第2話【魂の石】

第2話【魂の石】


〔夢を見た…悲しい夢だった…〕


ルディロス


【ルディロス村】
謎の魔物を倒した翌日、冷たい雨が昨夜から降り続いていた。
ルディロスのシンボルとなる大きな女神像の前に用意された台に三人の死体が掲げられ、鎧ではなく、黒白で統一された礼服に身を包んだハンター、絶え間なく涙を流す遺族、何も言わないルディロスの村人。
皆黒い傘を差していた。
教会の女性教主であるアビスが長々と釈迦を言い渡していた。
葬式の際、必ず『死』に関係した釈迦を言うのがこの村の掟で、アビスは表情一つ変えずに話していた。

「俺、夢を見たんだ…」

アコルが隣で複雑な表情でアビスを見つめるミニアに言った。

「夢?」

「そう…夢」

二人の会話はぴたりと止んだ。
雨が激しさを増し、傘を差していないアビスはもうずぶ濡れであった。

「…祈りましょう」

葬式の釈迦の後はお祈りで、アビスの合図で全員は黙祷する。

黙祷の後は教会に死体が運ばれ、そこで火葬され神の元へ送られる。

「どんな夢を見たの?」

アコルはしばらく黙り「今日みたいに悲しい夢…」と小さく言った。


―――少年が朝起きると父さんはいなかった。いつも大きな鼾をかいている父さんがいなかった。
そして母さんは俺を見て泣いていた、いつも母さんはこの時間帯はエプロン姿の普通の母さんのはずだが、母さんは鎧【デジウムメイル】を着て、剣【オリハルコンショートソード】と盾【アンジュリウムカイトシールド】と言った装備であった。

「どうしたの?」

「ごめんなさい…アコル」

母さんは出て行った、泣いたまま家を飛び出していった。アコルも後を追った。母さんの背中を必死に追った。
外は朝の霧が少し出ていて、太陽の白い光がルディロスの村を照らしていた。

「母さん!母さん!」

ルディロスの大門まで来た。大きな門が少しずつ音を出して閉まって行く。
門の外に沢山のハンターが集まっていた。その一番手前に涙がまだ止まらない母さんが俺を見ていた。
入り口のハンターに俺は捕まれ、門の向こうに行くことができない。

「強く生きなさいアコル…」

「母さぁぁーーーん!!!」

大きく、鈍い音をたてて扉に隙間はなくなった。
それは早朝の出来事で、まだ七歳のアコルにはいったい何が起きたのか理解をするのに時間が掛かった。


―――「また思い出しちまったな…はは」

アコルの家でミニアを相手にアコルは話しが終わり、苦笑いを浮かべた。火葬は終わり、もういつものルディロスに戻っても良いはずだが、雨もあるせいか、外は静かで、雨の音だけがルディロスに響いていた。

「無理して言わなくても良いのに」

ミニアは暖炉に薪をを一つ投げ入れ、燃え上がる赤い炎を眺めていた。

「ミニアと知り合ったのは丁度その後だったよな」

「ええ、そうね」


―――アコルは呆然と立ち尽くしていた。大きな門と門番のハンターがあまりにも大きく感じた。
そんな時に遠くで騒ぐ少女の姿があった。

「やめなさいミニア」

「やだ、私も行くの!!」

アコルと同じくらいの年頃の少女、ミニアが剣【ショートソード】を持って、必死に母親から逃げ回っていた。

そのミニアとは逆に母親を追いかけた自分は、その母親に追いかけられるミニアが妙に羨ましく感じた。

「その剣を渡しなさいミニア!」

「いや!!」

ミニアは母親の手を逃れ、アコルの方へ走って来た。

「どいてよ」

ミニアはアコルに強く言った。

「無駄だよ、この門は俺たち子供じゃ開けられない」

ミニアは我慢していた涙が一気に流れ出し、剣を地面に落として蹲った。

「パパが…パパが…」

そんなミニアの姿、この少女はいったいなぜ父親がルディロスを出て行ったにか知っているようだった。

「何があったか知らないけど、もう俺たちには待つことしかできないんだ」

再びミニアは立ち上がりアコルを睨んだ。まるでミニアの父親をアコルが奪ったと言いたそうな眼をしていた。

その後、ミニアは母親に捕まった。
「ごめんなさい」とミニアの母はアコルに謝ると、ミニアはずるずると連れてかれた。

そしてアコルの目の前に残った剣【ショートソード】が晴れていく霧の間から射す太陽の光で輝いていた。

―――アコルに家の玄関の扉が開いた。
アコルとミニアは何かと立ち上がり、玄関を見ると、松葉杖を持って、左足に包帯を巻いたずぶ濡れの男が立っていた。

「ライシンさん!!」

ライシンの右手には一冊の分厚い本があった。雨で少し濡れている。

「すごい事がわかったぞ」

ライシンは暖炉のすぐ傍にあるテーブルに本を置き、栞が挟んであるページを開いた。
そのページで一番最初に目が行ってしまう大きなセピア写真、クリスタルの写真が載っていた。

「これって…」とミニア。

「昨日の魔物の額にあった、アコルが割ったクリスタルに似てるよな」

アコルが剣を刺し青いクリスタル。アコルとミニアが見てもたしかに似ていた。

『クリスタル、別名魂の石、魂を封印することができる石。昔、神が必ず訪れるはずの消滅の危機から逃れるために、自らの肉体を、「大陸」へと変化させ、魂は「魂の石」と呼ばれていた「クリスタル」に、それぞれを封印したと言う伝説もある。』

「魂を封印することができる石?」

アコルは本当に自分の理解が正しいか、ライシンとミニアに確認した。

ライシンが椅子に音をたてて座り「ああ、きっとこいつだ」と言った。

「でも何で魂を封印する石が魔物の額にあったの?」とミニアはライシンに顔を向けた。

「さぁな。俺にもそれはさっぱりだ。しかもなんでそのクリスタルを破壊しただけであの化け物が消えちまったってのも謎だ」

アコルはクリスタルの写真を睨むように見ながら「その道に詳しい奴を知ってる」と言った。

沈黙が訪れた。暖炉の燃える薪がパチパチと音を鳴らした。
今日はいつもの活気溢れるルディロス村ではなく、静かで悲しいルディロスの村になっていた…。


次の日の朝、夜中まで降り続いた雨も止み、少しずつ元のルディロス村に戻ろうとしていた。スアンさんが営む倉庫前には沢山のフリーマーケットが開かれている。ハンターが買い物に、仲間探しに、生き生きと動き回りアイテム屋は大忙し。

女神像前のアコルがいつもならフリーマーケットを開いている場所に一人の女性が店を開いていた。並んでいるアイテムは全てアクセサリーで、多彩なネックレスや指輪が綺麗に並べてあった。

「誰か買って~」

客寄せをする女性、店主ルカ。
青紫の髪、深緑の瞳、ハンターの装備【レディズ】、そして服は【中級ケープ】を着ている。
ルカの腰には杖【レディズのレッドアイズ】が掛けてある。

そんなルカにもう一人女性が近づいてきた。

「あ、アカネ~。やっほ~」
アカネと呼ばれた女性は、茶髪で碧眼、鎧【ブレトプレート】を着た女性ハンター。

「あ、こんにちは」

アカネはルカの前に立ち、店に並ぶアクセサリーを一通り眺め始めた。

「アカネ一昨日、ポラント行ったんでしょ?危なかったね、運悪ければ例の化け物に出くわして、もうあの世に行ってたかもよ?」

「その前に死んでると思う…」アカネは苦笑いを浮かべた。

「それよりさ、今日はフリマ開かないの?一緒にやろうよ」

「う~ん、私ちょっと探し物があるんです」

「探し物?」

アカネは綺麗な青い宝石の付いたネックレス【フォモール】を手に持ち、宝石に移る自分の顔を眺めながら

「ないようである大切な物が、この世界のどこかにあるんです」

「世界…ずいぶんとスケールがでかいね」

するとアカネの後ろで三人のハンターが足を止めた。

ルカはアカネの後ろに視線を向け「お、アコルじゃん」と気軽に声を掛けた。

アコル、ミニア、ライシンが立っていた。
アカネはそれに気付くと、買い物の邪魔をしないようにネックレス【フォモール】を元の場所に置いて、慌てて立ち上がった。

するとアコルとアカネの目がピタリと合った。

「あ、お前!!」アコルが最初に口を開いた。

一昨日、アコルがポラントで助けた女性であった。

「失礼します」

ポラントの時と同じようにアカネはアコルから逃げるようにその場を去って行った。

「なに?あんたアカネと知り合いなの?」

ルカがまるで不思議な物を見るかのようにアコルを見ながら言った。

「いや、ちょっとな…」

アカネに一冊の本が渡された。ライシンに言われ、ルカは栞が挟んであるページを開くと「ふむふむ」と文章を読んだ。

「ああ、もしかしてこれが例の魔物のどっかに付いてたわけ?」

「何でわかるの!?」ミニアは驚いた。

驚くのも無理はない、あのクリスタルのことはあの時戦闘に参加していた者しかしらないからだ。つまりルカは文章を読んだだけで当ててしまったのだ。

「やっぱりなんか知ってるな?」とアコル。

「へぇ、珍しく情報求めて来たわね。いつもなら「俺一人で十分だぁ」とか「お前の情報は役に立たない~」とか言うくせに、どう言う風の吹き回しよ?」

ルカはまったく教える気はなさそうだ。
それを見てライシンが「これは一刻を争う事態なんだ!さっさと言え!」

「ルディロスの八英雄の一人ライシンさん、ここは気ままに解決させましょう」

「なに!?」

「この【フォモール】を十万カルツで買って。そしたら教えてあげる」

「は?」アコルは唖然とした。

「畜生!てめぇもう許さねぇぞ!!」

ライシンが松葉杖を振り上げた。

「やめろっつの」アコルがライシンを蹴り飛ばし地面に倒れた。

「ミニア、お前今いくら持ってる?」

「二十万くらい…」

「じゃあミニアが買えよ」アコルは店に並ぶネックレス【フォモール】を手に取りミニアに差し出した。

「え~、なんで私なのぉ」

「仕方ないだろ、一刻を争う事態なんだから」

ルカも金欲しそうに手の平をミニアに差し出し、笑みを浮かべた。

「毎度あり♪」

ミニアはしぶしぶ十万カルツをルカに渡し、ネックレス【フォモール】を受け取った。

「さぁ教えてくれ、いったい何なんだこれは」ライシンがやっと立ち上がり、ルカに聞いた。

「ルナ村で今起きている事件知ってる?」ルカが三人に問う。

「ルナ村?」とアコルがしばらく考え「知らない」と答えた。

他の二人も同じような返答だった。

「今ルナ村で起きている事件は『倒せないモンスター』がいるって話しよ。しかも数が半端じゃないと聞いたわ。『ハッカーズ』と言うギルドチームがその内の一匹を仕留めて、そのモンスターから検出されたのが『青いクリスタル』なのよ」

                                 <第2話 終>

次へ




© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: