once 4 会いたい



「はぁ~バカ、私………」

ビジネスホテルの一室で棒のようになった足をさすりながら、朝子は途方にくれていた。

「無謀すぎたわ。市内にいるって情報だけで、見つかるほうがおかしいわよね」

ため息が出た。なんだか涙も出そう。

「だいたい、もう女引っ掛けてたら、どうすんのよ?」

普通に独り言が出るあたりが主婦だわ。と、彼女は少し悲しくなった。

どこにいるんだろう。それにあいつ、何しに熊本に来たんだろう。ナマっちは何にも言ってなかったからなぁ。

電話してみようか、あいつの友達に。いやいや、絶対怪しまれるからやめよう………。

それとも………本人に電話する?

朝子は震えながら、携帯を探した。何年ぶりかの電話。人づてに聞いたこの番号、変わってなきゃいいけど……。

「………電源入ってない!!」

朝子はへなへなと座り込んだ。緊張した分、損したような気がした。

「寿命が縮んだ~………」

明日また探そう。今日はもう寝よう。まだ6日あるじゃない。明日また一から捜せばいいわ……。

朝子はなかなか寝付けなかった。

「一人、寝たかなぁ………」

実家に預けてきた息子を思いつつも、彼女の気持ちは明日に向かっていた。南の地方独特の生暖かさが朝子を包み、息苦しくさせる。いや………それは空気のせいじゃないのかもしれない。

会える………会えない………会える………会えない………

意味もなく呟くうちに、やがて朝子は眠った。



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