バル対策本部  元帥の間

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殺シ屋ニ安息ヲ




凄腕の殺し屋・・・今私が最も必要としている人物だ。


私の妹は殺された。妹には何の罪も無いのに


犯人の目星は付いていた・・・どこにでも居そうなただの不良


そんなどこにでも居そうなただのゴロツキに、妹の未来は奪われた。


警察は未だ犯人を割り出せず、手付かずな状態だ。


もう警察なんて当てにならない


そして、私は、Requiemという店を訪ねた。





殺シ屋ニ安息ヲ





「いらっしゃいませ、殺しの依頼ですか?」


店に入った途端、声が聞こえた。


とても澄んだ綺麗な声の女性


彼女は私を見ると優しく微笑んだ。


私はこの人がここの殺し屋だと思い、返事を返した。


「はい・・・沢村と申します・・・」


私は少し拍子抜けをした。


まず雰囲気があまりにも殺し屋という暗いイメージが無い


スッキリとした明るい雰囲気に、止め処なく音楽が流れている。


奥の部屋の座椅子に誰かが座っていた


高校生くらいの少年が目を瞑ったままMDウォークマンで音楽を聴いている。


彼は一体誰なのだろうかと、私は少し気になった


非情にくつろいでる所からして、客のようには見えなかったのだ。


「誰を、殺して欲しいのですか?」


先ほどの声の綺麗な女性が私に聞いた


「え、・・・あの、それが・・・・分からないんです」


そう、分からないのだ


分かっていれば、警察になんとかしてもらってる・・・


だから私はこの店に来たのだ


犯人の素性、名前などが分からなくても


その人物を完全に消してくれる殺し屋


それがここ・・・・Requiem


女性はニッコリと笑ってこう言った


「できるだけ特定をしていただければ、早く殺して差し上げれますけど?」


特定とは・・・殺して欲しい奴の居場所の事だろう


「えっと・・・すいません、この街のどこかには居ると思うのですが・・・」

「分かりました。では、ターゲットの身柄を分かっているだけ教えてくれませんか?」

「はい・・・どこにでも居そうな街の不良としか・・・」

「分かりました。これで大抵の特定はできます。ありがとうございました。」


女性は頭を下げ、微笑んだ。


本当にこれだけで殺してくれるのだろうか・・・


情報としてもぼんやりとしていて不十分すぎるはずなのに・・・


途端に私は不安になってきた



「あの・・・本当にこれだけの情報で・・・」

「心配は無用です。沢村様から頂いた情報からこの街の不良を皆殺しに致しますので。」


私は絶句した。


これが・・・殺す相手が分からなくても殺してくれる謎か?・・・


この女性はなんともサラリと言ったものだ・・・


街の治安はそれほど良いものではない・・・なら


少なくとも数十人・・・


確実な特定ができないなら、一人一人虱潰しに殺していく・・・


「そ・・・そんな事できるわけ・・・そんな簡単に・・・」

「大丈夫です。依頼は絶対成功させますので。」

「いや、それでは無関係の人まで殺すという事になるのですよ!?」

「そうでしょうね、ですが、沢村様が依頼したのですよ。このやり方が気に入らないのでしたらこの依頼はキャンセルと言う事で。」


キャンセル・・・私は・・・・妹を殺した奴に復讐をしたい


でもその事のために・・・無関係の人まで・・・いや、所詮この街の不良共限定だ


他にも恨んでる人だって居るはずだ・・・奴らは街のゴミなのだから・・・


私にはもう迷いは無かった


「お願いして・・・宜しいですか?」

「お心は決まったのですね?・・・では、3日以内にこの街の不良共を皆殺しに致します。」

「ほ、ほんとうに・・・皆殺しなんて、可能なんですか?・・・」

「居場所くらいは目星はついています。そう難しい依頼ではございませんので。」


女性は立ち上がって座椅子に座る少年を見た。



「依頼が来ました。ゴロツキ・・・この街の不良を皆殺し。良いですね?」


座椅子に座って音楽を聴いていた少年の目が開いた。


そのままゆっくりと立ち上がり、店の出入り口に向かって歩き始めた。


その少年の左手にはMDウォークマン、右手には銀色の銃が握られていた。


私は確信した。


「まさか・・・あの子がこの仕事をやるんですか!!!?」

「ええ、彼はこの店の店長ですし」

「あの子がですか!!?どう見たって子供ですよ!!?」

「16歳ですので、もう仕事ができる歳ですよ?」


私はこの女性が店長であり、この女性が殺しをやるのだとばかり思っていた。


少年は無言のまま私の前を通り過ぎていく・・・こんな少年に私は復讐を代行させようとしているのか・・・・


私は少年の肩を掴み、止めようとしたが、掴む寸前女性に「撃ち殺されますよ?」と囁かれた。


私は凍りついたように動けなくなった。少年が私を見ている・・・何もかも見透かされているような目だ・・・


少年はまた前に振り返り、イヤホンを耳に付けたまま店から出て行った。


「それでは彼も動き出した所ですし、報酬の話に移りましょうか?」


女性は微笑みながらそう言った。


「報酬って・・・あなたは心配じゃないんですか!?あの少年が殺されてしまう可能性だって・・・」

「殺せませんよ、彼は・・・彼には相手の命乞いの声すら聞こえないんですから。」

「え・・・まさかあのイヤホン・・・ずっと付けたままですか!?」

「そうじゃないと、彼は仕事をしませんので・・・」


私は訳が分からなかった。


普通、イヤホンなんて付けて殺しなんてやったりはしない。


周囲の音が聞こえなくなるからだ。相手が発する動作の音などが全く聞こえず


目や気配だけで判断しなければならなくなる・・・


それに集中する事だってできるはずがない。


自分も殺される可能性がある状況下で音楽など聴いてる余裕は無いはずだ。



私はこの仕事の達成より、少年の身を案じた。


私は取り返しの付かない事をしてしまったのではないか


もしこの仕事が成功したとしても大勢の人が死ぬには変わりない。


私は・・・少し早まってしまったのではないか・・・



私は女性と報酬の話を終えた後、「今宵は騒がしくなられますのでお早めにお帰りいただきますよう」と女性に言われ


私は帰路についた。


私の頭の中には様々な思いが過ぎっていた


私はどうしても妹の復讐をしたい・・・妹の恨みを晴らしたい・・・


だが私は・・・その事のために無関係な者まで傷つけようとしている・・・・


その夜、私は寝付く事ができなかった。






真夜中に銃声が聞こえる・・・ここは日本だ・・・


銃など所持しているだけで監獄行きだ・・・


少年は歩く・・・ターゲットを求めて・・・


今度の奴らは・・・当たりかな?・・・・


少年は裏路地で屯っている居る不良を見つける。


「おい!何ジロジロ見て・・・・ヒッ!なんだこいつ!!?」


少年の服はすでに返り血でドロドロになっていた。


少年は静かに彼らに問う。


「沢村という・・・娘を殺ったのは・・・お前らか?」

「し、知らねぇよ!!なんなんだよ!おま・・・え・・・」


不良の額のど真ん中には穴が開いていた。


そして鼻や耳から血を流れ出し、そのまま地面に倒れた。


不良達は逃げる、逃げねば必ず殺される。


逃げても必ず殺される。悔い改めても殺される。


それが少年の仕事だから・・・





「あら、沢村様、いらっしゃいませ」


私はあの店に来ていた。次に来る時は3日目のはずだったのに


私は少年が戻ってきて居ない事を悟った。


「まだあの少年は帰ってきてないんですね・・・」

「心配ですか?」

「そりゃぁ・・・心配しますよ・・・妹と同じ年頃の子が、私の為に人殺しに周ってるんですから」

「そうですねぇ・・・帰ってきたら着替えの服を用意しておかないと、きっとドロドロでしょうから。」

「いや、そんな事より彼の身の安全を!」

「信じてください。此方も殺し屋という稼業をやっている身ですので、依頼は確実にこなしますよ。」


女性は微笑んだ。あの少年を信頼しているのだろう。


そして必ず依頼を達成してくると信じているのだろう。


私は・・・私には何も出来ないのか・・・・


「待つ事です。彼を信じて、待っていてください。」


女性は先ほどとは打って変わって真剣な顔で私に言った。







少年は今日も右手に有る銀色の銃をチラつかせている。


次はこの店か・・・不良の溜まり場だな・・・



「沢村ぁ?・・・確かに俺ぁここ最近1人や2人女をぶっ殺したけどなぁ」

「そうか・・・・まぁいい」

「ってこんな事俺に喋らせたんだ、お前も死んでも・・・ら・・・」


今宵も聞こえる、銃の音が。


流れ出る赤い液体、滴り落ちる音。


嫌いだ。キライだ。


少年は血だらけの部屋でコンセントを探し、MDウォークマンの充電を始めた。






3日目、私はテレビのニュースで大量殺人の事を知った。


現場には僅かながらまだ血痕らしき物が映っていた。


あの少年がやったという事は、一目で分かった。


今日・・・あの少年が帰ってくる・・・



私は居ても経っても居られず、Requiemへと向かった。



「いらっしゃいませ、沢村様。まだ彼は帰ってきておりませんのでもう少々お待ちください。」


女性は微笑みながら言った。


「あの子は・・・本当に帰ってきますかね・・・」

「彼の帰る家はここしかありません。心配は無用です。」

「そ・・・そうではなくて・・・」

「フフ、彼の身を案じてくださるお客様は今までそう居ませんでしたよ?」


女性は少し悲しそうな顔をした。


私は・・・後悔しているのか分からない・・・でも


私はあの少年が心配だ。


「あの少年は・・・いつからこの仕事を?」

「・・・3年くらい前ですかね。」

「・・・13歳からですか?・・・義務教育すら終えてない・・・」


労働基準法がどうこうの話じゃない・・・異常だ


今のままでも16歳の少年が殺し屋をやってるなんて事、それ事体異常なのに


「あの少年に・・・家族は居るんですか?」

「・・・彼の家族は、音楽だけです。彼を癒し、衝き動かすのが音楽です。」

「そんな・・・」

「形だけでさえ、私は彼の家族には、なれないんですから・・・」


私は泣きそうになり俯く女性を慰めようとしたが


不意に店の扉が勢いよく開いた。



あの少年だった。


服は血まみれ、そして右手には何かを掴んで引き摺ってきている。


「おかえりなさい。そのお方は誰でしょうか?」

「・・・・ターゲットだ」

「・・・・・・またですか?」


少年は引き摺ってきたものから手を離し


店のテーブルにナイフが突き刺さったMDウォークマンを置いた。


引き摺られてきたのはどうやら男性のようだ。


腕や足からは血が出ており、意識も朦朧としている。


「沢村様、そちらのお方があなたが依頼した殺しのターゲットのようです。」

「え、・・・この男が?・・・でも、何で生きて・・・」

「MD・・・また壊されたようですね。・・・彼はアレが無いと仕事をしなくなりますから」


だから少年は殺さずここまで引き摺って、私に引き渡すつもりだったのか?


「彼は銃の音と相手が息絶える声はあまり好きではありませんので」

「・・・聞きたくないからここまで連れて来たという事ですか?」

「そういうことになりますね・・・この場合報酬は支払ってもらわなくても結構ですので、この方はどうぞ沢村様のご自由に。」


この男が・・・妹を殺した張本人・・・でも・・・私は・・・


「・・・・この男は、ちゃんと裁いてもらいます。」

「申し訳ありませんでした。そして今すぐこの店から出て行くことをオススメします。」

「え、出て行くって?私がですか?」

「彼はMDが無いと機嫌が悪いんです・・・って、その血でドロドロになった服で座るとお気に入りの座椅子が汚れてしまいますよ?」


少年は座椅子に座ろうとしたがそのまま停止し、着替えの為に別の部屋に向かった。


「では、沢村様。依頼は不達成ではありますが、またのお越しをお待ちしております。」


私は意識を失ってしまった男と共に店を出た。




私はまずこの男の手当てをし、男の意識が戻る前に警察に行った。


男は罪を認めたらしい、そして夜になるとずっと震えているという・・・


「精神状態がかなり不安定ですね、ずっと何かに怯えて・・・」と教えてもらったが


私にはその理由が分かる。


男は無期懲役で裁かれた。男は他にも殺人を犯していたらしく


死刑にならないだけマシだった。





私は後日、Requiemへと向かった。


どうしても・・・人として、お礼が言いたかったからだ。


「あら、沢村様。殺しの依頼でしょうか?」

「あ、いえ・・・今回はこの前のお礼を・・・」

「?・・・あの仕事は失敗したものですので、お礼など要りませんよ?」

「そ、それでも!ありがとうございました!!」


女性は微笑み、少年の方を見た。


少年は座椅子に座り、目を瞑りながら・・・


「あれ・・・」

「壊れてしまいましたからね。新しいのを大急ぎで買ってきたんですよ」

「そ、そのくらいなら私がお金を出したのに・・・」

「いいえ、沢村様にはお金を貰うわけにはいきません。それに、アレが無いと仕事をしてくれませんから」



私は、座椅子に座り、目を瞑りながら


左手に真新しいMDウォークマンを持ち、イヤホンから流れてくる音楽を気持ちよさそうに聴く



その少年に私は静かに礼を言った。





END




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