すずめ、月へ飛ぶ

すずめ、月へ飛ぶ

17時間耐久レーサー・散歩する彼


以前、アルバイト先にとても美形の男の子がいた。
彼は私よりも5つも年下。
滝沢秀明に似た、爽やかな白シャツとブルージーンズがとてもよく似合うかわいい男の子だった。

私は彼を観賞用として楽しみ、時々は下ネタなどを軽く交えつつ、お話したりしていた。

ある日の事。
その日は、いつ働けるかという申告をする日(シフトを出す日)だった。

いつ働こうかなと思い、シフト表とにらめっこしていた時、美形の彼が私のところにやって来て、突然言った。

「僕、遊びに行ってもいいですよ。休み合わせてどっか行きましょう」

は??「いいですよ」とは何事か??
私そんな事頼んでない!・・・とはポカンとして言えず、その場では「そうね、機会があったら」なんて言ってやり過ごした。

ところがそれから数日後。
彼はしごく当然という顔で私に言った。

「3日、休みだよね。そんじゃディズニーランドでも行きますか(フッ)」

へ?と思ったが何も言い返せなかった。
何?不細工な女には、選択の余地すらないのか・・・と半ば投げやりな気持ちで、私はつい承諾してしまった。

これが怖ろしい結果になるとも知らず・・・。

当日は八時に駅で待ち合わせをした。
彼はなんかちょっと王子様仕様の袖(黒いリボンがついている)の白いシャツを着ていて、ウッと思ったが、彼は誰もが振り返る美形。我慢だ我慢。

ディズニーランドに着いた矢先。

彼は当然のように手をつないできた。
しかも最初は腕。
そこから段々段々微妙に手が下りていき、最後に何気なく手に辿り着く、という艶めかしい感じ。

私の頭は沸騰した。
もともと純情ちゃんな私は、何故付き合ってもいない人と手をつながなくてはならないのか、ああ、私の手が好きな人以外の人とつながれていると考えはじめ、悲しくなってきた。

お昼の時間が近付いた。
私は朝ごはんをあまり食べられなかったので、ご飯が食べたかった。
というより、ディズニーに行ったらレストランの楽しみだって重要なイベントなはず。

彼は地図を広げ、「どこがいい?」と聞いた。
「○○くんは何がいいの?」
聞いても彼は答えない。ディズニーならまかしておけと言ってた彼だから、お昼もいいところがあるんだろうと思っていた。
「ちょっとベンチに座って考えようよ」
彼が言うので私達はベンチに座った。
でも彼は一向に決める気もなく、高校時代の思い出などを、一人面白おかしくしゃべっている。
そんな時!

「僕、ちょっとお散歩行って来るね」
と言って彼が立ち上がった。
へ?お散歩??どうして一人でお散歩??
思う間もなく彼は、トイレへと入って行った。

笑いが止まらなかった。
彼は「トイレに行って来る」とは恥ずかしくて言えないのだ。山登りの際の「お花を摘みに行って来る」並みの婉曲な言い回し。

脱力。
もう帰りたくなった。時計を見れば三時。
ご飯を食べようとベンチに座ってから、もう二時間も経っている。
ばかばかしい。
ディズニーランドまでわざわざ来て、三時にもう帰りたくなるような相手とお昼も食べずに座ってるなんて。
私は世界一のおおばかものだ。

お散歩から帰ってきた彼に意を決して言った。
「ねえ、お腹すいちゃったね。私、朝もあんまり食べてないんだ」
すると彼からとんでもねえセリフ。
「僕も朝は抜いてきたんだ。ていうかね、僕って一日とか何も食べなくても全然平気な人なんだよね。好き嫌いもすげー多いんだ。キュウリでしょ、生野菜でしょ、セロリでしょ。だから冷やし中華とかもう絶対ダメ。それにムカツク奴の作った料理とか絶対食べないからさ、だったら一食抜かした方がまだましだし・・・」
「へ、へえーー。好き嫌いは良くないよ。それにまあそれは仕方ないにしても、嫌いなものが多い事は恥ずかしい事であって、自慢するもんじゃないと思うんだけれど・・・」
私はタップリの嫌味を込めてそう言った。
でも彼は全く気付かず、延々と好き嫌い自慢を繰り広げている。

時刻は四時半を回った。
私はため息をついて言った。
「ねえ、お昼はじゃあもういいから、取り敢えず乗り物乗って、ご飯は夜をたくさん食べようよ」
彼はうなづき、乗り物に乗った。
手を繋ぎ、時々はお散歩に出掛けて。

夕刻。
パレードや花火が始まった。
私はフラフラになりながらも、パレードには素直に感動した。

そして閉園。
夜ご飯、食べてない(T_T)

彼は「どっかで夜ご飯食べて帰ればいいよ」と言った。
「でもどっかってどこ?」
彼は地蔵のように固まり、どの駅名も具体的には述べない。
結局わからないんじゃん。
結局、私まかせなんじゃん。

私はなんだか無性に情けない気分になり、「こうなったら彼がお腹が空いたっていうまで待ってみよう」と思った。

彼はすっかりご飯なんてどうでもいいのか。
舞浜の駅でまたもや高校時代の武勇伝らしきものを夢中で語っている。
時刻は十時を回った。
私の目も回った。

彼は「遅くなったし、じゃあもう東京駅の中で食べますか(フッ)」と言って、やっと移動を始めた。

ああ、これでご飯が食べられる。

しかしその私の叫びを神は聞き入れず、東京駅の飲食店はもう閉店していた。

彼は「どうしよう、じゃあ、ファミレスかどっかにする?」
でも東京駅のファミレスなど知らない。
なんと適当な・・・。

そして私が知る別の駅に移動する事になった。
私はもう泣きそうだった。
でも彼は平然と「一日ぐらい食べなくてもホント平気なんだよね~」とか言ってる。

時刻は0時半を回った。
私はもう限界だった。
実は今日は水一滴飲んでいない。
彼は夢中でバイト先の人のウワサ話などしている。
そして「今日、僕たちがこうやってデートしたってみんなが知ったら驚くだろうな(クックックッ)」
「バイト先以外のあなたを知ってるのは僕だけなんだ(クックックッ)」
とか一人でつぶやいていた。とうとう空腹でおかしくなったのかも知れない。

そして深夜一時。
「あ、どうしようか、ご飯。どこ行く??」

私の堪忍袋の緒は(かなり頑丈な緒だったと思うが)ブチンと切れ、にっこり笑って言った。

「うち帰って一人で食べるわ」

彼の顔は青ざめ、凍りついたまま無言で別れた。

私は怒りと情けなさと言いえぬ虚脱感と、そして何より空腹を抱え家路に辿り着き、力任せに牛丼を食べた。力いっぱい。

そして思った。
「男は顔じゃない」
至極、当然の事といえば当然の事なのだけれど。

そして今。
彼はその事に気付いてくれただろうか。

その後、彼から言われた衝撃の一言。

「僕って、二人で遊びに行った女の子とは付き合うって決めてるんですよ。だって、その子から付き合ってって言われて僕が断った時に「じゃああのデートは何だったの」って責められたら答えられないし(フッ)」

私の答え。

「へえ、つまんない人だね。若いんだからもっと柔軟に考えたら?まあ少なくとも私は付き合って欲しいなんて絶対に思わないからさ」

私の言葉も彼は意に介さず、それからも彼の誘いは続くのであった。

あんた、モテないでしょ・・・。




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