すずめ、月へ飛ぶ

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死のドライブ・C子


今から数年前の夏。
友人四人で、
その中の一人、チロの実家に遊びに行こうという事になった。

「じゃあ、私、運転してあげる!」
当時、四人の中で一人だけ、
免許を持っていたC子が名乗り出てくれた。

三重県。
伊勢神宮、鳥羽水族館、志摩スペイン村などに行く。
私達は、チロのお父様から借りた車で、
色んなところを見てまわった。

C子はちょっと不機嫌だった。
前の日も、翌日の運転が気になって、
一人早々と寝てしまっていた。
その間、私達三人は、夜更かしして大騒ぎだったからだ。

私達はその空気を素早く察知し、
大人しく車に乗っていた。

その時!
私はちょっとだけ、ウトウトしてしまっていた。
すると山道のカーブに差し掛かった時、
「ザッ!!」
と、窓に砂が当たって、外が見えなくなった。
凄い勢いでハンドルを切ったのだろう。
まるで、刑事ドラマのカーチェースのようだった。

「な、なんでカーブなのに減速しないの!?」
誰かがが聞いた。
するとC子は、
「お兄ちゃんが、『減速しまくってるとブレーキが利かなくなってくるから、減速は控えめにしろ』って言ってたもん」
と、さらっと言った。
そして、反論できない私を振り返り、
「寝たら死ぬよ」
と、ニコッと笑って言った。
ばれてたのか・・・。

C子の運転は更にエスカレートを始めた。
確かにブレーキをあんまり掛けない。
一度などは、四つ角を停止せず、
そのまま突っ切っていった。
「止まらないの?」
「だって、車こないじゃん」
(-_-;)そういう問題??

C子のイライラは激しく募っていった。
友人の中に、彼氏とよくドライブに行くユミがいて、
ユミは免許を持っていないのに、
いちいち口出ししてくるからだ(でも怖いから言わずにはおれない)。

折りしも道は片側一車線のみの、
山道を走る有料道路。カーブが多い。
C子は運転しづらいらしく、
時速30キロでゆっくりゆっくり走っている。
どんどん後ろには車が詰まってくる。
一車線だけしかないので、
私たちの車が大渋滞を引き起こしている。
「ちょっと大渋滞だよ、やばいね」
ユミが言った、言ってしまった。

「運転してるのはあたしなんだけどね」
ボソッとC子がつぶやいた。
やばい!どうにかしないと!
そう思った私とチロは、
C子が大好きな下ネタを必死に言い出した。

チロは捨て身で、
高校生の時、担任の先生とラブホテルに行ったという話などをしている。
するとやっぱりC子は機嫌が良くなってきた。
丁度山道を抜け、一般道路に入った事もあり、
C子の調子もますます上がり、
自分も仕切りに下ネタに参加している。

良かった・・・・・・。

そう思った時だった。
C子は、信号が青になったのだけを見て、
まだ赤信号で待っていたたくさんの車が発進していないのも確認せず、
その並んだ車に突っ込んでいった。

急ブレーキ!!
物凄い軋んだ音が響く!
私は三重まで私の遺体を引き取りに来る、
父親の顔が見えた。
もうだめだ。

車はややスピンしながら、
寸でのところで止まった。
私たちの呼吸も止まった。

C子は、
「あれ、まだ発進してなかったのか、気付かなかった」
と、ひとりケロリンパ。

その後、またちょっと車内は緊張に包まれていた。
どうしても先程のショックが消えないからだ。
C子はまた機嫌が悪くなってしまった。

その時!
T字路なのに思いっきり直進していく私たちの車!!
「いやあああああああああ!!みぎーーーーーー!!!」
ナビをしていたチロが絶叫した。
するとまた、刑事ドラマのように、
ギリギリでハンドルを切り、右に曲がるC子。
私は遠心力で飛ばされ、タイヤも勢いをつけて軋んだ音を立てた。

暫く声が出なかった。
チロが、
「どうして行き止まりなのにまっすぐ行こうとしたの?」
と息をのんで聞くと、C子は、
「だって、チロが右か左か言わないんだもん」
(-_-;)だからってまっすぐ行くか・・・??

そして命からがら帰途に着いた。
もう、チロのお母様が用意してくれたおでんも、
喉を通らなかった。

そして帰りの電車の中で。
C子はニコニコしながらこう言った。

(^_^)「今度は、東京から三重まで運転するよ。東京からドライブして行こう」

(;O;)(*_*;「え、それじゃC子疲れちゃうでしょ!!電車の方が速いし楽だし、絶対いいよ!!」
おかしな位の反論にキョトンとするC子。
絶対、絶対、行くもんか!!

その後も学校の近所のガードレールを破壊したり(今もそのまま残っているのが痛々しい)、
警察のお世話になってしまったC子。

未だに、その武勇伝は語り継がれ、
誰もがC子の「運転代わろうか、大変でしょ?」の言葉に怯えながら、
「ううん!!私、運転大っ好きだから!!大丈夫!!」
と力いっぱいお断りしている・・・。



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