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さてどうしたものか。
俺がサクサクと路上を歩いていると、通り道のスーパーの自転車置き場で外国人っぽい女性が自転車を取り出すのに手間取っていた。
懸命に自転車を取り出そうとしているが、隣の自転車のハンドルかペダルが引っかかっているようで、無理に自転車を引き出せば隣の自転車が倒れるだろう。
彼女はなんとか自分の自転車を取り出したが、案の定隣の自転車は不安定な状態で今にも倒れそうだった。
駐輪場の通路で自分の自転車を後退させる彼女とすれ違い、不安定に自立する自転車を横目に通り過ぎようとした時、今まで奇跡的なバランスを保って立っていたその自転車が大きく傾いた。
おそらく、未だ自分の自転車のハンドルを握っているであろう彼女は状況的にも距離的にも絶対に間に合わない。
ここで僕がこの自転車が倒れるのを黙って見ていれば、おそらくこの自転車は隣の自転車を巻き込みながら倒れ、隣の自転車はまたその隣の自転車を倒し......その連鎖はまるでドミノ倒しのように壁際まで続くだろう。
僕はそんな光景は別に見たくなかった。
だからこれは僕の善意だ。
見返りなんて求めない。
人のためじゃない。
ただ自分がそうしたかっただけ。
だから僕は自転車が倒れぬよう
支えた。
感謝の気持ちなんて求めていない。
感謝されて礼を言われるなんて僕にとってはむしろ煩わしかった。
ましてや相手が外国人だったらそれはもう最悪だ。
世界の終わりだ。
だから僕は自転車を立て直し、顔だけ彼女の方を振り向いて「気にしなくていいですよ」と一言だけ言ってクールに去ろうとした。
しかし...
振り向いた時、既に彼女の姿はなかった。
ちくしょおおおおおおおおおおおおお!
なんて速さだッ!
少しは気にしやがれッ!
俺に感謝しろ!!
敬え!!!
あがめろッ!!!!
クールに去ったのは俺じゃなく彼女の方だったッ!!!
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ!
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ...。