3-23 疑惑



「いろいろ、ありがとう、宏信」

「いや、たいしたことじゃないさ」宏信はそう言うと、また照れくさそうに頭を掻いた。「警察の捜査はもうかなり進んでいたからね。それにちょっと僕らの力を上乗せしただけだよ。あと、おそらくは旦那さんにも、朝子さんの居場所が間もなく伝わるはずだ。これだけは僕の力じゃどうしようも出来なかった。ごめんね」

有芯は涙をこらえながら宏信の両肩を握った。「いいんだよ、充分だ……! 本当に、ありがとう」

「だから、僕はたいしたことしてないって。あ、それから―――」そこまで言うと、宏信は急に真剣な表情になり言った。「例の向芯会メンバーのことだけど。奴等は僕らが責任持って身柄を押さえるから、有芯は心配しなくていい。心置きなく、朝子さんを取り戻しておいで」

「……ありがとう。恩に着るよ」

宏信はにっこりと笑った。「いいんだ。僕は借りを返しただけさ。……それじゃあ、もう行くよ。君もこれから忙しいだろうし。健闘を祈る!!」

そう言った宏信の笑顔には一点の曇りもなく、有芯は安心して笑顔を返した。

「―――ああ、行ってくる!! ありがとう!!」

宏信と、黒いスーツを着た男3人が敬礼し去っていくのを薄汚れた路地から見送ると、有芯は家路を急ぎながら考えていた。

なぜ―――?

有芯は手にした紙束に視線を落とした。そこには朝子の居場所に関する資料や地図がある。

なぜ、朝子はこんな場所に………?!

どうして、朝子は長野の、それも……よりによって俺が昔いた孤児院の隣なんかに住んでるんだ……?!

単なる偶然にしてはできすぎている。……まさかとは思うが………お袋が?!

有芯は家路を急ぎながら、これから進むべき道を歩むための段取りを必死に考えていた。頭に浮かんできた、ある考えを打ち消すかのように。

有芯は、だんだんと空の天辺から下降し始めている太陽をチラリと見、心で呟いた。

まさかあいつ…………赤ん坊を産んだら、死ぬつもりじゃないだろうな……?!




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