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美春編 後編 決意の瞬間
「私にそんなことを言われても・・・。相手が悪かった・・・と言うことで納得してくれないか?退学になるわけじゃないのだ。」
「待ってください、言っているじゃないですか!先に手を出したのは向こうなんですよ!」
「でも・・・なぁ。」
一人の生徒の問いかけに、あからさまに講師のほうは腰が引けていた。生徒のほうは、そんな講師に嫌気がさしたのか、
「・・・くそっ!」
と言い残し、職員室を飛び出していった。
「最悪・・・・だ。」
目を覚ました友那が発した第一声がそれだった。
(久しぶりだな・・・こんな夢を見るのは・・・。)
友那は気分を切り替えるために、ささっと軽装に着替えて外に出た。
元々、部活に入っていた友那にとって体が勝手に覚えてしまったこと。気を切り替える時にはいつも、ランニングをすることにしている。
(さて、けりをつけるって考えたはいいが・・・どうしたらいいものか、さっぱり考えが浮かばない。)
スポーツの特待生で入学した友那は、お世辞にも勉強が得意ではなく、頭ではなく体を動かすタイプであった。
(問題はやつらの標的だ・・・俺だったら一番楽だ・・・。だけど、大変なのは他のやつが狙われる場合だ。あいつらが知っているのは、裕也・・・と天枷か・・・。二人を巻き込むわけにはいかねぇけど、実際に狙われたら・・・どうすりゃいいんだろう。)
普段使わない頭を使っているため、時折伝わって来る頭痛があったが、そんなことを気にする時間はなかった。学校が始まれば授業がある上に、あいつらがいつ行動を起こすか、友那には分からない。朝に待ち伏せしている可能性も十分に考えられたのだ。
(っと、そろそろ学園に行かなきゃ遅刻になっちまうな。)
時間を確認したら、今から準備しなきゃ学園までフルスロット確実であった。
(本当・・・どうすりゃいいのかねぇ。)
結局、いい考えが浮かばないまま帰宅することになった。
(ふぅ、このペースなら楽勝だな。)
時間を確認すると、まだ予鈴まで15分はある。歩いていっても、十分に間に合う時間であった。多少、回りを気にしながらであったが、遅刻することはまずありえない時間。
(おっ!あの後姿は・・・。)
見知った人影を見つけたのか、友那は駆け寄って声をかけた。
「よっ!天枷!」
「あわわ!って如月先輩じゃないですか。脅かさないでくださいよぉ。」
「はははっ!すまんな。まぁ、おはようって言いたかっただけだ。」
「そうですか・・・ではっ、おはようございます!」
「あぁ。」
(・・・そういやいつ振りになるのかな、こんな風に挨拶を交わしたのは・・・。この子のおかげ・・・だよな。荒れていた毎日、何も感じず、ただ来る日来る日をやり過ごすだけの自分。どうにもできなかった、自分一人じゃ何も・・・。)
「どうしたんですか、先輩?」
「へっ?」
「そんな考え込んだ顔をして、いったいどうしたんですか?」
(そんな顔になっているか?うーん。)
鏡があれば見てみたいと友那は思ったが、あいにく今は登校中であった。
「で、お前はいつもこの時間に登校しているのか?」
「そうですね、バスがこのくらいの時間に着きますから。」
「ふぅーん。」
「そういえば・・・先輩はしょっちゅう遅刻していましたね!」
「うっ!・・・・・・それを・・・言うな!」
『トス!』
そういって、友那は美春の頭めがけて手刀を振り落とした。
「痛たた・・・痛いですよぉ~。」
「そう言うなって、これからは出来るだけしないようにするから・・・。」
「えっ!今なんて・・・。」
「『出来るだけしない』って言ったけど・・・。」
「本当ですか?」
美春は疑いの目を友那に向けていた。
「・・・信じられないのか?」
「はい!」
―いや、そんな思い切り断定されても―っと友那は心の中で突っ込んだ。
「まぁ、いいか。ところで?」
「何ですか?」
「今ってあんたらは卒パの準備期間がじゃないのか?」
「そうですけど、どうかしたのですか?」
「いや、どうして学校に来るんだって思ったから・・・。」
「先輩って付属から入学したわけじゃないんですよね?」
「そうだけど・・・。それがどうかしたのか?」
「こういう催し物のたびに問題を起こす生徒がいるのですよ!風紀委員としてはそういう人たちを取り締まらなければいけないのです!」
美春は妙に気合の入った顔つきで必死に語りかけていた。
「そういう人って『杉並』みたいな奴のことか?」
友那はそれ以外思いつかないっと言うような表情を浮かべて美春に聞いた。
「杉並先輩のこと知っているんですか?」
「知ってるって言えば知ってるけど・・・杉並がなんかやらかすのか?」
その言葉を聞いた美春は・・・。
「そうなんですよ!毎回毎回大変なのですよ。それでなくても、色んな人が羽目をはずすのに・・・。」
(大変なんだなぁ・・・こいつも。)
「と言う訳で、如月先輩!」
「はい?」
「取り締まり、手伝ってくれませんか?」
(・・・・は?)
訳が分からないと思う友那に対し、美春はどんどんと問いただしていく。
「一人でも杉並先輩の行動パターンが読める人が必要なのです!」
「なんだ、その他にもいるような言い方は?」
「実際にいるんですよ・・・。」
(そこまで・・・することなのか?)
「まぁ別に構わんが、あまりあてにするなよ。」
「いえいえ、手伝ってくれるだけで十分ですよ、ただでさえ人手が足りないんですから。」
(あれっ?話が変わってないか?)
と、友那の頭の中に疑問は残ったが、彼は深くは考えないようにした。
「そういえば、先輩こそどうして学校に来ているんですか?」
「俺か?」
「はい。」
友那は少し情けないと言いたげな顔をしたが、結局は口を開いた。
「実はな情けないことに、補習なんだ。」
「補習・・・ですか?」
「あぁ、俺は勉強なんてさっぱりだし、学年末のテストが留年というほどではないが相当やばかったらしい。担任からは『補習でないと留年だ!』なんていう言葉も聞かされたんだ。」
「そう・・・なんですか。」
美春は少々呆れながらも、そう受け答えした。そして、二人は気づいたころには学園内に入っていた。
(あーあ、めんどくせぇなぁ・・・。そういえば、あいつらは本当に来るつもりなのだろうか?)
補習の内容は友那の頭に決して入ることはなく、ただ窓から校門の方を眺めていた。卒パの準備期間とはいえ、当然のように生徒は制服を着てくる。
(あいつらが来たとしても、どこにいるかは着てるものですぐに分かるから問題はない。問題はいつ来るか・・・だよな。)
『パコッ!』
友那の頭に軽い衝撃が走った。
「こらっ!如月!お前のような奴のためにわざわざ補習をやっているのだぞ!」
「へいへい、分かってますよ。」
「なんだ、その口の利き方は!お前はいつもそうやってだなぁ・・・・」
(たくっ!なんだよ、くだらねぇ。)
友那に講師の説教は届くこともなく、彼はまだ窓から校門のほうを眺めていた。するとそこには、明らかにこの学園の者ではない人物が遠くて確認できないが4~5人いた。
(まさか!もう?)
「先生!」
「なんだ?」
「宇宙人を信じますか?」
「は?」
真顔で問いかけた友那を見て講師は一瞬、訳が分からないと思い動きを止めた。その刹那、友那は教室を飛び出していった。
「まずは、裕也に伝えないと・・・。」
廊下を全力疾走する友那に一刻の有余もなかった。
「確か、普通に部活があったはずだ。」
登校する時に、ちらっとグランドを見た時。かつて自分がしていたように部員たちが練習している風景を見かけていたのである。
グラウンド
「裕也!」
「友那?どうしたんだ?血相変えて。」
「実は・・・はぁはぁ、あいつらが来てるんだ、学園に。」
疲れのため、途切れ途切れになりながらも友那は親友に要件を告げた。
「あいつらって・・・まさか!」
「そうだ、あの時の馬鹿が来やがったんだ。だから裕也、お前は適当に隠れろ。
「・・・・分かった。でも、友那はどうするんだ?」
「俺が何とかする。講師の奴らにいってもどうにもならん。」
「ごめんな、力に・・・なれなくて・・・。」
「そんなこと気にするな。」
「ありがと。」
「じゃあ、見つからないように気をつけろよ。」
「分かった。」
そう友那は言い残し、その場を去っていた。
校舎内
「風紀委員はどこで何をしているんだ?」
風紀委員からお叱りをしょっちゅう受けていた友那も、さすがにどこで何かを把握している訳ではなかった。
(たくっ、どうすりゃいいんだよ!)
闇雲に探していては埒があかないが、どうしたらいいかも友那には分からなかったが、彼は美春のある言葉を思い出した
―「一人でも杉並先輩の行動パターンが読める人が必要なのです!」―
(そうか、杉並だ。あいつなら・・・。)
友那は杉並のことを思い出し、携帯電話で杉並に電話をかけた。
「もしもし、誰だ?」
「俺だ、如月だ。」
「珍しいな、お前から電話を掛けてくるなんて・・・。」
「そんなことはどうでもいい!」
「どうしたんだ、お前?」
明らかにいつもとは違う口調の友那に杉並も電話越しにであったが、それを感じ取った。
「風紀委員がどこで何をやってるか知らないか?」
「風紀委員か?それなら、ずっと俺のことを追い掛け回しているぞ。」
「じゃあ、その中に天枷を見なかったか?」
「わんこ嬢のことか?」
「わんこ嬢?」
「まぁ、細かいことは気にするな。で、わんこ嬢ならいたが・・・。」
「で、お前はどこにいる?」
「どこって中庭だが・・・それがどうかしたのか?」
「いや、なんでもない。じゃあな!」
そう言って、友那は電話を切り中庭へと走った。
中庭
そこには、杉並が言っていたままに、風紀委員が10~20人くらいが捜索をしていた。もちろんそこには、音夢も美春もいた。
「天枷!」
「ふぇ?如月先輩?」
風紀委員にとって予想外の人物が現れ、彼らの間に戸惑いが生まれた。
「どうしたんですか?そんなに急いで・・・。」
「そうですよ、如月君!今、とても大変なのですから!」
突然の友那の行動に、美春だけではなく、音夢も反応していた。
「あんたらが急がしかろうが関係ない!俺が用のあるのはこいつだ!」
そう言って、友那は美春の腕を引っ張ったが周りの風紀委員がそれを阻止しようとした。
「痛いですよぉ~。」
美春の悲痛の叫びも聞こえたが、友那には時間がなかった。
(くそっ、こんなことをしてる暇なんてないのに・・・。)
そう思った瞬間。
「楽しそうじゃないか、なぁ如月さんよぉ!」
「・・・・。」
友那を含めて、その場にいたほとんどの人が凍り付いていた。
「お前ら・・・。」
「久しぶりじゃねぇか、なんだ?挨拶も無しか?」
「・・・。」
「だんまりか?さっきまではあんなに楽しそうにしていたじゃないか?」
友那の耳には戸惑いを隠せない風紀委員の声と前方にいる男たちの卑しい笑い声しか聞こえてこない。
「朝倉・・・。」
「へっ!」
「誰でもいい。お前の信頼できる講師を一人呼んできてくれ。」
男たちに聞こえたいように小さな声で友那は音夢に問いかけた。彼女は戸惑いながらも・・・。
「分かり・・・・ました。」
「頼む。」
用件を承諾した音夢は他の風紀委員の陰に隠れながら抜けていった。
(後は、時間を稼ぐだけ・・・・か。)
「で、お前らの目的は何だ?」
「目的?そんなものはないさ・・・・ただ、俺たちはお前と少し遊びたいだけさ。」
「どういう意味だ?」
「お前が知る必要なんてないさ・・・お前が嫌と言った時。どうなるか、分かっているよな?」
そう言うと男たちの中の一人が友那に近づいてきた。
『ドス!』
「うっ!」
男の拳が友那のみぞおちにめり込んでいた。辺りからは、普段見慣れない光景を見た人たちの悲鳴が轟いていた。
(くそっ!こいつらのことだ・・・俺が手を出せば、周りの奴らに・・・。)
「おいおい、もうおやすみか?つまらん奴だな。」
地べたにうずくまった友那を男たちは、なりふり構わず蹴り続けた。周りでは、風紀委員たちの顔がよりいっそう青ざめていた。
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