児童書でホノボノする

児童文学


◆バッテリー◆ あさのあつこ著 角川文庫
バッテリー ( 著者: あさのあつこ | 出版社: 角川書店 ) バッテリー(2) ( 著者: あさのあつこ | 出版社: 角川書店 )
自分の球に絶対の自信を持っている、12才の少年、原田巧。傲慢ともとれるその過剰なまでの自信が、周囲の人々ばかりではなく、自分自身をも傷つけていくのだが...
父の転勤で、地方都市新田市に越してきた巧。新田高校を率いて何度も甲子園出場経験を持つ祖父。新しい街で出会った友人、永倉豪。無邪気で病弱な弟、青波。父や母、新田での同級生たち。
巧は、周りを取り巻く人々との関わりを、拒み、関係ないと突きはなし、ただ自分の球を投げることだけに打ち込む。無造作に体に触れられると、家族であろうとその手を邪険に振り払い、人の感情や反応を思いやる気持なんてさらさらない。
自分をまっすぐに表現することしかできない不器用さ、私は、とたんに彼に惹きつけられてしまった。

ツッパリ少年の成功物語ではない、野球を通しての友情物語でもない、説教くさい成長の物語でもない。自分が主役であり続けること、自分の主張を通していくこと、自分の自信を絶対と信じ続けていくこと、すべてが、私たちには難しいことだ。現実と折り合いをつけ、周囲にそれなりに気をつかい、感情をおさえ、環境に順応し、諦めるべきことはムリに納得させ、そうして社会生活を送っている私たちには、すべて難しいことだ。
だからこそ、巧に惹かれるのかもしれない。傲慢で、繊細で、冷酷で、一途で、稚拙で、自分を支えているものは、絶対の自信だけ。自由であることのみにこだわり、自分の中にあるものを持て余す。時に「最低なヤツ」と思わせながらも、目が離せない。

「児童文学」としてジャンル分けされているこのシリーズだけど、これってほんとに児童文学なの、と思わせてくれる作品。巧の切れ長の目や、豪の大きな体や、青波の無邪気な笑顔がそこにあり、そして、梅の香り、空の青さ、木々のざわめき、マウンドを吹きぬけていく風までも、読んでいる間中、体に感じていられるようだ。

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