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Impression-紅蒼-
MISSON1
「あぁ、それが今回のターゲットだ。」
キングはそう言って紙を秋と剣に渡した。剣はなんだこれ、というような顔で受け取りその内容を見た。
「・・・ってか資料一枚?また前みたいにガセじゃねぇのか?」
「安心しろ。今回は確認済みだ。」
秋はふーん、と言いながら資料を見ていたが、参加メンバーが気にかかりキングに聞いた。
「キングー、ここ。これどういうこと?今回は、クイーンのケイのみ。しかも、博物館半径500m以内はナイトのみって。」
「そのままの意味だが?」
ケイとは、本名ケイト。クイーンのリーダーでキングの次にえらい人だ。前のミッションでも命令を出していたのがケイトで、メンバーからはケイの愛称で呼ばれていた。
「クイーンの情報隊も今回は出ないのかョ?」
剣は少し怒りっぽく言う。まぁ落ち着け、と言ってキングはイズナに何か言った。おっけー、とイズナはキーボードを打ち三人の目の前にあるスクリーンにある映像を出した。
「これが今回の標的のある博物館だ。警備は厳重、最低ラインは500m。それ以上は電磁波によりこちらの位置までばれる危険性があるからな・・・。」
なるほどね・・・と言った顔で剣は頷く。秋はいまいち意味が分からないのでイズナに聞いた。
「ね、どういうこと?」
「ほら、最近出た機械があるでしょ~?アイズキャッチとかいう機械。その博物館が早くにつけたらしくてね~~。情報の筒抜けがあるからとりあえずミッション開始の合図だけはケイにとってもらうんだよ~。」
「じゃあ今回はほとんど俺達が自分でしないといけないって事?」
「まぁそんなとこ~~。」
相変わらず、ふにゃふにゃというかへろへろというか、なんとも締まりがない話し方だな・・・、と遠巻きに聞いていた剣は思った。秋とイズナの話が適度に終わるとキングが少し笑うように二人に尋ねた。
「と、言うわけだ。無理ならいいが?」
その言葉に二人は顔を見合わせて鼻で笑うと自信満々にこう言った。
「ってか誰に言ってんのさ?」
「俺らに盗めねぇモンなんてねぇよ。」
「ふ・・・。そうだな。頼んだぞ。」
『ナイト・・・アーユーレディ?』
イヤホンから聞こえるケイトの声。二人がYes sirと、と答えるとOK,と返事が返ってきた。博物館からおよそ600m。セルア銀行近くの公園で秋と剣はミッション開始の合図を待っていた。
「ま、でたとこ勝負だな。」
「うん。どうにかなるよ。てかどうにかさせよ。」
『ストップ。ナイト・・・レッツゴー。』
待っていた、開始の合図。二度目のYes sir、という言葉を最後に通信用のイヤホンをはずす。
「一応ジャックかビショップ・・・どっちでもいいからこれればよかったんだけどな。」
その言葉に秋はなんで?と小声で聞いた。
「保険さ、念のためってやつ。」
「負ける気?」
「ばーか。一応ってやつ。言ったろ?俺らに盗めねぇモンなんてない、ってな。」
そうだね、と言いながら二人は博物館の方へ歩き出した。腕時計は夜中の一時を差していた。イズナの情報によれば、一時三分あたりから五分にかけて夜勤の交代があるらしい。あとは防犯カメラの視覚をついて侵入しろ、とのことだった。
「あとは運次第、ってやつ?」
一時二分、耳を澄ませば警備員の数人が話しているのが分かった。話の内容から察するに、もうそろそろこの場から切り上げてくれるらしい。話し声が遠ざかるのをを確認してから二人はうなずいて少し後ろに下がってから助走をして壁を蹴って直角に走った。そう高くはない壁だが、一番上に鉄線が引かれているのでそこを助走なしで行くには無理がある。しかし壁の上で助走も出来ない。
そこで二人は登った勢いのまま一番上の壁の端に手をつきそこから腕の力だけで高く飛び上がると一回転して壁の向こう側に着地した。見事なアクロバットだが、二人にしか出来ない芸当だ。二人は盗賊を始める前から見の軽さは自信があったという。
一時四分、そろそろ警備員が戻ってくる。茂みの陰から博物館の中庭に進むと一箇所だけ、しかも見つけにくいところにある通気口から中へ入った。
「確かターゲットは二階フロアだったな。」
剣の言葉に、秋はうん、とうなずく。秋を先に歩腹前進ですすんだ。暗闇は動きづらい、せまい通気口ならなおのことだ。
二階までようやく登りつめ、ルルブの指輪の右隣の部屋の通気口の金網を開けた。警備員のための足元の明かりだけが怪しく光るのが見える。ルルブの指輪のある部屋は、この部屋からのドアからしかいけない。
「センサーに気をつけろよ。」
「ん。」
ところどころにある赤外線センサーは、見えはしないが線に触れれば警報装置が作動してしまう仕組みだ。二人が注意深く進んでいると、突然警報ブザーが鳴り、二人はなんだ、という顔でお互いを見た。
一階から階段をかけ上がる音が聞こえ、二人は開きっぱなしの通気口にもどり、金網をしめた。警備員達が部屋に入ってきて誰もいないことを確認して、次の階へ向かう。危機一髪・・・とため息混じりの声を出しながら剣は金網から耳を済ませた。カチャン、という鍵を閉める音が聞こえ、とりあえず二人は数分、息を潜めた。閉められたのはもちろん、ルルブの指輪へ続くドアの鍵だ。その後、沈黙を破ったのは秋だった。
「どーする?こっからしか隣の部屋いけないよ。」
ポケットからガムを二枚出し、一枚は自分の口の中へ、そしてもう一枚は剣に渡した。手渡されたガムを頬張り、剣は提案する。
「つかわれてない・・・通気口が奥に続いてるよな。」
「ん~、でもターゲットの部屋に行けたとして、その出口はどこにあるのさ?調査であの部屋には見た目、金網もなかったし。」
「だよなぁ。」
ガムをかみながら秋はそうだ、と思いついたように言った。
「降りて直接かぎ開けちゃえば?」
「・・・ま~~、一応見て見るけど。」
よっ・・・、と言って金網を外し逆さまになって通気口から顔だけ出すと、ポケットからイズナに渡されたばかりの特製スコープをかけた。赤外線のセンサーを探すのがめんどくさいときにだけ使うようにしている。こういったものを開発するのもイズナの仕事だ。
スコープからみた部屋は赤外線センサーばかりだった。特に隣の部屋へ続くドアの前は、小さな子供でも通れるか通れないかがやっとの大きさしか開いてない。
通気口に頭を戻しため息をつく剣を見て秋は聞いた。
「どうだった?」
「ムリ。増えてる、センサー。」
「ん・・・、ゲートなら・・・行けるとは思うけど・・・出れないしね・・・。」
「分かってる。もう今日一回使ったからな。」
秋の紋章gateは、「空間」そのものを移動できる能力だ。上位紋章といわれるこの紋章だが、仲間の一人が見つけた難点がひとつある。それは「一日二回まで」という回数制限だ。二回以上の使用は紋章師自身の体、つまり秋の体にに負担をかけてしまうためだと聞くが、秋もたった一度一日二回以上使ったことしかない。その時は死ぬほどつらかったのを覚えている。それ以来二回使うことはないのだけれど。
今日の朝、訓練用のルームマシーンが故障して秋が閉じ込められたので、仕方なく部屋から出るためにgateを使ったのだ。こういうときは、機械仕掛けの船がうざく思える。
「ま、仕方ないな。」
狭い通気口の中でごそごそしながら皮手袋をはめて剣は言った。
「コンピュータルームまで行って解除するしかないか。」
「俺がいこっか?」
ばぁか、と言いながら剣は歩腹全身でうしろに下がった。
「お前機械音痴だろ。・・・じゃあ・・・。」
腕につけている時計を見ながら、剣は“十分以内に戻らなければ作戦中止。すぐに船に戻ること”と約束して。コンピュータルームのあるフロア1まで通気口を通って行ってしまった。
狭く暗い闇の中で、秋は一人、時計を見ながらセンサーの落ちるのを待った。時折、警備員の話す声や走る音が聞こえるくらいは静かなものだ。
そんな静かな暗闇にいると、昔を思い出す。秋は顔を伏せ、今この瞬間だけに集中しようと必死だった。
「大丈夫。ここは平気だ。」
自分に、言い聞かせるように。
「いっ・・・。」
大声を上げそうになり、慌てて口をふさいでから耳を澄ました。フロア1、通気口内では 剣がコンピュータルーム目指し、進行中だった。フロア2よりも通気口は広いが釘などが時々飛び出していて、かなり危険だ。さっきの自分の声に誰も気づいていないことを確認してコンピュータルームの上までの通気口を急いで見つけようと必死だった。
「・・・ここ・・・か。」
金網の上から覗くと、警備員が一人いるだけだ。足で金網を蹴り飛ばしその音で上を向いた警備員をそのまま蹴るとすぐにコンピュータに目をやった。気絶した警備員を横目に見て、またすぐに画面に目線を戻す。
「システム3-C・・・。旧型か。」
余裕・・・、と思いながら時計を確認する。あと3分・・・、なんとかなる時間だ。ガムを噛みながらキーを打った。
「よし。これで・・・。」
「誰だ、貴様。」
巡回中の警備員だった。剣は舌打ちをすると、パソコンの操作をやめ手を上げるふりをして警備員を殴り飛ばした。警報ブザーが鳴り、最後の「ENTER」の入力を残したまま剣はコンピュータルームを後にした。
こうなったら自分が囮になり、秋をこの博物館から出さなければ。なるべく目に付くような場所を走りながら剣は思った。それにしても・・・なぜここまで失敗したんだ。はじめのセンサー・・・あそこであれが鳴るのは、俺達のほかに誰かいるってことなのか?
「なんだ・・・、コレ。」
警報ブザーが激しく鳴り響く中、秋は未だフロア2の通気口内にいた。やまないブザー。まさか剣がつかまった・・・いや、それは有り得ない、と秋は自分を否定するように思いながら少し後退する。
“十分以内に戻らなかったら作戦中止”
剣の言葉を思い出しながら、時計を見てあと一分あることを知りにやっと笑った。さっきの剣と同じように逆さまに通気口から頭だけ出す。相変わらず、やかましい警報ブザーは鳴り止まないが赤外線センサーの装置の昨日が止まっているのが分かった。
「ん?じゃあ剣は成功したのかな?」
床に静かに着地して周りを見渡すが、さっきまで聞こえていた警備員の足音すら聞こえず、秋は意を決してルルブの指輪がある部屋のドアの開けた。
少し先に、薄くライトアップされたガラスケースに入った資料の写真で見たのと同じルルブの指輪が見えた。秋はでわ、と少し楽しそうに声を漏らすとガラスケースを慎重に外した。ルルブの指輪を手に取った瞬間、パタン、とドアを閉める音が聞こえ秋はそどろいて振り向いた。
「・・・っ。」
息切れとも取れるなんとも言えない音が聞こえ、秋は一瞬声を失う。そして気を出そうとした時、入ってきた男に口をふさがれ、もうひとつある奥の事務員用の部屋(今はほとんど使われていない)に押し込まれた。
「うぐっ。」
「追われている。ばれると・・・まずい。・・・だから・・・静かに。」
途切れ途切れに言う言葉、秋の顔の近くで言われたので秋はその男が切羽詰った顔なのが見えた。秋がうなずくとようやく口から手を離された。民族衣装のような服で、秋もいつか文献で見たことがある気がした。
ルルブの指輪の飾ってあった部屋に警備員が入ってきて、ルルブの指輪がないことに気づき、外が騒がしくなる。
五分ほどしてから、ようやく警備員もいなくなったようだ。秋はそこまで大きくない声で聞く。
「もう話してもいいかな。聞きたいことが山ほどあるんだ。」
「構わない・・・。俺も・・・聞きたいことがある。」
男はさっきとは違った口調で、ゆっくりと話した。まるでふたりの会話を待っていたかのように、警報装置が止まり一瞬、静かになった。更に大きな声は出せないが、それでも二人は話した。
「どうしてこんなところに?」
少し警戒しながら秋が聞く。
「それは・・・。多分似たような理由だろう。・・・そっちと。」
男の言葉に、うん、と一呼吸おいて秋は言った。
「だろーね。夜中のこんな場所にいるんだしね。」
ポケットに入れていたハンカチでルルブの指輪を包みながら納得したように秋は言った。あ、それから・・・と秋は更に質問を続ける。
「赤外線センサー・・・切ったのはアンタ?」
「システムは・・・あと押すだけだった。・・・だから押したらセンサーが消えた・・・。それだけだ。」
じゃあ剣は作業中に見つかったんだ・・・と声に出さずに心の中で考えながら秋は指輪を包んだハンカチを無造作にポケットにしまった。宝石とかをこんな風に扱うなんて、昔じゃ考えられなかったなぁ・・・とこの状況でそんなことを考えた。
「最後の質問。アンタは、何者?」
少し笑ったように見えた男の顔がすぐにもとの無表情に直る。そして口を開いた。
「いい質問だが・・・。それは答えられない。・・・答えてしまうことは・・・身を明かしてしまうことだから。」
「そっか。」
「俺からも聞きたいことが・・・。ここに、ミウルの涙と評された宝石があると聞いた。・・・どこにあるか知らぬか?」
ミウルの涙・・・、確かイズナがくれたあのはんぺらな資料の中に同じ名前を見た気がする。確か・・・。
「・・・フロア5。五階のB棟だ。」
「そうか・・・すまない。」
男はそう言うとドアを開けようとするので、秋はダメだよ、と言ってドアの前に立った。
「俺がここのものを盗ったから、今このフロアは聞こえなくても警備員がたくさんいるはずなんだ。あんたが見つかれば俺も危険になる。あんたのせいで俺が捕まるなんてまっぴらだよ。」
確かに、その通りだ。男がしかい・・・、と言いそうになると秋は笑って言った。
「五階に行きたいなら、俺が連れて行くよ。その代わり・・・逃げるのを手伝ってくれるならね。」
どうして・・・、と男は聞き返しそうになったが、秋の顔を見て何も聞き返せなくなった。全て悟ったような目で、自分が見透かされているような気持ちになった。秋はう~ん・・・と考えて答える。
「俺も用があるんだ。その部屋にね。」
「協定を結べと?」
うん、と秋はまた笑顔で頷いた。
「悪くはないと思うんだ。俺はアンタを安全に連れて行く。アンタは俺を連れてここから抜け出す。簡単でしょ?」
男は考えて一言言った。
「方法が何でもいいのであれば。」
「それはもちろん。俺だって方法は何でも良くないと困る。」
なら・・・と男は秋に右手を差し出した。
「環だ、よろしく。」
「こっちこそ。俺は秋。それじゃ、時間も詰めてきてるし早々に行きますか。」
環自身、このときなぜ手を出したのかと思う。多分、さっきの目を見たからだと、根拠のない確信を持った。
秋は指を鳴らそうとして、あっ、と慌てて環に言う。
「服、・・・服つかんで。でないと飛べないから。」
「飛ぶ?」
「いいから。」
裾を環がもったのを確認して、指をパチンとならして秋は言った。
「gate。」
淡い光に包まれ、二人は消えた、ただそこは静かに、何事もなかったかのように、部屋は佇んでいた。
「連絡は?」
物陰に隠れながら、剣はイヤホンを耳につけて焦るように聞いた。イヤホンから少しノイズ音の後、イズナが答えた。
『いいや~。連絡はないよ~。見つかったって言う連絡もね~。』
「十分たっても帰らなかったら作戦中止っつったのに。」
独り言のように言った剣の言葉を聞いていたのかイズナが少しからかうように言った。
『じゃあキミだけ逃げ帰ったの~?』
「違うっての。ビショップとかジャックとか、なんか使えるやつはいないのか?」
『何人かはいけるけど・・・、秋がどうなってるか分からない以上、侵入は許可できないよ~?』
ちっと、毒づくように剣は舌打ちした。ため息をついて剣はじゃあ、と言った。
「とりあえず俺は待ってみる。秋にはまだgateが残ってるわけだし。もしなんかあったら連絡頼む。」
『了解~。』
イヤホンのスイッチを切り、剣は再び博物館のほうに向かって歩き出した。500m、という最低ラインを守り少し離れたところから通信をしたのだった。警備員をまいて、ここまで逃げてきたはいいが、肝心の秋は逃げてきてないようだった。
「そりゃ慌てるっての。」
警備員が警戒している以上、外から再び侵入するのはほぼ無理だった。博物館の塀の周りを歩きながら剣はじっと博物館を見た。
「無事でいろよ、秋。」
そう、まだgateが残っている、ハズだ。ただ、gateを使ったらもう出てきていいはずなのに一向に出てくる気配はない。なんかトラブルに巻き込まれたな・・・と心のどこかで思いながら剣はまた博物館の周りを歩き出す。
「ここは・・・。」
環は服をつかんでいた手を離し、あたりを見渡した。驚いている環を見ながら、秋は何事もなかったように言った。
「フロア5、ここに来たかったんでしょ?」
「あなたは・・・紋章師だったか・・・。」
「まね。早く探して。ここも安全だなんていえない。」
「分かっている。」
ミウルの涙は、宝箱のようなものに入っていた。環はガラスケースを外し中の宝石を手に取ると、それを握り締めてポケットにしまう。捜し求めていた、一つのカケラ。
秋は環に背を向け、ある一冊の本を見ていた。強化ガラスに入って、しかもしっかりと接着されているため、今は手を出すことは出来ないが、秋は触れない本を見てガラスケースに手を当てた。ずっと探してたんだ・・・、きっと今誰かに何、と聞かれればそう答えたはずだ。とても大切なものだから。
「やっぱり存在してたんだ。」
しかしこの強化ガラス、今持っている道具では外せそうにない。少なくとも、もっとちゃんとした装備が必要だった。
「ここにあるならそれでいい。誰にも・・・見られないなら。」
中を見なければ、それでいい。少し鼻を啜っているとドアが開いて警備員たちが部屋に入ってきた。秋はニット帽を深くかぶり環の方を向いた。環はなるべく暗闇に行き、警備員を横目で見た。
「きさまらか、盗賊め。」
十数人はいるだろう、秋も環も息を飲んだ。
「確か・・・、俺はここから逃げることが交換条件だったな。」
秋だけに聞こえる声で環が聞いた。え?と秋が聞き返すと、環は右肩にかけていた布をはずした。
「後ろの窓・・・そこからどうにか逃げれるはずだ。・・・それまでここは俺が。」
「は?」
環は左手で自分の右肩をつかむと叫んだ。
「drop。」
その瞬間、上から水が勢いよく降ってきた。
「なんだ、スクリンプラーの異常か?」
警備員たちはそう叫びながら目を閉じる。環はまだ後ろにいた秋に言った。
「早く。・・・この力では、足止めしか。・・・約束は守る。クワル族は死んでも守るのが信念だ。」
溢れ出す水は、このフロアに次第に溜まっていく。秋はさっきまで見ていた本を見て、これ以上水が降れば本がぬれて人目についてしまうことに気づいた。それにどうやったって、環は助からない。ここから二人が安全に、且つ本も無事に済ますには自分の紋章gateしか無理だ。しかし今日はもう二回使った、つかえば三回目になる。
「無理するしかないね。」
ぎゅっと環の服をつかむと、心臓がズキッと痛んだのが分かった。体は拒否してる。それでも秋は無理やり指を鳴らしてかすれる声で言った。
「・・・gate。」
時計を見て、剣はまた博物館を見る。さっきから同じ行動を繰り返していた。博物館から少し離れた公園から見ると静かそうに見えるが。もう三十分以上経っている。さすがにこれ以上は秋でも危ないか・・・とイヤホンのスイッチを再び入れようとしたとき、ピリっと何かを感じgateが開く時の特有の光が見え、剣は慌てて光の方へ走って行った。
「・・・大丈夫か・・・。」
環の心配そうな声に秋は平気・・・と立ち上がろうとしたが足に力が入らず環の方へ倒れこんでしまった。
「秋。」
聞き覚えのある声に秋は重い体をごろん、と横に動かした。朦朧とする意識の中で剣の姿が見え精一杯の笑顔で手を振る。剣はそんな秋の姿と、隣にいた見知らぬ民族衣装を着た男を見て怒ったように言った。
「秋に何かしたのか?」
「俺は・・・。」
「違・・・、違うよ。剣。」
体中のあちこちが痛い。目に見える傷はないが、体の内側から痛さを感じた。頭が割れそう・・・それに吐きそうだし・・・、そんなことを思いながら秋は言葉を続けた。
「助けて・・・くれたんだ。その人が。」
環ははっとして違う、と言いそうになったが秋は静かに、という目で環を見た。
「だから・・・、その人のせい・・・。ないよ。ちゃんと・・・ぬす・・・。」
秋は目が霞み、自分の手を固く握って最後に言った。
「だから・・・ミッション完りょ・・・。」
最後まで言葉は続けられず、秋は目を閉じた。ただ眠っている、力ない吐息だが死んではいない。それを確認して剣は起こさないようにおぶり、環の方を見て聞いた。
「一つ聞く。お前は敵か?味方か?」
「・・・彼の敵ではない。」
環は秋の顔を見ながらつぶやくように言うと剣は顔をふっと緩めて歩きながら環に言った。
「なら来いよ。とりあえず、こいつの味方なら、敵じゃなさそうだしな。」
―ミッション1 完―
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