I look up when I walk

I look up when I walk

愛知県額田町



【物語】
 昔々あるところにお爺さんとお婆さんが住んでおりました。
 お爺さんは山に草刈りに、お婆さんは川に洗濯にでかけました。
 おばあさんが川で洗濯をしていると、川上の方から黒い重箱と赤い重箱がドンブラコ、ドンブラコと流れて来ました。それを見たお婆さんは、
「赤い重箱はこっちへこい!黒い重箱はあっちへ行け!」
と叫びながら洗濯をしていました。すると赤い重箱がこちらに流れてきました。お婆さんがその重箱を拾い上げて蓋を開けて見ると、中から大きな桃が流れてきました。
「まあ、なんて大きな桃なんでしょう。そうだ、家に持って帰ってお爺さんと食べましょう。」
 そう言うとお婆さんは、その大きな桃を抱えて家に帰りました。
 さて、夕方になってお爺さんが山から帰ってきました。
「婆さん、帰ったぞ。」
「はい、お帰りなさい。今日、川で洗濯をしていた時に大きな桃を拾ったん
ですよ。二人で分けて食べましょう。」
 お婆さんがそう言って大きな桃を見せると、お爺さんは驚いて、
「これは見事な桃だ。早速切って食べるとしよう。」
 桃をまな板の上にのせて包丁で切ろうとしたら、桃がパッと割れて、
なんと中からかわいい男の子の赤ん坊が出てきたではありませんか。
「なんと、大きな桃だと思ったら赤ん坊が生まれるとは。きっと、子供のい
ないわしらに神様が授けて下さったんじゃ。なあ、婆さん」
「はい、お爺さん。大切に育てましょう。ところで、この子の名前はどうし
ましょう。」
「そうじゃな。桃から生まれたので、桃太郎にしよう。」
 お爺さんとお婆さんにかわいがられて、桃太郎はすくすく育っていき、
とても力が強い子になりました。そして、薪を割ったり、重いものを運ん
だりと二人の手伝いをするのでした。
 その頃、鬼ヶ島の鬼達が町に襲い、宝物や食べ物を奪い、家を壊す等の
乱暴を働き人々を困らせていました。
 桃太郎はそんな様子を見て黙っていられませんでした。
「お爺さん、お婆さん、鬼ヶ島に悪い鬼の退治に行ってます。」
「よし、わかった。それでは、力のつくキビ団子を作るから、持っておいき。」
 お爺さんとお婆さんは大きなキビ団子を作り、桃太郎に渡しました。
「お爺さん、お婆さん、行ってきます。」
「気をつけて行くんだよ。」
二人に見送られて、桃太郎は勇ましく出かけて行きました。
鬼ヶ島に向ってしばらく歩いていると、犬がやってきました。
「桃太郎さん、桃太郎さん、どこに行くんですか?」
「鬼ヶ島に鬼退治に行くのさ。」
「それじゃあ、あなたが持っているのは何ですか?」
「これは日本一のキビ団子だ。」
「それなら、私に一つ下さい。鬼退治のお供をします。」
 そこで、桃太郎は犬にキビ団子をあげて、お供にしました
 桃太郎と犬が歩いていると、今度は猿がやってきました。
「桃太郎さん、桃太郎さん、どこに行くんですか?」
「鬼ヶ島に鬼退治に行くのさ。」
「それじゃあ、あなたが持っているのは何ですか?」
「これは日本一のキビ団子だよ。」
「それなら、私に一つ下さい。鬼退治のお供をします。」
 そこで、桃太郎は猿にキビ団子をあげて、お供にしました。
 桃太郎と犬と猿が歩いていると、今度は雉がやってきました。
「桃太郎さん、桃太郎さん、どこに行くんですか?」
「鬼ヶ島に鬼退治に行くのさ。」
「それじゃあ、あなたが持っているのは何ですか?」
「これは日本一のキビ団子だよ。」
「それなら、私に一つ下さい。鬼退治のお供をします。」
 そこで、桃太郎は雉にキビ団子をあげて、お供にしました。
 こうして桃太郎は、犬、猿、雉をお供に鬼ヶ島へ向いました。

 やがて桃太郎達は鬼ヶ島へ到着しました。しかし、大きな門がぴしゃりと
閉まっていて中に入る事ができません。そこで雉が門の中に飛んで行って中
から門を開けました。
「我こそは日本一の桃太郎だ!鬼ども覚悟しろ!」
 桃太郎達は鬼ヶ島に攻め入りました。
 鬼達も黙ってはいません。
「こしゃくな!何が桃太郎だ!」
 こうして、戦いは始まりましたが、日本一のキビ団子を食べた桃太郎達は
千人力でした。桃太郎は、次々と鬼を投げ飛ばし、犬は足に噛み付き、猿は
引掻き、雉は鬼の顔を突っつきました。
 とうとう鬼達は泣きながら桃太郎に降参しました。
「どうぞ許して下さい。ここにある宝は全部差し上げます。」
「もう町に来て悪さをしないと約束するか!」
「はい、約束します。」
 桃太郎は宝を車に積みこむと、犬、猿、雉とお爺さん、お婆さんの待つ家
へと引き揚げていきました。
(参考文献)西三河の昔話/山本節、永田典子、山田八千代/三弥生書店

参考文献には愛知県西三河地方の複数の語り部さんによる物語が紹介されてます。ちなみに基本手にはスタンダードな話が伝承されているように。
本文で紹介したのはその一つです。
この地が物語りの舞台という訳ではないようです。中には、「中国地方の山中」で始まっている話もありました。
他にも重箱が流れてきた話もあるかもしれませんね。

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