I look up when I walk

I look up when I walk

岐阜県本巣市


冨有柿の産地で、天然記念物でもある根尾の薄墨桜が有名。
桃から桃太郎は生まれてきません。
では、どこから生まれるんでしょうか。
「美濃の桃太郎」のお話をお楽しみ下さい。

【物語】
昔々、美濃の国は本巣の山里にお爺さんとお婆さんが住んでおりました。
いつものようにお爺さんは山に芝刈りに、お婆さんは川に洗濯にでかけました。
おばあさんが川で洗濯をしていると、川上の方から大きな桃がドンブラコ、ドンブラコと流れて来ました。
「あれ、なんて大きな桃じゃ。」
お婆さんは桃を拾い上げ、一口かぶりつきました。その味のおいしいこと。こんなおいしい桃を一人で食べては、もったいない。お爺さんにもあげようと思いました。そこで、残り半分は懐にしまい、きれいな谷水をすくって飲みました。と、そのとたん60あまりのお婆さんの姿が16,7の娘にかわりました。しかし、自分ではそのことに全く気が付く事なく、家に帰って行きました。
さて、夕方になってお爺さんが山から帰ってきました。
「どっこいしょ。」
柴を庭先に下ろすと、家に入ろうとしました。すると若い娘がお婆さんとそっくりな着物を着て、かまどの前に立っているじゃありませんか。
「おやおや、不思議なこともあるもんじゃ。」
と驚いていると、お婆さんが庭先に出てきた。
「あら、お爺さん遅かったのう。さあ、足を洗いなされ。」
とせきたてるので、お爺さんはキツネにつつまれたようで、
「どうも不思議でならん。確かわしは今朝山に出かけ、婆さんは川に洗濯に行ったはずじゃった。その留守宅に勝手にあがりこんで、いかにも馴れ馴れしく挨拶をしてくる。この辺りでは見かけたこともない若い娘じゃが、なんぞ理由があることじゃろう。」
と、ひとまず家の中に入った。そして、やさしい言葉をかけて見た。
「いったい、どこの娘さんじゃ。あまり見かけない娘さんじゃが。」
 これを聞いた、お婆さんは変に思って。
「私はあなたのつれあいじゃが。何で今日に限って、そんな変なことを言うんじゃ。本当におかしななことじゃ。ワッハッハッハッハ!。」
と大声を上げて笑いだした。
 これを聞いたお爺さんは怒りだした。
「なんてこと言うんじゃ。お前は何者じゃ。さては、化け物じゃな。留守を狙ってやってきて、婆さんを殺して、そのかっこうに化け、わしを殺すつもりじゃな。」
とどなりつけて、奥の間にかけこんだ。錆びた脇差を取り出してきて、寄らば切り捨てるぞと身構えた。お婆さんは、思いもよらぬこのざまを見て、すっかり驚いて、あきれてしまった。
「こんな年になって、よそになじみのおなごをつくり、わしが年寄りなのでいやになったんじゃろ。こんなでたらめな言いがかりを言って、わしを追い出そうとするつもりじゃな。
おまえさんが二十歳で、わしが十六の昔からずっと五十年間一緒に暮らしてきたのに。なんで、この年になってこんな情けない目に合わなきゃいかんのじゃ。なんという因果な話じゃ。おまえさんこそおかしくなったんじゃろ。」
 これを聞いたお爺さんは、いよいよ腹が立ってきた。
「わしも昔は山陰祐太夫と言って刀を持ったこともあるわい。お前のような者喰らいに騙されてたまるか。とにかく化け物だろう!はよう、化けの皮を剥いで、本当の姿を現せ。さもなくば、今すぐ切り捨てるぞ!覚悟はいいな!」
と詰め寄った。
二人の言い争う声がだんだん大きくなったので、近所の人が一体何事だろうと集まってきた。そして、お爺さんが若い娘を取り押さえ、脇差を構え、荒々しい口調でののしっている光景を見て、皆驚き、そして呆れ返った。やがて村人達は、その若い娘は、顔かたちから身のこなしまで、おばあさんにそっくりであることに気づきだした。しかし、どうも17,8くらいに見える容姿に納得がいかない。なんぞ訳があるんじゃろうと、皆ひそひそと話あった。
そのうち、誰かが手鏡を一枚持ってきた。
「さあさあ、娘さん。いっぺん自分の姿を見てみなさい。」
 おばあさんは、手鏡を見てびっくり。初めて自分が若返った事に気が付きました。お婆さんはしばらく考えたが、ふと思いつき、これまでのこととしだいをすっかり話した。そして、持って帰った残り半分の桃をお爺さんさんに差し出した。
 そんなこととても信じられなんと、お爺さんは恐々と桃を受け取り、一口食べた。するとお爺さんの姿は見る見る二十歳程の若者になってしまった。
「なんと、まあ、どうしたことじゃ。」
「なんと不思議なことじゃ。まるで夢みたいじゃ。」
 村の衆たちは目に前で起きた世にもめずありさまを見聞きして、なんだかありがたいように思いだし、だんだんと若い二人を大事にし、うやまった。
 やがて、二人の間には、玉のような男の子が生まれた。
「この子は桃のお陰でうまれてきたから、桃太郎という名前にしよう。」
「桃太郎ですか。男らしくて良い名前ですね。」
 こうして桃太郎は、すくすくと丈夫で元気に育っていきました。
 これが本当の「美濃の桃太郎」のお話です。
(参考文献)読みがたり岐阜のむかし話/岐阜児童文学研究会編/日本標準

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