晒し場

晒し場

美春編 中編 ふれあいの時



時は、昼休み。
「如月先輩!」
教室の外からはっきりとした明るい声が響いてきた。
「おぅ、どうした?」
「折角ですから、昼でも一緒に食べられたら・・・と思いまして。」
友那は少し、辺りを見渡した。教室の中にいたクラスメイトたちが驚愕の目をして二人を見ていた。特に、朝倉は今まで見たこともないくらいの目をしている。
「お前、弁当か?」
「えぇ、そうですよ。」
「俺、いつも購買だからさ、少し付き合ってくれないか?」
「別にいいですよ。」
「じゃあ・・・行くか?」
「はい!!」
そう言って、二人は教室出て行った。未だ教室の中には「信じられない」と言わんばかりの空気が漂っていた。

野郎どもがありのように群がっている、そこから一人の男子学生が、包みを四つ持って出てきた。
「よっし、海鮮焼きそばパン確保!」
「おめでとうございます!」
友那がそう報告すると、美春は自分のことのように、彼に笑いかけた。
「別に・・・大げさだぞ。」
「へへっ、すみません。」
「じゃあ、行くか、中庭か?」
「はいっ!って朝倉先輩?」
美春が突然に声をかけた男。絶望に満ちた、今にも死にそうな顔をしていた。
「美春・・・か」
声にも覇気というものを感じられなかった。
「いや、焼きそばパンがな・・・やっぱいい、かったるいし。」
そう言い残し、朝倉と呼ばれたヘタレは去っていった。最後に友那が持つ包みをうらやましそうに眺めた後に・・・。

(うまそうだ・・・って本当にこいつが作ったのか?)
中庭のベンチに腰掛けていた。そこに広げられてきたのは美春がつくったという弁当であった。色とりどりのおかずに、白いご飯・・・その上に散りばめられているふりかけ。
完璧に弁当を見入ってしまった友那を見て
「食べてみますか?」
心のどこかで望んでいた質問を受けた彼は、迷った・・・
(この量、俺が食ったら一口だ・・・さすがに、もらうのはなぁ。)
「いや、いいよ。パン多めに買ってきたから。」
「そう・・ですか。」
「?」
少し寂しそうな顔をした美春の顔を見て、友那は少し焦ってしまった。
(俺って女の子と話したこと、ほとんどないんだよな・・・こういう表情されたらどうしたらいいか・・・・わかんねぇ・・)
「じゃあ、食うか。」
「そうですね。」
とりあえず、腹の虫を満足させなければ、何も始まらないと思い、食べ物を口に運び始めた。
そして二人は食べ終わり、昼休みの終わりを告げる、予鈴を待たずに各々の教室へと別れた。

放課後―屋上、既に3月になろうとしていて、暦のうえでは春ではあったが、まだまだ寒い日が続いている。そのためこの場には、友那が一人、金網越しに校門の辺りを眺めていた。1人で下校する人物は稀で、大抵は2~4人でまとまっている。そこには、笑い声や笑顔があふれていた。それを見ていると友那にはどこか、心に穴が開いた感じがしてきた。
―俺が憧れている、望んでいるものがあの光景なんだ。誰かと時間を共有し、共に笑い合い、助け合える、ただそれだけのもの。だけど、俺は決して満たされてはいない。
普通、誰もが持っているもの。それを彼は失ってしまった。彼自身が唯一、存在を示せるものと共に。
「俺は・・・本当に取り戻してもいいのか?」
喧嘩三昧であった毎日。他人から恐れられ、呆れられてきた・・・そんな日陰の存在が、太陽のように明るいあの子と―美春と一緒にいてもいいのだろうか、許されるのだろうかっと彼は思ってしまう。
―どうしても、こうなった時、いつも後一歩が踏み出せなかった。部活だってそうだった。あの事件だって、真実を言えばどうにかなったかもしれなかった。だけど、そうなれば一緒にいた裕也まで、あらぬ疑いがかけられたかもしれなかった。何もかも失ってしまうなら、この辺でやめとこうっといつもブレーキをかけてきた。周りから見たら強気な人間に見えるかもしれないが、本当は単なる弱虫なんだ、俺は。だから、今回だって悩んでいる。もし、これで折角元通りに戻れたとしても、あいつらが来ないとは限らない。そうしたら、今まで以上に俺に誰も近づかなくなってしまう。・・・そう思うから・・・。

「如月先輩!」
友那は自分を呼ぶ声に気づき、後ろに振り向いた。そこには、走ってきたのだろうか、肩で息をしている美晴の姿が見えた。
「どうしたんだ?そんなに慌てて・・・。」
「先輩!約束・・・忘れ・・・たんです・・・か?」
(あっ!)
友那は思い出した。昼食を食べた後・・・。

~「そうだ!それじゃあ。帰り、ご一緒できませんか?」
「一緒って、どうするつもりなんだ?」
突拍子もない言葉に驚きつつも、友那は声を返した。
「見てもらいたいものがあるんです。」
力強く、美春が返事をすると
「あぁ、わかった。」
「ではっ!放課後に先輩の教室で!」~

「悪かった!!ごめんな、本当に・・・。」
「別に・・・いい・・です・・よ。」
友那は正直に謝った。許すような、意味を含んだ言葉を美春は話したが、雰囲気は伝わってこない。
「行く・・・か?」
「はい・・・。」

行き先は美春が決めていたため、リードをするのは彼女であった。いつもは楽しそうに歩く背中・・・だけど、今はどこか寂しげな雰囲気をかもし出していた。友那は居心地が悪く感じていて、今すぐにでも逃げだしたいと思ってはいるが、原因が彼自身にある為その場にとどまっていた。
暫くすると、目的地にたどり着いたのか・・・美春は足を止め、友那のいる方を向き話しかけた。
「此処・・・・です。」
美春が連れ出したその先は桜公園の高台であった。
「・・・・・。」
友那はそこに広がっている景色に目を奪われた。
「綺麗・・・ですよね。」
「あぁ。」
美春の問いかけに、友那は相槌を打つように返事をした。そして、彼は彼女の顔を見た。そこは、いつもの笑顔に戻っていた。
「そうですよね。」
「あぁ、本当に綺麗だ。」
友那のその言葉は、偽りが全くないように響いた。
「美春はですね、いつも嫌なことがあると此処に来ているのです。」
「嫌なことって、お前にもあるのか?」
「あるに決まっているじゃないですか。」
「いや、お前を見てると悩みがないように見えるけど?」
「そんな風に見えますか?」
納得がいかないような顔をして友那を問いかけた。が、彼の返事は決まっていた。
「見えるさ、そりゃ。」
「どうしてです?」
「自分で考えろ。」
友那はそう言いきると。再び視線を景色の方へと向けた。
暫くの間、二人は黙り込んでいた。
「嫌なこと・・・いつもここで忘れるようにしているのです。」
「そうなのか?」
「はいっ!だから先輩も忘れるといいですよ。」
「忘・・・れる?」
「そうですよ!いつまでもくよくよしていたら何もできませんし。」
「そうだな・・・忘れられたら、楽だろうな。きっと・・・・。」
そしてまた、二人の間に静寂が流れた

「じゃあな、今日はありがとな。」
「いいえ、美春も楽しかったですよ。ではでは、また明日学園で!」
「あぁ。」
そう挨拶し、二人は別れた。
(でも、苦労しないさ、忘れられたら・・・でも、俺が忘れても何の解決にもならないんだ・・・俺が忘れたところで、あいつらは忘れるはずがない。)
友那は自宅の方へと、考えながら歩いていた。
(どうすればいいんだろうな、本当に・・・・。)
そんなことを考えながら、友那は帰宅した。

三日後。

「じゃあ、またな!」
「はいっ!」
その日もまた、二人は一緒に帰っていた。
「天枷!」
「どうしました?先輩?」
急の呼びかけに美春は、疑問を感じながらも反応した。
「いや、何でもない・・・」
「何にもなくて、呼び止めたのですか?」
「まぁ、そうなるな。」
「変ですね。」
美晴はクスクスと笑いながら、友那を眺めた。
「変って言うな。」
「じゃあ何て言えばいいんですか?」
「・・・言うようになったな、お前も・・・。」
「へへへ。」
美春は舌をだし、少し俯き気味に笑顔を浮かべた。
『ごん!』
「痛いですよぉ~。」
頭を叩かれた美春は、抗議の涙を目に浮かべ友那の方を見た。
「先輩をからかうんじゃない。」
「へへへ、ごめんなさぁ~い。」
全く悪気のない笑顔を浮かべる美春を見て友那は、
「ふぅ、じゃあ、また明日な!」
そう言って、この日も二人は別れた。

アパートの郵便受けを調べると、珍しく手紙が届いていた。だが、外見からして怪しかった。真っ白な封筒―その真ん中に「警告!」という大きな文字が書かれていた。
(何なんだ!これは!)
訳が分からないまま、友那は家の中に入り、中身を確認した。そこには・・・。

―分かっているだろうな。お前みたいな人間は、表舞台で大手を振って歩いてはいけないのだ。明日、それを思い知らせてやる。―

そんな乱暴な文面と共に、一枚の写真が添えられていた。そこには、美春と友那が一緒に歩いている姿が写っていた。
(何なのだよ、こいつらは!思い知らすって、いったい・・・何をするつもりなのだ?)
不可解で納得のいかない現状に頭を抱え悩む友那。
「はぁ。」
(でも、こいつらと決着をつけなきゃ・・・俺は変われないのだ。いつまでたっても、きっと・・・どうにかしなきゃ・・・何にも変わらない。)
そう決意した友那はベッドに飛び込み、意識を暗い海へと沈めた。その小さな決意とともに・・・。

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