Impression-紅蒼-

Impression-紅蒼-

サブミッション2


 ヘッドホンをはずして秋と剣は一息つく。船内に作られた簡易スタジオにほぼ一日缶詰になってDay Timeの新曲のレコーディングをしていたのだ。今回の曲はいつもよりテンポの遅い曲で歌詞についていろいろと話していたりして一日経ってしまった。
 「あとは編集しとくよ~。オツカレ~。」
 同じく一日以上寝ていないはずだが、イズナは何事もなかったかのように言って早速編集の作業に取り掛かっている。本当にこいつは人間か・・・という疑問を持ちながらもうすでに半分起きているのでいっぱいいっぱいな状態の秋の手を引いて剣はオツカレ、と言って簡易スタジオから出た。
 「ん~・・・眠い。」
 半分閉じそうな目を必死で開けて秋は半分ひきずられながら独り言のように言う。はいはい、とめんどくさそうに秋をエレベータに押し込んで一番上のボタンを押して壁に寄りかかった。
 実際、Day Timeとしてはこういう活動の方が多い。ライブをしたりテレビに出たりすることは滅多になく、つまり普通のアイドルとは少し違う(多分)。それでもCDが売れて、副業になったんだよなぁ・・・と剣は少し懐かしく思った。なんとなくそのころのことを思い出してふっと笑う。
 「ツルギ~、・・・着いたよ?」
 「あ、先行ってろよ。ちょっと用思い出した。」
 「ん~。そっか。じゃお休み。先寝るね。」
 「おう。お前ちゃんと寝ろよ。」
 「ん。」
 ドアが閉まる直前まで秋を見ていたが、秋は立っているのもつらいくらい眠いらしく少しふらついている。剣は少し心配になったが母親じゃあるまいし・・・と自分で自分に突っ込んだ。ドアも閉まったことだし、どうにかするだろう、と思って壁に寄りかかる。用ができたと言っても本当は何もないのでどうしようか迷って下のボタンを押した。
 元々、毎日寝るなんて子供の頃からしなかったから一日寝ないくらいじゃ別にさほど体に影響はない。剣はエレベータかた降りて、船の出口から出ると海辺の砂浜を歩き出した。ずっと部屋にこもっていたので時間間隔がおかしくなっていたのか、昨日の昼からレコーディングしていたはずが、すでに日は暮れている。
 「剣。」
 真っ暗でもないので声の主はすぐに分かった。先日、仲間になったばかりの環だ。浜に座っている環の隣に剣は座って、うすっと言って座る。
 「終わったのか?」
 「おう。ばっちりだぜ。」
 同じナイトに所属しているといっても環はDay Timeには所属していないので秋と剣がDay Timeの仕事をしている時は環はフリーになる。
 「そういや、あったか?アレ。」
 「あぁ。見つけた。」
 クワル族の七つの秘宝。それを探すのが環の目的であり、このヴォイエッチに入った理由だった。環から、まだ取り戻せていない残りの五つの特徴を聞き、そのうちの一つが剣の知っているものと似ていたのでそれを環に教えたのだ。どうやら今日はそれを見に行ったらしいがあったらしい。環の手には黒い石が握られていた。そっか、と剣が言って話が終わる。
 剣はまっすぐに海を見た。暗くて、寂しそうな海。男二人でここにいるのもなんだか変な感じはするが。
 「・・・聞いておきたいんだけど・・・。」
 と、珍しく環から話をする。
 「どうして剣はヴォイエッチに入ったんだ?」
 ん~・・・と剣は考える。こうして改めて聞かれると本当は少し困る。記憶がない秋と違って全て分かっているから。環のことを結構知っているので、隠すわけにもいかないよなぁと心を決めて剣は口を開いた。
 「俺さ~、ずっとじいさんと暮らしてて、んでじいさんが処刑されて。そのあと少し浮浪者みたいな生活しててさ。
 そんでキングに拾われて“やりたいことが見つかるまでここにいればいい”って言われて船に入ったんだ。それからは結構面白くてさ。浮浪者してるときに覚えた体術とか技術覚えてて役に立ってからさ。
 入った理由なんてそんなのはない。まだいるのは多分、俺はここで何かをしたいから。ここで、ヴォイエッチで。何かしたい、それがわかるまではここにいる。」
 「・・・そうか。」
 「でもま、今が楽しけりゃいいんじゃねぇの?」
 剣は笑っていった。環は、そうかもしれないな、とつぶやくように言った。剣はははっと笑って立ち上がり砂を払う。そうしてまた海を見た。
 多分、今が楽しいことを幸せに思うときがきっと来るだろう。その時に、今この頃を羨ましいと思うときが。

 『今度はヴォイエッチも壊すのかい?』
 はっとして目が覚める。秋は少し汗ばんでいて、布団をベットから落とした。この前の椿の言葉をなぜ今になって思い出したんだ。秋はとりあえず落ち着いて一息つき布団を持ち上げた。
 「なんで・・・。」
 豆球に手を掲げ、その手をじっと見た。きっとこの世の中で一番汚れている手。これ以上いたら、もしかしたら椿の言った通りに・・・。違う違う、と言って首を振った。ため息をついて布団をかぶる。
 無理やり目を閉じて、何も考えないようにして秋は一晩過ごした。
―翌日―
 「あれ?」
 「多分。」
 「おっきすぎじゃない?」
 「・・・かもな。」
 「・・・というか二人の格好はどうなんだ?」
 真面目ぶったメガネをかけている秋はいつもより更に少年っぽく見える。そして秋よりもっと怪しいのが剣で、マスクをしてどこからどうみても不審人物だ。学校の制服のようなものを着ているが、何かが少し違う。そういう環も今日は民族衣装ではなく目立つのでTシャツにジーンズだが。
 「何って・・・。」
 「変装!!完璧でしょ~?」
 うれしそうに秋は言っているが、環はどう見ても完璧ではないと思った。それにこの前剣はいつも通りの格好で町を自分に案内してくれたはずだ。いまさら変装しても意味がない気もする。
 それはそうとして今日はDay Timeの新曲「Tomorrow」のPVが待ちの大画面テレビに初公開されるのだ。秋も剣も完成品を見ていないのでわざわざ変装して見に来たのだ。
 「もうすぐだよね。」
 人が増える丁度十二時。画面に「By Night」と表示されて、Tomorowと表示されるとPVが流れ出した。偶然ここにいた人たちは画面を見上げている。
 「ん~、いい感じじゃん。」
 「まぁまぁってとこだな。」
 「・・・やっぱり変。」

 「サズィー。」
 「はい。」
 「しばらく身代わりしとってくれん?」
 「は?」
 「少し見に行ってみたイいんや。そやから頼むで。」
 「はぁ。しかし・・・こと・・・。」
 「その名は呼ぶな。じゃ・・・ホンマ頼むで。」
 男はマントをはずして椅子かた立ち上がり、部屋から出て行った。部屋から出ると男はすこしうれしそうに笑っていた。
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