すずめ、月へ飛ぶ

すずめ、月へ飛ぶ

デートは修行


私にとって、デートは凄く恥ずかしいもの。

見詰め合うなどとんでもなく。
手を繋ぐなど恐れ多い。
相手が自分の顔を見ていると思うだけでもう。
申し訳なさと居たたまれなさで。
いっぱい。
勿論。
それは好きなあのひとだから・・・。


待ち合わせ。
出会いがしら。

私の苦難はここから始まる。

私が先に待っている場合。
どんな顔して待っていればいいのか分からない。

心の中は。
「ヒャッホウ、祭りだ祭りだーー!」
竜童組が暴れ太鼓の演奏を始め、もう足元さえフラフラ。
動悸、息切れ、めまい。
誰かお願い。救心をちょうだい。
ううん、マスチゲンS錠でもいいから。

でも・・・そんなのあの人に見られたら。
気持ち悪いって思われないかしら。

そこで私は。
「待ち合わせ用文庫」を持参し。
涼しい顔で本を読み(頭には全く入っていない)。
「あら、夢中になってて気付かなかった、もうそんな時間?」
風味を装うのである。


では逆に。
相手が待っている場合。
心の中は。
「なんて素敵な人・・・。ああ、あの人が待っているのはわたしよーーーーーー!!あんな素敵な人が待っているのはこのわ・た・し♪」
てなもんだがしかし。

相手がもし気付いてしまったら。
もし、まだ距離があるのに気付いてしまったら。
何かサインとか出すの?
軽く手をあげるとか??
うわ。恥ずかしい・・・。
どんな顔をして。
歩いていけばいいの?

だから私は。
全速力で走る。
別に遅刻してる訳でもないのに。
相手が逃げ出すくらいに猛スピードで。

でもその方が。
喜びは表現できるから、だから。
相手が先にいて下さるとありがたい。


あの人に初めて苗字じゃなくて。
な・ま・えで呼んでもらえた時。
昔かたぎの古風なあの人がそうするには勇気がいっただろうに。
頭がクラクラするほど嬉しくて、立っていられない程だったのに。
顔は真っ赤で、涙さえ浮かんでいたのに。
悟られぬよう、下を向いて、吐き捨てるように。
「ウッス」
と仏頂面で答えたら。
永遠に、苗字のままになってしまった。


話は飛んで別れ際。

ここが私の最大の恥ずかしポイント。
ホントは「もうちょっと一緒にいたい・・・」って言いたいの。
でもあなたには明日もハードな仕事が待っているし。
私ごときであなたを拘束し、疲れさせるなんて出来ない。

ホントは泣いちゃいそうだし。
「次はいつ会える?」って聞きたいのに。

「うんじゃねっ!」
ってちょっとどっかのチンピラみたいな口調になっちゃう。

お願い。
見送らないで。
私の無様な後ろ姿なんて見ないで。

私、何度も振り返って。
あの人がいるのは凄く嬉しいけれど。
でも寂しくなるから。
どうか振り返らずに行ってしまって。
それが多分。あの人から見れば。
「あっち行け、シッシッ!」
ってやってるように見えるのでしょうね。

よく駅のホームで。
別れを惜しんで見詰め合う二人。
発車するまでドア越しにささやき合う二人。
目にするけれど。
とても羨ましいと思う。
世界は二人だけの為に。
素直なもの同士だけに与えられた至福のせつなさ。

恋人との会話。
それはあり得ない私の非日常。
友達に聞かれたら。
人に見られたら。
「そんなのはお前じゃない」
と言われそう。
私の中のもう一人。「すずめB」が30cmほど離れた場所から私を冷たい目で見ていて。
「あり得ない」
と笑っている、気がする。

でもお願い。
これだけは分かって。
だからといってあなたの事、そんなに好きじゃないわけではない。
むしろ、
大好きすぎるから生まれる苦悩。


自分、不器用ですから。

当たり前のことが当たり前には出来ないし。

自分、不器用ですから。

ダンスは上手く踊れない。

でもね。
「自分、不器用ですけれど、精一杯頑張ります」
って。
今度こそ・・・・・・。

こんな私に。
どなたか愛の手を。




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