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Impression-紅蒼-
MISSION2
キングは環を見ながらそう言うと席を立った。
「しかい・・・なぜ盗みなど?クワルの戦士は誇りに高いと聞くが・・・。」
「それは・・・。」
「あ~、つかれた。」
環が理由を言おうとした時、剣がブリッチに入ってきてそう言うと椅子に座った。イズナはそんな剣を見てつぶやくように言った。
「秋ちゃん置いて行ったくせにねぇ~。」
「だっ・・・。だからあれは違うって言ってんだろ。」
まったく・・・俺のせいじゃないっての・・・と言ってる剣に、さっきの話はまたあとで、とキングは環に行って剣に聞いた。
「秋はどうだ?気がついたか?」
「いや、全然。とりあえず氷枕して・・・って感じだけど。痛いって魘されてんだけど見た目怪我はしてないしさ。」
「精神的なものか?」
「ん~、どうだろうな~。内臓も少しやられてるみたいだし。あぁなったのはいつからだ?」
剣は環の方を向いて聞いた。環はまさか自分に話題が振られるとは思っていなかったのか、少し驚いていたようだったがすぐに答えた。
「あの人も紋章師だろう?たしか・・・ニ回目・・・あの博物館から飛んだときにあぁなっていた。」
「あいつ限界地突破したんだ。一日に二回が限界・・・だし・・・。だから・・・。」
ん?という顔で剣は話を止める。キングも気づいたのか二人が環の顔を見る。剣は環に聞いてみた。
「マテ。今のどういう事だ?」
「いや。だから二回の紋章を・・・。」
「違う、その前。あの人も・・・って。お前も紋章師?」
あ?あぁ・・・と環は頷く。
「言ってなかったか?」
右肩に掛けてあった布をはらりと取ると環の右肩にはしっかりと紋章が彫られていた。青色で彫られた紋章
。
「これは・・・中身の形見だ。」
そう言って環は肩に布を戻していると、キングと剣は頷きあった。キングはそういえば・・・と思い出したように言った。
「さっきの話がまだだったな。なぜ盗賊に?」
「長い話になる。」
「確かクワル族は一年ほど前に焼き討ちにあったと聞いたが?」
「たしかに。」
「一族の敵討ちとか?」
剣の言葉にいや、と環は否定して話し始めた。クワル族の末路を。
クワル族は。五百年以上前から生き残っている部族で誇りを大切にしている部族だ。絶対神クイルスを信じ、神の元で皆が暮らし、そして死ねば神の加護で神の側に仕えられる、と言い伝えられてきた。一年前の焼き討ちにあうまでは幸せに暮らしていたのだと。村の焼き討ちは他の民族との衝突から起こってしまったのだと彼は話した。
「敵討ちなど、誰も望んではいない。・・・村が落とされたこと・・・一族が死んだこと・・・それは運命であり・・・天命であったのだから。」
「じゃあ・・・?」
「焼き討ちがあった後、どこを探しても一族の宝七つがなくなった。」
「七つ?」
剣は一体何のことだ、という顔で聞くと環は首にかけているネックレスと博物館から盗んだミウルの涙をポケットから出してキングと剣に見せた。ネックレスの方は赤色、博物館方盗んだ方は紫色だ。
「これが七つ秘宝のうちの二つ。残り五つを探し・・・それを一族の墓に弔ってやりたい。それが・・・生き残ってしまった俺の役目だと・・・思っているから。」
二つをしまうと、環は続けて言った。
「あの人のお陰で助かった。感謝している。命の恩人だから。」
「あとの五つの行方は?」
キングの質問に環は首を横に振った。
「分からない。が、探してみせる。そう誓った。」
一族の墓の前で、そう約束した。環のその眼を見て、キングは納得したように提案する。
「どうだ?一緒に盗賊でもやってみないか?」
突然の誘いに環は驚く。剣が付け足すように言った。
「この船はいろんなやつらがいる。いろんな事情のやつらがさ。だから身を隠すことができんだよ。お前はお前の探し物が見つかれば船を降りる。それまでは全体の仕事を手伝う。そういうルールがあるんだよ。」
ま、クワル族の誇りがどうとかって言われるとどうとも言えないけどねぇ~、とイズナが独り言のように言ったのが聞こえ、環は少し間を置いてため息のような笑いをしていった。
「意地を張るのはもうやめている。・・・面白そうだからその提案に乗ろう。あの・・・秋にはまだ貸しもある。」
「決まりだな。さて・・・どこのチームに入れたものか・・・。」
キングがそう言ってると剣は何言ってんだよ、と言って席を立ち上がるとブリッチ出口のドアの前で言った。
「ソイツはナイト。ハイ、決定。んじゃ、俺秋のとこ行ってくるわ。」
それだけ言うと剣はブリッチから出て行ってしまった。キングが少し笑ってイズナに配属の説明をしているのを見て、環は一言つぶやく。
「俺は彼に嫌われているのだろうか?」
「あんなもんさ。それにな、ナイトはあいつと秋のチームだ。あいつなりに、お前を仲間とそう言ってるようなもんさ。」
「・・・なら良いが。」
息を切らして走る。走っても走っても、どんなに走ってもなかなか進まない。もうこれ以上ないくらい走ったのに、疲れたのに。どうして逃げなきゃいけないんだ。・・・何から逃げてる?
『成功だ。これが人類の夢になるぞ。』
声が聞こえた。誰だったっけ。
今度は体がふわふわ宙に浮いているような気分になった。
『あとはコレさえ成功すれば・・・。』
何か嫌な感じ。秋は、この光景を知っている。このあとは・・・、思いだしたくない。思い出すと・・・壊れる音が聞こえそうで。
「っ?」
ゆっくり目を開けると、自分の部屋の天井が見えた。秋はどうしたんだっけ・・・、と考えながらもう一度目を閉じようとした。しかし、さっきまで起こっていたことを思い出し勢いよく起き上がろうとして、胸が痛み、またベットに転がってしまった。
「起きたかョ。お前無茶しすぎだっつうの。」
顔だけ横に向けると、剣が林檎を頬張りながら椅子を後ろ向きに座って背もたれに頬づえをついて座っていた。秋はうん・・・と言って起き上がろうとしたが剣がいいよ、と言ったので寝たままの状態で話すことにした。
「十分経って帰ってこなかったら作戦中止っつったよな。」
声の感じからするに怒ってる・・・、と感じながら秋はうん、と頷く。剣の言葉はいつもより刺々しい。
「1人で盗れるとでも思ったか?」
「・・・違うよ。」
「あそこは警備が厳しい。俺達もそれ分かって行っただろ。自惚れてた?」
「・・・ううん。」
「無茶は止めろ。地震は身の破滅を呼ぶぞ。」
「うん。分かってたよ・・・分かってるつもりだった。もうしないよ、こんなことは。・・・そだ、一応盗ったんだ。ルルブの指輪。」
ごそごそと秋はポケットから出すとそれを剣に渡した。怒られるのは覚悟の上で、秋はおこってもいいよ、と言った。剣は笑って秋の頭の上に手を乗せて言った。
「ミッション成功。良かったな。」
思いもかけない言葉に秋はうん、を言った。
「そう言えば、お前一週間は待機ってさ。」
「何で!?」
「gateの限界地突破。内臓が少し弱ってるんだ、多分空間移動ってのは体内に負担がかかるんだろ。治るまで絶対安静。キング命令な。」
秋は少しむくれたが、むくれてもダメ、と剣がなだめ秋は残念そうにため息をついた。剣は椅子から立ち上がり秋に聞いた。
「腹減ってるだろ。粥くらいなら食えるよな。」
「うん。」
部屋を出ようとしてそうだ、と剣は思い出したように言った。
「それからあの環ってやつ。俺達のチームに入ることになったからな。」
「え?」
「だから、あいつも俺達の仲間ってこと。」
分かったか?と聞く剣に、秋はうん、とうれしそうに答えた。そんな秋を見て、少し笑うと剣は粥を取りに部屋を出て行った。秋は少し無理をして左手を支えにして、体を起こすと壁に寄りかかるように座った。
さっきの夢は一体なんだったのだろう・・・。夢は一体、何を伝えたかったのか。
秋には三年前以上の記憶がない。だから、あの夢がどんなに悪い夢だとしても、きっと自分は、うれしくて期待してしまう。何かを。
「書類整理~?」
剣から(実際はキングから)待機命令を受けて三日目。さすがの秋でも、三日間部屋でじっとしていてはストレスが溜まるというものだ。そこでキングに相談してみると、今までヴォイエッチが盗んだ品などの書類の整理をしておけ、という命令が出された。
「不服ならあと四日、部屋でおとなしくしているんだな。」
キングの言葉に秋はこころの中で悪魔だ、と思った。
「どうするんだ?」
「~~・・・。やるよ、やればいいんでしょ。書類整理。」
渋々秋は承知してブリッチを出ると船の最下部にある資料室に向かった。資料室には今まで盗んだ品が飾ってあったり、貴重な宝の資料がたくさんある。普段はクイーンの仕事だが、ここ最近のデータ量が多いため、資料の整理がされていないため、中は相当ぐちゃぐちゃのはずだ。
ヴォイエッチの本船、つまりこの船は見た目広告船のようになっている。秋と剣がシュウ・リュウとしてDay timeというアイドルの活動をしていけるのは架空のBy Nightという会社をヴォイエッチが作ったからだ。この船はBy Nightの、つまりDay Timeの宣伝としての船として、そしてその影で盗賊ヴォイエッチの本船として使われているのだ。
この船は全ての階を通じてエレベータの移動をする。最下部は資料室とクイーンのホーム(他の部隊への指示のできる通信機器の置いてある部屋)がある。更に一つ上にはビショップ・ジャックの鍛錬場及び医務室があり、三階に上がるとブリッチ。そして最上部に移住区がある。
移住区には盗賊ヴォイエッチのメンバーが住んでいるが、住んでいるのは秋・剣・キング・イズナ・そして常に全員に指示を出すケイト、という少女の五人しか住んでいない。その他のメンバーは必要な時以外は町で普通に一般人のように暮らしている。
「ま、それも少ないぞ。確か・・・ジャック、ビショップは全部で8人。クイーンは四人。お前は船に住むわけだから、10人ぐらいぐらいだよ。町にいるのは。」
街中を歩きながら剣は環に言った。秋が動けないので盗賊の仕事は今週は休みだが、これからなかまになるんだから町の様子でも教えてやれ、とキングに言われ船を降り二人町に来ていた。
「ジャック、ビショップは・・・町での戦闘員みたいな感じだから町を変えるときにだいたい辞めていくんだ。」
「8人というと・・・多いのか少ないのか分からない数字だな。」
「盗賊としては・・・多いんだろうけど。実際メンバーは住んでる五・・・じゃなくて六人だからなぁ。別に戦うのが目的じゃないし。」
っと、と話を途中でやめ、剣はカフェを見て環の顔を見て笑って言った。
「そろそろ座って話そうぜ。人と待ち合わせしてるし。」
「待ち合わせ?」
店に入り、店員が何名様ですか?という質問をする前に剣は待ち合わせだ、と言って店の一番奥に入った。環が剣の後についていくと、奥の部屋にすでに女性が座っていた。
「ハァイ、剣。」
手を振って女が言った。二人が椅子に座ると、女は環に右手を出して笑顔で言った。
「はじめまして、私はエリー。ヴォイエッチのクイーン配属。よろしく。」
「どうも。」
環は握手はせずに頭を軽く下げる。エリーは気にせずにパソコンのスイッチを入れる。クワル族は自分の親族や尊敬に値する人以外には握手はしない習慣があった。ただ、環自身あの時、秋に初めて会った時だけ、あの時だけ初めて会った人に握手をしてしまった。今は助けてもらったわけだし、感謝しているがなぜあの時握手したのか、環自身にも分からなかった。一応その理由もエリーは分かって別に機嫌を損ねなかったのだろう。
「エリーはクイーンの中でも体調管理と紋章についての資料をまとめてる。一応仲間になるんだからこれ位は我慢してくれよな。」
「別に何もしないわ。ただあなたの紋章について教えて欲しいだけ。」
環は別にそれは構わないが、と口を濁す。何をどう話せばいいのか、今まで話したこともないから分からない。エリーはそうね・・・と言いながら一枚のMOをパソコンに入れた。
「じゃあ剣が説明してあげればいいじゃない。仲間なんだから、相手の聞くだけじゃなくて、説明してあげなくちゃ。」
「イイケド。」
「じゃあ話す前に・・・。」
紅茶を三人分頼み、エリーはお茶をもらうとそれをテーブルに置いた。今度は部屋の壁側に行くと分かりにくいが壁に切れ目のあるところを探しそこを奥に押し込んだ。するとドアのような壁が上から降りてきて部屋が巨大な密室部屋になった。外から見れば、ただの行き止まりだ。
「これでいいかしら。聞かれたらキングに怒られるだけじゃすまないもの。」
じゃあ話していいわよ、と言ってエリーはその長いブロンドの髪を右耳にかける。おう、と答えて剣は話しはじめた。自分の紋章について。
「紋章はmoon、効果は・・・ん~。物体の構築。頭ん中で形を考える、なんでもいい。複雑でなければ。そういうものを、作り出す。それが能力。」
「いい能力だな。」
環の言葉にそうでもねぇよ、と剣は言う。エリーがそうね、と付け加えるように言った。
「moonの規約は夜。夜しか使えない紋章。日が沈んで、昇るまでのその間だけよ。大変みたいよ~。」
「まぁな。結局紋章を使いこなせないってことさ。」
紅茶を飲みながら剣はさらりと言う。そうだな、と環は頷きカップを手に取った。何か考えてから紅茶を飲まずにカップを置いて口を開いた。
「紋章はdorp。詳しく試したことがないので分からないが、今のところ分かっているのは水を操ることだけだ。」
ふぅん、と言いながらもエリーは喜んで聞いた。更に環は続ける。
「水は操るだけ。作り出すことも、失くすことも出来ない。」
「水だけ?不純物は?」
エリーはパソコンのキーを打ちながら聞く。器用なもんだ、と感心しながら剣は紅茶を飲む。とりあえず、聞きたいことは多分エリーが聞くだろうから今は何も言わないでおいた。
「液体だと判断できればできると思うが・・・試したことがないので分からない。」
「そう・・・今度やってみたら教えて頂戴ね。オーケィ。規約は?なし?」
「いや。」
「何?」
「肩にある紋章を・・・左手で触りながらでないと力は発動しない。」
思った以上にやっかいな規約があるものだ、とある意味驚きながらキーを打つ。もちろん、剣も聞いたことはなかった。エリーは少しの間パソコンを睨んでいたが、そのうちに電源を切って環に向かって話しかけた。
「私、昔少しだけ彫り師の人と仕事をしていたことがあったんだけど。」
おもむろにエリーは話し出した。
「紋章って言うのは、紋章自体の力・彫り師の力、この二つが全てだって思ってた。けど、その人は他にもあるって言ってたの。」
「・・・。」
「彫り師によって紋章の形は変わる。それが力に影響してくるって。その人は私に教えてくれた。」
耳にかけていた髪が落ちてきて、エリーは再び耳に掛け直す。紅茶を飲み終わってしまった剣は少し堅苦しい話なのであまり耳には届かず、むしろ紅茶のなくなったカップに神経が集中した。下に溜まっている紅茶色に染まった砂糖の固まり、なんだかその上になにか水を落とすような音が聞こえた。
「剣?」
エリーの声に我に返りあぁ、と答えて環に自分の右腕を見せた。二の腕に赤い月の紋様が描かれていたが、それ以外に植物のようなものが描かれている。
普通、世界では紋章を彫ることが禁じられているので、剣のように堂々と見せて歩くものはまずいない。しかし剣の格好と言えばタンクトップにオーバーオール。左手にリストバンドをしているだけで右の二の腕、紋章を隠すようなものは一切なかった。
「それで町を歩いて平気・・・なのか?それに・・・仕事上ばれるんじゃないのか?」
そう言って環は紅茶を一口口に含む。しかし紅茶があまりに思っていたのと違ったらしく少し苦々しい顔をした。いろいろな意味で剣は笑って言う。
「俺の爺さんが彫った。彫り師によって力が変わるっていうのを証明したのが、いけすかねぇ俺の爺さんだった。」
「本来moonは砂を作ったり、つまり構築ではなく破壊の方の力なの。もちろんその力は備わっているみたいだけど。」
「まぁ。結構有名な彫り師だったみたいでさ、俺はまだ小せぇ頃だったから覚えてないけど。この植物は爺さんが考えて一緒に彫ったんだと。それで力が増幅した。
ま、爺さんはその後処刑されて死んじまったけどな。」
「・・・俺の紋章は別に有名な彫り師が彫ったわけでもないが・・・。」
ごく普通のことを言われ、そうね、とエリーは言う。
「プラスにできる力があるなら、マイナスに出来る力も多分存在するわ。貴方の紋章、ちょっと見せてもらったけどdropは本来雫に水の玉三つ。けどあなたの・・・。」
環は不信な顔をしてエリーの顔を見たが、あぁ・・・とため息のような声で答えた。
「玉数が少ないのか。・・・俺のは二つだ。」
「足りないものを規約で補ってるってワケか。」
剣が言う。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。エリーはそう言いながら席を立った。ブロンドの髪が揺れ、彼女はにっこり笑ってパソコンをしまいながら言った。
「肩をつかむのは力の循環だとしたら?そう考えると・・・。
ただちゃんとした紋章でもないのに力が使えるのは、有名でなくてもその彫り師はよほどのすごい人なのかもしれない。」
レバーを引き、壁がゆっくりと上に上がる。エリーは感情の紙を指で挟みウインクしながら言った。
「私が払うわ。環君、話ありがとう。」
部屋を出ようとして、エリーは少し目を細めてそれから、と静かに言った。
「剣は知ってるだろうけど。秋の紋章は、私にもどんな力があるのか分からないの。秋は教えてくれなかったから。分かってるのは、gateという紋章で、自分を空間的に移動して、規約は一日二回。」
これだけ、とエリーは残念そうに言う。
「言っておくわ。秋の力は未確認。気をつけるに越したことはないわ。」
エリーの青い瞳は、何かを訴えようとしていた。
剣は静かに目を閉じ、環は一体何のことか分からずエリーの顔を見た。エリーは何も言わずに、その部屋から出て行った。
MISSION2 完
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