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「わが人生の歌がたり」
昭和の哀歓
著者 五木寛之
著者と似た経験をされた方に勧められて
読ませてもらいました
著者は教師の両親のもと
昭和7年に福岡県で生まれましたが
生まれて間もなく
父は田舎の閉塞した生活に見切りをつけて
新境地を求め
家族と共に朝鮮半島に渡りました
当時ピョンヤンは日本の植民地でしたが
異国には違いありませんから
日本の音楽や歌が一番の慰めだったそうです
この本には
その時どきの流行歌や軍歌や民謡が
たくさん引用されています
国を出る時には
想像もしなかったでしょうが
日本は敗戦により
突然ソ連軍の指揮下に入りました
住む場所もない難民になってしまったのです
敗戦の混乱にありがちなことですが
ソ連兵の略奪に遭います
普段は威厳があり、頼もしい父親でしたが
その時は、妻を守ることも出来ませんでした
その痛恨の屈辱と自己嫌悪で
父は人格も人生も崩壊させてしまったのです
敗戦とは
国が戦争に敗れるとは
こんなに悲惨なことだったのかと
悲痛に思い知り
嘆きの叫びのなかでも
歌はひとつの救いだったと語られています
明るい歌よりも哀しい歌を歌って
多く慰められたそうですが
分るような気がします
ひとは悲しいときに
ガンバレ! ガンバレ! と励まされるより
わかるよ しんどいね つらいね~
と共に悲しんでもらう方が
どんなにか支えになるものですから
命がけで脱出して帰国しましたが
途中で死ぬひとの数はおびただしく
連れていて死なせてしまうよりはと
朝鮮の人に預けたり売ったりした子どもは
数え切れないそうです
残して来たそのこどもたちが
いまどうなっているかは
話題にもならず誰にも分らないようです
なんという悲しいことでしょう
帰国してからも
苦難の生活は続きますが
ロシア文学を専攻して学び
現在の作家のいしずえを作られました
「静かなドン」
「チボー家のジャック」
「ジャン・クリストフ」
「魔の山」などを愛読されたそうで
分らないながらも頑張って読んだ日々を
私も懐かしく思い出しています
戦争で傷つき倒れるのは、決して
兵士だけではありません
兵士も庶民も善意のある全ての人たちが
平和を望んでいるでしょうに
つらく考えさせられた1冊でした
五木寛之氏の代表作は
『さらば、モスクワ愚連隊』第6回小説現代新人賞を受賞。
『蒼ざめた馬を見よ』第56回直木賞を受賞。
『青春の門・筑豊編』第10回吉川英治文学賞を受賞。
『大河の一滴』
『風に吹かれて』など多数
『かもめのジョナサン』(リチャード・バッグ作)の翻訳 もされました
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