第5話【それは一通の置き手紙】

第5話【それは一通の置き手紙】


〔こんな形で手紙を残すことをお許し願いたい…〕


ジュウ


―――「大丈夫かい?」
アコルが目を開けると目の前には手があった。手を辿って顔を上げるとそれは何日か前、旅から帰ってきたばかりの村長の息子【アトス】であった。

「立てるかい?」

背後にはまだアメリタットが睨んでいる。そんな状況でアトスは笑顔であった。

「うん」

ミニアは泣いている、アコルの腰にしっかりとしがみ付いていた。アコルはミニアの体を支えながらゆっくりと立ち上がった。

七人のハンターがアメリタットに次々と攻撃を仕掛け始めた。空から小さな隕石が降り、大きな剣で斬り、補助魔法が絶え間なく唱えられ、爪がものすごい速さで鱗を削り、沢山の妖精【エレメンタル】がアメリタットを囲み、アメリタットは必死に炎と爪で対抗する。アトスはそんな七人を見ながら長々と呪文を唱え始めた。

「ミニア、泣くな!」

アメリタットの大きな叫び声がルディロス村に響く。

1人の大剣を持った男が、アメリタットの尻尾に弾かれ、アトスの前に転がってきた。

「アトスさん……」

「私に任せろ。君たちはあと少し、奴の注意を引き付けてくれれば助かる」

「わかりました」と立ち上がり、大剣を両手でしっかりと握り「このクリード、なんとしてもこのルディロスを守って見せます」そしてアメリタットと戦う仲間たちの中に再び戻って行った。

アトスの後ろで大きな声で泣きじゃくるミニア。アコルはそんなミニアの手を握り
「泣くな」と言った。

「ゲツヤ!回復頼む!」

クリードが大きな声で仲間の1人に指示した。ゲツヤと呼ばれた男はクリードの近くに寄り、【ヒール】でクリードの傷を回復させていた。

アメリタットを囲んでいる【エレメンタル】は次々と掻き消され、爪の武器は鱗の硬さに負け刃こぼれしている。少し離れた所で魔法を一生懸命唱えている女性には容赦なく炎が襲い掛かる。

これがハンター?すごい、すごすぎる。

「準備完了!みんな下がって!!」

アトスが叫んだ。アメリタットに懸命に攻撃していた七人はピタリと攻撃をやめて、素早くアメリタットから離れた。

アメリタットはそんな七人を見て何か感じたのか、すぐにアトスの方向に顔を向けた。

「いでよ!アヌビス!」

アトスの前に現れたのはモンスターのような、人間のような形をした【ガーディアン】であった。赤、黄、緑、青と言ったカラフルな服に、白い仮面、水晶のような丸い玉を3個、お手玉のように自在に両腕を使って遊んでいる。状況に合わないような気がするアコルとミニア。

「まだまだ!来い!エレメンタル!」

アトスがそう言うと赤、青、緑のエレメンタルが3匹ずつガーディアン【アヌビス】の横に現れた。世界中を旅したアトスの実力が、今発揮された―――



―――リクトの爪がアコルの頬をかすめる。

「遅いよ!」とリクト。

「くそっ!」

アコルは剣【バイヴ】を振る。しかしリクトは軽々と飛び跳ねて避けた。
リクトの爪が頭上から襲い掛かるが、アコルは素早く後ろに下がって避けた。

「やめなさぁぁぁ――――いっ!!!」

いきなりミニアの声が響いた。リクトの爪がアコルの額すれすれで止まった。
アコルとリクトの方に顔を向けた。

「間違ってるわ、間違ってる!何でこうなるのよ。別にあのクリスタルをいじらなきゃ良いんでしょ?ミクに手を出さなきゃ良いんでしょ?無駄な戦いはやめてよ!やめようよ!」

ミニアは顔が真っ赤であった。さぞかし怒っているのであろう。

「……ミニア」アコルは剣を引き、リクトに背を向け「やめだやめ」と言った。

「まぁ、ミクに手を出さないなら戦う理由はない」とリクトも爪をしまった。


気が付けば夕方になっていた。話しの流れでリクトの家に泊まることになり、ささやかな夜食をすまし、それぞれの毛布で体を包み、暖炉で炎々と燃える炎を見つめて、旅の理由をリクトに詳しく話した。

「ふ~ん、だからあんなにムキになったんだ」とリクト。

「そう、あのクリスタルが化け物を作ったってのが俺達の予想で、あのミクとか言う魔物も、今はおとなしくてもそのうち……」リクトはアコルがその後何を言うか予想ができたらしく、アコルの頬を強く摘まんだ「いててててっ」しばらく摘まんでいるとアコルはリクトの手首を掴んで、頬から引き離した。

「ミクはそんなんじゃない」リクトはそう言い手を元の場所に戻した。

「どうしてミクをそんなにかばうの?」とリクトの横で気持ちよさそうに眠るミクを見ながら言った。

リクトの眼に映る炎のオレンジ色。彼女は静かに燃える炎を見ながら思い出し、話し始めた。

「ミクはね、私が旅をしていた頃に途中で出会った魔物なの。ジュウ村ってとこから旅を始めて、アイテムを運ぶ船に忍び込んで、海を渡ろうとした時に檻に閉じ込められたミクを見つけてね」

「檻!?魔物が?」アコルは不思議そうに言った。

「そう。それで私はミクを眺めていたら、鳴き声と言い、眼と言い、尻尾と言い、なんかものすごく可愛くて、逃がしちゃおうって思っちゃってさ」

「待って待って」ミニアが話しを止める「その時ミクの額にクリスタルは?」

「なかった。私はうまく檻を壊して、ミクを袋に隠して、船が陸に付いた時に誰にもばれないように抜け出して、全てはうまく言ったわ。でも、それからまたミクと宛てもない旅を始まって、何日かした時、ミランディスって言う所で強い魔物に襲われて。私は血を大量に流すミクを目の前にして倒れちゃって、気を失って。」

「うっわ。それでよく助かったね」とアコル。

「そう、それが全ての始まり。あの時、私もミクも死んだはずなの。でも気が付くと、この家のベットに寝てて、包帯とか、丁寧に傷の手当てまでしてあって、ミクも無傷だったの」

「その時にミクの額にクリスタルが?」とミニアが訊く。

「うん。でも助けてくれた人は置き手紙だけを残して、今も帰ってきてない」

「置き手紙?」アコルがそう言うとリクトは立ち上がり、アコルのすぐ後ろにあった机の引き出しから1枚の紙を取りアコルに渡した。ミニアもアコルに寄り、一緒に手紙を見る。

『こんな形で手紙を残すことをお許し願いたい。あなたが倒れていたので助けて傷の手当てをしました。しかし私にはあなたを待つ時間も有余もなく、あなたの眼が覚める前に遠出をすることになってしまい、大変後悔することでしょう。あなたと共に倒れていた【ミクベニシア】は大変危険な状況で、クリスタルと言う物を使って助けました。そのクリスタルは今となってはその子の心臓。取り外せば命はないでしょう。そしてそのクリスタルは狙う者が多く、魔物はもちろんのこと、一部の人間もそれを狙っています。危ないと感じたらすぐにそのクリスタルを壊すことをお願いする。ムガ』

「ミクベニシア……なぜ偶然の出会いなのに、こいつの名前を……勝手に決めたのかな?」アコルが難しいことを考えてるような顔で言った。

「ムガ…ムガ…聞いたことないわ」とミニアも考える。

「だから謎だらけなの。でもね、このムガの言うとおり、ミクを見ると魔物は一目散に襲ってきて、1回だけだけど数人の強盗が来た時もあった。もちろん守りきったけどね。今回もあなた達が旅人を装ってミクを狙ってるのかと…」

「そんなの全然知らなかったし」とアコルが床に寝そべる。

夜空には満月が浮かび、窓から月の光が優しく部屋を明るくしてくれていた。

<第5話 終>

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