彼によると、かつてヨーロッパでは、住まいの中は馬小屋のように汚物にまみれ、とてもそこに横になれる状態ではなかった。そこで、足のついた床(とこ)、つまりベッドが誕生したのだという。床(ゆか)の汚さは、靴を履いて部屋に入る現在の習慣からも伺える。それに対し、日本では、床は常に清潔で、いつでも布団を延べて寝ることができた。
中世のヨーロッパでは、道路は汚物捨て場であった(らしい)。人糞を含む汚物が、窓から道路に投げ捨てられた。その好対照的存在が、江戸である。都市と農村の間で、人糞のリサイクルシステムが出来上がっていた。つまり、世界一の環境都市、リサイクル都市であった。そんな話から、欧州は床(ゆか)にそのままでは横になれないほど部屋が汚かったというのも、あながち誇張ではない、と分かってもらえるのでないか。
でも、下水道はあちらの方が早かったのはなぜ、という疑問が出されそうである。以下は推測だが、不衛生が極端まで進み、ペストが発生し、下水道という選択に行き着いたのではないだろうか。
外国旅行、とりわけアジア方面の場合、現地の人の暮らしぶりでよく見えないのが「どんな寝具で寝ているか」である。欧米であれば、間違いなくベッドだろう。でも中国や韓国はどうなのだろう。中国へは4,5回行っているが、一般の人の夜の暮らしぶりに接した経験はない。ダニの調査で学生寮の2段ベッドは見たが、日本のそれと変わらない。韓国は、日本と似て非なると聞くが、どんな夜具を使っているのだろう。韓国へは1回も訪問したことがないので、実現のあかつきにはぜひ一般家庭を訪ねたいものだ。
チベットでは、一般家庭を訪ね、ベッドのダニを調査する貴重な経験に恵まれた。首都のラサから1時間ほどの、無論定住している家庭だから、全体を推し量ることはできないが、ベッドといっても、スプリングがあるわけでも、ふわふわマットレスがあるわけでもない。ただ、床(とこ)が高くなっている、という感じである。部屋の中はさすがにきれいだが、外にはネズミの死がいが散乱していた。敷居をまたぐだけでその世界だから、ここにも「ベッドが発明された理由」を垣間見ることができる。
渡辺氏は「明治以降、西欧文明に対するあこがれの象徴の一つとして、ベッドがもてはやされた時期がある」と指摘している。しかし、ベッドが生まれた本当の理由を当時の日本人が知っていたら、どんな反応を示しただろうか。現在は、あまりにもベッドが豪華になって、歴史的背景などはだれも気にしないのかもしれないが。
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