すずめ、月へ飛ぶ

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けんか占い・ジャージばばあ


人生に迷っていた私は、よく占いコーナーに相談に行っていた。

自分と同じ名前だった。
作務衣を着たおじさんが新鮮だった。
目が合った。
なんとなく引き込まれた。
行列が出来ていた。

占い師さんを選ぶ理由は多々あろう。
私もその時の気分で占い師さんを選んでいた。

当たるも八卦。
当たらぬも八卦。

そんなのは分かってる。
結局のところ、今の気持ちを素直に話せて、また明日から頑張ろうって思えればいいんだ。
そりゃ当たってる方が嬉しいけれど・・・。


私は今年に入ってから、音信不通になった彼の事が吹っ切れずに落ち込んでいた。

「ちょっとあんたさ、安くしてやるから寄ってってよ」

ジャージ姿のおばあさんに呼び止められたのは、新宿の某有名ファッションビルの地下。

れっきとした占いコーナー。
雑誌でも評判の的中率の高い占いの館!

でも、おばあさん、ジャージだし・・・アヤシイ・・・。

でも人を見かけで判断しちゃいけない!

「ハイ、お願いします」
私は大人しく、そのおばあさんに従う事にした。


まずは生年月日。
そして悩み事を話す。
彼との事を正直に話した。

「ああ、あんたさ、アブノーマルなセックスをこの人に強要したんでしょ。彼は至ってノーマルだから逃げ出したのよ」

おばあさんは突然凄い事を言ってきた。

「え・・・あの彼とは何にもしてないんですけれど・・・」

私は正直に言った。
実際、彼とは何もなかった。

「ウソ言うな!!あんたやってただろうが!」

「ウソじゃありません!そういう事はありません!」

おばあさんの怒声につられ、私の声まで大きくなる。

「彼は当時、暴力を振るう女性と別れられなくて、あんな事やこんな事(省略)をされていたので、女性不信みたいなところがあったので、私もゆっくりでいいかなと思っていたんです」

おばあさんは身を乗り出し、
「ふうん、そいつも悪い女に引っ掛かったもんだねえ。そういう男の人は一生引きずるよ。だからもう別な人にした方がいいね、苦労するよ」
「大体、そうやって脅迫めいた事する女も女だね。そういうやつ、よくいるけどさ、あたしは嫌いだよ、そういう女」

・・・ちょっと待て。
それって占いでも何でもないじゃん。
話聞いて、感想言ってるだけじゃん・・・。
つうか、そんななら隣のおばちゃんでもいいじゃん。
あんた占い師じゃん・・・。
つうかあんたジャージじゃん!

おばあさんはどこぞの政治家の話を始め、そのうち自分の仕事もいつ首を切られるか分からない、などという世間話を始め、私はハイハイうなづいて聞くはめに陥った。

「あたしが聞きに来てるのよーーーーーー!!」

そう叫びそうだったのをグッとこらえていた。


それから数分後。
「あの、それで彼とはどうでしょうか」

私は話を戻そうと必死だった。

「私は、この先、彼以外の人を好きになれるかって凄く不安です。彼に音信不通にされてから、どこがいけなかったのか、あれかなこれかなって考え過ぎて、自分全てがダメに思えてならなくて。だから人と向き合うのが怖いです」

私は友達にもしない話を口に出した瞬間、泣きそうになっていた。

すると突然おばあさんは!
「あんたさあ、カワイ子ちゃんぶってるのもいい加減にしなよ!あんた彼がいなくなってから、別の男と何人もよろしくやってたじゃない!それを今更さ、しおらしく、彼がいなくちゃダメなのなんて、何を虫のいい事言ってるんだよ!」

私のなかの。
何かが切れた。

「はあーーーー??よろしくってどういう事ですか??」

「何人もの男と遊びでセックスしてるって事だよ!」

「ぜんっぜんしてないんですけど、そんな事!」

「今の若いやつはそうなんだよ!誰にでも簡単に身体許してセックスして、遊び感覚なんだよ、アタシはそういうの大っ嫌いなんだよ!」

「私はそんな事しません!遊びでなんて!むしろそういうのが怖いし、慎重にし過ぎる位慎重です!」

「あっそう!じゃあ、アンタ一生男なんて出来ないよ!」

「はあーーーー??どうしてそんな事言うんですか!」

「今の男なんか、セックスしない限り、女なんて作らないんだよ。むしろ彼女なんて面倒だからセックスフレンドさえいればいいってみんな思ってるんだよ!」

「みんなってどこのみんなですか??みんながみんなそういう訳じゃないかも知れないじゃないですか!」

「男なんてそういうもんだよ。セックスさえできりゃいいんだ。アンタなんかぶりっ子のつもりかも知れないけどね、こっちから言わせればただのアホっていうんだよそういうの!」

「っていうか、何でそんなにセックス、セックスって言葉ばっかり言うんですか!そちらこそちょっとセックスに固執しておかしいじゃないですか!」

「じゃあさー、アンタは一生処女でいなさいよ!それもいいんじゃないのーーー??男と一生セックスなんてしなくてもさーー、そういう生き方でもすればいいよ!」

「はあーーーー??何でそんな事まで言われなくちゃいけないんですか!私が処女かそうじゃないかなんてあなたに関係ないでしょう!どっからそんな話が出てきたんですか!!」

そこで占いの部屋に電話の音が鳴り響いた。

占い中(占いでも何でもないけれど)だったおばあさんはまさか仕事中だし出ないだろうと思っていたのにやっぱり。

「もしもーし。あ、今??仕事中」

おんどりゃあああああああ!!

私の怒りは頂点。
前人未到の怒り山脈に登頂成功!

電話が終わったおばあさんは。
「ああ、悪い悪い、友達から。んで何だっけ??つうかアンタ時間だからさ、これ以上占って欲しいなら延長料金取るよ。あと10分見てあげたら8000円にしてあげるけど」

「は??占い??占いなんてひとっつもしてないじゃないですか!結構です、もう帰りますから!」

「あ、そう。ああ、あんた人生自体が悪い事ばっかりの人生だからさ、これからもいい事ないよ。そういう人生に生まれて来たんだから仕方ないね」

おばあさんは。
最後の最後に置き土産を残した。

それ以来、もう怖くて占いには行けなくなってしまった私。

けんか占い。
負けました・・・。

「あいつ、今度会ったら殴ってやる!」

怒りと執念を残して・・・。
あのジャージババアめ・・・。




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