K/Night

K/Night

第一幕

新月の夜だった。
嫌そうに顔を歪めながら『東雲 縁』は布団から跳ね起きる。
―――そういえば・・・・―――
血のつながりのない兄弟が言っていた。
―――新月の夜は外に出るなよ?『彼奴』らにとってその夜は最高の夜なんだから。特にお前は『それ』に憑かれやすいんだし―――
けれど縁はさして気にしていなかった。彼の辞書に『それ』の名などなかった。彼の世界に『それ』は存在しないものとして受理されていたから。
だから笑い飛ばしていたのだけれど・・・・
「・・・・ありえねぇ・・・・」
『何か』が縁を呼んでいた。否定するものが呼んでいた。
それは苦痛を思わせる甘い誘惑だった。
抗う事も許しはしない―――
素足が砂利を踏む。
何時の間に―――しかしそれさえも分らない。
鳥居を向く足。
その先は―――『それ』の、妖しの巣だった。
「・・・・ありえねぇ・・・・」
思わず泣きたくなる。
そして縁の体は鳥居を抜けると同時に闇へと飲まれていった。

声がした。
「・・・・オカルトだねぇ」
『姫月 果涙』は体が自由にならないのを感じつつ呟く。
何時の間にやら布団から起き上がっていて、何時の間にやら外に出ていた。
「そういえば・・・・今日は新月かぁ・・・・」
本人はのんびりしたものである。体が不自由なのを気にしていないようだ。
「という事は、妖しが活発になる日だねぇ」
それに巻き込まれている自覚があるのかないのか・・・・
されるがままに歩く果涙。
そして辿り着いたのは、家からさほど遠くはない雑木林。
昔から大人に、
「妖しが出るから近づいちゃいけないよ」
と言われていた正にその場所。
そしてよくよく見ると、先客がいる事が分った。
果涙とさほど背の変わらない青年―――しかも学校で見た事がある。
幼少の頃に東雲家に引き取られたとか何とか・・・・
その先客でもある青年、縁はしきりに雑木林を見つめながら、
「ありえない」
を連発している。
何が?と思い果涙もその先を見つめる。
其処からぬらりと現れたのは、皮膚は焼け爛れ、顔の潰れた女の妖しだった。
しかも力が強いのか普段は見えないはずの果涙にも姿が見て取れる。
「美味しそうな青年が2人・・・・これでもっと美しくなれるわぁ・・・・」
嬉々とした声を発しながら女はありえない長さの青白くグニャグニャした手を2人へと伸ばす。
「「――――――っ!!」」
縁が息を呑み、果涙がパニックを起こしかけた刹那、突如として女の手が「ギャ!」という叫びと共に闇へと消えた。
同時に1人の男が2人に背を向け立っている。
「困るなぁ・・・・将来有望な青年達が喰われるのはさ。っていうかさ、被害大なんだよね。あまりにも青年喰われててさ。君もさ、綺麗になりたいとかじゃなくてもう人を喰いたいが為にやってるでしょ?1人2人喰われるのなら大した事じゃないんだけど、ここまで来るともう無視できない訳よ。つまり有害っつー烙印押されたわけ、君は。だからさ」
闇の中、男が笑う。危機を察した女は悲鳴をあげながら雑木林の中へと逃げていく。
「逝っちゃってくれない?」
女の動きが止まる。雑木林が光る。そこは結界となっていた。
「“滅”」
唯一言。女が消えた。雑木林は通常へと戻る。
事の成り行きを見ていた2人は唯々信じられずにいた。



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