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その7 ~夕方の風景4~



しかし、プレゼントか…。

なあんも思いつかん…。馬鹿らしい。

そもそも俺が何でプレゼントなんかしなくちゃならねえんだ。

飯食わせてもらって居候させているだけでも感謝すべきじゃないのか?

働かざるもの食うべからずって言うじゃねえか。いい言葉だ。


それにしても指輪が酷くうずく。

いったいあの悪魔人形は何をやってるんだ。新手の呪いでも思いついたか。

ジンジンして…、って熱っ! 熱っ熱っ熱っ! っててて、なんだこりゃ?





今にも燃え出しそうな錯覚を感じるくらい熱くなった指輪。

それを無理やり取ろうとした。わかってる、これは外れないのだ。

でもそんな悠長なことを言っている暇はない。


「うわっ! マジで勘弁してくれ! って、あれ?」


幻覚かもしれないが左手に炎が見えたと思った瞬間、指輪は何事もなかったように静まる。

………いったいどうゆう冗談なんだ?

なんにせよたいした事ない。たぶん錯覚だ、錯乱だ、気の迷いだ。

週末だから疲れてるのか?

左手をブンブン振ってみた。当然、何もない。


あほらし…。考えるのはよそう。

まったくこれさえなけりゃ、1秒でもあの悪魔人形のことなど忘れられるというものを…。



通り過ぎる人々の視線が妙に痛い。


何もなかったかのように振舞いながら駅へ急ぐことにする。

このケーキがプレゼント兼用ってことでいいじゃないか。そう思うことにした。

だいたい人形風情にプレゼントなんて贅沢だろ。うん、これで充分、充分。


「ん!?」





「アンティークドールの店か…。」


人形人形なんて思ってるから気にかけちまうんだ。

見なかったことにして通り過ぎようとも思ったが、足は店の前で止まる。


悪魔人形もこれぐらい上品なら良かったのに…。

まぁあいつは別物だな。

人形師ローゼンだかなんだか知らねえが、こういう上品な人形を作りやがれってんだ。

ショーケースのガラス越しに見えるアンティーク人形を見て独り言を言う。


「いらっしゃいませ。店内にはもっとたくさんのドールがございますよ、お客様。」


うわーっ! びっ、びっくりしたじゃねえか。

箒を持った店員らしき男がいきなり話しかけた。

眼鏡をかけたその男は妖しい営業スマイルを俺に向ける。なんだこの店の店員か?


「いや、その…。えーっと。」

「ささっ、どうぞ、どうぞ。ご遠慮なさらずに。見ていただくでも結構ですから、ね。」


半ば強引に店内へ案内された形になった。正直、興味はないのだが…。

とは言え、こんな形で入るのは逆にいいのかもしれない。

でないと入る事なんてないのだからな。にしても…。


他の客がいない…。あたりまえか、こんな時間だもんな、閉店前ってところだろう。

クラシカルなBGMが流れる店内はどちらかというと博物館みたいだ。

外から見るより意外と広い店内にたくさんの大小様々なドールが並んでいる。

近くにあったショーケースの中の人形を見てギョッとする。

いや人形に驚いたわけではない。値段に驚いたのだ。


「1,2,3…。0が5つ!? ってことは30万円!?」

俺の声に反応したのか店員がにっこりと微笑む。

「はい、そちらのドールは大変お求め安い価格となっております。お買い得ですよ。
 18世紀のものですが状態が大変良いものです。ドイツのコレクターが…。」

店員のうんちくに耳を傾ける気のない俺は慌てて隣の人形を見る。

オイオイ、これ以上人形を増やしてどうする気なんだ。そういう趣味はねえ。

しかし店員の目には俺がよっぽど興味を示しているように映るのだろう。

片っ端から解説していきやがった。反論するのもめんどくさいので黙って聞くことにする。


「ああ、お客様。そちらからは当店専属の人形師の作になります。」


店内をゆっくり歩いていた俺に向かって自慢げに店員は言った。

ああ…。なんて言うか、俺でもわかる。これは凄い。伝わってくるものが違う。

さっきまで見てきたのが中古車なら、これはモーターショーのレベルだな。

ふいに悪魔人形の顔が浮かんだ。あいつならこの人形たちに勝てるのだろうか。

黙っておとなしくしてりゃあな…。そう思って苦笑する。


「もしお子様などにお求めでしたら、こちらのドールなどいかがでしょうか?」


振り返るとそこには手のひらに納まるサイズの人形が並んでいた。

こいつ…。やけに気が利く…。なんでそんな事わかるんだ?

昼間、大原さんにアドバイスしてもらったことを思い出す。

『小さな女の子なら、人形とかぬいぐるみがいいと思いますよ。
 もう少し大きい子ならお洋服とかもお勧めですよね。私も子供の頃…。』

人形に人形はさすがにどうかと思うんだがな大原さん…。事情をいえない俺がもどかしい。

一般的にはそれでいいはずなんだが、相手が相手だからな…。

想像すると頭がおかしくなりそうなので止めておく。

サイズ的には子供を抱えるぐらいになるのか。気持ち悪い…。だめだなこりゃ。


ため息をつこうとして、ふとひらめいた。ははは…さすがだな俺。

まったく、天の啓示というか、俺的に素晴らしいアイデアだ。


「いや、実は人形はあるんだが、その…人形に着せ替える服なんかは置いてあるのかな?
 えーっと、娘がそういうの好きな年頃らしくって…。」


変に焦ってるところが怪しくて自分でもフォローになってない気がするんだが…いいか。

店員はにこりと笑い、「もちろんございます」と言って俺を奥へ案内した。

歩きながら店員は再びうんちくを語りだす。

そんなことはどうでも良かったが誤解されてないのが助かる。

あくまでも娘が人形を持っていることに疑いのない調子に気を良くした。


「お客様、ドールのサイズはご存知でしょうか。」


はあ? サイズ? 困ったな…。知らねえぞ、そんなの…。

でも店員の言うことも一理ある。これだけいろんな大きさがあるんだ。普通聞くよな。


「えーっと、娘がこれぐらいだから人形はこんなもんかなぁ。」


そう言って身長の高さを手で表す。

嘘八百とはよく言ったもので、こうなりゃでまかせだな。

実際、殴られたり蹴られたりされるのは日常茶飯事なのだが、それ以外はわからない。

つまり正確なサイズまでは測った事ないし、測りたくない。

抱きかかえたのだって、あいつを部屋でネジを巻いた以来だから覚えてなんかない。

背の高さくらいしかわからないってんだからどうしようもないな。

ああ…このアイデアはおじゃんか…。サイズがわからなきゃどうしようもないな。


「では、こちらなどいかがでしょうか?」


まさに天の助けだ。店員は俺の予想に反していろんな服を見せてくれた。

そうか、所詮人形だものな。大きさだけで判断できるか。納得。

人間みたいに細かいサイズなんか関係ないんだ。

確かに普通の人形なら自分から服を着たりしないしな。ウチのが例外なんだ。

着せ替えしやすい大きさになっているんだろう。なるほどなあ。


色とりどりのドレスを見る。これがゴスロリってやつか…。

どう考えても似合いそうもないんだが…。イメージが悪すぎるせいだろうか。

俺が考えあぐねていると店員は親切に声をかけた。


「近頃は男装も流行っておりまして、こういうのもございます。」


なんか宝塚のスターみたいだなと思った。意外と似合いそうな感じがする。

でもあの髪の長さじゃおかしいだろう。足元まで伸びてんだから、あいつ。

また難しい顔をしてしまう。服なんて…よく考えればこれほど難しい選択はないぞ。

だいたい俺自身、ファッションに詳しいわけでもないし、女ならなおさらだ。


「あまりお気に召さないようでございますね。申し訳ございません。」

「そうじゃないんだ。どれを選んでいいのかわからなくってさ。」

「なるほど、ではお伺いいたしますが、お嬢様の将来の夢とかご存知ですか?」

「将来の夢?」

「例えばですね。看護師ならナース服がございますし、客室乗務員などの制服もございます。
 そういった職業制服をドールに着せることにより夢をかなえてあげるのはいかがでしょう。
 きっとお喜びになりますよ。もちろん一番人気はウェディングドレスなんですけどね。
 まあ、大人の方でもそういうご趣味の方がおられましていろいろ取り揃えております。」

俺に制服属性があることを否定しないがあからさまにこれって言うのもなあ…。

ここでセーラー服って言えばやはり変態扱いされるのだろうか。言わないがな…。

余計な選択肢を与えられたおかげで俺の頭はますます混乱する。

な、なんにせよたいした事は…ない。どうせ人形の服だ。

パッと決めちまえばいいだろう。

そう決心して適当に指差した。



                         …続く。





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最終更新日  2007/03/09 03:07:52 PM
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