ユーカリの木陰で里の行

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2012.09.15
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『The Lady』 『引き裂かれた愛』 )をDVDで見た。

冒頭に「Based on True Story」―実話に基づく―と記されたこの映画は、
ビルマ民主化リーダーでノーベル平和賞を受賞した
アウサン・スーチー さんと、
彼女を献身的にサポートし続けた夫、 マイケル・アリス氏 、
お二人のラブ・ストーリーである。

軟禁された自宅の塀の向こう側から、
背筋を伸ばし大衆の前に立ち、
優雅にスピーチをするスーチーさんの姿は、
ニュースで世界中に何度も何度も報道されてきた。

銃口を構える軍事政権の兵士たちと、
黒髪にトロピカルな 白い生花 をさしたスーチーさん―
なんと対照的なコントラストであったことか。

彼女の軟禁は現在とかれているとはいえ、
ビルマの民主化 は未だ遠く、
お二人の歴史はビルマ民主化の歴史でもあるのだ。

この映画は、ビルマの民主化のために
公衆の前に毅然と立ち続けるスーチーさんの、
その裏側の物語であるとも言えるだろう。

オープニングで、まず
スーチーさんが髪にさしている白い花の意味が明かされる。

スーチーさんの黒髪に初めて花をさしたのは、
彼女の父親であり、ビルマ建国の父ともいわれ、
民主化を目指し、その実現半ばで暗殺された アウサン将軍 だった。
幼い彼女に祖国の歴史を語り、ビルマの民主化を実現しようとした将軍は、
彼女が2歳のときに暗殺された。

花は、その父の意志を継ぎ、ビルマに民主化を実現するという、
スーチーさんの意志の表れである。

そうして時は1988年―、イギリスで、
夫の、オックスフォード大学のチベット学者マイケル・アリスさんと、
二人の10代の息子に囲まれ、幸福な生活を送っていたスーチーさんのもとに、
ビルマにいる母親の危篤を知らせる電話が入った。

おりしもビルマは民主化運動真っ只中、
民主化を求める学生たちと、抑圧する軍事政権との間で
既に流血の事態になっていた。
そんななか帰国する彼女を軍事政権は警戒していたものの、
当初は民主化運動へ介入する意思のなかったスーチーさんだったが、
次第に運動の大きなうねりに巻き込まれてゆく。

軍事政権の弾圧によって、運動がますます血なまぐさく壮絶になってゆくなか、
スーチーさんの平常心と知性を保とうとする姿勢には感銘させられた。
彼女は、普通ならパニック発作を起こしかねない状況に置かれても、
「Calm」 と自らに言い聞かせ、冷静さを保とうとする。
非暴力 に徹し、 (見ている側には) 優雅ともいえるほど見事に
事態をすり抜けてゆく。

とりわけ印象的だったのは、
演説場に兵士たちが乱入し、スーチーさんに一斉に銃口を向けるなか、
彼女は背筋を伸ばし、
あたかもそこに誰もいないかのように銃口の間をすり抜け、
演台へと進んでゆくのだ。

すんでのところで死から逃れるが、
とても「ふつー」(?)の人間の対応とは思えない。
イギリスでは一般市民だった女性が、
何か特別な訓練を受けたわけでもなかろうに、
あの度胸と沈着さは、いったいどこからくるのだろうか?

軍事政権は、マイケルさんと息子たちの入国ビザを
(2度ほど、たぶん彼女を家に連れ戻す原動力になることを狙って
滞在を許可した後は) 拒否し続け、
スーチーさんに家族と暮らしたいなら国から出て行けと迫り続けた。
それでも彼女は何があろうとも祖国にとどまり続けた。

家から遠く離れた軍事政権下の祖国で、
自宅軟禁という状況で孤独を強いられながらも、その意志を曲げることなく、
どうやって20年以上も闘い続けてくることができたのだろうか?
「Iron Orchid―鋼鉄の蘭」と呼ばれる彼女の強靭な意志の下に、
どれほど大きな犠牲と苦しみ、
そうしてその意志を支える大きな力が潜んでいたのだろうか?

スーチーさんの意志を、
夫のマイケルさんは一貫して尊重し、
支え、守り、助けようと奔走し続けた。

ビルマから強制退去を命じられても、
何度も何度も軍事政権にピサを申請し、妻の元に戻ろうとした。

一方、スーチーさんを守るためには、
彼女が世界から忘れ去られてしまわないように注目が必要だと考え、
ノーベル平和賞を受賞させるためのロビー活動に奔走した。

そして1991年、受賞が決まるや、
息子たちに(自分ではなく)、授賞式のスピーチを勧めるのだった。
ママがお前たちの声を聞けると喜ぶだろうから、と。
なんてあっぱれな姿勢なんだろーか。感涙…

その授賞式で、マイケルさんは妻を、
史上最も孤立したノーベル賞受賞者と形容し、
実際その言葉通り、華やかな授賞式の会場と、
停電で真っ暗な中、一人、ラジオを抱えるスーチーさんの姿が映し出される。

スーチーさんはラジオから流れる長男の声を聞くや、
ラジオを抱き、嬉し涙をこぼすのだった。
彼女は、ノーベル賞を受賞したことよりも、
愛する息子の声を聞けたことの方に、喜んでいたのだ。

もう涙なしには見られないシーンである。
愛する家族から引き裂かれた彼女の孤独が
最もクローズアップされた場面でもあった。

マイケルさんは肺癌を患ってからも、
自分の身体ではなく、スーチーさんの身を案じ、
彼女のために奔走し続けた。

結局、彼は最期に望んだピザ申請も軍事政権から撥ねつけられ、
妻に再会することも叶わず、
息子たちに看取られて、この世を去ったのだった。

夫の死を知らされ、泣き崩れるスーチーさん。
それまで軍事政権に銃口を突き付けられても
毅然と背筋を伸ばし立ち続けた彼女が、
「マイキー、マイキー」と夫の愛称を呼びながら、床に崩れ落ち、
ほとんど胎児の姿勢で号泣してしまう。

その彼女の姿をカメラは天井から俯瞰してゆく。
あたかも、それがマイケルさんの視線であるかのように。
これからは、あなたを天から見守ってゆくよ、と。

と同時に、彼女を天から見守っているのは、
マイケルさんだけではないことに、気づかされる。
父親のアウサン将軍の魂も、娘を見守り、
サポートしてきたのではないのか、と。
彼女の命にかかわる、軍事政権の重大な選択において、
何か神秘的な力がかかわってきたことを思い出させるのだ。

たとえば、突然ビルマに帰国したスーチー女史をどうするかを、
軍事政権の将軍が馴染みの霊能者に尋ねにゆくシーンがある。
放っておけばイギリスに帰ると予言され、将軍はそれに従うのであるが、
その予言は外れ、彼は霊能者を殺してしまう。
いつも当たるからと頼っていた霊能者が、
どうしてこのときに限って、そんな的外れな予言をしたのだろうか?
何か別の霊的な力が彼女に囁きかけたせいではないのか?、とか。

スーチーさんの運命が自宅軟禁という形に決まった瞬間もそうだった。
将軍は、それを提唱した軍幹部に任せるか?の選択に際し、
彼に数字をランダムに選ばせた。
彼が選んだ数字と、将軍が手元に引いたトランプの数字が合致していたため、
その幹部にスーチーさんの対応を任せることにしたのだ。
ギャンブルのような偶然の一致が、スーチーさんの運命を決めたわけだが、
それは本当に単なる偶然だったのか?、とか。

この、実話に基づきながらも、全編を通して、見事なほど無駄のない、
巧みなストーリー展開で語られる物語に、
監督がこういうシーンを入れたことは、
軍事政権リーダーが霊的なものに頼っていたという話以上に、
スーチーさんが何か不思議な力に守られているという印象を
与えたかったからではなかろうか?

スーチーさんを、
ひいてはビルマの民主化を加護しようとする不思議な力とは、
彼女の父であり、かつての民主化リーダーでもあったアウサン将軍や、
民主化を目指しながら殺されてしまった、ビルマの先祖たちの魂ではないのか。
そう、ビルマ民主化のために命を落とした莫大な数の人々の魂が、
彼らの願いが、
民主化実現のシンボルとなったスーチーさんを守ろうとしてきたのだ、と。

ラストは、2007年の有名な僧侶のデモ。
軟禁された自宅の塀の中から毅然と立ち、スピーチをするスーチーさん。
きちんと結われた彼女の黒髪には、いつものように白い生花がさされている。
その白い花を彼女は優雅に観衆へと、こちらに向かって
ふわりと投げかける。

ビルマ民主化への意志を象徴する、その白い生花―
民主化実現の半ばで命を絶たれた、アウサン将軍の意志、
民主化を訴え、命を落とした人々、
ビルマの民主化運動をシンボルするその生花は、
観客である私たちに向かって、
投げられたのだった。

痛ましいほど心に迫る、壮絶なラブ・ストーリーだった。

スーチーさんと、夫マイケルさんの夫婦愛。
彼女と息子たちの愛(彼女は自分の身を絶えず危険にさらしながらも、
息子たちの身の安全には涙ぐましいほど気を遣っていた。
やっと再会を果たしても危険を感じるや即、安全な場所に逃がそうとした)。
そうして、同胞や、祖国への愛。
両親、とりわけ父であるアウサン将軍との愛。

監督は リュック・ベッソン さんだそうだが、
いやぁ、とてつもなく魂に響く美しい映画でした。

今回は実話だし…と言い訳しつつ、ラストもバレバレに書いてしまったが、
スーチーさんやマイケルさんが辿る軌跡を知っていても尚、心打たれる。
ぜひぜひお手に取って欲しい一遍です。

どうでもいいけど、うちの近所のレンタルショップ、
これを「ロマンス」のカテゴリーに分類しておった。
そんなファンタジーにウカレたレッテル貼って許されるのだろーか? (^^;








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Last updated  2012.09.29 16:38:48 コメントを書く


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