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★☆自分の木の下☆★
3.クッチャバ ハピハピ
人間、遊園地にいるからって遊びに来ているとは限らない。
休みの日だって仕事があったりする人もいるのだし、塾で一日勉強尽くしっていう人だっている。折角の休日を勉強や仕事で潰すのは非常にやるせないものがある。それが、一生懸命汗水鼻水……ィャィャ、汗水垂らして働いている人間の前でこっちの気も知らずに悠々とテーマパークの雰囲気を楽しそうに見物していたりされたら尚更だ。
「お? どうした? トトテーマパーク人気かどうかは知らないが、マスコットキャラのラクダのクッチャバ君。震えてるけど大丈夫か?」
震えているのはアンタのせいよ!!!!! と目の前にいる背の高い男をすごい形相で睨み付ける。しかしその形相もつぶらな瞳の中から発せられていては意味を持たない。
目の前の男は飄々と「そんなつぶらな瞳で見つめてくんなよ。悪いが俺の専門はオンナなんだよ。ラクダと男は受け付けてねェんだ。」と、此方を馬鹿にしながら、こっちを見て頻りに目の前をウロウロ歩いている女子高生軍団に笑顔で手を振っている。すると手を振られた女子高生軍団はキャーッッvvvと叫んで近づいてくる。
お嬢さん達!! 此奴の見た目に騙されちゃいけない! 此奴は下半身ケダモノ男なのよ!! しかしそんなあたしの忠告も声に出さなければ忠告していないのと同じ。女子高生軍団は一気にわたしを押しのけて……訂正、あたしを倒してその上を踏み付けて下半身ケダモノ男に群がった。気分は、俺の屍を越えてゆけ。ゆけって言う前にもう越えられたけど。
あたしがこんな目に合うのも、全てはコイツ、下半身ケダモノ男と数時間前に出逢ってしまったせい………。
ゴールデン・ウィーク一日目。
その日、あたしは求人雑誌で見つけた時給八百四十円の遊園地マスコットキャラのバイトに精を出していた。そのあたしがバイトをしている場所は 今、一番人気の『トトテーマパーク』。
東京○ィズニーランドとかU○Jとかまではいかないけど多分、宝○ファミリーランドよりは入場客は多いと思う。そんなトトテーマパークのマスコットキャラは何故かラクダ。ディズ○―ランドで言うネズミのミッキー○ウスが此処ではラクダ。US○で言うウッ○ィ・ウッドペッカーがトトテーマパークではラクダ!しかも名前は『クッチャバ』。チャームポイントはキュートなつぶらな瞳。これでもオス。そんなクッチャバの中にあたしは居る。そしてクッチャバの着ぐるみの中で見えないのに営業スマイルで小さい子どもに風船を配っちゃったり。でもそれがあたしの今日の仕事。『声を出さず、子どもに罵られようがどつかれようが常に笑顔でクッチャバになりきる! お客様は神様です!!!』そう言って拳を振り上げて力説していた店長を思い出す。
ついでに「一言でもクッチャバの中に居たまま声を出したり、子どもの夢を壊したりしたらクビだからね。」と笑顔で言っていたことも思い出した。
今月の残金、千二百六十一円のあたしにクビは正直言って辛い。ィャ、正直に言わなくても辛いんだけど……。とっ、ともかく、あたしは残金千二百六十一円という危機から脱する為にこのバイトに力を入れていた。
…………そんなときにヤツは来た。
その時のあたしは小さい糞ガキ共に殴られ、蹴られ、果てはかぶり物を取られそうになりながらも必死でそれを制しながら賢明に仕事に専念していた。
すると不意にクッチャバの肉にあたる部分を小さく引っ張られるのを感じて、その方向へ振り向くと四,五歳くらいの可愛らしい女の子がこちらを見上げていた。
「………風船、頂戴?」
疑問系で首を傾げながらお願いする仕草はかなりあたしのツボにはいった。もし此処に優雅がいたら「萌えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――っっっっっっっっ!!!!!!1!」と叫んで、この子をお持ち帰りしていたかも知れない。と想像して、此処に優雅が居なくて良かったとあたしは思った。
じっとこっちを見つめてる女の子に風船を渡してやると、その子は嬉しそうに「ありがとう」と微笑むと、その子の保護者であろう人物の元へ駆けていく。 あんな可愛いんだからきっと家族は美形揃いなんだろうなあ、とその子が駆けていった方向を見ると、あたしと史上最強にして最高に最悪の相性、宿敵といっても過言では無いヤツが居た。しかも走り寄った子に今まで見せたこともない最高に優しい笑顔を見せて。
(総司ィ――――――――――っっっっっっっ!!!!????)
と思わず口に出して叫びそうになるのを堪える。ここで叫んだらクビ。
明日からどうやって生き延びるんだ自分!! あたしはバイトのプロよ! こんなところで時給八百四十円を無駄にしたくない!! あたしはクッチャバ。あたしはクッチャバ! クッチャバクッチャバクッチャバハピハピ……。
まるで何かを呪うように心の中で唱え続ける。因みに、クッチャバハピハピはハイ○ューのCMだったっけ?
「クッチャバに貰ったぁ。」
嬉しそうに見上げて報告する少女に総司はあたしの前では絶対に見せない笑顔で、その子を抱き上げた。
「そっか、良かったな 雫。ちゃんとお礼言ったか?」
うわっありえねぇ!! 総司のこの行動! まるで悪夢でも見ているよう。夢なら覚めて! お願い!! と、つい切実に願ってしまう。
「ちゃんと言ったよ。雫えらい?」
そう聞いてくる少女に総司は笑って頭を撫でてやった。
「あぁエライエライ。流石は俺の妹だ。」
「妹ォォォっ!!!??」
信じられない! うそっ?! まじで!!?? こぉんな可愛い子が、あの下半身ケダモノ男と兄妹?! まさか! 誰か嘘だと言って!
と、胸中の叫びが口から出てしまった。
しまった! と思った時にはもう遅い。あたしは慌てて周りを見渡した。
良かった、店長は近くに居ない。ふぅっと安心して溜め息を着くと突然、肩を何かに掴まれた。正確には、誰か………イヤ、総司に。
「あれー? 茜?? こんなところで会うなんて奇遇じゃないか。どうしたんだ? こんな不格好な着ぐるみなんか着て。何? オマエ、とうとう着るものが無くなったのか? そんでこんなトコロまでやって来てこの着ぐるみをコッソリ持ち帰ろうとしてんのか? ダメだろう、いくらなんでもそれだけは。人気あるかどうかも怪しいが仮にも此処のマスコットキャラ、クッチャバの着ぐるみを盗もうとするなんて。純粋無垢な子どもの夢を壊すなよな。」
妹の雫ちゃんを下に下ろすと、いつもの、口元に意地の悪そうな笑みを浮かべながら、実に人に不快感を与える言葉を次々と爽やかな笑顔で発する。心なしか歯が白く光った気がする。
「そっ………」
そんな訳あるかぁ!! と怒鳴りそうになって、ハッと店長の言葉を思い出す。
『言葉を発したらクビ。』
その言葉がふっと脳裏を過ぎって、あたしは言葉を呑み込んだ。ここでクビになるわけにはいかない。
「ん?」
嬉しそうにこちらをのぞき込む総司。ヤツの術中に嵌ってはいけない! ここは是が非でも知らんぷりをするのよ、茜!! 青桐忍法、秘技! 『他人の振り振り大作戦』
あたしは黙って総司に持っている風船を差し出した。
すると総司は意外そうに目を剥くと黙ってソレを受け取る。そうしてしばらくの間、無言であたしを観察し続けると総司はポケットから、おもむろに携帯を取り出してどこかへ電話を掛けに少し側を離れた。
今がチャンス!! とばかりにダッシュで逃げ出した。……つもりだった。しかし足が異様に重たくて一向に進まない。何故だろうと足元をみると、あたしの視線に気づいたのか雫ちゃんが見上げてニッコリ笑った。
ナルホド、雫ちゃんがしがみついてたのね。道理で足が動かないハズ……って、これじゃぁ逃げられないじゃん!! 青桐 茜ピーンチッッ!! そんなこんなしている間に総司は話を終えたのか戻ってきた。いつもの、あの意地の悪い笑顔のままで。
「なぁ、知ってるか? 雫。着ぐるみの中に入れる人間って限られてるんだぞ??」
総司は雫ちゃんを抱き上げると近くのベンチにあたし(正確には、クッチャバの中に入ってるあたし)を引きずって座ると唐突に喋りだした。
「着ぐるみの中に?」
ちょっ、小さな子どもの夢を壊すことをサラリと言いおって! この鬼!! 悪魔! 人でなし!! オマエの母ちゃんでーべーそーっ!
「あぁ。着ぐるみの中に入れるのは適正が合った人以外は入れないんだ。」
「どうして?」
「それはだな。もしもこのクッチャバの中にナイスバディなお姉さんが入ってたらクッチャバの体が変なカタチになっちゃうだろ? だから、クッチャバの中に入れるのは貧乳で胸ペーッタンコでまな板みたいに真っ平らじゃ無いといけないんだ。」
んなっっ!? なんですとぉっっ!!??
あたしは思わず叫びたくなる衝動を抑えて握り拳をつくる。しかし怒りが収まらないのか体が震えてしまう。
「お? どうした?? トトテーマパーク人気かどうかは知らないがマスコットキャラのクッチャバ君。体が震えているが大丈夫か?」
震えているのはアンタのせいよ!! と叫びたいが叫べない。代わりに目の前で悠々とニヤニヤしている男をすごい形相で睨み付ける。が、その形相もつぶらな瞳の中から発せられていては意味を持たない。「そんなつぶらな瞳で見つめてくんなよ。悪いが俺の専門はオンナなんだよ。ラクダと男にゃ興味はねェんだ」と此方を馬鹿にしながら、頻りにこっちを見ながら辺りをウロウロ歩いている女子校生軍団に笑顔で手を振っている。
手を振られた女子校生軍団はキャーvvと叫ぶとこっちに近づいてきた。
お嬢さん達! 此奴の見た目に騙されちゃいけない!! 此奴は下半身ケダモノ男なのよ! しかしあたしの忠告も声に出していなければ忠告していないのと同じ。女子校生軍団は一気にあたしを押しのけて……訂正、あたしを倒してその上を踏みつけて総司に群がった。
うぅ……あたしの人生こればっかり。もう哀しいどころじゃ無くなってきた。
と、あたしが地面と睨めっこをしながら胸中でぶつぶつ文句を言ってると頭上から聞き慣れた声が多数降ってきた。
「あれーぇ? 総ちゃん、また女の子ナンパしてるーぅ。」
「あの下半身ケダモノ男が女性を前にしておとなしくしているはずがないじゃない」
「イェーイ! スク-プスクープ!! シャッターチャーンスッ!」
「あんなの総司の側に居たらいつでも撮れますよ。」
聞き覚えのある声のほうを恐る恐る見てみると案の定、やっぱりというかなんというか……そこにはいつものメンバーが楽しそうに立っていた。
あたしはこの人達から絶対逃げられ……イヤイヤ、離れられないらしい……。あたしは半分諦めたように、そこに寝そべったまま起きあがろうとしなかった。
それが拙かった。
椿は、あたしを見つけると、あろうことか史上最高の笑みを浮かべる。
≪イチ≫↑
≪千鶴≫↓
「こんな所で何してるの、茜ちゃん?」
椿は寝そべったままのあたしに視線を合わせながらしゃがみ込む。
何で、あたしだって分かるの?! 椿はエスパーなのっ?! こんな力を椿は秘めていたのか……………。ってんな訳あるかいっ!!!
あたしが心の中で、一人漫才をしていると椿は首を傾げた。
「ん~、どうしたの? 何で何も言ってくれないの、茜ちゃん?」
いや、だからね、あたしは何も言えないのよ。なんたってバイト中だし。
「椿、きっとバイト中だから話せないんじゃない? 大方、バイト先の店長に『声を出さず、子どもに罵られようがどつかれようが常に笑顔でクッチャバになりきる!お客様は神様です!!!』って言われて、更に『一言でもクッチャバの中に居たまま声を出したり、子どもの夢を壊したりしたらクビだからね』とか言われたのよ」
そんなあたしの心の声を聞いたのか、鈴菜はしれっとした表情で言った。
すごい、すごいよ鈴菜。ドンピシャだよ。ってか何で分かるの? 今の台詞、店長のと全く同じじゃない。すごいを通り越して怖いね……。
敢えて視線を合わさないようにしながらそんなことを思ってしまった。
「いや~、人気? マスコットキャラのクッチャバが冷や汗を垂らしながら視線を泳がせてるよ~♪ これもまさしくシャッターチャァーンス!!!」
カシャカシャとカメラのシャッターを押し、あたし=クッチャバを撮るのは他でもない、優雅。
お願い、やめて………。これ以上、注目を浴びたくない。寧ろほっといて頂戴。クッチャバがこんなところで寝そべってるのが店長にバレたら確実にあたし、クビじゃん。
「優雅、そろそろ止めといた方がいいんじゃないですか? 人も集まってきましたし…………、茜さんもバイトが出来ないみたいですし…………」
神の助けか、そんな声が聞こえてきた。あたしは迷わず、グッと首を声の主の方に向ける。その声の持ち主はジロー!
ありがとう、ジロー! 感謝するわ。本気とかいてマジと読むくらい嬉しいよ。これからは、アンタの湯飲みを割らないようにきっと、努力する。
ジローをじっと見つめ、そしてハッとしたように立ち上がった。
本来の目的でジローに感謝の気持ちを表せばいいんじゃない!!
あたしはジローに向かって右手を前に出し、ストップ! というジャスチャーをした。
「えっ、動くな…………ですか?」
ジローはどういうことか分からず、首を傾げながら言う。
んもう! 最高! その通りっ!!
あたしはクッチャバの首が取れんばかりに頷くと、ダッシュでその場を離れた。向かう先は小さな倉庫。さっき、総司に無理矢理ベンチに引きずられたときに、あたしは誤って風船を手放してしまったのだ。
クッチャバの仕事は風船を配ること。つまり今のあたしは仕事が出来ない=バイトしてない=店長に見つかったらクビ………ぎぃゃぁぁぁ!! 絶対それだけは勘弁!
ついでに神の助けをしてくれたジローにも恩返しをしないといけないし……。
なので、あたしはその倉庫にある残りの風船をマッハで膨らまし(一人で)、風船を持ち、ダッシュでさっきの所まで戻って行った。
それを見てた他の係員さんは何か引いてた。まぁ、クッチャバが笑顔のまま、風船をマッハで膨らましてたら誰でも引くかな?まっ、いっか…………。
あたしが戻ると、みんなはちゃんとそこにいた。
「あっ、茜ちゃんが帰ってきたよ~」
最初にあたしに気が付いたのは椿だった。何か知らないけど、椿達はベンチの周りに集まり、総司の妹? (←ココ、まだ信じられないから)の雫ちゃんと仲良く話したりしてる。
あたしはクッチャバの中にいるからかなり暑い。しかも、全速力で走ったからかなり暑い。蒸し風呂みたいな感じだね、こりゃぁ……。肩でゼーハー息をしながらジローの前に行く。
その行動が不気味に思えたのか、ジローは何故かビクついてる。なんか失礼しちゃうなぁ~。せっかく、感謝の気持ちを込めてあたしが走ってきたっていうのに……………。
あたしはズイッと手に持っていた風船をジローに渡した。その様子にジローを始めとしたみんなが目を見開いている。
が、ジローは恐る恐るその風船を受け取った。たぶん、ジローなりにこの行動の意味が分かったんだろう。
と、そのとき、雫ちゃんが椿の服の袖を引っ張り、話しかけた。
「ねぇ、椿お姉ちゃん、クッチャバの名前、茜っていうの?」
ぬぁ、ぬぁにを~ぅ?! 雫ちゃんっ、何を言うのですか?!
それを聞いた椿はニッコリ笑い、座ってる雫ちゃんの視線に合わせる為に、しゃがみ込み、優しく言った。
「そうだよ~、というよりもクッチャバの中に入ってるのが、あか」
あぁぁぁぁぁ!! 言うな、言うな、言うなぁぁぁっっ!
椿はあろうことか、あたしのことを言おうとしてる。ダメ! 雫ちゃんには『茜お姉ちゃん』って呼んで欲しい! 『クッチャバの中に入ってたお姉ちゃん』なんて呼んでほしくないっ! だ~か~ら~!! 茜って言うなぁ~!
あたしはこれ以上、椿が言わないようにする為、慌てて椿の口を塞いだ。(クッチャバの手で)が、着ぐるみってのは思ったよりもバランスがきかない。勢いあまって、あたしはそのまま椿を押し倒してしまった。
「きゃっ!!」
「のぅわっ!!」
ドシンッと、あたし達は倒れ込む。
……………………………………………………………。
…………何ていうか、かなりイヤ~な雰囲気が漂ってるんですけど~ぉ。
椿は、目を丸くしてあたしを見てるし。鈴菜は冷めた視線を送ってるし、ジローはいつも笑ってるのに、今ばかりは開眼してる。優雅だって、シャッターチャンス!とか言いそうなのに、何も言わないで黙ってるよ。雫ちゃんは……あぁ、どういうことか分からずに首を傾げてるね。総司が女の子にいつもすること、雫ちゃんにはまだ分かんないんだね、よかった。雫ちゃんに変な誤解されたら……悲しくなっちゃうよ。倒れちゃったんだね、とかしか思ってないようだし。総司、あんたに似なくてよかったね、よかった、よかっ……はっ!! 総司の顔、まともに見れないのは、あたしの気のせい……?!
あたしはどこからか黒いオーラが見えたような気配がした。
「おい、茜……。何、姫を押し倒してるんだよ、しかも俺様と雫の目の前でよぉ……。教育的にも悪いんじゃねぇか?」
かなりご立腹のような声で総司が言うのが分かった。
いや、教育的に悪いってさぁ、アンタ人のこと言えないじゃん。いつも女をはびこらせてる下半身ケモノ男なのに………って言いたいのに、今の状況じゃ言えないんですけどぉ。
ギギギッと首だけ動かし、総司を見た。案の定、怒ってらっしゃるね。
そんなことを思ってたら、ドコッと体を蹴られた。あたしは衝撃でゴロゴロと転がり、ベンチのイスに顔をぶつける。
いや、痛くはないんだよ。クッチャバの中に入ってるからね。でもさぁ、いきなり蹴ることないんじゃない? ねぇ、総司ぃぃぃぃぃぃっっ!!
キッとあたしは総司を睨み付けた。なのに、総司は驚いた顔をしてる。あれっ? 総司だけじゃない。鈴菜や、ジロー、椿までもが驚いてる。何で? 総司が蹴ったんじゃないの??
「大丈夫、椿ちゃん?」
「えっ、あっ、うん。ありがとう、優ちゃん………」
何ですとぉ~~~~?! 優雅なのかぁぁっ!!
あたしはあんぐりと口を開けた。まぁ、クッチャバの中だから分かんないと思うけど………。
あたしが唖然とする中、優雅は椿の手を取って、立たしてあげてるし……。なんか、すっごく意外なんだけど……。
「ねぇ、茜………………」
優雅は椿を立たせてから、あたしの方を向き、しゃがみ込んだ。
「うぇっ、は、はい………」
バイト中なのに、思わず声を出しちゃったよ。だって、何か今の優雅、かなり怖いんだもん!!
「いくら茜が女でもね、クッチャバの中に入ってたら男か女かは、はたから見たら分かんないんだ。だから、他の人が見たら、完璧に椿ちゃんを押し倒して、襲ってるようにしか見えないんだよ」
「う、うん………」
「これからは、気を付けようね」
ニッコリ笑った後、優雅は立ち上がり、行こうか。と言って椿の手を取って行っちゃったよ。それを見てた鈴菜とジローも顔を合わせるなり、クスッと笑って行ってしまった。残ったのは、総司と雫ちゃんとあたし……。う~わ~、何か気まずくない? そんな雰囲気を察知したのか、総司は軽く溜息を吐くと、あたしに向かって言った。
「まぁ、優雅は怒らすなってとこか……。茜、俺らはこれからたぁっぷり遊ぶが、まぁ、クッチャバとしてガンバレよ! 雫、行こうか」
「うん、雫、早く遊びたい!」
そう言うなり、総司と雫ちゃんも手を繋いで行った。なんか、ムカツクこと言われたような気がしたのはあたしの気のせいですか??
あたしが呆然と二人を見てると、何を思ったのか、雫ちゃんが振り返った。あたしに手を振ってる。えっ、あたしっ?! あたしに手を振ってくれるの、雫ちゃん?! 何か嬉しくて顔がにやけちゃうよ。あぁ、こんな妹が欲しいっ!
あたしはブンブンと雫ちゃんに向かって手を振った。
「バイバーイ、クッッチャバの中に入った茜お姉ちゃん!」
ピシッ、とあたしの中で何かが崩れた。振っていた手が止まる。
そんなあたしを見て、総司は何だか笑ってた。キィィーッ、むかつくぅ!!!
そのとき、ポンッと誰かに肩を叩かれた。
「あん?」
何よ、あたしは今、ものすごく機嫌が悪いのよ!! って、てててててて店長ぉぉぉぉぉ?!?!?!?!?!?!
あたしの肩を叩いたのは、なんと店長だった。しかも、何かすごい笑顔だよ。
「青桐君………」
「は、はい………」
あたしはビクビクしながら店長の次の言葉を待った。だってね、なんか、すんごくイヤ~な予感がするんだもん。その、イヤ~な予感、当たらないでほしいな~♪ って思っちゃったりするんだけど………。
「君、………………クビね」
「………………………………………………………………………」
あたしは耳を疑った。今、何て言いました?
「ハイ?」
「いや、だから………ク・ビ☆」
店長は仕草付きでもう一度言ってくれました。こう、手を自分の首にあてて、切る? みたいな感じ?
「………………嘘―――ん?!」
こうして、あたしのゴールデンウィークは終わった。クッチャバの中で頑張ってたって言うのに、給料くれないし……。しかも、他にもバイトを入れてたのに、何故か総司達がやってきて邪魔するし………。
あー、もう!! 信じらんないっ! これから、あたし、どう生活していけばいいっていうのよ――――!!
≪千鶴≫↑
≪ブラウザでお戻りください≫
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