★☆自分の木の下☆★

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20.あいた距離



 楽しかった夏も終わり、季節は秋を迎えた。それに伴い、あかねたちの通う学校にも学業行事である修学旅行が始まった。場所は北海道、小樽・函館・札幌の三箇所。三泊四日の長旅だ。その中で一人、この旅行に賭けている人がいた。それは北花高校きっての問題クラス・2-Eのクラス担任である梅谷先生だった。彼は兼ねてから想いを寄せている保険医・深見 綾にこの旅行で告白しようと決めていた。
「よぅしっ! 俺はやるぞーっ男になるんだーぁっっ!!」
 集合場所である関西空港で、彼は一人叫んでいた。そんな彼を、受け持ちクラスの面々は遠巻きに眺めている。
「鈴菜さん、梅ちゃん放っといていいんですか? ほかの人の迷惑ですよ、あれは」
「放っときなさい。あんな恥知らずと知り合いと思われたくはないわ」
 浩也の言葉に、顔を見ることなく鈴菜は切り返す。引率する先生たちも遠巻きに「ついに梅谷先生もブラリスメンバーの毒牙にやられたか……」とか「くわばらくわばら……」などと、憐れんだ視線を投げかけながら呟いていた。その中で一人、深見先生だけが呑気に「梅谷先生は気合充分ですね、頼もしいです」などと笑顔で言っていたりする。ある意味、羨ましい理解の仕方だ。
「それよりも気になるのは、アイツよ」
 ため息混じりに視線を向けた方向には通り掛かったスチュワーデスと楽しげに話をしている総司の姿。
「ついこの間まで、大人しかったのに最近またひどくなっているわよ、総司の女遊び」
「そうですね……」
 あの癖がぶり返したのは、夏の旅行が終わってからだ。あれ以来、総司と連絡が取りにくくなったことに浩也と鈴菜は、軽く疑問を抱いていた。
「一体、何があったんでしょうか……?」
「おかしいと言えば、もうひとりおかしいのが居たわね」
 そういって鈴菜がやった視線の先には、晴貴に話しかけられている茜の姿。だが元気がなく、いつもみたいに総司に突っかかっていっていない。しかし、茜の視線は確実に総司を捕らえていて、その表情はどこか複雑そうに歪んでいる。
「なにか一騒動ありそうな予感がするわね、この旅行」
「鈴菜さんが言うと、本当に起こりそうな気がして怖いですよ……。何事も穏便に、平穏無事に終わるといいんですけどね」
 叶いそうにないなぁ…と苦笑交じりに呟く浩也に鈴菜も困り顔で返すと、気持ちを切り替えたように手を叩いて飛行機の搭乗を促した。








 避けられてる。と、感じた。
 茜は、隣の席で自分に話しかけている晴貴の言葉もどこ吹く風で、一人悶々と考えていた。
 避けられてると気付いたのは、つい最近のこと。それを踏まえて記憶を振り返ってみると、夏休みにみんなで何度か集まったときも彼だけ参加していなかったし、夏の旅行の終盤も様子がどことなくおかしかったように感じる。
 茜が何をしても、何を言っても なんの反応も示さなかったのだ。いつもなら、馬鹿にしたりツッコミとして叩いたりと何かと反応を返していたのに、あれ以来ぱったりとなくなった。
 なにか調子が狂う。
 ちらりと茜は、視線を窓から機内に移す。そうして見た先は、真ん中の列の奥端。その席である総司は、ベルト着用サインが消えると共に席を立って どこかに姿を消していた。
 こんなに離れていて初めて、彼が近くにいるのが当たり前だった自分に驚く。
(嫌だな―……)
 何がと聞かれれば、うまく答えることが出来ない。けれど、そんな気持ちになったのだ。
(でも、こんな気持ちになってるあたしも 嫌だ)
「あ――っもうっっ!!」
 突然叫びだし、席を立った茜に晴貴は驚く。そんな晴貴に一言「トイレに行ってくる」と告げ、茜は返事を待つことなくトイレのある方向へ歩き出した。
 まったく、調子が狂って仕方がない。今までの経験からして、おそらく自分の預かり知らぬところで総司を怒らせるようなことをしたのだろう。ちゃんと謝って、この気まずい雰囲気を一蹴させようと茜は意気込む。
 トイレで気合をいれ、席に戻る途中 客室乗務員たちが待機する場で、聞きなれた声が仕切りとなっているカーテン越しから聞こえた。
「……でしょ、だから………ない?」
 ちゃんとした文面は聞き取れなかったが、どうやら客室乗務員たちから北海道の地で会わないかと誘いを受けているらしい。思わず聞き耳を立ててしまう。いつもなら割って入ったりするのに、今は気まずさ故か その場に立ち尽くして会話を盗み聞くことしかできない。
「……なら、別に………いいよ」
 その返答に一瞬、目の前が暗くなる。


 どうしてと、頭ではなく心が騒ぐ。


 いつものことなのに、今は  それが     痛い。


 向こうについたら連絡するわねという客室乗務員の声と共に、仕切りになっていたカーテンが開く。
 やばいっ! と思ったが遅かった。立ち尽くす茜に気がついた客室乗務員は、一瞬あら? とした顔をしたが、そこはプロ根性 。すぐに営業スマイルの仮面を被って茜に話しかけた。
「お客様、どうなされました?」
「ぁ、いやあの――その――……、トイレはどこかな――と思いまして……」
「それでしたら反対方向、後ろにございますわ」
 にこやかな笑顔と共に言われた言葉に、茜は居た堪れない気持ちになる。ありがとうございます の返事に いえ、と一言返すと客室乗務員は客席の方に歩き去った。
 胸が苦しい。 何か大きな塊が詰まっているような気がして、深く息を吐いた。その時、ふっと人影が落ちる。反射的に顔を上げてみると、そこにはこちらを見ている総司がいた。すぐに視線を逸らして立ち去ろうとする総司に、茜はとっさに声をかけた。
「あ……総司っ」
 一瞬の躊躇。総司は軽く息を吐くとダルそうに向き直る。
「………………ナニ?」
 冷たい視線。薄緑の瞳は何も映しておらず、すべてを拒絶しているように感じた。その目を見た途端、茜の背筋がすぅ……っと冷える。

 怖い。と思った。


 いつも、一緒だった総司が。


 いつもふざけた言い合いをしていた総司を。


 『恐い』と感じてしまった。


「……用がないんなら、行くけど」
 何も言わない茜に焦れたのか、総司はうざったそうに言う。その言葉は問いかけの文なのに、なぜか反論を赦さない。
「あ、……うん、ご……めんね」
 心の動揺を悟られたくなくて、視線を逸らしたまま言葉を吐く。総司は返事を返すことなく、席に戻っていった。







 茜の不安もそこそこに 飛行機は無事、北海道の地に着陸した。一日目の最終目的地は、層雲峡。一行を乗せたバスは、軽快に高速道路を走っている。
「ううぅ……気持ち悪い………」
 窓際で一人、茜は真っ青な顔で呟いた。晴貴は心配そうに茜の背を擦っている。
「まったく……。ちゃんとを酔い止めを飲んでおかないからよ」
 呆れたようにいう鈴菜の手には酔い止めの薬。
「今から飲んで効くかどうかわかりませんが、飲んだら気が楽になるかもしれませんよ」
 そういって飲み物を差し出してくれる浩也。

『その馬鹿には酔い止めより、むしろバカが治るような薬でも飲ました方が良いんじゃねェか?』

 そんな言葉が聞こえたような気がして、茜は総司の方を振り向く。しかし茜の予想は外れ、総司は静かに目を瞑り眠っていた。




 足りない、 『何か』――――
「どうしたの?茜ちゃん」
 前の席に座っていた椿が、心配そうにこちらを見ていた。茜は、にこっと笑って「なんでもない」とゆるく首を左右に振る。そんな様子の茜に、鈴菜と浩也は複雑そうに顔を見合わせる。さらに茜の横では晴貴が一人、妙に冷めた目で総司を見ていた。
 その後 彼らは北海道伝統美術工芸村で-40℃の世界を体験し、一日目は比較的スムーズに終了した。ただ、一部の気まずさを残して……。







「わァ、見てみて! ラベンダーソフトクリームだって!! ねェ茜ちゃん、食べてみようよ♪」
 そういって椿が指差したのは北海道限定と書かれたポスター。そこに映し出されているのは紫色のソフトクリームだ。一見、紫芋ソフトクリームにも見える。
「ホントだー! でも果たして おいしいのかな?」
 少々 購入を渋っている茜に、ここでアイスを買ってやり点数を稼ごうと晴貴は着ていた服の袖を腕まくりした。半そでなのに。
「よっしゃっ! ここはオレが奢ったろ――っっ!! ちょぉ 待っときぃ」
 そういうと晴貴は茜たちの返事も聞かず、走り出していった。販売店とは別の場所へと。
「も――、晴貴そっちじゃないよ」
 呆れながら晴貴の後を追っていく茜を 遠くから総司は見ていた。そして、ハァッと一息ため息をついて近くの木に凭れ掛かる。

(らしくねぇな……)

 誰かとは言わない。言わなくても、痛いほど分かるからだ。この状況に戸惑っているアイツに、この状況を作ったにも関わらず、どうしようもない自分に。

(前に戻っただけなのにな……)

 目にかかる前髪を無造作に掻き揚げ、胸ポケットに入れていたタバコを取り出し火をつける。ふぅっと煙を吐き出す。久々に吸ったタバコは少し苦い。
「タバコ厳禁よ」
 その言葉と共に、総司の口からタバコを抜き去ったのは鈴菜だった。そのタバコをどこから取り出したのか携帯灰皿にそのまま捨てる。
「鈴菜……」
 総司の咎めるような声色にもものともせず、鈴菜は総司に視線を合わせないまま話し出す。
「タバコはやめたんじゃなかったの?」
「……」
「というか、バレたら即強制送還よ。未成年の癖にタバコを吸うんじゃないわよ、問題児」
「……うるせぇよ」
 特に反論するでもなく、返事を返す。鈴菜は、手に持っていた携帯灰皿を総司に差し出す。
「別に没収はしないけど。アンタの判断に任せるわ、捨てるか 吸うかは」
 総司が受け取ったのを確認すると、鈴菜はそのまま総司をまっすぐ見つめ言った。
「きっと今、アンタに何を聞いても無駄だと思うから聞かないけど。それでも、あのころみたいに戻るのだけはやめて。そして、あの子をあんまり困らせないであげなさい」
 それだけ言うと、鈴菜はあと十五分で集合だということを告げ、迷っているだろう晴貴と茜の捜索に行った。




 夜。みんなが寝静まったホテルの一室で総司は眠れずにいた。時計はすでに夜中の12時を回っており、同室である晴貴は呑気に鼾をかいて熟睡している。総司はそんな晴貴を視界に入れると そっと息を吐き出し、身体を起こした。
「……」

 判っている。
 自分の言葉が 行動が
 茜を 困らせていることぐらい。
 それでも、晴貴の言葉が 


(オレ、本気でいくから)



 あの目が



 あの眼差しが



 印象強く頭に残って    離れない。





( ―ホンキデ イクカラ  )





 頭を振って頭の中の雑念を払い、眠りにつこうとするが 敵わず 仕方なくベッドから降りると、一風呂浴びようと、晴貴を起こさないようにそっと部屋を抜け出した。
 パタンとドアが閉まると同時に晴貴の目が開いたことも知らずに。
 風呂場につくと、さすがに人の気配はなくて。総司は、そのまま露天のほうへと足を進めた。
「……篤川くん?」
 露天につくと同時に、呼ばれた声に総司は 教師に見つかったかと思ったが、その声が自分のよくしった者であることに気がついて警戒心を解き、その人物の方へと向かった。
「深見センセイ、こんな時間に湯浴みデスカ?」
 そういった総司の視線の先には、北花高校保険医でもあり優雅の家族でもある深見 綾がいた。
「篤川くんこそ、この時間 生徒はおとなしく就寝しているハズだよ?」
 笑いを含みながら咎めるように言うが、綾自身 別に気にしていない。それをわかっているからか、総司は肩を軽く竦めるだけで、黙って綾の隣に腰を下ろした。
 しばらく、互いになんの会話もなく そこには静寂だけが広がっていた。その沈黙は決して居心地の悪いものではなく、むしろ人を落ち着かせるような暖かい沈黙だった。
(こんな雰囲気を持ってるから この人は この仕事に向いてるんだろうな)
 総司はふと、そう思った。
 人を安心させる空気、すべてを理解し、わかってくれる存在。
「……そういえば、」
 沈黙を破ったのは綾の方だった。
「青桐さん、ココのところ 様子がおかしいんだけど 何か知らない?」
 総司の心情を知ってかしらずか、綾は尋ねる。が、総司に答えられるはずがない。まさか「ここにいる自分自身が原因です」とは。特に他に言うべき言葉も見つからず、総司はただ「そうか?」としか答えなかった。
「そう。篤川くんの様子もおかしいし、それとなにか関係あるのかなと思ったんだけど……」
「っ!?」
 綾の言葉に総司は、ハッと綾の方を向く。すると、綾は人の喰えないような笑みを湛えていた。
「どうやら、『アタリ』のようだね」
 そんな様子の綾に、やられた……と総司は顔を顰める。
「綾ちゃんさぁ、タチ悪いってよくいわれない?」
 悔し紛れに厭味をいうが、綾は別段気にした風もなく、むしろ鼻歌を歌いながら総司の問いに答えた。
「よく言われるよ~、優雅に♪でも、いいの。私はこの性格が気に入ってるんだから」
「あ、そう……」
 諦めたようにため息と共に言った総司の言葉に「なによ~ぉ」と文句を言いながら、総司に近づく。
「で? どうしたの」



 どうしたの?




 ほかの人が言ったのならば、ほっといてくれと言って この場を後にするだろう。しかし、他でもない綾の言葉は不思議と 総司に染み込んだ。
「……わからない」
 ポツリと呟いたのはそんな言葉で。綾は黙って続きを促す。
「わからないんだ、何が わからないのか」



 それでも、しぃていうなら     


 この感情は 多分



 『不安』 なのだろう。





 真剣な言葉。        


 その重みに


 アイツの本気を 感じ取った。


 そうして押し寄せた 



 足元を掬うような 虚脱感。


 きっといつかは  なんて


 分かりきっていること。




 いつまでも  居られない


 いつから  居られない?


 いつか 一緒に居られなくなる日が来るのなら


 いっそ 今……







「“今から離れて距離を置いたほうがいい”なんて考えてる?」
 綾の言葉に総司はビクッと身体を揺らす。
「“いつか みんなと離れる日がくるくらいなら”、または“今の関係が壊れるくらいなら”そう思ってるんじゃない?」 
 にっこりといわれた言葉に返すこともなく、ただ黙って時を過ごす。その沈黙が綾の問いかけに肯定の意味をもって答えていた。
「バッカだねぇ~『総司くん』は」
 わざとらしいため息とともに吐き出された言葉は、実に今の空気を吹き飛ばすほど あっけらかんとしたもので。総司はキョトンとしたまま綾を見つめる。そんな総司のめったに見ない間抜けな顔に、綾は薄く微笑しながら諭すように話し出す。
「いいんじゃないの? 何かが変わっても。むしろ、変わらないものなんてないんだよ。それで、不安になるのはみんな当たり前。例えば、私は今ここにいるけど、もしかしたら明日 何らかの事故で死んでしまうかもしれない。誰かに一目ぼれして、その人と結婚するかもしれない。けど、君はそんな他人の予測できない未来のことまで考えて人と付き合っていくの? できないよね? 先のことばかり見て逃げ道を探していたら、いつか前に進む道がなくなってしまうよ。  先を予測して恐れることよりも、変わることに希望を持たないと。もしかしたら、明日キミは誰かと喧嘩して仲が拗れたりするかもしれない。でも、その喧嘩をしたことによって相手の考えや気持ち、その人の知らなかったを性格を発見できる。そうして新たな一面をしって、その人への見方も付き合い方も今までのものと また違ったものになっていく。そうやって人は進化していくんだ。だから、『離れたとき』のことを考えるんじゃなくて『どうやったら、もっと一緒にいられるか』を考えたらどうかな?」



 そう向けられた言葉は 『保険医』から『生徒』に ではなく



 『深見 綾』から 『篤川 総司』へ。



「誰でも『独り』になるのは怖いよ。『独り』を一度、体験している人ならなおさら。でもね、総司くんには ちゃんとキミを心配してくれている人がいる。あのクラスになった時点でもう決して、『独り』にはなれないんだ。だから、大丈夫」



 言葉の旋律が 心を解かす。



 不安定だった 足場に  希望が見える。



「……なんか、綾ちゃんには かなわない……かも」

 上手くいつもの笑みを浮かべられなくて、情けない でも安心したような表情を浮かべたまま、笑いが零れる。



 あんなに悩んでいたことが、不安が綺麗に取り除かれている。



「当たり前でしょう? キミたちよりも長く人生を生きてるんですから。これでも色々な道を歩んできたんだよ」
 そういって、笑いながら数々の思い出を頭の中に駆け巡らせる。
「……うん、本当にいろんなことがあった。それこそ総司くんが感じた不安や、それよりもっとヤバイ事とか、たくさんね。それでも、今こうして此処で笑っていられるのは、笑い話として話せるのは、その困難を ちゃんと逃げずに立ち向かって乗り越えたから。一緒に戦ってくれる友達が居たから。だから、今の『深見 綾』が此処にいるんだよ」


そう言い切った綾の表情は、実に凛と清々しくて。
カッコいいと思った。
この人のようになりたいと 感じた。


「……そうだな、 綾ちゃんのおかげで なんか色々吹っ切れた。サンキューな」
 総司の表情に迷いが消えたのを悟った綾は、もう大丈夫だろうと安心する。
「どういたしまして、私はなんにもしてないよ。ただ、お風呂に浸かって独り言をいってただけ」
 ペロッっとお茶目に舌を出してみせ、存外に此処には自分以外 人っ子一人来なかったという。
「なに? 見逃してくれんの??」
 からかうような総司の問いに、綾はわざとらしくそっぽを向きながら言葉を吐き出す。
「保険医の仕事もあるし、あと十分したら、お風呂からでないとなー。その時は、先生方を起こさないように左側の通路から部屋に戻らなくちゃ」
 綾の独り言の意味に気づいて総司は苦笑する。どうやら、先生が見回りを始める十分前に、鉢合わせしないように別ルートから逃がしてくれるらしい。
「サンキュ」
 総司はそう言い残すと、風呂場を去った。
 あとに残された綾は、軽くため息を吐いて夜空を見上げる。
「……こんなもんかな、私に出来るのは」
 目の前に広がる世界は、画面いっぱいにちりばめられた星屑が。その中に、自分の愛しい弟と、その仲間の顔を思い浮かべる。
「後は、あの子達次第だから……」
 そういった綾の顔は、本当に優しそうで。彼らのことをとても大事にしていることがよく分かった。



 と、そのとき ガラリとお風呂と露天をつなぐ扉が開かれた。

 綾は最初、総司が忘れ物をしたのかと思い、とっさに周囲を見回したがそれらしきものは置いていなかったので、入ってきた人物をじぃ……っと見つめた。そうして、綾の視界に入ったのは 自分の良く知る 弟の担任だった。
「……梅谷先生?」
 彼は頬を桜色に染めてイイ感じに酔っていたが、綾の声に大きく反応すると、驚いたようにその場に硬直した。
「ふっふふふふふ深見先生っっ?! どうして貴女が此処にっっ??! はっ! もしや此処は女湯?! 間違えてしまったか?!!」
 オロオロと一人で勝手に焦っている梅谷を見て 綾は 総司が梅谷と鉢合わせすることなく上手く部屋に戻ったことを推理して、安堵する。そうして一人自問自答している梅谷にニコッと笑いかけた。
「間違ってませんよ梅谷先生。ここは男湯です、安心してください」
「え……? でも、じゃぁ なぜ深見先生がここに……?」
 梅谷の疑問を最後まで聞くことなく、綾は立ち上がってお風呂から出た。
「私はそろそろ上がりますね、梅谷先生、ごゆっくり」
 そうニコッという形容詞がついた笑いを浮かべた綾の身体には、女性特有の丸みはなくて、むしろそこにあったのは一般男性である自分の同じ体格・身体だった。
「お先に失礼しますv」
 そういい残すと綾は、なにも言えずにその場に固まってしまった梅谷を置いて鼻歌交じりに温泉を出て行った。
 後に聞こえた悲鳴のような泣き声は、そのホテルの七不思議のひとつに認定されたのは、また別の話……。                                   


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 ※この小説は、3人で作ったリレー小説です。
  順番:≪ララ(管理人)≫→≪イチ≫→≪千鶴≫
  BBSや、TOP左下のメールなどに感想をくれたら、ものすごく嬉しいです。

  ここまで読んでくれてありがとうございます!






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