ハンサムネコ ☆アビ☆

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リックの店



 雑貨屋「リックの店」は、国道八五号沿いにある。まわりは荒野で、行き交う車は少ない。カタツムリが道路を二往復しても、車にひかれることはめったにないだろう。もしひかれるとしたら、そのカタツムリは、よほど運のない奴にちがいない。
「リックの店」に日に数人の客が立ち寄るのは、次の店まで百二十キロあるからだ。
 店のだだっ広い駐車場に残っていた一台の車が、砂けむりをあげて出て行った。
 その様子を窓越しに眺めていたサムは、レジに戻ると口を開いた。
「なあ、今、出て行ったベッティ婆さんだけど、ここへ何しに来たと思う?」
「決まってるじゃないか。昨日買うつもりだったオレンジとリンゴを間違えたから、取り替えに来たのさ。本人がそう言ったんだぜ」
「それは建て前さ。本当は、話がしたくて五十キロもぶっ飛ばして来たのさ。」
「どうしてそんなことがわかるんだ、サム」
「あの婆さん、三年前に連れ合いを亡くして以来、ずっと一人暮らしさ。毎日の話し相手といえば、庭で飼っているガラガラ蛇だけなんだ。
 人と話がしたくてたまらないのさ。ここへ来るのは毎週火曜日の朝。そして必ず翌日には、品物を間違えたと言って、再びやって来る。さみしいんだよ・・・・・・」
 そこへ、一台の車が入って来た。
「おっと、お客さんだ」とサムが言った。
 店へ入ってきたのは、ここらでたまに見かける金脈探しの老人だった。
「塩に砂糖、豆にソーセージ。それとコーヒーとタバコをもらおうか」
 老人は、日焼けした赤黒い顔をしていた。
 老人の姿が店の奥へ消えると、再びサムが話し出した。
「一人でいると、たまらなく誰かと話がしたくなる。お前も、いつかわかるさ」
「そんなものかなあ」
「ああ、人間には、話し相手が必要なんだ」
 老人は、荷物の入った大きな紙袋を両手でかかえて車の方へ、とぼとぼと歩いた。
 ドアをあけると、一匹のビーグル犬が助手席から、ワンワンとほえた。
「さあ、おいしいソーセージをやるぞ」
 老人が差し出すと、犬はガツガツと食べた。
 その様子をみながら、老人が言った。
「なあ、ロッキー、この店は気味が悪いぞ。店員は一人しかおらんのに、鏡にうつった自分の姿と話をしてるんだからなあ」

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