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お座敷ばんび・PIYO
君のぬくもり・3
「 バラードよ永遠に 」
ひと時の夜食を終え、そろそろ君を見送ることにした。
君と夜風に当たりながら来た道を戻り、エントランスでしばらく話をすることにした。
さすがに夜中という事もあって客はもう出歩いておらず
フロントには制服の壮年の紳士が一人いるだけであった。
出掛けるときにフロントに声をかけなかったので、壮年の紳士は二人を
不振に思ったのかご宿泊のお方ですか?と声をかけてきた。
煩わしいことに人がいないために静まり返って二人の話し声は広い
ロビーに響き、壮年の紳士にはまるで嫌でも聞こえてしまう。
たわいの無いことだけを話し、君が車をホテルのパーキングに入れたというので
正面の回転ドアのところで見送った。
私は軽く紳士に会釈をしエレベーターに乗った。その時携帯が鳴った。
今見送ったばかりの君からだった。
パーキングの入り口のゲートが閉まっていて入れないと言う。
私はすぐに引き返し、フロントの紳士に事情を話した。
紳士の一声で若いボーイ達がフロントの裏から5人でてきた。
お客様がお車を出すのだからゲートを今すぐ開けて差し上げなさいと指示を出した。
紳士はお詫びの言葉の後、更にボーイに早くするよう督促をした。
ボーイたちの中の一人が走って行くのを見て、私も付いて行くことにした。
後ろから お気をつけて。。。と紳士が言ったようなので会釈をし外に出ると
確かにゲートが閉まっており、係りのものが誰もいなくなっていた。
夜風が冷たくなり君は寒そうにして立っている。
ボーイがゲートを開け、君は車に向かった。
車で出てくると君は一旦窓を開け、笑顔で正面の道に車を滑らせ
噴水の公園の方向に左折をしていった。1時間後には自宅に着くだろう。
私はゆっくり部屋に戻り、携帯を側に置いて君が通るだろう帰路を
考えながらベッドに横になった。ゆっくりできなかったことを申し訳ないと思いつつ。。。
つい先日のように君とのことが思い出される。。。
「 都会の風よ 」
タクシーを呼んだとき新宿の街はあと2時間で夜の日付けを越えるところだった。
私はこの時刻の東京が好きだ。夕方の6時過ぎにはこの都会に着き
ビルの窓や商店街には明かりがつき始め、道を行く車の多くはライトをともしていた。
3月の半ばにしては、少し暮れが早いのは上空を覆っている雲のせいに違いない。
自宅を出たときには雨が降り始めていたが、本格的な雨雲が箱根を
越えてくるまでにはまだ時間がかかりそうであった。
1年に1度、都会での会に出かけるが、私はこれから帰路につくところである。
タクシーを走らせ、都会群のビルが追ってくる中で、また1年が経ったのかと一息つく。
都会の中に立するビルの姿はまさしく都会の故郷が持つ懐かしい情景である。
いまその全面ガラスに覆われたビルらの映す模様を眺めながら、
わたしは自宅のある街に着いてからのことを考えた。
このまままっすぐ帰るには少し心残りである。
どこかで食事をし、軽く飲んで帰ろうか。
春のぬくもりをふくんだ夜の街を通り過ぎて行くには惜しすぎる。
だが一人で食事をするには味気が無い。馴染みの店で炉辺をはさみ板前を
相手にという手もあるが、混んでいては迷惑になるかもしれない。
窓を見ながらわたしは友人の顔を順に思い出してみる。
だがいずれも働き盛りの忙しい男たちである。
これから着いて電話をしたところで、果たして一人でいるのか
たとえ一人でいるとしても、これからの時間が空いているとは限らない。
こんなことなら、もう少し早くに電話しておくべきだったが、
急に思い立ったのだからいた仕方ない。
軽い悔いとともに、わたしはあるひとの顔が浮かんできた。
およそわたしとは別世界にいるが、それだけに気軽に会うことが多い。
この時間は忙しいだろうが、その人なら出てくるに違いない。
わたしはそう自分に言い聞かせながらその人の後ろにもう一人の女性の顔を描いていた。
名前は忘れたが、1度、仕事の席で見かけ連絡先を交換したが、
行き違いになったまま記憶に残っている。
連絡先が携帯に残っているはずだと思い出し、名前を探したところ
携帯の電話番号があった。
この時間に何をしているのかは全く想像がつかない。
自宅にいてはいきなり呼び出すのもおかしいが、外にいることを期待して発信をかけた。
相手の携帯は何度もコールしているが、とうとう留守電になってしまった。
やはり、この時間にはもう出ないのだろう、と諦め、はじめに思いついた先へとかけた。
そちらに到着する時間を告げいつものように待ち合わせた。
こちらの時間が余るので、タクシーを最寄の駅で降り電車に乗り換えた。
目的の駅に着き人ごみのあいだを抜け階段を降りると、
改札口の左手にある公衆電話の前に立った。
番号を確かめ発信をかけると車で間もなく駅に着くという。
わたしは人込みの中から車が来るのを待ち、到着した車の助手席にのった。
すぐ近くの店に行って食事をはじめた時、名前を忘れていた
人のほうからの携帯が鳴った。出てみると聞き覚えある声に再確認をした。
急のこの時間なのでどうかしたのかというように、挨拶をしてきた。
どうやら外で飲んでいたところらしく、お店の名前を教えてくれた。
だがもう食事もしていたので、都合があって今は人と一緒だからと携帯を切った。
食事をしながら、いま教わった店が自宅の近くだと頭をよぎる。
これからでも間に合うだろうか。。。。
わたしは結局、食事だけにしてタクシーを呼び自宅に向かった。
だが、もしかしたらと思いリダイヤルをしたところ、
今度は慌てて出た様子でまたもどうしたのかを聞いてくる。
どうしたもこうしたもない、と思いながら
今から飲みに行ってみたいのだがと伝えると、
待ち合わせ場所を伝えてきた。
そちらのお店は間もなく閉まるところらしく帰宅するところだったと言う。
雨が降り出してきたが歩いても行ける距離だったので向かうことにした。
行けばわかるかと向かったが店がいくつかあり、姿が見えないので携帯に電話をしてみた。
いる場所を伝えると、正面に立ちこちらを見ながら携帯で話をしている姿があった。
この先の踏切を越えたところにカウンターで飲める店があるという。
二人で雨の中を歩き、店の階段を二階へと行くと、落ち着いたバーがあった。
わたしはバーボンを、彼女はトマトジュースを頼んだ。
もう飲みたくないのか、お酒は苦手なのか、わたしを警戒しているのか、
今はそんな話はどうでもよかった。
とにかく、飲みなおしに来たのだから、カウンターで堅い話ではなく
取り留めない話でよかったのだ。しばらく話をしたあと、
外に出ると雨がまだ降っていた。彼女は最初の店に
車を置いてきたから送るというので着いていくことにした。
お酒を飲まなかったのは車で帰宅するためだったようだ。
だがまだ酔いが醒めていないようにも見えた。
近くでもあるので無事に送り届けてもらったが、これから30分ほどかかるらしい。
車を降りて話をしようと言い、わたしは側にある石碑に腰をかけた。
彼女もあとから着いてきて石碑に座った。
目の前には学校があり、明かりがなく暗闇に
街頭がわずかな灯をぼんやりと照らしていた。
寒い夜空に雨はようやくあがっていた。
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