女子に言ったこと。


今日は、一大決心をした日でした。初めて女子に(といっても話したのは雅宏だけか)あのことを話しました。
今日、オレは当番だったので帰るのが遅くなってしまいました。さあ帰ろうと思って駐輪場へ向かうと、日下さんが、しゃがみこんで顔を下に向けていたのでオレは「日下、どうした?」と聞くと、「自転車のかぎ、なくしちゃった。そういえば浩次くん、なんでこんな遅いの?」と。オレは「今日オレ当番。で、日下がなくしたのってもしかして、これ?」と教室で拾ったカギを見せました。静かな駐輪場に、チャリっという音が静かに響きました。「うん!浩次くんが持ってたんだー。ありがとー。教室にあったんだね。」。オレが日下さんの方に投げると、両手を水を救うような感じに作って受け取りました。でもオレは、すごいことに気がつきました。「なあ日下、お前の自転車、パンクしてるぞ。」。・・・しばらく経って、「いいよ、歩いて帰るから。」でも、さすがに3キロも自転車を引くだけじゃつまらないと思ったので、「日下、その・・・えっと・・・オレでよかったら自転車引くときの話相手になろうか?」と言いました。遠まわしじゃないといえない性格なので。日下さんはとても喜んだ様子で「それって、一緒に帰ってくれるってこと?」。オレがうなずくと日下さんが「やったあ!じゃ、かえろっ!」と。校門を出て、いろいろな話をしました。部活の話、先生の話、テレビの話、ニュースなど・・・そんなとき急に日下さんが「浩次くん、あの・・・別にいやならいいんだけど、あたしだけ名前で呼ぶのってなんかずるいと思うから、浩次くんもあたしのこと、名前で呼んでくれない?あ、別にいやならいいよ。」と、顔を赤くしながらいいました。オレは、「いや、お前がいいなら名前で呼ぶけど。じゃあ日、いや・・・望ちゃん、これからはこう呼ぶよ。」結構オレも恥ずかしかったです。「望でいいよ。」呼び捨てでいいそうです。「じゃあ、望。ごめんな、もっと早く名前で呼んであげられなくて。」と。・・・・・それから沈黙が流れちょっと考えたオレは、友達では中岡くんだけが知っているあのことを話すことにしました。「なあ望、できれば、内緒にして欲しいんだけど、お前には話していおきたい。いい?」。と聞くと「もちろん。で、なに?」と。結構真剣な顔で「オレさ、オレの物心がつく前、お袋と兄貴がらしいんだけど交通事故で死んじゃって、親父もそれが原因らしくて、オレの小学生の入学式の日に首つってた。それ以来ばーちゃんがオレ育ててくれてたんだけど、そのばーちゃんが今あんまり調子よくないらしくてさ。あ、今ばーちゃん病院ね。で、もしうちのばーちゃんが死んだら、オレは家庭福祉施設ってやつに入るらしい。家庭福祉施設ってのは、親のいない子供が、十八歳までいるところなんだって。勉強はそこでやるから学校には通わない。しかも香川県にはそういう施設内らしいから、京都へ引っ越すんだって。」・・・・・また沈黙。しばらくしてがちゃん、という自転車が倒れる音が夕暮れの空に響きました。そして、いつも元気な日下さんの声が、沈んだ声に代わりました「え・・・じゃ、もう会えないってこと?」。「まあ、ばーちゃんが死んだらお別れだな。」と。オレは、止まって日下さんがくるのを待つと、涙声の彼女が「いやっ!あたしはいや!せっかく・・・せっかく名前で呼んでもらったのに!仲良くなれたのに!離れるなんて!絶対いやよ!」と奏で、オレの背中に顔を押し付けて涙を流していました。しばらくして、「浩次くんのバカ!なんでもっと早くいってくれなかったの?あなたにいっておきたいこと、まだまだいっぱいあったのに!」。「望、最後までオレの話を聞いてくれないか?」と彼女に方に手を落とし、日下さんの向いていいました。「その今日との施設の人と話をして、ばーちゃんが死んでも卒業式までは行かせてくれるって。それともうひとつ、修学旅行、オレと望、同じ班にしてもらおうと思う。先生は、オレがなりたい人となっていいっていったから。卒業式は三月、今は1月。あと10ヶ月だ。10ヶ月あれば十分だろう?」しばらくして―――「うん。」彼女に少し笑みがこぼれた。「で、もしかしたら、卒業したら、施設の人と相談して香川市役所に働けるかもしれないんだって。」と、続けた。そして日下さんが「浩次くん、あたし言いたいことあるっていったよね。それ、今言うね。あたしね、ずっとこうやってあなたと一緒に帰りたかったの。浩次くんと二人で、色んなこと話すんだ。」と。「あともうひとつ、いつか二人で、ええっと、・・・その・・・デートしたいな。いい?」と、やっといつもの声にもどった日下さんが顔を赤く染め、言いました。オレは(そりゃ、こんだけいわれちゃいやとはいえないけど・・・加井野に嫌われちゃうな。あいつ、執念深いからな。)と、「・・・加井野が、お前が好きなこと知ってた?」。「うん、雰囲気でだいたい分かってた。」。・・・・・「だからだめなの?」ちょっと考えてうなずくと、「そっか・・・あいつ執念深いからね。でも、浩次くん、優しいね。あいつのこと思っていってるんだ。なら反対できないや。無理いってゴメンネ。」。またしばらく考え、「望、えっと、今は無理だけど、またこんどしよう。約束するよ。」と、言葉が出ました。「ほんと!やったあ!約束だよ!」飛び上がらんばかりに喜んでいる日下さんを見るとこっちまで嬉しくなる気分でした。―――それから自転車を引くのを続け、「じゃあ、家こっちだから。じゃあな。」。「・・・ねえ浩次くん、なんであたしにあんな大事なこと話したの?」「それは・・つまり・・・。名前で呼んでいいっていってくれたから。冷たいって言われてるオレに、優しくしてくれたから」自然とそんな言葉が出てきました。「そう、ありがとう。じゃ、ばいばい!」「また明日な」そのときは、ああ、いっちゃったなって思ってたんですけど、今はいってよかったなと思っています。でも一緒に帰ったことを加井野くんが知っていて、今日の塾で教えてくれました。なんで知ってたのかな?ま、だいたい見当はつくけど。


© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: