arisize room

夏道草　＋３

　　　　　　　彼はまっすぐ見つめて歩ける人だった
　　　　　　　私は余所見ばかりして右に左にふらついていた

　　　　　　　夏草があんまりにも小さくて
　　　　　　　こんな所に咲いているのは可哀想だと思って
　　　　　　　蹲ってじっと見つめていたら
　　　　　　　いつのまにか彼の方が先に行ってしまっていた

　　　　　　　彼は後ろを振り返ってくれて
　　　　　　　目を細めて手を差し伸べてくれた

　　　　　　　私はその手を見て戸惑ってしまった

　　　　　　　このまま握って歩くために手を取ればいいのかしら？
　　　　　　　それとも、立ち上がるためだけに手を取ればいいのかしら？

　　　　　　　余計な考えなど必要でなかった

　　　　　　　彼は私の腕を掴んで立たせてくれた
　　　　　　　まっすぐと目を見つめて
　　　　　　　私は言葉を失ってしまったかのように
　　　　　　　呆然としか出来なかったけれど
　　　　　　　また目を細める彼はただ一言・・・
　　　　　　　「行こうか？」って言ってくれた

　　　　　　　そんなまっすぐ歩けない私は
　　　　　　　彼の速度について行こうと思った
　　　　　　　だけど、手をつないで歩く程の自信は生まれなかったから
　　　　　　　彼の洋服の裾を掴んで歩く事にした

　　　　　　　彼の洋服は少し伸びた

　　　　　　　また彼は目を細めて
　　　　　　　またまっすぐ見つめて歩き出した
　　　　　　　私は相変わらず余所見ばかりしていたけれど
　　　　　　　今度は彼についてまっすぐ歩けた
　　　　　　　少しのふらつきも彼の洋服が伸びる事でどうにかなった

　　　　　　　『手を握れなくてごめん。裾が伸びちゃってごめん。』

　　　　　　　そう心の中で呟いた私
　　　　　　　彼が横目で気にかけてくれる優しさは眩しくて
　　　　　　　私は余所見ではなくて
　　　　　　　彼の洋服の裾を見つめてまっすぐに導かれて
　　　　　　　家路に着いた

　　　　　　　　　　　　『同じ空』

　　　　　　　　　　　　あなたが見上げている空は、
　　　　　　　　　　　　私が見上げている空。

　　　　　　　　　　　　晴れていようが
　　　　　　　　　　　　曇っていようが
　　　　　　　　　　　　雨が降っていようが
　　　　　　　　　　　　1人で見ようが
　　　　　　　　　　　　みんなで見ようが
　　　　　　　　　　　　それは同じ空。

　　　　　　　　　　　　でも、そこに
　　　　　　　　　　　　色々な空模様を描いて
　　　　　　　　　　　　色々な星を輝かせて
　　　　　　　　　　　　何色もの虹をかけるられるのは
　　　　　　　　　　　　あなただけ。
　　　　　　　　　　　　そして、私だけ。

　　　　　　　　　　　　少しずつでいいから同じ空を感じられればいい

　　　　　　　　　　　　輝く空を思い描ければ
　　　　　　　　　　　　眩し過ぎる青さに目を閉じる事も怖くなくなる

　　　　　　　　　　　　それは同じ空。
　　　　　　　　　　　　さぁ、見上げてみて・・・。

　　　　　　　　　　　　　　　　『夏の太陽』

　　　　　　　　　　　　　　　　　降り注ぐだけ降り注ぐ
　　　　　　　　　　　　　　　　　痕が付くほどの輝き

　　　　　　　　　　　　　　　　　眩しい
　　　　　　　　　　　　　　　　　熱い
　　　　　　　　　　　　　　　　　直接的過ぎる光

　　　　　　　　　　　　　　　　　まっすぐな君の想いは

　　　　　　　　　　　　　　　　　まるで夏の太陽のようだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『沫音』

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　沫になった人魚姫は
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　誰にも知られずに
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　光に反射しないほど
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　小さな沫になって
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　幾度となく弾けた

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　月夜に揺れる波間に
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　浮かび上がってはかき消されて
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　聴こえない位の声で
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　悲鳴をあげてた人魚姫

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　バブルバスに身を浸してる私には
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　人魚姫の悲鳴が切実に響く

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『私は沫の人魚姫にはなれない』

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そう思うと余計に悲しくなって
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　バブルバスから出られなくなった

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