~前編~



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 8月3日 午前10時27分 地方裁判所 被告人第1控え室

 兎丸 (ふぅ………。緊張するぞ………)

 鳥居 「………比乃くん!」

 兎丸 「あ、な、凪ちゃん。ど、どうしたの?」

 鳥居 「ちょっと、大丈夫?比乃くん。今日は、初めての法廷だったよね?」

 兎丸 「こ、こんな緊張するの、家の中でアドバンスなくしたとき、以来だよ」

 鳥居 「それはそれは。ずいぶんごぶさたしているのね…。それにしても、初め
    ての法廷で殺人事件を扱うなんて、すごい度胸ね。感心するわ。」

 兎丸 「うん。事件っていったらやっぱり殺人事件だかんね」

 鳥居 「……………………」

 ???(おしまいだぁ!もう何もかも、オシマイなんだぁ!)

 鳥居 「…………あそこで叫んでいるの、比乃くんの依頼人じゃない…?」

 ???(死ぬ!死ぬぞぉ!俺はもう、死んでやるんだぁぁぁ!!)

 兎・鳥(……………………)

 猿野 「兎丸~!!」

 兎丸 「あ、兄ちゃん…」

 猿野 「有罪だぁ!俺を有罪にして下さい!死刑でもなんでも受けてさっぱり死
    なして下さい!」

 兎丸 「ど、どうしたの?」

 猿野 「ダメだよ!やっぱり俺、ダメなんだ!沢松のいない人生なんて………死
    んだ方がましだぁ!誰が…いったい誰が、沢松を…!教えてくれ!兎
    丸…!」

 兎丸 (”沢松”君を殺害した犯人、か………。新聞に書いてあるのは、兄ちゃ
    んの名前なんだよね………)

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――                 僕の名前は、兎丸比乃(とまる ぴの)3ヶ月前に弁護士になったばかり。今日は初めての法廷だ。
 さて。今回の事件は、いたってシンプル。マンションの一室で、高校生が殺害さ
れたんだ。逮捕されたのは、彼をストーキングしていた同じ高校生。お猿の兄ちゃん(猿野天国・さるのあまくに)以前から被害者を、つけ回していた人。でも、兄ちゃんは殺人するなんてする人じゃない。勘だけど。………。………………。

         思い余って、本当に殺ってないよね………。

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 8月3日 午前11時 地方裁判所 第1法廷

    (ざわ………ざわ………ざわ………)

    「だん!!!」

 牛尾 「これより、被告人の法廷を開廷します。裁判長は私、牛尾御門(うしお
    みかど)です」

 鹿目 「検察側、準備完了しているのだ」

 兎丸 「べ、弁護側も準備完了しています」

 牛尾 「…………。兎丸君。キミはたしか、今日が初めての法廷だったかな?」

 兎丸 「う、うん………」

 牛尾 「依頼人が有罪になるか、無罪になるかは、弁護士にかかっています。弁
    護士のキミがそんなに緊張していては困りますね」

 兎丸 「………。すいません……………」

 牛尾 「………。それでは、裁判を始める前に、本当に準備完了しているか確か
    めてみましょう」

 兎丸 「う、うん………。」(うぅ、頭の中が真っ白になってきた………)

 牛尾 「簡単な質問をするので答えてください。まず、この事件の被告人の名前
    を言って下さい」

 兎丸 「ヒコクニン、か………。えっと、凪ちゃん、だよね………」

 鳥居 「ぴ、比乃くん。………わたし、帰ります。そういえば今日、宅急便が届
    くから………」

 兎丸 「ま………まあまあ。ゆっくりしていって………」        

 鳥居 「もぉ!ヒコクニンっていうのは裁判にかけられている人のことでしょ!
    初歩、というより、これはもう常識のレベルよ………」

 兎丸 (さすがにまずかったか。とにかく、落ち着かないとな………)

 牛尾 「答えがよく聞こえませんでしたね。もう一回、言って下さい」

 兎丸 「ヒコクニン………、それは、まあ、お猿の兄ちゃんのことだよね」

 牛尾 「その通り。そんな感じで、落ち着いて答えてください。じゃあ、次の質
    問です。今日の裁判は殺人事件ですが、被害者の名前を教えて下さい」

 兎丸 (ふう、それなら分かるよん。あれだけ調書を読んだからね。………っ
    て、あれ?ど、ど忘れしちゃった!名前、なんだっけ?)

 鳥居 「ぴ、比乃くん!あ、あ、あなたって人は………。被害者の名前も知らな
    いの?」

 兎丸 「そ、そんなわけ、ないよぅ………。ちょっと忘れただけだょ………」

 鳥居 「………な、なんか、頭が痛くなってきたわ………。事件のことは《法廷
    記録》を見れば分かります!手元のファイルに挟んであるから、好きなと
    きに見られるから、いつでもチェックしておいてね。………お願いだか
    ら」

 《沢松の解剖記録》
   死亡時刻は、7月31日。午後4時以降5時まで。鈍器による一撃で失血死。

 牛尾 「答えてもらいましょう。この事件の被害者の名前は?」

 兎丸 「ええと、凪ちゃん………」

 鳥居 「なな、なんで私が被害者なのっ!」

 兎丸 「ご、ごめん………。とりあえず思いついた名前を………」

 鳥居 「名前を忘れたのなら、法廷記録で名前を確認して………」

 牛尾 「………では、もう一度お尋ねしましょう」

 兎丸 「えっと、被害者の名前は”沢松”君だよね」

 牛尾 「………よろしい。では、彼はどのように殺害されたか。被害者の死因
    は?」

 兎丸 「鈍器で一発、ガツンと殴られて………」

 牛尾 「そのとおり。では、質問はこれくらいにしてそろそろ審理を始めましょ
    う。兎丸君もだいぶ落ち着いてきたようですからね。」

 兎丸 「うん………。」(そうでもないけど………)

 牛尾 「さて、ちょっといいですか?鹿目検事」

 鹿目 「なんなのだ?裁判長」

 牛尾 「今兎丸君が言ったとおり、被害者は鈍器で殴られています。その鈍器で
    すが、具体的にはどういう………?」

 鹿目 「凶器は、この《猿野》の置物なのだ。死体のそばに転がっていたのだ」

 牛尾 「ふむぅ。証拠品として受理しましょう」

証拠品《置物》のデータを法廷記録のファイルした。
 《置物》
    猿野の形をかたどった置物。かなり重い。

 鳥居 「比乃くん。裁判が進むと、こんなふうに《証拠品》が提出されていく
    の。《証拠品》のデータは、これから、あなたの武器になるから、手元の
    ファイルで法廷記録をチェックしておいたほうがいいわよ」

  「だん!!!」

 牛尾 「では、鹿目検事。証人を呼んでください」

 鹿目 「まず、被告人・猿野君の話しを聞きたいと思うのだ」

 兎丸 「ねぇ、凪ちゃん、僕はどうすれば………?」

 鳥居 「今は、依頼人を助けるための《情報》を聞き逃さないこと。反撃のチャ
    ンスは、あとでかならず、やってくるわ。彼が、余計なことを言わないよ
    うに祈りましょう」

 兎丸 (………心配だ。兄ちゃん、すぐに興奮するからなぁ………)

 鹿目 「さて、猿野君、キミはいつも被害者にキモがられていたのだ?」

 猿野 「なんだと!今世紀最高のカップルに向かってなんてことを!」

 兎丸 (い………いきなり………)

 猿野 「ただ、電話をしても出なかったり、会おうとしても断られただけだ!ナメるなぁ!」

 鹿目 「世間ではそういう状況を”キモがられてる”と言うのだ。実際、彼はキ
    ミを避けるように遊んでいたのだ。殺害される前の日も、海外旅行からか
    ってきたばっかりだったのだ」

 猿野 「なんだとぉ!そんなの嘘だぁ!俺は信じないぞ!」

 鹿目 「裁判長。被害者のパスポートなのだ。亡くなる前日まで、彼はニューヨ
    ークにいたのだ」

  証拠品《パスポート》のデータを法廷記録にファイルした。
 《パスポート》
  事件の前日7月30日にニューヨークから帰国しているようだ。

 牛尾 「ふむぅ。確かに帰国の日付は死亡の前日、ですね………」

 猿野 「………そんな………」

 鹿目 「彼はニューヨークに友達と遊びに行ってたみたいなのだ。子津君や辰羅
    川君のことなのだ。彼はキミ以外とは普通に遊んでいたのだ」

 猿野 「なんだって………」

 鹿目 「彼はそういう人間だったのだ。キミは彼についてどう思うのだ?」

 猿野 「……………。く、くそっ!死んでやる!もう、死んでやるぞぉ!天国で
    沢松を問いつめてやるんだぞぉ!」

    「ばん!!!」

 牛尾 「………。では、審理を続けましょう」

 鹿目 「とにかく、被告の動機は分かってくれたと思うのだ」

 牛尾 「………とてもよく」

 鹿目 「じゃあ、次の質問に移るのだ。事件のあった日、キミは彼の部屋に行っ
    たのだ?」

 猿野 「……………!!!」

 鹿目 「どうなのだ?」

 猿野 「え………、な、なにがどうなんだ………」

 兎丸 (あの様子じゃ、兄ちゃん、部屋に行ってるよ………)

 猿野 「あ、ああ!たしかに、その、行ったよ!」


    (ざわ………ざわ………ざわ………)

    「ばんっ!!!」

 牛尾 「静粛に!………それで?猿野君!」

 猿野 「う、そ、そんな目で見ないで………。沢松、留守で………。会えなかっ
    たんだ、結局………」

    「異議あり!!!」

 鹿目 「裁判長!被告人は嘘をついてるのだ。我々には、今の嘘を立証する証人
    がいるのだ」

 牛尾 「………それは話が早いです。どんな証人ですか?」

 鹿目 「死体の発見者なのだ。彼は死体を発見する直前に、殺人現場から逃げて
    いく被告人・猿野君を目撃しているのだ!」

    (ざわ………ざわ………ざわ………)

    「ばん!!!ばん!!!ばん!!!」

 牛尾 「静粛に!静粛に!鹿目検事。その証人を呼んでください!」

 鹿目 「分かったのだ」

 兎丸 (と、とんでもないことになってきた…………)

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