すずめ、月へ飛ぶ

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スパニッシュ!踊る仲人


そこで私が見た、あり得ない披露宴の思い出。

「余興六名。一人目、新郎の会社の同僚の歌。二人目、新婦の高校時代の友人の歌・・・」
披露宴前のスタッフの打合せ。いつものようにメモを取りながら、皆真剣な表情で聞いていた。
「六人目、仲人によるダンス・・・えっ、仲人??仲人がダンスするのか」
マネージャーの言葉に一同は騒然となった。普通、高砂の新郎新婦の隣に座り、はじめに挨拶と二人の紹介をするのが仲人さん。余興をするなど聞いた事がなかった。
「これはなんか習い事かなんかしてて余程祝いたいんだな。舞いか何かかも知れない」
という事でその打合せは終了した。そして披露宴。

まず初めに仲人から新郎新婦の紹介があった。仲人夫妻、新郎新婦、ならびにご両親が席を立つ。
普通だとそこで「まあ、お座り下さい」みたいなのがあるか、話を簡潔にして時間を短くしたりするのが粋ってもの。だって花嫁さんは衣装が大変だから立つのが辛そうだし。
なのにその仲人さん、そんなとこには気付かない。

「え~、わたくしと女房が初めて出会ったのは、高校時代。同じ学校の一つ年下だった女房を、当時文学部に入っていた私が一目ぼれし・・・」って、あれ?何で自分のなれそめなんて話してるんだ?
「え~、その後わたくしは○○大学へ進学、その後△△会社に就職、経理の仕事に付き、その後販売や営業を経て・・・」って、あれ?何で自分の経歴なんて話してるんだ?

壁に立っていた私は足が段々痛くなってきた。いつもの流れでは仲人挨拶が終わるまで壁際に立ち、一旦外に出て休憩。続いての来賓祝辞の最後の人が始まったらまた会場内に戻り、乾杯の準備をしていた。
しかし一向に仲人の挨拶は終わらない。

40分後。やっと挨拶が終わった。40分。あり得ない。その間、新郎新婦もご両親も、仲人の奥様も本人も立ちっ放し。
私の足が痛いのだから、もっともっともっともっと痛いはずだ。それに時間も間に合わない。披露宴のコースは2時間50分のコース。仲人の挨拶は多くて10分なので、もう30分もおしている。

そしていよいよ余興。いつの間にか仲人さんがいなくなっているのに気付いた。余興を忘れてお手洗いでもいっているのかとスタッフが慌てていたその時。

シルクハットにアメリカの国旗柄のタキシード、下はテラテラと光るサテン生地の青いラッパズボン。
そんな姿の仲人が私達の元へ。
「すみません、私の合図で会場の照明を落として、私にスポットライトを当てて下さい」
今更そんなと思ったが、こっちはプロ(と言っても私がやる訳じゃない)、やるしかない。

仲人のきっかけで入口のドアがバーンと開けられ、照明が落とされた。
「ハーイ!!コンニチハー!これから私がスペインで有名なお祝いの踊りを踊りマース!みなさーん、手拍子、手拍子」
一同は唖然としている。
何故、スペインの踊りなのにアメリカの国旗なの?
何故、スペインなのにラインダンスのような踊りなの??
つうか仲人がお色直しまでして何故踊ってるの???
しかも・・・踊った事ないでしょ??

「すみません、これ皆に配ってください」
突然、わら半紙を大量に渡された。お手製の歌詞カードらしい。
「すみません、席どかしてください」
全員の席を移動させ始めた。上には料理も載ってるし、着物の女性もいるし、力仕事だし、ホント、大迷惑。
そして「あ~か~い~リンゴにくちび~るよ~せ~て~、さあ!歌詞カードを見て皆さんご一緒に!さあ!従業員の方たちも歌って!」
私は肩を二回も叩かれ、仕方なく小さい声で「リンゴはなんにもしらないけれど~、リンゴ~のっきもちは~よくわかる~」と歌った。なんたる屈辱。

そう言って踊るのは、片足を中途半端に上げ、その足の下で手をパチンと叩くだけの中途半端さが半端じゃない踊り。

これ、ホントにスペインでやってるの??

あまりの可笑しさに顔を歪めながら壁際に立っていた。途中何人ものスタッフが、笑いを抑えきれなくなり退出していった。

そして30分。もうこの時点でコースの時間はとっくに越えていた。次のカップルの披露宴も同じ場所。延長料金もバカにならない。

新郎新婦は泣く泣くキャンドルサービスを止めたのだ。
そして最後の挨拶もそこそこに、中途半端に披露宴はお開きになった。

その後どうなったのだろうか・・・。
私なら10年は仲人さんと口きかん。


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