すずめ、月へ飛ぶ

すずめ、月へ飛ぶ

ケーキナイフの少女・すずめ


小さな女の子。

手にはケーキナイフを握り締め。
足もとには男の子が八人ばかりひれ伏している。

小さな女の子は知っていた。
怒りながらも。
それがプレイである事を。

その少女は私。
小学二年の私。

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三歳からピアノを習っていた。

幼稚園時代には、「幼稚園児天才ピアニスト」の名を欲しいままにしていた(ウソ)。
まあでもとにかく「あいつはピアノが上手い」と、
幼稚園児なりの評価は頂いていた。

小学校に上がると、同じ幼稚園に通っていた数人が、
「あいつはピアノが上手い」
と、まわりの人にウワサするようになった。
お陰で私は、皆の前でピアノに触った事すらないのに、
「ピアノの上手い人」
としてもてはやされる(ウソ)事になった。

小学二年。
ある日。

我が家の前にクラスの男子ばかりが八人、
座り込んでいた。

「オイ、ピアノ聴きに来たんだ、弾いてくれよ」

なんだかよく分からないが、
言われるままに家に全員上げ、
仕方なくピアノを弾いた。

静まり返る中。
一生懸命弾いていた(ナゼ??)。

そして終わりに近づいた頃。
私は一音、はずしてしまった。

その瞬間。

「プッ」

どの男子か定かではないが、笑い出した。
すると八人が一斉に笑い出し、
それは爆笑に変わり、
床を転げまわる(オーバーな・・・)者まで出てきた。

かあああああああ。

突然、私は怒りに燃えた。

何故??どうして??何ゆえに??
何だか分からないまま家に上がり込み。
勝手にピアノを弾かせ。
ちょっとのミスで大笑い。
私、何かした??ううん、ピアノを弾いてやっただけ。

私は台所からケーキナイフ(何かすごいでかいの)を持ち出し。
笑い転げる男子に突きつけた!
男子は奇声を発し。
全員床に正座。

気分は水戸黄門。
ケーキナイフさえあれば。
こいつらは私のいいなり。

サンキューケーキナイフ!
グッドジョブケーキナイフ!
フォーエバーケーキナイフ!


そして次の日もまたその男子八人が家にいた。
ピアノを弾かせ。
間違えたら笑い。
ケーキナイフに土下座。

私は予感していた。
これはもう一種プレイであると。
男子はピアノを聴きに来ている訳ではなく。
可愛い少女すずめ(ナゾ)がケーキナイフを手にし、
怒っている姿にしびれているのだ。

連日、彼らの行動は続いた。
人数も増えてきた。
当時同じクラスには18人の男子がいたから、
半分以上はすずめの前に土下座をしている。

彼らはエスカレートし始め、
ピアノを弾く寸前から笑い転げるようになった。
ここまでくれば立派な小芝居だ。
私も怒りもないのにケーキナイフを突き立てていた。

こどもながらのプレイ。
小芝居。
軽くSMプレイが入ったその行為。


時が経ち、
私も恋心に目覚め、
思春期の前段階を迎えた。
小学六年生。
お互いを意識してか、男女の仲は最悪だった。

帰りの会(別名チクリの会)。
前の日の帰りの会に私にしてやられたオバタというやつ。

手を挙げて、
「すずめは四年前、僕たちがピアノを弾いて下さいと頼んだ時、ケーキナイフを僕たちに向けて突き出しました。今度から気をつけて下さい」

転校生の彼に、私の秘密が暴かれた。
私の恋は終わった。
SMに興じていた私、小学二年にしてSMな私を、
知られてしまった。

オバタよ。
あの時、一番楽しんでいたのはお前ではなかったか。

そんな疑問も月日という風に消され。
私も小学校を卒業。

卒業式、調子に乗って転倒し、
血まみれで救急車で運ばれたオバタにニヤリとしたのは、
この私。
やはりあの時の快感は、
身体の中に残されていたのだった。




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