小さい頃、テレビで見た夢のような風景にあこがれていた。
綺麗なドレスを着たお姫様は、
愛する家族に囲まれて、幸せそうに笑っている。
辛い時には優しい声をかけられ、
ことあるごとに大きな花束のプレゼント。
困難な出来事にも勇気をもってたちむかえば、
必ずのりこえられた。
それは当たり前のように。
だからあたしも、
がんばれば手にはいるものだと信じて疑わなかった。
綺麗なドレスも優しい家族も。
「熱があるな。」
諌山さんの大きな手があたしの額の温度をたしかめている。
「あー、今日クレハ、すごい意地悪されてたからだよ。」
カズくんが向こうのほうでワン蔵にエサをやりながらいった。
大きなベットの上で横になったままのあたしに、
諌山さんは顔をよせて
「またか?」
と心配そうな顔をした。
「・・・そんなことないよ。」
あたしはちょっと笑ってからそう答えた。
よくあることなのだ。
あたしがすべての準備を整えて出来上がったイベントの企画を、
手伝ってくれていたと思っていた他の人達に、
違う形で発表されてしまった。
最後まであたしがかかわれないという点において残念だと思うけど、
彼女達はあたしよりも年配なので気持ちはわかるし、
仕方がないことなのかもしれない。
彼女達は社員だけど、あたしは契約社員なので、
途中で担当者がかわってしまうよりは、
その方がいいのかもしれないし。
「俺が言ってやろうか?」
諌山さんはうちの会社のすごいお得意さんだし、
うちの社長とオトモダチなので、そんなこと言ってくれる。
「だから違うってば。」
うれしくなってきて、彼が触ってくれている手をとって、
ぎゅーっと握った。
「クレハ、大丈夫?」
ワン蔵を胸に抱いて、カズくんが近くまでやってきてくれる。
「うん。」
ちょっとだけ冷えのぼせしたのかもしれない。
最近は朝と昼の気温差が激しいから。
「クレハが若くて仕事が出来てかわいいのがいけないんだよ。」
そういうとカズくんはワン蔵をあたしの胸元に置いて、
チュっとほほにキスをしてくれた。
そのまま、
諌山さんがいるほうとは反対側のあたしの隣に体を横たえる。
「ワン蔵に風邪、うつっちゃわない?」
諌山さんの手を握ったままで聞いてみる。
「精神的なもんだろ?」
諌山さんはベットにほおづえをついて、
優しい顔であたしのことを眺めていた。
カズくんもヒジで自分の頭をささえてあたしを見下ろしている。
「俺達は、そんなにたよりないか?」
諌山さんの低い声が質問をした。
「肝心なことはお前の口から聞いたことがないような気がする。」
大切なことを伝える時の彼の真剣な顔。
穏やかだけれど、けしてゆずらない瞳にみつめられたまま、
それは諦めているからだと思った。
あたしをうけいれてくれている三人にとっては、
それはとても失礼なことなのかもしれない。
「ごめんなさい。」
けして、責めることはない彼に申し訳なくて、
微笑んでみたけど、なんだか少し泣けてきてしまった。
それ以上なにもいえないうちに、玄関にシンの気配がして、
「これ、もらいものだけど。」
驚くほど大きな花束を抱えた彼があらわれた。
「なになに~?あんたまたクレハ泣かしてんの?」
鼻歌まじりに花瓶を用意する彼の上機嫌さに救われる。
「クレハ、ちょっと待ってな?俺が助けてやるから~。」
酔っ払ってるのか、フラツキながらお花を生けている。
不思議だな。
抱えた花束が届くのは、物語の中のはずなのに。
優しい言葉も愛する人も、
いつも、手に入るかもしれないと思った時にはすぐに、
それはあたしの為に用意されたものではないとつげられた。
何度もそれを繰り返されたあげくに、とどめをさされて、
もう諦めてしまったので、
きっと手にはいらないような気がする。
今が長く続けばいいのに、
そしたら、いつだって
困難な出来事にもたちむかっていけるのに。
PR
Comments