あふさ-きるさLOG

あふさ-きるさLOG

SS (ゼノギアス・シタンとイド)

随分と前に書いた、ヘボヘボ文です。なにせ、ゼノギアスです。サーガじゃありません。
ギアスの方です(笑)

シタン先生とイドの話です。あまり接点は無かったけど、ソラリスでの会話がなんか妙に気に入ってしまって…。
もうちょっと、エピソードが欲しかったなぁと思ってたのがきっかけです。
拙いですが、よろしければ読んでやって下さい。









 祈り──…

 誰の為の祈り?
 何の為の祈り?

 自分以外の誰かの為に……?



 眠りの中に見る幻(ユメ)は──────

 ガンガンと頭を内側から殴りつけられたようなひどい頭痛がする。
 体が汗でじっとりと濡れて、服の上からも感じられるくらいだ。どことなし冷たいような
感触のそれは見慣れた普段着。そうだ。疲れていたんで着替えもせずにベッドに入ったんだ
っけ。
 痛みは相変わらず続いている。おかしいな、何で目が覚めたんだろう。
 アタマガ、イタイ、イタイ────
 何だかとても悪いユメを見ていたような気がする。本当に酷く悪い幻。赤いイメ-ジがこ
びりついて離れない。赤、赤、アカ────何の色だっけ……?
「フェイ?」
 始めてユグドラに来てからずっと同室の、そう他に誰も彼の傍にはいなかったから、シタ
ンが心配そうに少し眉をひそめてフェイの方を見ていた。
「どうしたんです?いきなり起きたりして」
 書き物でもしていたらしい、机から離れて歩いてくると、ベッドから身を起こし頭を押さ
えたフェイを軽く覗き込む。
「フェイ、まだどこか具合が悪いんですか」
 不安定な精神状態の時におこる頭痛は今までも時々フェイを襲っていた。今、エリィを失
いフェイの心は酷くバランスを崩している。自分のふがいなさに歯がみし、エリィの犠牲に
よって助けられた自分をフェイはずっと責めていた。
 何で来たんだエリィ、あんなに、あんなに言ったのに。
 エリィはバカだ。バカだ。────いや、バカなのは俺、か……
 茫然と呟くフェイに仲間の誰もが声をかけるのを躊躇うほどに。
 ユグドラに帰って間もなくフェイは気分が悪いと自室に入った。シタンはそんな彼の様子
が気掛かりで一緒に部屋に戻ったのだった。
「先生……俺」
 シタンに向けられたフェイの声は酷くかすれ聞き取りづらい。
「フェイ、どうしたんです。しっかりして。大丈夫ですか?」
「先生、俺、夢を、幻を見たような気がする……」
「夢?」
「……夢、夢だよな。先生、先生は此処にいる」
 俯いていた顔をあげるとフェイはシタンの服の上からギュッと腕を掴んだ。まるで目の
前のシタンが、掴んでいないと消えてしまうとでもいうかのようだ。シタンが軽く痛みを
感じる程に、しっかりとその存在を手の中で確かめる。
「フェイ?」
「先生は此処にいる。──バルト、バルトは?」
「大丈夫ですよ、フェイ」
 シタンは宥めるように名を呼んだ。だが、それも耳にはいらないのか、フェイは立て続け
に声を上げる。
「ビリ-は?リコは?マリアは?皆、皆もいるよな?」
「フェイ、しっかりして。皆ちゃんといますよ」
「先生、俺、俺。……オレ、ハ────」
 フェイの瞳がもどかしげに大きく開かれ、だがその後光りを失い急速に閉じられていく。
頭が前のめりにゆっくりとシタンの腕の中に落ちて、その手に支えられていた体が力を失っ
ていった。
「フェイ、フェイ?」
 呼び掛けにもフェイは応えない。明かりを押さえた艦内灯の中で目を閉じたフェイの顔色
は暗く翳ったように見える。
「フェイ」
 何度か軽く揺さぶってもやはり返事はない。腕の中で動く気配のないフェイをシタンは少
しの間懸念げに見つめ、ベッドに戻そうとした時…………
「やあ、先生?」
 ────唐突に声がした。

 髪の色は漆黒から赤銅色に、ゆっくりと開いた瞳は金色の光りを放っている。それは今ま
で紛れもなくフェイだった、人物だ。
 彼はグイと乱暴にシタンを突き放すとベッドから床に身軽な動作で立ち上がった。
「この姿で話すのは二度目かな、先生」
「イド……」
 薄明かりの中で鋭く光る二つの眼とシタンは視線を合わせた。確かに普段知っている彼と
同じ造りの顔なのに、全くの別人かと思う程、酷薄な表情で自分を眺めているその姿。
全てを破壊する力を持つ者。もう一人のフェイ────
 だけど、どうして──?
「そう、ですね。久し振りです、イド」
「俺が出てくるのが不思議といった感じだな」
 シタンの挨拶に薄く笑いを浮かべながらイドは言った。その口調にはどこかしら面白がっ
ているような様子がある。シタンは眉を軽く顰め「ええ」と頷いた。
「今は戦闘中ではないし、……それに私も何も言ってませんからね」
 ククと喉の奥でイドはひとつ笑った。
「そうだな、お前が追い詰めたわけじゃないな」
「そうです、だけど……」
 シタンは考えるように言葉を切り、イドを見た。
「…彼は夢を見ていましたね」
「うん?そうだよ、当たりだ。ユメさ」
 イドは事も無げに答えると、先生が出来の良い生徒を褒めるように「よく出来ました」
と笑った。
「フェイは一体どんな夢を……」
「見当は付いてるんじゃないか?先生」
 それにシタンは答えなかった。淡々とした沈黙がイドとシタンの間に割り込む。だが、そ
れも僅かの間だった。イドは顎を少し上げ、目を細めると、自分の前に穏やかな様子で立つ
シタンを見返した。
「────殺すユメだ。誰かは判っているよな」
「……私達をですね」
「そう、フェイが仲間と呼んでいる者。お前たちをな」
 イドがニヤリと大きく笑む。「先生、お前は一番最後だったぜ」
「そうですか」                        
 どこか試すようなイドのもの言いにもシタンは穏やかなまま返事を返すだけだ。それを見
て、イドは心無し何処かつまらなそうな表情になる。
「……ユメの中で手をかけていたのは俺じゃなかった。”フェイ”だったよ。あいつの姿
そのままで……」
 彼は最後まで言わず言葉を途切った。シタンの問いたげな視線をフンと鼻で笑うと、腕を
組み顔を傾ける。
「あいつの手は赤く染まっていたな、あれはお前らのものだ」
「……フェイは怖れているのですね。自分の力。イド、あなたの影響力を」
「ま、そんなところだな。あいつも脆いからな」
「いいえ、それは違います」きっぱりとシタンは答えた。
「へ-えぇ。どう違うんだ、先生?」
「それだけ、皆を大事に思っているのですよ。フェイは」溜め息をつき、シタンは答える。
「大切だからこそ、怖れているのです。……傷つけはしないかとね。その不安がエリィのい
ない今、大きく現れたのですね」皆まで消えてしまったら……と。
 イドはそれを聞くとどこか苛立たしげな表情になった。だが、口元には薄く笑みを浮かべ
たままで、揶揄うような口調で言った。
「…そんなものは、何にもなりはしないさ」
「…そうでしょうか?」
「何が言いたいんだ、先生」
「フェイは自分にとって何が大事なものかが判ったんですよ。迷って、悩んだ末にその気持
ちを手に入れたんです」
 シタンは言葉を途切ると、今までの記憶を辿り、フェイと旅をしてきた日々を思い出す
ように少しの間押し黙る。そのあと、ひとつ息をついで彼は続けた。
「────イド、あなたは何故……人を傷つけるのですか?」
「……何を言っているんだ」
「何故世界を破壊しようとするんです?」
 イドの口元から笑みは消え、シタンを見つめる眼差しは鋭く尖っていた。シタンはそれが
危険な兆候であると判ってはいたが、言葉を途切る気はなかった。イドにどうしても訊いて
みたかったのだ。そして、もしも答えが判れば、彼等を分けてしまった何かが掴めるような
気がしていた。
 統合。それが成せれば────────

 一体イドとフェイが別たれたのは何時だったのだろう。彼がグラ-フと行動をしていた時
期を考えれば、おそらくはまだ子供の頃に?
 彼等に────彼に何があったのだろう?
 ソラリスを出てからずっと考えていた思いが巡る。普段は決して訊くことのできないその
疑問を、シタンは直接イドに問うてみたいと思った。
「……グラ-フと何があったのですか?…イド、グラ-フと一緒に行動していたのは何故で
す?」
「お前には関係のないことだろう」
 イドの答えはにべも無い。
「何故、何の関係も無い人々を憎むんです、イド?……そう、あなたは何故、ステ-ジに
自由に上がれないのですか?それはあなたが以前言っていた臆病者と、あなたとの繋がり
に何か関係が……」 畳み掛けるように問いを発していたシタンが、何か妙な違和感を感じた。
 瞬間、突然艦内には起こるはずの無い突風が突然シタンとイドの間に吹いた。
 反射的に腕を上げシタンは顔を庇う。冷たい空気のナイフが切り裂くように激しく吹きつ
けて消えた、とその刹那、──顔を上げた彼の眼前を遮るようにいきなり腕が現れ、胸ぐら
を容赦なく掴んだ。
 自分より頭ひとつ高い長身の彼を片手で頭上に楽々と持ち上げ、イドは嘲笑った。
「全く。何故、何故とうるさい奴だな」
 シタンの足はギリギリ床の上をかすめ、ほとんど爪先だけで立っているような形になる。
「イ……ド……」
「あの時ソラリスで遣りそこねた事を、今やってやろうか?」
 イドの力を以てすれば、シタンをひと捻りすることなど容易だろう。
 ほんの少し踏み出して力を加えさえすればいいのだ。
 その金の眼は、室内の灯りを越えて尚、不穏な程に光り輝いている。だが、シタンの黒
い瞳は夜の闇のような静けさで真正面からそれを受け止めていた。
「……イド……。あなた達に、あなたと隠れたもう一人のフェイに何があったのか……、私
には判りません」
「まだ、喋りたりないのか……。呆れたお喋りだな、先生」
 口の端でイドは笑う。胸ぐらを握る手に嘲るように更に力を込めた。それでも、シタンは
イドに問うことをやめなかった。
「あなたは……何故──」
 言いかけてその自分の言葉に先程のイドの言葉を思い出し、(何故、何故とうるさい奴だ
な────)シタンは苦しい息の中少し笑み、イドは又かというように軽く眉を上げた。
「…何故……グラ-フに従うのです?」
「従う?俺が?」
「あなたは、まだ無力な頃にグラ-フと出会ったかもしれない……。あなたの力では、どう
しようもなかったのかも、しれない」
「お前は、何も判ってない」
 シタンを嘲笑うようなイドの態度は変わらない。だが、シタンの言葉はイドに何かを思い
出させたようだった。彼の目が怒りをたたえ金の光を鈍らせる。
「そう、です……。判りません。だけど、今のあなたがもう、無力な子供ではないことは判
ります」
「何を、……」
「……イド。あなたはもう、自身で身を守れるくらいに成長したのではないですか?あなた
が何かに従う必要はない」
「うるさい、な。お前。俺は従ってなどいない!」
「あなたはもう、誰も傷つける必要は無いんだ……」
「うるさい」
「もう、何も壊す必要など無いんです」
「────うるさい、うるさい」
「あなたが、望みさえすれば…あなたの意志で…世界を見れば──彼は、フェイならばきっ
とあなたの苦しみや痛みが、きっと……」
「う、るさい、ぞ」
 イドは掴んでいた手に更に力を込める。
「貴様に俺の憎しみの何が分かる!!」
 深い怒り、苛立ち──まるで、激しい慟哭にも似た叫びだった。
 その眼は激しく燃え、眼差しだけでシタンを焼き尽くすかのようだ。内側から溢れてくる
イドの激情が、例え見えはしなくとも、ビリビリと全身の体を震わせて伝わってくる。
 シタンの足が床から離れ、宙に浮いた。 
「もう、お喋りはいい」
 イドはスッパリと言い捨てた。その声の調子は非情な酷薄さを帯びて、全てを突き放して
しまう。
「……っ!イ……ド……」
 ドサリと音をたて、イドは一旦シタンを床に投げつけるように乱暴に落とす。と、素早く
腕を伸ばし、今度は両手を無慈悲にその首にかけた。
「──これで赤く染まった手が夢ではなく現実になるわけだ。お前を殺したのが、真実自分
自身の手だと知ったら、奴はどうなるかな?」
 歪んだ笑いがイドの顔に浮かぶ。
「今度こそ、壊れるか?そして、この体を明け渡すかな?」
「イ、ド……」
 笑みを浮かべたイドの顔。────だが、その眼は笑っていなかった。嘲りもなく、そう
だといって哀れみがあるわけでもない。
 ただ深く暗い──光。光を放つ金の色なのに、苦しげな凍えた瞳だった。
 それにシタンは見覚えがあった。以前フェイが自分の力を怖れて拒んだ時に見せた色だ。
 誰かを傷つけることに耐えられず、力の大きさを疎む──優しさを持つフェイ。
 彼等はやはり、その心のどこかでひとつなのか。だから、イドは────憎むのか?
 憎む。
 憎む。
 壊してしまった耐えきれないその苦しみで世界を──
 自分という存在を弾き出したままの現実。その全てを──────。

「すぐ、終わりにしてやる」
 イドの手にゆっくりと力が込められて徐々にシタンの首を締め上げていく。圧倒的な力
にシタンは声も出せず、喘ぎも出来ない。段々と視界が狭まっていくのを感じる。指が頼り
なく宙を掴む。目の前が暗くなっていく……。


       (  ダ ・ メ ・ ダ  )

「な、に……」
 首に回されていたイドの手がフイに離れた。いきなり喉が開放されて、空気が肺になだれ
込む。シタンは床に倒れたままでゲホゲホと派手に咳き込んだ。荒い呼吸にまるで喉が焼けるよ
うだ。
 涙が滲むほどひとしきり咳込み、呼吸に喘ぐ喉を押さえながらようやくのことで目をあげ
た。
 イドは頭を抱え、頼り無い足取りで一歩、二歩とあとずさるように、シタンから離れて行
く。
「クッ、クク」
 含み笑いながらイドは顔を上げた。
「……惜しいな。ここまでだ。半ば無理に俺が出たようなものだからな。奴が目覚めちまっ
た。命拾いだな、先生」
「……イ、ド……?」 
 擦れた声で呼びかけるシタンに向き合うと、イドはその目を見下ろした。
「──フェイの傍には何時もお前がいたな。俺はずっとそれを見ていた。それを知っていた
よ。ラハンに居た三年間も、此処までの間も、俺は”フェイ”と共に見ていたんだ」
 出アッタ人ビトノ笑ガオ、オレニハ向ケラレナイモノ、ソノ全テガ、ソレハ
「────まぁ、お前の目的までは判らなかったがな」
 俺にはどうでもいい事だな、とわざとおどけたような口振りでイドは付け加える。彼は苦
しそうに喉を押さえるシタンを一瞥すると唇の端を微かに上げた。
「フェイと俺とのことを本当に知った後でもお前はまだ此処にいるんだな。────こっち
こそ何故と尋きたいね。…………何故、俺が引っ込んでいる間に奴を消去しないんだ?」
「イド、私は…」
 その問いにシタンは答えを返せなかった。
 投げかけるだけ投げかけて、イドは言い掛けていたシタンの言葉を遮った。
「さよならだ、先生。じゃあな」
 イドはさらに後ろに下がる。その姿が少しづつ変化を始めた。フェイが現れつつあるのだ。
「ま、待って……下さい。イド!まだ、尋きたいことが、話をしたいことがあるんです…!」
 イドは僅かに目を見開きククと笑った。
「……自分を殺そうとした俺を引き止めるのか?俺はお前を──…
──本気で殺しかけたんだぞ……」
 言いながら、その時ふとイドの顔が揺らいだ。全てを突き放したような仮面にも似た冷酷
な表情から、血の通った、ひどく、生身の…人間的なものに。
「可笑しいな……先生」
「……イド」
 次の瞬間、彼の体がグラリとかしぐ。床に倒れ込んでいくその髪は漆黒に、閉じていく
瞳は金から茶へとフェイの姿に戻っていく。      
 慌てて腕を差し伸ばし、床に打ちつけられるすんでのところでシタンはフェイを抱きとめ
た。が、そのまま体勢を崩し、彼を抱えたまま手酷く転倒をする。
「…っ──!!」
 派手な音を立てて、シタンは腕に抱えたフェイごと床に倒れこんだ。
「────!っっ、たたたたっ」
 一人分余分に体を打ち付けて、その痛さに顔を顰めた。「──…いや、もう参りましたね。
……全く」
 シタンは思わずぼやきながら、体をさすりゆっくりと起き上がる。フェイと自分に怪我の
ないことを確認すると、腕の中で動かないフェイの顔を覗き込んだ。
「フェイ?フェイ?」
 力の抜けた体は、軽く揺さぶっても反応が無い。
 ……息はある。脈もしっかりしているし…。
「……フェイ?」
 呼びかけると、ピクリと小さく瞼が動いた。腕の中でうっすらとフェイは目を開け、シタ
ンを認めた。けれども目覚めるはことなく、又瞳を閉じていく。
 微かに笑ったようだった。
(フェイ……?─────イド………?)
「……フェイ?」
 返事はない。今度は目を開ける様子もなかった。
 シタンは顔を上げると床に座り込んだまま溜め息をついた。
「さて……一体これからどうしたらいいでしょうかね」
 呟きは、先刻までの嵐のような状況から、一転して残された静寂の中に束の間留まって消
えていく。
 何の跡も残っていなかった。かき乱された思考と、体の痣のほかは…。

 溜め息をもうひとつついて、やがてシタンが立ち上がろうとしたその時、通路の方から足
音が、続いてノックがしたかと思うと扉が勢いよく開いた。
「先生、フェイ!……っと、わぁ、何だ何だぁ」
 おそらくフェイを心配して様子を見に来たのだろう。バルトが碧い目を殊更大きく見開い
て入口の前につっ立っている。
「フェイ!先生っ……何だ、どうしたってんだ。一体…」
 シタンは入口に立ったままでいるバルトを仰ぎ、にこりと笑うと手招いた。
「ああ、若くん。丁度いい所に。手を貸して下さい」
「え?……ああ。うん」
 私一人じゃ結構大変ですからねぇ、とシタンは言いながらバルトと二人でフェイをベッド
に運ぶ。
「フェイも重くなりました……」
 バルトはそう呟くシタンの横顔を眺め、そして眠っているフェイを眺めた。
 もう一度シタンに向き直ると、気遣わしげに声をかける。
「先生、フェイの奴どうしたんだ?……その、やっぱりエリィのことか?それとも……もし
かして、…もしかしてあいつが?……」
 シタンの喉元まである衿からチラリと見えた、指跡のような赤い痣は、決して自分の見間
違いではないだろう、とバルトは思った。
「まぁ、そのちょっと疲れたんでしょう。…色々とね」
「大丈夫か?フェイの奴……」
「大丈夫……だと思います。多分」
「多分って、先生な-。大体先生だって……」
「まあ、まあ」
 呆れたような、少しばかり怒ったような顔をするバルトに、シタンは何時も事がある時に
時折見せる、どこか人を食った笑みを浮かべた。
 そして、その後、少し真顔になる。
「私のことなら心配いりませんよ。フェイも────フェイならばきっと大丈夫。今は只、
見ているしかありませんね。……無力なことだ」
「判るように言ってくれよ。先生」
「すみません」
 不満気なバルトににこりとシタンは微苦笑を返した。
「取り合えず後はフェイが起きてからにしましょう。若くん」
「……そうか?──そう、だな。ま、しょうがねえか」
 バルトは頭をかき、不承不承頷く。
「で、何か話でも?」
「ああ。ま、様子見ついでで大したことないんだが……」
 話ながら二人はフェイを起こさぬようそっと部屋を出た。扉が閉まる直前にシタンが見た、
通路の明かりに照らし出されたフェイの横顔は、ひどく静かな表情を浮かべていた。

 眠りの中で彼は何を見るのだろう。この休息がただ一時のものであるならば、尚。
 願わくば、それが安らかなものであることを……

────────あなたの為に……祈ります────
 ……そう、只……今は──────…


                             END



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