必殺必中仕猫屋稼業

第9話

静寂と闇があたりを支配していた。
ベットの中で、ふと目覚めた武志は、今、自分がどこにいるのか、しばらくの間わからなかった。
草の匂いのする枕と、潮の香りのする毛布に包まれて横たわっている自分に気がつくと、
マーティンの家の1階の部屋だったことを思い出した。
かすかに窓から入ってくる月明かりに左手のブライトリングをかざすと、すでに日付が変わって3時間経過していた。
俺はなんてお人好しなんだ。いくら若い娘に頼まれたからといって、何も用心棒の真似事をして、ここに泊まることはなかったのだ。
他人に関わってもろくなことはない。
そうだ。明日の朝早くにでもこの家を出よう。
なぁに、一晩くらいなら大した事は起きるはずがない。
武志は無理に自分に言い聞かせると、再び心地よい静寂に意識を静めようとまぶたを閉じた。
その時、静寂の中に小さな音が割り込んできた。
ズズ・・・。
普通の人間なら聞き逃していたかもしれない。
だが、武志は長い戦場生活で、どんな小さい音も聞き落とさない体になっていた。
場合によってはそれで命を落としかねないからだ。
いや、歩哨が戦場で忍び寄る敵兵の些細な物音を聞き逃せば、舞台が全滅する危険性もあるのだ。
武志は無意識のうちにじっと耳をすましていた。
ズズズ・・・。
また聞こえた。表だ。
音は次第に大きくなってくる。
ただの音ではない。
そうだ。あれは足音だ。
誰かが重い荷物を、ぞんざいに引きずって歩いているような足音だ。
魍魎の準備が始まっているというのか?
いや・・・、それにしてはあまりにも歩くリズムが不規則だ。
よたよたしていて、方向性、意思というのがまったく感じられない。
足音は確実に武志たちが眠る家に近づいている。
と、その不気味な足音に加えて、腹からしぼり出すような重い唸りも交じって聞こえてきた。
ウウウ・・・ウウウ・・・。
低くて重い、獣めいた唸り声だ。
ウウウ・・・ウウウ・・・ズズズ・・・ズズズ・・・。
足音が家の前で止まった。
中の様子をうかがっているのか?
なんだ・・・。
いったい何がいるんだ・・・。
武志の背筋にゾッとしたものが走った。
『今夜寝る時は、戸締りを厳重にするんだよ。』
ロバートの言い残した言葉が、武志の頭によみがえってくる。
あの言葉は・・・。
今、表にいる足音の主を指していった言葉なのか?
足音が再び動き出した。
ズズズ・・・ズズズ・・・。
ゆっくり遠ざかっていく。






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