“なぜなら、空が青いから
僕は泣きたくなる”
____ Because, The Beatles
*
西日がやっとビルの向こうに沈み、
部屋の明かりを灯すと同時に、ブラインドを閉めようと窓に行く。
ふと見渡す空は、一度も同じだったことがない。
今日、一度下ろしたブラインドの隙間から見えた空は、
絵の具のように青く、帯のように伸びた雲は、
優しいローズ色をしていた。
見とれていた時間が長過ぎたのか、
机の上のカメラを取りに行き、レンズキャップを外す僅かな時間の間に、
もう、その青は色を変えていた。
もう二度と、その青に戻ることなく、雲の色だけが、ますます濃くなりながら、スローモーションで形を変えていた。
*
時間は、留まることがない。気持ちも、留まることがない。
愛しい人の声を聞けば、その瞬間と、
それから暫くの時間、
永遠に幸せに包まれるような気になってしまう。
気持ちはそれほど、愛おしいものには、
哀れなほど、単純。
けれど、時間が留まることがないように、
あんなに、もう何があっても、強く生きてゆけるような
そんな力強さを与えてくれた瞬間が、
だんだんと、まるで、放電する電池のように、
からっぽになっていく。
何も変わっていないのに、
時間が過ぎただけなのに、
こころの電池は "Empty" のライトを点滅させる。
*
光は、
真空空間を1年に約9兆4605億km進む。
人がどんな精度のいい天体望遠鏡を駆使して遥か遠い、
アンドロメダ星雲を見ることが出来たとしても、
それは、光の速さをもってして、
250万年前の過去の姿を捕まえたに過ぎない。
ほんとうは、もうとっくの昔に、何もかも、消えているかも知れないのに。
太陽に照らされた、たった今の地球の姿を、200万年後に、見ている“生き物”がいるかも知れない。
永遠に思えたものがたとえ続かないとしても、
光が届き続けさえすれば、それが幻の光であっても、
ずっとそこにあると、信じられるものなのに。
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