美術準備室

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あゆみ(仮称)1

あゆみ(仮称)


7年前。前の学校に赴任した年、私は2年の配属になった。
4クラスのうちの一担任を任せられ、新しいクラスの子どもらの表をもらった。
初めての学年打ち合わせ会。
そこで、子どもらの情報が飛び交う。
「この子はいい子ですから。」
「この子は気をつけといてください。」
好き勝手に、聞きたくも無い情報を入れてくれる。
あまり、先入観を持ちたくないし、
第一、何を基準に、いい子、そうでない子を決めるのか。。
どの子も、親にとってはかけがえのない大切な子なのに。

ある女の子が私のクラスの子になった。
「あゆみ」としておこう。

あゆみは、小学校のころからよくいじめられていて、
去年もほとんど学校に来なかったという。
普通は、そういう子には、前の担任が引き続いて担任するものだが、
わざわざ赴任したばかりの私に任せる、ということは、
前の担任が放棄したということだろう。
上等やないか。

学年主任が言った。
「大丈夫ですよ。この子はほとんど来ませんから。」

始業式の翌日、朝、あゆみが祖父に連れられて登校した。
職員室の前に不安そうに立つ、小柄な女の子。
かわいい黒目がちな顔立ち。
その目は、おどおどして、元気がなく、寂しそうだった。

次の日から、あゆみは登校しなくなった。

家は、母親が経営するスナックの二階。
スナックのドアの横に、小さな玄関ドアがあった。
二階に上がったところに、あゆみのベッドらしきものがある。
そのまわりは、ごみが散乱していた。
カップめんの空き容器がやたらに散らかっていた。

何回かの家庭訪問のとき。
母親と店で話をしていると、娘のことで母親は興奮しだしてきた。
「ほんまに、あゆみは何で学校に行かへんのやろ。
ちょっと呼んできます、先生。」

そう言うと、母親はドカドカと階段を上がり、あゆみのいる二階へ怒鳴りながら入って行った。
二階から聞こえる母親の怒声。
さんざんわめきちらしたかと思うと、今度はなにか大きな物音がして、
あゆみの「痛い!やめんかいっ!!」と泣き叫ぶ声がする。
思わず駆け上がると、目の前で母親がハンガーであゆみを力いっぱいたたいていた。
「お母さん、やめて!!」
必死で止めたが、母親の髪は振り乱れ、目は血走り、
あゆみはただ震えながらベッドの横で身を屈めていた。
そして、しばらくして、あゆみはついに家出をしてしまった。



あゆみの居場所は全くつかめなかった。
中学校では、もちろん仲のいい子もいない。
警察もお手上げ状態だった。

家庭訪問に行くたびに、母親の状態はおかしくなっていた。

この母親は、もともと頭のいい人ではないか、と感じることがあった。
あゆみのことを、いくら自分が虐待しているとはいえ、
それを隠し、正当化して話そうとする様子は、
語彙が豊富で理路整然としていた。

しかし、あるとき、変なことを言い出した。

「先生、今、あ、今、あゆみが話してます。あゆみは・・・
近くにいます、先生。ここにいるよって話しかけてます。」

目をつぶり、両手の人差し指をこめかみに当てて、
さかんに私に話す母親の姿を見て、
この人は精神的にヤバイことになっている、と感じたものだった。

そして2学期のあるとき、突然あゆみはすぐ隣の学校に転校した。
もちろん、本人は家出したままだったが・・・。


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