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その26 ~ 双子2 ~ 


右腕をなくし、それでも不敵に笑うスイドリームの表情には余裕が感じられた。


事実、失ったのはコピーされたピーチェの右腕なのでスイドリーム本体には何の影響もない。

あるとすれば切り取られた痛みだけである。

それでも想像を絶する痛みには違いないのだが、スイドリームにはそれすらも楽しげに見える。

享楽的だと言われればそれまでだが、長い年月にわたり実体化することがなかったことを考えれば

無理もないことかもしれない。

痛みとは肉体を持って初めて感じることが出来るものだからだ。



それとは対称的にレンピカは境地に立たされていた。




両刃の鎌特有の癖もつかんできていたし、そろそろ新たな技が見出せるとも考えていた矢先のことだった。


油断がなかったといえば嘘になる。

相手の道具は自分が熟知している庭師の鋏である。

蒼星石と共に他のドールたちと戦いぬけたレンピカの化身そのものと言っていいくらいだ。

それゆえに庭師の鋏のことは知り尽くしていると言う油断が生じた。

相手が誰であれ、自分以上に使いこなせるものはなく、万一いたとしてもそれはきっと蒼星石だけなのだ。

また、鋏よりも断然、鎌の方が攻撃範囲が広いのも優位に立てると感じた要因だった。


それが片腕になったスイドリームを追い詰めるどころか、逆に追い詰められた状態になってしまった。


レンピカは思った。

スイドリームは根拠のない自信など持たない。何がそうさせているのだろうか。

借り物だとはいえ右腕を失っている。あれはピーチェの右腕があってこその魔法なのだ。



でもその使えないという根拠はどこにも存在しない…。いや、違う…。

スイドリーム本体なら自分と同じ魔法は使えるはずだが擬似精霊であるピーチェの体なら
それもかなり限定されるだろうとは考えられる。それは自分の体を持ってしてわかる。

本人は『忘却の光』を放つ際に制御結界を張り忘れたと言っていたがそれはごまかしで
本当は張りたくても張れなかったと考えるのが妥当であろう。



それが今の状態であり、魔法に秀でたスイドリームの実力からすればありえない。

ということは魔法に関しては肉体的な制限をかなり受けていると見ていい。

だから右腕を切り落としたのはやはり正解だった。

これで少なくとも魔法による攻撃の脅威は考えられない。

仮に使われたとしても対処として防御結界を張ればそのほとんどは無効化できるはず。

ならば鋏による攻撃か…。それならこちらに分がありすぎる。

それはスイドリームが一番よくわかっているはずだ。

では別の道具か武器かもしれない。

スイドリームの言葉を信じるならば素手で戦うつもりかもしれないが、そうするとこちらがあまりにも有利だ。ピーチェの体は格闘向きではない。

またスイドリームは庭師の道具を他の人工精霊と比べても数多く持つコレクターでもある。

稀少具『庭師の富瑠衣』を持っているなら他に何か持っているのを疑うべきだろう。

それでも片手で扱えるものは限られている。

一番厄介なものは庭師の鉈だが所有者は自分の知る限りスイドリームでないはずだ。

それに鋏を捨ててまで価値のある道具など存在しない。

つまりどう考えても、これはスイドリームの虚勢だ。なら答えはひとつだが…。


レンピカの額から汗が雫となって落ちる。

安易な決断は許されない。

レンピカ自身のことならまだ許されるかもしれないが、後ろには蒼星石がいる。

蒼星石だけはなんとしてでも守らなければならない。


「どうするも何も戦うに決まっております。
 お姉さま、ハンデどころか負けたときの言い訳なら聞きませんので。」


「言い訳なんてするもんですか。死人に口なしっていうじゃない。
 なんならこっちも素手で戦ってあげてもいいわよ。
 確かに戦うのはあまり好きじゃないけどね。久しぶりだし………、んっ!?」


レンピカの肩越しに見える翠星石がいた場所の土がかすかに盛り上がった。

スイドリーム本体と言うべき光点がその上をゆっくりと円を描きながら飛んでいる。


「あっ、シスターが目を覚ましたわ。残念ねレンピカ、私はそろそろ戻らなくっちゃ。」

スイドリームは片目でウインクして、いかにも残念そうに笑った。


「えっ?」

動く気配を感じたのかレンピカも振り返って翠星石のほうを見た。


「隙ありっ!」

スイドリームは庭師の鋏で軽くポンとレンピカの頭を叩いた。

三角の帽子が少しへこんでレンピカの頭から落ちる。


「まったくあなたときたら、戦いの最中なんじゃないの?
 あなたが強くなったってのはわかったけど、まだまだ集中力が足りないわよね。
 まあ、今度会うまでにはもう少し鍛えといてね。
 でないと…、お姉ちゃんにはかなわないぞ~! あははは。」


そう笑ってスイドリームは突然レンピカを抱きしめた。

突然すぎて一瞬なんらかの技を仕掛けられたかとレンピカは思ったが動けなかった。


「レンピカ…。元気でね。
 もし許されるなら私自身の体であなたを抱きたかったわ。でも、いいの…。
 あなたの顔が見れただけでも私は嬉しいから。
 それとお願いだから私を姉と呼ばないなんて言わないで。
 私達は同じ体を分かち合った姉妹なんだから…。じゃあね。」

「お姉さま…。」


レンピカは呆然と口を開けたまま立っていた。

スイドリームの体が静かに離れる…。


「待って、お姉さま! まだ戦いは終わっていません。それに…。 
 それにまだ私(わたくし)の質問にもお答えになっておりません。
 お姉さまはなぜ『忘却の光』をお使いになられたのです?」


「それは…、ねえ…。フフフ…。あなたを驚かせたかったからよ。うん、それだけね。
 だってね、さっきからあなたに攻撃されて痛かったんだもの。
 そうね、結果的にあなたと二人っきりでおしゃべりできる時間が出来たのは嬉しい誤算だったわ。
 私が言うのもなんだけど運命って不思議なものよね。楽しかったわ、レンピカ。
 またお話できればいいわね。それと…。」

スイドリームは蒼星石のほうを見た。

蒼星石は立ち尽くしたまま微動だにしていない。


「蒼星石様のゼンマイが切れ掛かっているわ。ミーディアムがいないせいね。
 あの様子だと早くまかないと完全にお眠りになるわよ。
 ミーディアムを探すのは私たちの仕事なんだからこんなところで戦っている場合じゃないの。
 早く行ってあげなさい。
 それと庭師の鋏は蒼星石様のものだから返すわね。
 じゃあ、また会いましょう。」

そう言った途端、スイドリームは力が抜けたように膝から地面に倒れた。

緑色の光点が一つ飛び出すと、やがて肉体は砂のように崩壊していった。

飛び出した光点は翠星石の上を回る光点と重なって一つになった。


残されたレンピカは呆然とその様子を見ていた。

スイドリームの笑顔がまだそこに残っているような気がした。

レンピカは地面に突き立てられた庭師の鋏を取るとつぶやいた。

「まさか、お姉さまは…。いいえ、それはありえませんね。
 お姉さまだってローゼンメイデンに仕える人工精霊…。でも…。
 私(わたくし)は戦いを、アリスゲームをやめるつもりはありませんから…。」


               …つづく。





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最終更新日  2007/01/09 02:39:13 AM
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