたに甘えたい。
嫌いですか?
こんな私・・・・
ごめんなさい。
あなたを困らせる事くらいわかっていたの。
でも・・・どうしてもあきらめられない。
好きなんです。
あなたが・・・
どうすることもできないこの気持ちを
今、夢の中で巡らせている・・・そんな私です。
「彼・・・好きな人ができたみたいなの。」
下校途中にかすみがつぶやいた。
「え?」
あゆみは耳を疑った。
隆一とかすみがつきあいはじめてから3ヶ月後のことだった。
「彼ね。最近なんとなく冷たくなったの。
私、彼の事愛してるから恥ずかしかったけどあんなことも許したのに・・・」
あまりにショッキングな告白にあゆみは動揺した。
(あんなことって・・・・・もしかしてCまでいっちゃったの?)
当時中高生の間ではキス・ペッティング・セックスをABCで表現していた。
彼女はうつむいて泣いている。
あゆみには彼女を慰めることはできなかった。
心のどこかに彼女が振られてしまえばいいのにと言う思いがあったからかもしれない。
「大丈夫だよ。明日私が彼に話してあげるから。心配しないで。」
そう言いながらあゆみは彼とかすみが抱き合っている所を想像し何とも言えない気持ちになっていた。
「話があるの。」
放課後のLL教室。
そこがあゆみ達の部室になっていた。
その中にある放送室は外からの音も中からの音も遮断されるようになっていた。
「ここで話そう。」
そう言うとあゆみは彼をその中の椅子に座らせた。
そして、彼の前に立つと昨日の話を始めた。
「かすみ泣いてたわよ。かすみの言う事は本当なの?」
彼はしばらく黙っていたが、やっと聞き取れる位の声で言った。
「ああ・・・本当だ。でも、彼女とはBまでしかいってない。」
あゆみは少しほっとした。
それは彼女と隆一が最後の一線を超えていなかった事に対するものだった。
でも、もう一つの答えは・・・
「じゃあ好きな人がいるってことよね・・・相手は誰なの?」
答えない隆一。
「彼女のためにもはっきりさせてあげなきゃダメでしょう?」
彼女のため・・・
本当にそうなのだろうか。
そう言いながらあゆみはこの答えを自分のために求めている・・・
それは否定できない事だった。
その時、彼の視線があゆみに向いた。
その目が何を言っているのか・・・もう明らかだった。
「私・・・なの?」
戸惑いながら自分を指差したあゆみに、彼はコクンと頷いた。
嬉しさと驚きと今迄我慢していた感情が一気に溢れ出した。
「でも・・・かすみは・・・かすみの気持ちはどうなるの?」
正直な気持ちだった。
あゆみは彼女の事を本当に親友だと思っていたしこれ以上彼女を苦しめるのは辛かった。
自分が幸せになる事が親友を不幸にする・・・
「かすみとはちゃんと別れる。俺の気持ちは変えられない。これ以上自分を偽る事は
できない。
あゆみが・・・好きだ。」
そう言って彼はあゆみを抱きしめた。
あゆみは嬉しくて・・・でも悲しくて、溢れる涙を留める事ができなかった。
数日後、かすみが下校中のあゆみに声を掛けて来た。
「あゆみ。」
彼女の笑顔があゆみの目に飛び込んで来た。
「一緒に帰ろう。」
彼女は以前のように横に並びそして話し始めた。
「あゆみ・・・ごめんね。
あゆみが隆一の事好きだったなんて全然気付かなくって。
彼とのことあゆみに楽しそうに話しちゃって・・・あゆみ辛かったよね。
ほんとにごめんね。私、これからあゆみのこと応援する。
もちろん隆一のこと、まだ好きだけど、あゆみのことはもっと好きだもん。
だからあゆみには幸せになって欲しいの。」
あゆみは正直驚いた。
かすみはきっと自分の事憎んでるだろうなって思ってた。
だからあれ以来ずっと彼女を避けてた。
「かすみ・・・私こそごめんね。好きになってはいけないと何度も思ったの。
でも、自分の気持ちをどうする事もできなかった。
隆一に好きだって言われて一番にかすみの事が浮かんだけど・・・
彼を好きだと言う気持ちをどうしても止める事ができなかった。ごめんねごめんね・
・・」
彼女達はお互いの手を取り向かい合った。
泣きじゃくるあゆみに、
「これからも親友だよね。そうじゃなきゃ許さないぞ。」
かすみは悪戯っぽく笑った。あゆみはそれに答えるようにかすみの手をぎゅっと握り返した。
隆一と付き合いはじめて1ヶ月が経った。
あゆみはかすみと仲直りできてから素直に彼に甘えられるようになった。
お互い家が遠いので会うのはもっぱら部活動の時間だけだったが、
部員達も二人がつきあっているのを知っていたので気を利かせて二人っきりにしてく
れる事もあった。
そんなある日。
あゆみ達はいつもより早く部室に来ていた。
立ったままたあい無い事を話しながらいつしか彼の顔があゆみの間近にあった。
ふっと会話が途切れ、彼があゆみの肩を引き寄せた。
「あっ・・・」
ほんの一瞬の出来事だった。
彼の唇があゆみの唇に触れそして離れていった。
「ごめん。」と言って照れくさそうに笑う彼。
あゆみは驚きと恥ずかしさで彼に抱かれたまま動けなかった。
胸の鼓動が伝わってくる。
あなたの胸の鼓動が伝わってくる。
初めての出来事にとまどいとときめきを感じた私。
あなたの顔があんなに近くにあったのは初めてだった。
思わず離れてしまったのは自分に負けそうだったから。
本当はとても幸せだった。
ありがとう。
胸に肩にあなたのぬくもりが残っています。
それはとても暖かでとても力強い。
あなたの胸の広さを思い出します。
私・・・ちょっぴり強引なあなたが好き。
ストレートに気持ちをぶつけてくれるあなたが好き。
でも、後で「ごめん」って言った優しいあなたが一番好き。
愛を信じてついていきたい。
流されないでついていきたい。
自分の足でついて行きたい。
そう思います。
それが私の愛し方、それが私の素直な気持ち・・・
胸に残るこのあたたかい想い。
し・あ・わ・せ・・・・
私もう本当は決めていたの。
でも、なぜか目を閉じる事ができなかった。
恐かったんじゃありません。
たぶんあなたの優しさに甘えていたんだと思います。
今・・・
心からあなたに「ありがとう」と言いたい。
恥ずかしくって何も言えなかったけれど
あの時顔を埋めたあなたの胸はとても広く暖かでした。
キュンっと胸を締め付ける想いはありません。
あるのはただあたたかいしあわせ。
そして・・・あなたへの「愛」・・・
この日から隆一とあゆみは皆の目を盗んでキスをする事が多くなった。
始めは唇が触れるだけのものだったが、だんだん隆一のほうが大胆になり
舌を入れて来たり、時には制服の上から胸を触ったりするようになった。
あゆみは彼にそうされるのがイヤではなかったけれど、
なんとなくいけないことをしているようで彼の手をそっと押し返していた。
彼と付き合い始めて数ヶ月がたちあゆみ達は2年生へと進級した。
そして彼は生徒会役員になった。
もともとリーダーシップが強く、
成績も優秀で下級生にも人気があったからそれは当然の事だったのかも知れない。
そして、それからの彼はとても忙しい人になってしまった。
彼は進学であゆみは就職希望だった為にクラスも別々になってしまい、
部活動も生徒会の仕事があれば参加しなくなった。
それでも、彼が移動教室の時は窓からじっと彼を探し見つけると手を振る・・・
そんな些細な事が嬉しかった。
でも、寂しがり屋のあゆみにはやっぱり寂しくて辛くて彼女は彼に何通も手紙を書いた。
そして、そのうち二人は交換日記を始めた。
といってもほとんどあゆみが今日あった出来事や自分の気持ちを書くだけで、
彼は少しだけコメントを書くように文章の間に走り書きを入れているような感じだった。
それでも、自分の気持ちだけは伝わっているんだと自分に言い聞かせるように
あゆみは毎日毎日、日記を書いていた。
「今度うちに遊びに来ないか?」
そんな誘いがあったのは夏の始めの頃だった。
彼のお家に誘われるなんて・・・あゆみは嬉しくてすぐにOKした。
「じゃあ、日曜日の朝駅で待ってるから。」
彼の家はあゆみの家から電車で3駅の所にあった。
あゆみは期待と不安でその3つの駅を1つずつ通り過ぎる度、
緊張が高まって行くのを感じていた。
そして駅につくと彼が待っていた。
でもすぐに、人目を避けるようにあゆみの前をさっさと歩いて行く。
「どうしたの?」
少し路地に入ったところで聞くと、
「田舎はな。女の子連れて歩いてるとすぐ噂になって面倒なんだよ。」と言う答え。
なるほど辺りには田園風景が広がり道行く人は畑仕事をする格好をしている。
「そっかぁ。」なんか変に納得してあゆみは彼の後についていった。
10分ほど歩くと線路がありその向こうが彼の家だった。
母屋と離れがありあゆみたちは先に母屋の玄関に入った。
「ただいま。」彼の声に奥から母親らしき人が出てきた。
「あら、いらっしゃい。可愛い娘さんだ事。」
気の良い人のようであゆみはすぐに打ち解けた。
「はじめまして、森田あゆみです。今日はお邪魔します。」
そう言うとお母さんは親し気に世間話を始めた。
あゆみは困ってしまったが、途中隆一の「かあさん、いい加減にしろよ。」と言う言葉で
ひとまずお開きとなった。
「じゃあ俺達離れに行くから。」そう言うと隆一はすたすたと離れに向かって歩いていった。
「それじゃあ、お邪魔します。」お母さんにそう言うとあゆみは軽く会釈をして隆一
の後を追った。
離れの二階に隆一の部屋があった。
8畳もある広い部屋で、机とセミダブルのベッドそれに小さなカウンターもあった。
「りっぱな部屋ね。」
あゆみは自分の部屋と比べてあまりの違いに驚いた。
「もともとは兄貴の部屋だったんだ。兄貴が結婚したから俺の部屋になった。」
そう言いながら彼は机の椅子に座りこちらを向いた。
「あゆみはベットにでも座ってよ。他に椅子無いから。」
そう言われて確かにフローリングに直接座るわけにもいかず、あゆみはベットに腰掛けた。
彼の趣味はプラモデルのようだった。
ガンダムのプラモデルの箱がたくさん積み重ねられていて、
ガラスのウインドゥの中にはいろいろに改造されたプラモデルが並んでいた。
彼は、その苦労話や完成した時の素晴らしさを延々話し続けた。
暫くするとお母さんがお茶を持って来てくれた。
ベッドの横に置かれたガラスのテーブールの上にそれを置き「ごゆっくりね。」といって
すぐに出ていった。それをきっかけに彼はあゆみの隣に座った。
彼との距離がだんだん近付いていく。
いつの間にかぴったりとくっついた彼の体温があゆみに伝わって来た。
そして肩を抱きキス。
いつもよりずっと長くて深いキス。
そのまま彼はあゆみをベッドに押し倒すような形で上に覆いかぶさった。
心臓がどきどきしてちょっと怖い気もした。
目を閉じて彼のするがままに身を任せた。
そして、その日二人は最後の一線を残したまま愛し合った。
最後までいかなかったのは、あゆみの「赤ちゃんができたら困る・・・」
その一言があったからだった。
隆一は、少し残念そうな顔をしたが、あゆみの気持ちを大事にしてくれた。
二人は愛し合った後、抱き合ったまま、静かに時を過ごした。
愛されていると心で感じました。
胸の中は光でいっぱい。
二人だけの時間(とき)がとても短くて、そしてとても楽しくて・・・
「ついて来い。」
そう言われれば
「はい」
と素直について行きたい。
そんな気持ちが私の中を駆け抜けて行きます。
ずっと前を歩いて下さい。
私の前を歩いて下さい。
ついて行きます、私。
最後迄ついて行きます。
ありがとう、あなた・・・幸せをありがとう。
これからもずっと受け止めて下さい。
私を受け止めて下さい。
信じています。あなたを・・・
それからというものあゆみ達のデートは彼の趣味の映画か、
彼の家に遊びに行くかどちらかになった。
もともと娯楽が少ない田舎だったし、一度覚えてしまった彼の肌のぬくもりを
あゆみは忘れる事ができなかった。
学校では冷たい態度をとっていた彼だったが、ベッドの中では優しかった。
でも、どうしてもあゆみは最後の一線を超える事ができなかった。
どうしてなのか・・・それはただ、妊娠を恐れていたからだけではなかった。
両親に対してなんとなくいけない事をしているようなそんな気持ちもあった。
自分はまだ高校生なのだからと言う
幼き頃に植え付けられた道徳感のようなものもあったかもしれない。
いろいろな思いがあゆみにブレーキをかけていた。
彼は、そんなあゆみの気持ちをわかってくれて、(少なくともあゆみはそう思っていた)
SEXだけはしないでいてくれた。
ある日のデートで二人は映画を見に行った。
まだ若い二人の恋人同士が大人に反対され引き裂かれそれでもなおお互いを求めあう
・・・
そんなストーリーだった。
映画のあちこちに二人のSEXシーンがあり、
あゆみは恥ずかしくもあったが自分達に重ねあわせて見ていた。
帰りの電車で向い合せに座った隆一がじっとあゆみの目を見ている。
「なに?」あゆみのほうから口を開くと、
彼は「○○ごっこしよう・・・」
それはさっき見た映画の題名だった。
何度か同じ事を言う彼。
でも、あゆみはYESとは言わなかった。
「じゃあ、他のやつとするぞ。」半分本気のような彼の言葉に、
あゆみは彼が今迄決して満足していなかったんだと言う事を知った。
「愛しているというのならCまでいったっていいじゃないか。さっきの映画でも言っ
てたし・・・」
彼は拗ねたような半分怒ったような表情で言った。
あゆみ達はちょっと気まずくなっていた。
いよいよ受験シーズンが来た。
あゆみはある大手企業に就職が決まりあとは残りの高校生活を満喫するだけとなっていた。
しかし、彼は国立大学を目ざし寝る間も惜しんで勉強していた。
あゆみは何か彼にしてあげたくて、マフラーを編んであげたり、お菓子を作ってあげたり、
励ましの手紙を書いたりお守りを作ったりもした。
当然もうデートをする時間もなく、学校も自由登校になっていたから
あゆみ達のコミュニケーションは電話で話す事くらいしかなかった。
そして、このころだろうか・・・
彼の態度がどことなくぎこちなくなったとあゆみは感じはじめたのは。
彼の志望校が九州に決まった事を知ったのは受験も押し迫ったある日の事であった。
それは交換日記に書かれていた事だった。
「俺は受験する事を随分悩んだ。俺の将来の夢は公務員になる事だ。
高校卒業で公務員試験を受けて社会人になりおまえと結婚する事も考えた。
でも、それでは所詮出世のできないことは目に見えてる。
だから、やっぱり大学に行く事にした。県内には俺の行きたい学部がない。
だからお前と離れても県外に行く事にした。でも、おまえと別れるつもりはないから。」
あゆみは、彼と離れてしまう事がとてもショックだった。
でも、彼がそこまで考えてくれている事を知ってとても嬉しかった。
「彼を待っていよう。」
そう心に決めたのはこの時だった。
To 隆一
どんなに遠く離れていても心の糸は切らないで。
愛される幸せを知ってしまったから
私はもう一人では歩けない
愛しています。あなた・・・
by あゆみ
卒業式の日。
あゆみは溢れる涙を止める事ができなかった。
一番思い出深い高校生活。
ここで隆一と出会った。
初めて愛すると言う事を知った。
仰げば尊しを歌いながら、隆一との思い出をひとつひとつ巡らせていた。
式が終わり、皆友だちと写真をとったり色紙を書いたりしていた。
あゆみは隆一のクラスへいき彼を探した。
大勢の男友だちに囲まれて彼はそこにいた。
あゆみに気付くと友だちのほうが気を利かせ「早く行ってやれよ。」と彼を押し出した。
「あの・・・」
言いかけたあゆみに、
「これだろ。お前のために第2ボタンはとっといてやったぞ。」
そう言われ彼の学生服を見ると他のボタンがいくつか無くなっていた。
「私のためにとっといてくれたんだ・・・」あゆみの目からさっき乾いた涙がまた溢
れて来た。
卒業してから間もなく、あゆみは社会人となった。
大手企業らしくそこは研修から始まり、あゆみは慣れない緊張感で毎日ぐったり疲れ
て帰宅した。
彼は、春休みが終わると早速むこうの寮に入った。
最初の頃、お互い生活になれるのに必死だった。
電話代は高くなるので、手紙を何通も書いた。
でも、彼からはその何分の一かしか返事は来なかった。
彼に会えない寂しさ・・・あゆみは手紙を書く度にその事を訴える様になって行った。
でも、彼の返事にはあゆみに会いたいと言う事は書かれていなかった。
書かれているのは大学生活の新鮮さや楽しさばかりだった。
あゆみはだんだん不安になった。
しかし、その反面社会人になって飲みに行く機会が多くなり、
男性社員の多い今の会社でちやほやされたり、
大切にされたりする事が快くなっていった事も否定できない事実であった。
あゆみは、このギャップに自分の中でバランスがとれなくなっていった。
大学生になって初めての夏休み。
彼は実家に帰って来た。
あゆみは、「やっと彼にあえる。」そう思って彼に電話をした。
でも、彼の返事ははっきりしないものだった。
こっちでは男同士の約束がいろいろあって、あゆみとの約束はできないのだという。
電話の話もどこか上の空だった。
一度でもいい・・・どうしても会いたいと言うと、しばらく間をおいて
「今度会ったら、俺はもう我慢できないぞ・・・」といった。
それが何を意味するのか・・・あゆみにはわかっていた。
「いいよ・・・」
あゆみは決心した。いや、もうずっと前から決めていたのかもしれない。
「ほんとにいいのか?」
彼は信じられないというふうに聞き返した。
「いいよ。隆一の家に遊びに行く。」そう言って電話をおいた。
隆一との約束の日。
あゆみはサマーセーターにミニスカートと言う格好で彼の家に向かった。
電車に乗り流れていく外の風景を見ていた。
「あれから隆一はずっと私のわがままを聞いてくれていたんだ。
今度は私が隆一の望む事に応えてあげなくては・・・」
そんな気持ちを持ちながら彼の家に着いた。
彼の家には仕事で誰もいなかった。
離れの二階の彼の部屋に通され、何も言わずにベッドに座った。
「本当にいいんだな。」
彼は念を押すように言った。
「いいよ。いままで待ってくれてありがとう。隆一にだったら私・・・」
そのまま抱きすくめられてキスをされた。
何度もして来た事なのに心なしか隆一の手が震えているような気がした。
いつも通りの愛撫。
お互いの愛をを確かめあい今迄会えなかった分を取り戻すようにあゆみは彼に抱かれた。
そしてこの日、二人は初めて結ばれた。
恥ずかしさが言葉を消してしまう。
あなたのあたたかい胸
私は自分の肌でその暖かさを感じてました。
胸へのKissはとってもくすぐったかった。
慣れない手付きのあなたに嬉しさを感じた私。
なぜかな?
自分でも良くわからないけれど本当に嬉しかったの。
はじめてのあなたの腕枕。
私の思っていた通りとてもやすらいだ気分になれました。
本当はあのままあなたの腕枕で眠りたかった。
でも、そんな二人に時間(とき)は駆け足で
いつのまにか時間は過ぎて行きました。
初めての男性(ひと)
あなたでよかった。
後悔はしていません。ただちょっぴり・・・恥ずかしいだけ。
夏休みも終わり彼は九州へ帰っていった。
そしてあゆみにとってさみしい日々がまたはじまった。
彼と結ばれてからその想いは一層強くなり、手紙にも「愛しています」「寂しいの」
「会いたい」
そんな言葉ばかり書くようになっていた。
あゆみにとってあの頃はそれが精一杯の愛情表現だった。
しかし彼にとってはそれがだんだん重荷になっていった事にあゆみは気付かなかった
・・・
いや、気付くのが怖かったのかもしれない。
あゆみは寂しさを紛らすかのように会社の上司や同僚と飲みにいった。
本当は未成年。飲んではいけないはずだが、社会人になるとみんな暗黙の了解ってい
うのか飲めや歌えの大騒ぎだった。あゆみはその時だけは彼の事が忘れられた。でも
、家に帰ると空しくて寂しくて・・・
「どうして手紙をくれないの?どうして電話してもつれないの?どうして私に会いに来
てくれないの?
私の事・・・愛して・・・ないの・・・?」
19才のあゆみには彼の気持ちはわからなかった・・・
クリスマスが近付いて来た。
彼は冬休みでこちらに帰っていた。あゆみは毎日のように電話をかけ彼と話をした。
でも、彼との会話は以前のように楽しいものではなく、あゆみが話を続けようとして
も「疲れてるんだ。」とか「友達と約束があるから。」と言って短いもので終わっていた。
ただ、「会いたいの。」と言えば一応は会ってくれた。
会うのは大抵夜になったが、車の免許をとったばかりの彼はあゆみの家に迎えに来て
くれた。
そして行き先は必ずと言っていい程ホテルだった。
後になって思えば、若い彼にとって女の子を抱く事は本能的に欲していることだった。
でも、あゆみにはそれが彼に愛されていることの証だと思えた・・・
いや、思うことで自分の揺れる心を慰めていたのかも知れない。
冬休みが終わり、彼はまた九州へ帰って行った。
あゆみはまたひとりぼっちになった。
会社ではあいかわらず飲みに行く事が多く、
あゆみは会社でも評判の「可愛い女子社員」になっていた。
彼と会えない寂しさを紛らわせるように不特定多数の男性社員と遊んだ。
ホテルに誘われることも時々あった。
でも、「また今度ね~。」と冗談のように軽くかわしていた。
事実あゆみはどんなに遊んでいても、酔うこともなかったし
ホテルへ行くどころか他の男性とキスをすることさえなかった。
あゆみの心の中にはずっと隆一がいた。
この頃になると、手紙の返事もほとんどなく、
電話をしても彼は黙ったままのことが多くなっていた。
夏休み。
あゆみの会社は御盆休みに入っていた。
隆一も当然夏休みで帰省していた。
「明日、会わないか。」
思いもかけない隆一からの電話だった。
卒業以来、隆一から誘われたことはなかった。
「うん、どこで会う?」
戸惑いながら、あゆみは反射的に言葉を返した。
「俺の家で会おう。」
なんとなくトーンの低い彼の言葉にあゆみはあるものを感じていた。
次の日。
あゆみはブラウスにフレアースカートで出かけた。
「こんにちは。」
彼の家には誰もいなかった。
「こっち、来いよ。」
彼の離れの部屋は以前とほとんど変わらなかった。
「座って。」
あゆみはぶっきらぼうに言う彼の隣でベットの上に腰掛けた。
長い沈黙が続く。
そして、彼の方が先に口を開いた。
「あゆみ・・・もう・・・」
その先は聞かなくてもわかった。
「わかってる・・・わかってるから・・・でも、ずっと友達ではいたいの・・・」
あゆみの視界が曇って行く。
「別に嫌いになったわけじゃ無いんだ。だけど・・・このまま続けたって・・・
俺は大学生活が楽しい。正直誰ともつきあう気はないんだ。
こっちに帰る度にあゆみとけじめをつけなくちゃいけないと思ってるのに、
あゆみを抱くとあゆみを好きだっていう気持ちがまた顔を出してきて・・・
でも、やっぱり向こうに行くとあゆみのこと正直重たくなっちゃうんだ。
だから、このままだとどんどんあゆみの事傷つけてしまう。
ごめん・・・友達に戻れるのなら・・・自信はないけど、
それであゆみがいいといってくれるなら、そうしよう。」
彼のゆっくり、ひとつひとつ絞り出すような言葉を
あゆみはぐちゃぐちゃになった頭の中で必死に理解した。
優しく肩を抱く隆一。
肩を震わせ必死に耐えていたあゆみがとうとう泣き崩れた。
言葉にならない思いが溢れ出す涙をとめられない。
二人の間にしばらく言葉が消えた。
「隆一・・・最後のお願い聞いて欲しい。」
やっと落ち着いたあゆみが口を開いた。
「何?」
少しかすれた声で隆一があゆみの顔を覗き込む。
「抱いて・・・欲しいの・・・」
二人にとって最後のセックス。
「最後に隆一を愛していたんだって感じたいの。」
隆一は黙ってあゆみをベッドに横たえた。
優しいキス。
彼女の涙を唇ですくい、髪の毛にまでキスをする。
今までで、一番優しい愛撫・・・
重なり合う肌と肌・・・
暖かくて安らげる彼の胸・・・
「彼を愛したこと彼に愛されたこと、私は絶対後悔しない。」
あゆみは今日程、彼が入ってきてくれる時を待ち遠しく思ったことはなかった。
「お願い・・・来て・・・」
うっすら開いた目で彼を見ると、困った顔をした彼がそこにいた。
「血が・・・」
一瞬にしてすべてを悟ったあゆみ。
「まさか・・・」
そのまさかだった。
普段から何かあると始まってしまう・・・それがあゆみの生理だった。
ついこの間終わったばかりで来るはずのないものが、
別れのショックからなのか突然始まってしまったのだった。
「大丈夫か?トイレ行ってこいよ。」
あまりの出来事に、あゆみは急いで洋服を着て部屋を飛び出した。
トイレに駆け込むといつも持ち歩いているナプキンをあてた。
「どうして・・・どうしてこんな時に・・・」
また涙が出てきた。
神様はなんていじわるなんだろう。
あと数時間、うんん数分でいい・・・待ってくれれば・・・
そう思っても現実は変えられない。
数分で彼の待つ部屋へ戻った。
「どうだった?」
心配顔の彼にあゆみは悲しい笑顔で答えた。
「やっぱり始まっちゃったみたい。私っていつもこうなんだから。」
隆一はあゆみの肩を抱いて髪を撫でた。
「もしかしたら俺達はもう抱き合ってはいけないと言うことかも知れない。
別れを決めたんだからもう友達に戻れって言うことなのかもな。」
あゆみは彼に慰められても自分の気持ちをどうすることもできなかった。
「じゃあ、送るよ。」
いつまで抱かれていてもこれからの二人には何も起こらない。
気持ちにけじめのつかないまま、あゆみは彼の家を後にした。
そして、この日から二人は友達に戻る・・・はずだった。
御盆休みが終わった。
あゆみは彼との別れで抜け殻のようになっていた。
彼を愛している気持ちは今も心の中にある。
忘れることなんてできなかった。
会社の同僚が何気なくお茶室で聞いてきた。
「どう?彼との夏休みは楽しかった?」
会社の中では、あゆみに彼がいることは女子社員はみんな知っていた。
同僚はあゆみが彼と別れたことなど知る由もなかったから、
おのろけでも聞いてあげよと言う軽い気持ちの言葉だった。
しかし、あゆみはその言葉に、思わず泣き出してしまった。
「彼とは・・・別れたの。」
精一杯の声であゆみは答えた。
そして、また涙が溢れた。
同僚達はどうしたらいいものかわからず、
優しくあゆみを抱いた。
それから数日がたった。
あゆみに同僚から誘いがあった。
「今度、私の彼が男の子連れてくるんだけど一緒に遊園地でもいかない?」
彼と別れてからのあゆみは少しやけになっていた。
「だれでもいいや。遊んじゃおぅ。」
そんな気持ちだった。
「セックスだってしちゃっていいんだ、だって私は誰のものでもないんだから。」
今まで、彼の為に何もかも我慢してきたあゆみだった。
それが彼への愛情だと思っていた。
その存在が消えてしまったのだ。
あゆみにはもう何もなかった。
ただ、彼を忘れたかった。
「いいよ。何人で行くの?」
「全部で6人。あゆみのほかに真由美も誘ったから。じゃあ、今度の日曜日10時にね。」
彼女はそういうと仕事に戻っていった。
あゆみも前に進まなくちゃと自分に言い聞かせて日曜日の出合いに気持ちを向けた。
日曜日。
抜けるような青空が広がった。
同僚の彼女の彼の会社で待ち合わせた。
車は3台。
「じゃあ、あゆみが浩の車に乗る?」
彼女にすすめられるままに車に乗ることになった。
彼の車は赤のスターレットだった。
「こんにちは。はじめまして。」
色白の眼鏡をかけたブラウンのTシャツを着た男性。
そんな印象しかあゆみにはなかった。
「どうも、こんにちは。」
反射的に笑顔で挨拶をしてしまったあゆみ。
彼女の場合いつもそうなのだ。
別に好意を持っている相手でなくても、親し気に振舞ってしまう。
そんな他愛もない会話からはじまった二人だった。
遊園地までの車の中、あゆみはずっと喋りっぱなしだった。
はしゃいではしゃいで、何もかも吹っ切りたかった。
そんなあゆみの気持ちを知る由も無い浩は、
あゆみのことをただただ明るくて賑やかな子だと思った。
そして一日が終わる頃には、二人はなんとなく打ち解けて、
お互いの電話番号を交換して別れた。
あゆみにとって、久しぶりに笑った一日だった。
新しい年があけた。
毎年恒例の放送部OB会が開催された。
九州から帰ってきていた隆一がそこには居た。
「久しぶり。」
なんとなくぎこちない・・・それでも、「友達」を意識した。
「あれ、誰なんだよ。」
私を送って来た浩に視線を向けて隆一が言った。
遊園地デート(?)のあと、あゆみと浩は何度か遊びにいっていた。
でもあゆみにはまだ浩の事を「彼」という意識は無かった。
だから、「うん、送ってもらっただけ。」と軽く流したつもりだった。
しかし、隆一にはそうは写らなかったらしい。
「そうか・・」
それだけ言って、喋らなくなってしまった。
「友達に戻る。」
それはやはりあゆみと隆一には無理なことだったのかも知れない。
あゆみには本当に本当に辛いことだったけれど、
どうしようもないことだった。
二人は、この日を境に「他人」になってしまった。
そして、次の年から隆一は二度とOB会に顔を出さなかった。
あゆみの初恋は終わった。
「あゆみ、愛してるよ。」
「浩・・・愛してるわ。」
抱き合う二人。
暖かい胸。
心地よい疲労感。
そう、あれから15年の月日が流れた。
**あゆみの独り言**
あの時出会った真っ赤な車の彼が、今の私の旦那様。
赤い糸・・・じゃなくて、赤い車で結ばれた二人。
美形でもお金持ちでも力持ちでも無いけど、
私だけを愛してくれる、とっても優しい彼が私にとってこれからもずっとずっと大切な人。
初めて愛した男性(ひと)は、人を愛することの素晴らしさを教えてくれた。
辛さも苦しさも心の痛みもいっぱい経験したけど、後悔はしてない。
そして、今私のそばにいる彼は愛される幸せを教えてくれた。
どんな私をぶつけても、必ず受け止めてくれる。
彼が側にいてくれたら、私はいつでも安らいだ気持ちでいられる。
私にとって、どっちもかけがえのない愛。
だけど、過去が有るから今の私があるんだよね。
その私をまるごと愛してくれた今の旦那様。
今の幸せは、きっとずっと変わらないね。
ね、あ・な・た。
END
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