★☆自分の木の下☆★

★☆自分の木の下☆★

15.二人の真実


 頭の中は混乱中。何がなんだか分からなかった。何で……あんな言葉を言ってしまったんだろうか……?
 ただひたすら茜は走っていた。あのとき鈴菜が来なければ、茜はもっと総司に何か言ってしまっていたかもしれない。自分の心の中にある気持ち。分かるようで分からない。このモヤモヤを口に出してしまいそうだった。本当に……鈴菜が来なければ……………。そのとき、ふと茜は足を止めた。
「何で鈴菜が総司の家に来たの……?」
 同じBlack Listのメンバー。総司と鈴菜はそんなに仲が良かった? いや、茜が覚えている限りでは家に遊びに来るような仲ではなかったのは確かだ。寧ろ、鈴菜は浩也とだし、総司だって女遊びが激しくて特定の人を作るようには見えなかった。
 でも………。
「鈴菜……呼び鈴も押さずに入ってこなかったっけ………」
 よくよく考えてみればそうだ。普通は呼び鈴を鳴らすはず……。自分が気付かなかっただけ? いや、そんなはずはない。あのとき呼び鈴は鳴らなかった。
「何………なのよ………」
 気になってしまう。こんな気持ち……嫌だ…………。




 次の日。
 あれから茜は自分の家に帰ったものの、何も手につかなかった。あの写真の女の人のことも気になった。けれど、やはり身近な存在の総司と鈴菜の方が気になってしまったのだ。
「あ、おはよう! 茜ちゃん♪」
 椿は茜に近付き、ニッコリ笑った。が、茜は何の反応もなく、ぼへ~っと焦点が合ってない感じで遠くを見ていた。
「茜………ちゃん?」
 どうしたものかと椿が思っていると茜はそのまま自分の席へと歩いて行った。
「やっ、椿ちゃん! おはよ~」
「あ、優ちゃん………」
 やっ! と手を上げ優雅は笑顔で椿に挨拶をした。が、椿に元気がないことに気付いた。
「どうしたの?」
「茜ちゃん、何か変なの………」
「茜が………?」
 心配そうに視線を動かす椿を見て、優雅も視線を追った。のろのろと自分の席に向かう茜の姿が見える。
「………………いつものことでしょ?」
「………………う~ん」
 茜が変なのはいつものことなのだが、椿は首を捻っていた。




 一方、席に着こうとした茜。しかし、その足は止まっていた。鈴菜の隣の席に座るのを躊躇ってしまったのだ。鈴菜は此方に気付いてないのかパソコンを打っている。そんな茜に気付いたのは浩也だった。
「どうしたんですか?」
「うぇっ!?」
「………あら、今日は早いのね………」
 変な声を出してしまった茜。その声でようやく気付いた鈴菜は手を止め、茜を見た。
「お、お、おは、おは、おは、おおおおおははよよううううぅ!」
 どもった。思いっきりどもってしまった。しかも、鈴菜の顔を見ず、明後日の方向を向いて言うものだから明らかに変だ。
「あ? 何だ、早いな茜………」
 その声に茜はビクッとした。ゆっくり視線を動かしてみると、鞄を肩に担いでまだ眠そうにしている総司がいた。大きな欠伸までしている。
「とか言って総司も十分早いですよ」
 いつもの笑顔で言う浩也に対し、鈴菜も頷く。
「全くね……。あ、昨日のヤツどうだった?」
「あぁ、美味かった。サンキュ………ほら、コレ………」
 そう言いながら総司は鞄をあさり、綺麗に洗ったタッパを鈴菜に渡した。それを見た瞬間、茜はまた変な気持ちになった。
「あら、帰りにでも寄るから別に学校に持ってこなくてもよかったのに……」
 ごくごく自然に受け取る鈴菜。二人の関係って何? そう聞きたくても何故か聞けない。茜は二人を見ながらギュッと手を握り締めた。
「えっ、何でなん?! 二人ってもしかして付き合ってんのか? そんなタッパをごく自然に受け取り、尚かつ家に行くなんて…………」
 未だ椅子に縛り付けられていた晴貴はガタガタと体を揺らしながら問うた。実は晴貴、昨日からずっとこの状態だ。ご飯やトイレなどは………想像にお任せしよう………。
「はぁ? お前何言って」
「あぁぁたし、眠いっ。ごっつ眠いからっっ綾ちゃんとこ行ってくるぅぅ!」
 総司の声を遮って茜は大きな声で言った。聞きたくなかった。もし、これで二人が付き合ってるんなら…………。
 茜は踵を返すとダッシュで教室から出て行った。それを唖然と見ていたBlack Listメンバー&晴貴。
「何だアレ…………?」
 総司の声に答えるものは誰もいなかった。




 静かな部屋。消毒液の匂いが立ちこめるが、嫌な香りではない。寧ろ落ち着く。よく生徒がココに立ち寄るが、今は生徒は一人もいなかった。いるのは保健医と一人の男性だけだった。
 ピーッとお湯が沸き、保健医が動く。
「はい、梅谷先生。紅茶でもどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 椅子に座り、梅谷……通称、梅ちゃんは紅茶を受け取った。
 今梅ちゃんの心臓はドキドキしていた。何せ、思い人の保健医、深見 綾(ふかみ あや)が入れてくれた紅茶なのだ。こうして二人でいると何とも幸せな気持ちになる。
 因みに初登場、綾の弟はお馴染みBlack Listメンバーの一人、優雅だ。更に言えば綾は男。しかし、梅ちゃんは綾のことを女と思っているのである。いつの間にか女として目覚めていた綾。本名はリョウ。同じ漢字なのでこうしてリョウはアヤとして名乗っている。
「最近どうですか?」
 優しい声。まるで天使のようだ。梅ちゃんは顔を赤くさせながら言った。
「はい、大丈夫です。何たって……何たって井上が学校に来たんですよ! それに青桐も勉強にやる気を出してくれたし……。あぁ、教師になってよかったって改めて思います!! って、うわっ!」
 思いを噛みしめて言う梅ちゃん。つい力が入りすぎて立ち上がってしまい、その拍子にせっかく入れてもらった紅茶が零れてしまった。
「あぁっ、大丈夫ですか?」
 紅茶、かかりませんでしたか? と首を傾げ、上目遣いで見つめる綾を見て梅ちゃんの心臓はドッキュン。
 告白するなら今しかないと思った梅ちゃんは、タオルを持ち此方を見る綾の手を優しく掴んだ。
「あ、あのっ!」
「はい?」
 綾は手を握られて首を傾げる。反対に梅ちゃんは顔を真っ赤にさせていた。
「じ、じ、実は……初めて会ったときから………っ、あの、その………」
「梅谷先生?」
「……………………………そのっ、深見先生のことがっ、す、す、す」
 バンッ!!!!!!!!!!!!
 決死の思いで綾に告白しようとしたのに、急にドアが開いた。それに思いっきり反応した梅ちゃんは綾の手を握ったまま固まってしまった。そのまま恐る恐るドアを見るとそこには肩で息をしながら茜が立っていた。
「茜ちゃん………どうしたの?」
 梅ちゃんに握られていた手をいとも簡単に外した綾は茜の方へと近づいた。綾が手を離したとき、梅ちゃんが微かにあっ……と言ったのは秘密だ。
 が、茜は何も言わないままスタスタとベッドの方へ行くとボスンッと倒れ込んだ。頭から布団をかぶり、小さな声で言う。
「ゴメン………寝かせて」
 その声に綾は顔を顰めた。よくみんなで家に遊びに来ていたのでBLACK LISTメンバーと綾は顔見知りだった。勿論それは茜もだ。そんな茜が弱々しく言った言葉。単なる眠いだけと他の人は思うかもしれないが、その言葉の裏にある意味に気付いた綾はポンポンと布団をかぶっている茜の頭を優しく叩いた。
「了解。ゆっくり休んでちょうだいね………」
 優しく言うと茜は微かに頷いたようにも見えた。それに綾は微笑む。
「あ、あのっ、青桐は?」
 ただならぬ茜に梅ちゃんも気付いたのか近付いてきた。しかし綾はニッコリ笑うとカーテンを閉めてしまった。
「平気ですよ。寝不足でしょうから……。そっとしておくのが一番でしょう」
「はぁ………」
「さ、梅谷先生も授業があるんじゃないですか?」
「えっ………! 本当だ。それじゃぁ深見先生、またっ!」
 チラッと時計を見ると授業が始まる五分前。梅ちゃんはペコリとお辞儀すると急いで保健室から出て行った。それを綾は笑顔で見送ってから茜が寝ているベッドへと視線を向けた。
 さっきの茜の言葉。裏を返せば、そっとしておいて……。とでもいう感じだろう。
 何があったのかは気になるが、こっちから聞くものではないだろう。綾は小さく息を吐くと机に向かい、書類を書き始めた。





「茜ちゃん、帰ってこないねぇ~」
 机に頬杖をつき、椿は残念そうに言った。
 今の時間は昼休み。いつもなら、飛んでくるはずの茜なのに、今日は帰ってこなかった。今朝、保健室に行ったっきり、戻ってきていない。
「今日の茜さん、やはり変でしたねぇ……」
 ズズッと自分の入れたお茶を飲み、浩也が言った。それに、うんうんと優雅も頷く。
「う~ん、昨日何かあった?」
 チラリと総司を見る。総司は日課となりつつある茜のプリントを見ていた。必死で採点しているのを見て、此方の会話に気付いてないと優雅は理解した。
「鈴菜さん、昨日総司の家に行ったんですよね? 茜と会いませんでしたか?」
 メロンパンを囓りつつある鈴菜に浩也が問う。鈴菜は上を向き、少し考える素振りを見せてから言った。
「昨日……ねぇ。確かに総司の家に行ったけど、茜とは入れ違いよ。私が入ったら茜、すぐに出てきたもの」
 それを聞き、椿、浩也、優雅の三人は首を捻った。茜の今日の態度を思い出して見る。元気のなかった茜。なかなか席に座ろうとせず、鈴菜の方を見ていた。そして総司に声を駆けられたら妙に慌てていて………晴貴が確か……。
「あ、そういえば晴貴は?」
 すっかりと忘れていた晴貴。優雅がチラリと視線を向けるとそこに晴貴の姿はなかった。ロープで括りつけられていたのに、そのロープが外れている。
「晴ちゃんならトイレだよ。なんかものすごく椅子を動かして自己アピールしてたからどうしたのかと思って聞いてみたんだ。そしたら『椿ちゃん。一生のお願いやからこれ外してんか? トイレっ、も、漏れそうやねん! 昨日からずっと我慢しとってん!!』ってさ。何で今まで我慢してたのか分からないけど、漏らされたらこっちがたまらないでしょ? だから外してあげたの♪」
 なんかさり気なく黒い発言をした椿だったがエヘッといつもの笑みを浮かべていた。それにどう対処すればいいのか分からない優雅と浩也だったが、鈴菜が口を開いた。
「それって………いつ?」
「ん~~、確か……茜ちゃんが保健室に行った後……かな?」
 もう一度言うが今は昼休み。何時間も経っている。
 鈴菜はハァッと溜息を吐くと言った。
「迷ってるわね…………」





「ここはどこや~~~~?」





 鈴菜の予想通り、晴貴は校内で迷っていた。


「あ、話がいつの間にかズレてますよ。………確かあの後、晴貴が総司と鈴菜さんを付き合ってるのかとか言ったんですよね………」
 フフフ、と浩也は笑い、微かにシャキンと刀の鳴る音が耳に届いた。
「いやさぁ、ほら……晴貴は今までいなかったからさぁ……総司と鈴菜しゃんがイトコだって知らなかった…………って、あれ?」
 優雅はアハハと笑いながら言っていたが、何かが引っ掛かった。総司と鈴菜はイトコ。それは体育祭のとき、みんな知っているハズだ。みんな? いや、茜は…………。
「どうしたの、優ちゃん?」
 急に黙り込んだ優雅を見かねた椿が問いかけた。
 違う、知らないのは晴貴の他にも、もう一人いた。
「茜って………総司と鈴菜しゃんがイトコだって知らないよねぇ?」
 ゆっくりと視線を上げる優雅。その言葉に浩也と鈴菜は納得した。
「あぁ……そう言えば、言ってなかったですよねぇ……」
「もしかして茜……。私と総司が付き合ってるって本気で思っているの?」
 浩也はうんうんと思いだし、鈴菜に至っては顔を顰めていた。普段あまり笑わない鈴菜。彼女が顔を顰めると、何やら恐ろしい……。
 そんな中、椿は首を傾げていた。
「あれ、そうだっけ?」
 黙っていようと言った張本人。それなのに椿はスッカリポンと忘れていた。自分の言った言葉を覚えていない椿。やはり小悪魔だ……。
 総司はその会話が聞こえていないのかどうかは分からないが、やはりひたすら採点をしていた。



 夕日が教室に光を送る。生徒も下校し、学校に残っている生徒は少なくなっていた。そんな中、鈴菜は一人で教室に残り、パソコンをさわっていた。
そこへカタンと音がする。鈴菜は打っていた手を止め、音のした方を向く。そこには此方を見ながら腕を組んでいる総司がいた。
「総司じゃない、どうしたの?」
 だが総司は何も言わず、鈴菜の方を見ているだけだった。変に思った鈴菜は立ち上がると、総司へと近付いた。
「何? 私の顔に何かついてっ?!」
 言い終わる前に総司は鈴菜の腕を引っ張っていた。当然、何の構えもしていなかったのだから鈴菜の体は前へと倒れ込む。
「ちょっ、総司?!」
 突然のことに鈴菜は藻掻くが力の差。男と女である。それに総司は鈴菜の腰に手を回し、逃げられないようにしていた。
「っ、いい加減に」
「鈴菜………」
 酷く甘い声。鈴菜はピクリと反応した。
「…………いつまで黙ってるんだ…………?」
「……………それは…………」
 抱きしめられて鈴菜もそれに答える。総司の肩に顔を埋め、小さく言った。
「茜を俺の恋人役として使ってるが、俺はお前が……」
「っ、駄目っ!」
 鈴菜はハッとしたように総司の腕から離れた。距離を置き、顔を背ける。
「内緒にするって言ったでしょ。私たちの関係………」
「我慢できねぇんだよ………」
 ギュッと後ろから総司は鈴菜を抱きしめた。
 それを茜は見ていた。保健室から帰ってきて、自分の荷物を取りに帰ってきたというのにこの状況。ドアに隠れて茜は黙って見ているしか出来なかった。
 夕日はまだ二人を照らしている……。






「ったく……………」
 頭をガシガシ掻きながら総司は保健室に向かっていた。自分の荷物、そしてもう一つ。茜の荷物も持っている。
 あれから一日、茜は保健室から戻って来なかった。総司は別に気にしてなかったのだが、椿に無理矢理茜の荷物を渡され迎えに行ってきてと頼まれたのだ。メンドクサイと思いながらも椿の頼みは断れない。妹のように可愛がっているのもあるが、なによりあの笑顔の裏が恐ろしい……。
 ガラッと保健室の中に入る。が、そこに綾の姿はなかった。総司はそのまま茜の寝ているベッドへと近付いた。一つしかカーテンが閉まっていなかったので、迷わなかった。カーテンを開けると思った通り、茜がぐっすり寝ていた。
「黙ってれば………結構なんだけどな………」
 そっと茜の髪に触れてみる。サラッと流れる栗色の髪。長い睫毛。桜色の頬と艶やかな唇。総司の手はいつの間にか茜の頬に触れていた。
 この前のこと。総司は茜にキスをした。特別の意味なんかはない。ただ、反応を見てみたかった。茜の反応は他の誰とも違い、予想がつかないのだ。だからつい、ちょっかいを出してしまう…………。
『本当にそれだけか?』
 心の中のもう一人が呟いた。総司は首を振る。当たり前だ。
『アイツと同じように茜を重ねているんじゃないのか?』
 違う。茜とアイツは正反対だ。顔も、性格も……全部。
『好きなんじゃないのか?』
 好き……? 俺が茜をか……? ………そんなハズない。第一俺はもう本気の恋なんかしない。俺が愛したのは……アイツだけだ……。
「んん…………」
 ふいに茜が動いた。いや、唸った。すぐに総司は手を離し、茜を見た。すると、茜の表情が変わっていった。顔は歪み、冷や汗をかき、どことなく青ざめているようにも見える。
「嘘だ…………総司と鈴菜がぁ…………」
 寝言だ。一体どんな夢を見ているというのだろうか? 自分の名前まで出ている……。総司はこのままでも面白いと思ったのか、起こさず茜を見ていた。





 コチコチと時計の音が教室に響く。
 総司と鈴菜は未だ抱き合ったままだった。茜は声を潜め、その様子を見る。何でこんなコソコソしているのか分からない。だが………。
「鈴菜………」
「総司………」
 呼び合う二人。茜は目を見開いた。二人の距離が近付く。互いに目を閉じ、顔を近付けているのだ。
「だ………………………」
 嫌だ。見たくなかった。


「駄目ぇぇぇぇぇっ!!!!!」


ゴチィィィ~ン。
 急に茜が大声を出し、起き上がったので総司と茜の額はごっつんこ。茜は仰向けに倒れ、総司はその場にしゃがみ込んだ。
「~~~~~っ、ったぁ……。え、夢? 今の夢? ってか何で総司がっ」
「こんのアホ女っ!!!」
 バシッと思いっきり総司は茜の頭を叩いた。
「あうっ! って叩かないでよっ! 暴力反対っ!」
 キッと睨む茜を見て、総司はまだ痛む額を押さえながら立ち上がった。こんな奴がアイツと重なる訳がない。総司は軽く溜息を吐くと踵を返した。
「帰るぞ。さっさと来い………」
「は? 何言って……ってか授業は??」
 顔を顰め、総司を見る。茜にとってはまだ昼前のハズだった。
「阿呆、とっくに終わってんだよ。外見てみろ」
「外…………うわっ、何じゃこりゃぁぁっ?!」
 茜は総司に言われるままに見て、唖然とした。外には夕日。保健室にある時計を見れば午後六時。わぁお………。
「…………ほら、行くぞ」
 また溜息を吐いた総司は保健室を出て行った。茜はそれを呆然と見ていた。自分の荷物と茜の荷物を持っている総司……。何か………優しい?






 帰り道……。総司の後ろを茜は歩いていた。しかし、二人に会話はなかった。総司はどう思っているか分からないが、茜はさっき見た夢のことを考えていたのだ。
 誰もいない放課後の教室。総司と鈴菜が二人きり。恋人のようだった。しかも、抱き合ったりなんかしちゃったりして、オマケに……キ、キスまで……。
「そう言えば……お前さっきどんな夢見てたんだよ」
「うえっ?!」
 まさにそのことを考えていた茜はビクッと肩を震わした。慌てて総司を見ると、その顔はニヤニヤしていた。コッチの考えなんかお見通しのような表情。
「俺と鈴菜の名前出してたなぁ~」
「っ、べ、別にあたしはっ!」
「イトコだよ」
「へっ?」
 茜はさっきまでの勢いが途端になくなった。イトコ? イトコって……。
「俺と鈴菜はイトコだ。変な勘違いすんじゃねぇよ………」
 そう言いながら総司は前に進む。茜はそんな総司の後ろ姿を眺めていた。何故か二人がイトコと聞き、恋人じゃないと分かりホッとしている自分がいた。
 ホッ? その気持ちに、ん? と思う。何でホッとしているのか分からない。ってか何であたしがそんなこと思わなくちゃいけないのよっ!
「あぁ、そうだ」
「ぶっ?!」
 前を見ずに茜は歩いていたので足の止まった総司の背中に思いっきり、ぶつかってしまった。
「………何してんだ?」
「な、何もっ」
 ブンブンと首を振る茜を見て総司は顔を顰めたが、さして気にしなかったのか自分の鞄をあさり出した。そして一枚の紙を取り出し、茜に渡した。
「? 何コレ……」
「昨日のプリントだ。お前、俺ん家でやったまま帰っただろ?」
「あぁ!」
 そうか、昨日プリントを総司の家でやっていたんだ。そして出来たから総司に言おうとしたら………その、ついいろいろと………。
 昨日の事を思い出し、茜はまた百面相をし始めた。
「お前もやれば出来るんだからその調子で頑張れよ……」
「? ………………………?!」
 茜は何言っているのか分からなかったが、プリントに目を向けて驚いた。
「九七点!? 嘘っ、信じらんないっ!!!!!」
 奇跡、奇跡が起っていた。最低最悪の英語。それが昨日やったプリントで九七点をとったのだ。例えそれが中学生の問題だとしてもだ。
 嬉しい! と喜んでいる茜を見て、総司も笑っていた。その顔は、いつも馬鹿にしたような笑顔ではなく、優しい笑みだった。
「それで基礎は何とかなったハズだ。他の教科は暗記だから何とかなるだろ? 明日のテスト、絶対に落とすなよ?」
 いいな? と念を押す総司に対して茜は首を傾げた。何やら聞き捨てならない……もとい、初耳の言葉を聞いたからだ。
「明日の…………テスト?」
 嫌な予感がする。こう、じわりじわりと何かが起る感じ。しいて言えば最高の笑顔で此方に向かってくる椿のような………。
「明日からテストだ。確か………日本史、世界史、んで………化学か」
 その言葉に茜は固まった。嘘だ。全部暗記ものじゃないか……。
 確かに茜は暗記ものには強いところがある。いつもテストでは一夜漬けなのだから……。だが、流石に日本史、世界史、化学は………無理だろう!
 冷や汗をダラダラと掻く茜を見た総司は、茜の顎を掴み、上を向かせた。
「なっ?!」
 突然のことに茜は目を見開いた。
「いいか、俺がお前の為にここ何日も教えてやったんだ。お前、分かってんだろうなぁ?」
 グッと近付く総司を見て茜は赤くなりながらコクコク頷いた。
 近い、近い、近いぃぃぃ! 総司の顔、近いってばぁぁぁぁ!
 そんな茜の反応に気付いたのか総司は、いつもの笑みを浮かべた。あの、何かを企んでそうな笑みだ。
「せっかくだからオマジナイしてやるよ」
 茜は反応する暇もなかった。総司は茜の顎を掴んだまま近付き、額にチュッとキスをしたのだ。呆然とする茜を見てニヤリと笑い、更に唇を落としていき、耳をカプッと噛む。
「っ?!?!?!?!?!」
 ゾクリとする感覚で元に戻る茜。先程よりも更に顔を赤くしながら茜は噛まれた耳をバッと触った。ついでに総司と距離をとる。
「じゃぁな」
 ニッと笑い、総司は帰っていった。茜の鞄はいつの間にか置いてあった。いや、鞄のことなど、この際どうでもいい。だんだん自分が何をされたのか分かってきた茜はこれ以上ないくらいの顔で言った。
「こんの万年発情期男~~~~~っ!」
 星が輝く中、茜の声は響いていた。






 因みにテストの結果は……また後日。
                                                                     ≪千鶴≫↑


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 ここまで読んでくれて有難うございます!
 やっと恋愛要素が入ってきました!









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